私の憧れ
急に準備室の扉が開いた。
今の状況は、正直、誰にも見られたくなかった……
でも、今すぐ誰かに助けてほしかった……
怖くて、声も出ずに、従ってしまったのだ……
私が悪い……
扉の前で、机に座らされている私と対面の椅子に座っている教師を見て、彼女は難しい顔をしている。
「あなた、お名前は?」
「ナタリー」
「そう、じゃあ、ナタリー。
これは、あなたが望んだこと?」
私は目の前にいる教師は猫撫で声で、ナタリーと呼んでいる。
私はその声に怖気がはしる。
私の日焼けをしていない白い脹脛をさすっているのだ……
その光景を見るだけで、私は気持ち悪くて吐きそうだ。
なぜ、こんなことになったのか……
私もわからなかった。
ただ、授業の準備を手伝ってくれと呼ばれた準備室でのことだ……
悪い夢をみているのだろうかと思った。
目をぎゅっと塞いで、今まで我慢していたのだ。
すると、いきなり扉が開いて今の状況だ。
「ナタリー、こちらにいらっしゃい!」
カッと目を開いた瞬間、私はアンナリーゼ様を見据えた。
「私は構いません……
でも……」
うーんと悩んでいるアンナリーゼ。
「嫌がらせがあるってことかしら?」
肯定もしなければ否定もしない私に、手を広げてこちらにくるように態度で示してくれる。
「大丈夫。
私に嫌がらせできるのは、イリア嬢くらいだわ!!
嫌がらせしたら、黙ってない人がいるから、ナタリーは、気にせずいらっしゃい。
私の庇護下に入ればいいわ!」
アンナリーゼの言葉に勇気を得た。
私は、嫌悪からその教師を睨む。
今まで大人しく触られていた足で私は、教師を蹴飛ばした。
「やれば、できるじゃない!」
そういって、アンナリーゼの元にかけて行くと私をギュっと抱きしめてくれる。
それだけで、ホッと安心できた。
「きょ…教師にこんなことをして、ただで済むと思うなよ!」
蹴られた教師は、私に蹴られた所をさすりながら、けしかけたアンナリーゼに、憎悪のこもった目で睨みつけてくる。
この教師、アンナリーゼ様がそこら辺のお嬢とは違うことしらないのかしらね。
「受けてたつわ!
侯爵家を舐めないでくださる?」
アンナリーゼの挑発的な態度と爵位をあらわにする。
「侯爵だと……」
フレイゼン公爵家にじゃじゃ馬お嬢様がいるとは、かなり有名だったが、目の前にいるお嬢様がそれだとは気づかなかったようだ。
気づいた教師は青くなり、アンナリーゼに対して謝ろうとしたが、全く受け付けない。
扉を閉めて、謝罪を拒否した。
「大丈夫?ナタリー」
「あ……はい。大丈夫です……
おかげさまで、助かりました……」
今頃になって、足が震えてくる。
「少し、休憩しましょうか?」
手を引いて人目のあるところで二人腰をかける。
その間も手を繋いでくれるので、安心できる。
「名前、もう一回教えてくれる?」
「はい。私は、ナタリー・カラマスです。
ローズディア公国子爵家次女です。
以後、お見知りおきください」
「ありがとう!
私は……」
「存じています!アンナリーゼ様!」
食い気味に上位者の発言をとめてしまったが、アンナリーゼと話ができることも嬉しかったため、慌てて言ってしまった
「そう、ならよかった!」
少し落ち着いてきたのか、心もザワザワしていたのが落ち着いてきた。
「そうだ!
ローズディアだったら、しばらくの間、ウィルかセバスと一緒に行動するといいよ」
「ウィルとセバスいうと、ウィル・サーラーとセバスチャン・ライドですか?」
「そうそう!私の友人なの!」
私たちに共通の知り合いがいることに驚いた。
「あの……友人ですか?あの二人がですか?」
「そう。友人。頼っても大丈夫だよ!知ってるみたいでよかった!」
「知ってます。社交界では、よく顔を合わすこともあるので……
顔見知りです……でも、話したことは……」
私の顔は、曇っていたのだろう……
「じゃあ、私の方から声かけておくよ!
しばらく一緒にいてあげてって!
ウィルは、まだ、秘密のお茶会に参加してくれるって言ってくれないから、
口説き中なんだけどね。
でも、女の子が困ってるって言って助けないような子たちではないから!
もちろん、私の側でもいいんだけど……」
そう、アンナリーゼは、私を気遣ってくれている。
アンナリーゼの周りには、トワイス国の王子と宰相の息子が常に側にいるのだ……
気持ち的に落ち着かないだろうと……
「お気遣い、ありがとうございます。
自分で声かけてみます!」
「うん。私からも言っておくけど、普通にアンナリーゼと仲良くなりたいから、
秘密のお茶会の話聞かせてくれない?くらいでセバスに言えばいいと思うよ?」
「わかりました。言ってみます!」
私は、アンナリーゼの気遣いもとても嬉しかった。
「じゃあ、またね!
何かあったら、私に言ってきて!
私なんかよりずっと怖い人たちが味方になってくれるから!
ナタリー、ごきげんよう!」
「ごきげんよう……アンナリーゼ様!」
廊下でアンナリーゼと別れる。
後ろを振り向くとアンナリーゼを迎えに来たのであろうヘンリーが、小言を知っているのが聞こえてくる。
「アンナ、いったいどこに行ってたんだ?」
「うーん。別に。
あっ!そうそう。友達ができたよ!
ナタリーっていうの」
「そうか、よかったな!」
ヘンリーが、仕方ないと呆れながら、アンナリーゼに微笑んでいる。
「セクハラ教師っているのね。
とっちめてあげたいわ。
協力してくれる?」
「殿下と要相談だな……」
膨れっ面のアンナリーゼをヘンリーが呆れ苦笑いしながら、教室に帰るのであった。
私は、その姿を見ていた。
アンナリーゼは、私の前では強い女性であった。
でも、ヘンリーの前では、少し子供っぽく振る舞う。
それを分かってか、ヘンリーは甘やかしているようだ。
「あのお二人、本当にお似合いね……
可愛いお姫様みたいで、憧れるわ……」
並ぶ二人が、ほほえましく、羨ましくなったのである。




