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お手合わせ

学園に入って、初めて体を動かせる授業になった。

貴族の坊ちゃん、嬢ちゃん向けの護身術を習う授業だ。

ローズディアの近衛を目指している俺としては、

全然物足りない……


最初は、講義から始まる。

手首をひねって、足の甲を踏むとか、

後ろから襲われたら、鳩尾のあたりに肘鉄するとか……

とにかくつまらない。


「では、ペアになって練習してください!」


教師が言った頃には、男子の中で俺はあぶれていた。

なんせ、ガタイがいいからか、誰も寄り付かない。


ふと隣を見ると、女どもがわらわらと集まっているところがあった。

トワイス国の王子と宰相の息子だ。

さすがに2人とも護身術は、既に習っているようでうまかった。

きゃあきゃあとうるさい声を上げている女たちとは少し離れたところで、ぼぉーっと2人を見ている女がいた。


確か、トワイス国の王子たちが、いつも守るかのごとくくっついているやつだ。

名前は…アンナ?

そう、アンナリーゼだ。

俺は、ああいう守ってくださいという感じのご令嬢は好きだったが、自国の王子と宰相の息子を侍らせても何とも思ってない可愛げのなさそうなアンナは好きになれなかった。

俺の心とは裏腹に、トワイスの方では、男女問わず人気のご令嬢だった。


少し前から観察していたが、アンナリーゼは、本当に退屈そうに王子たちを見ていた。

飽きてきたのか、すっくと立ちあがり、伸びをして体を少しほぐしている。


「殿下かハリー、そろそろ変わってください!

 私もしたい!!」


そう、令嬢らしからぬ言葉使いで、変われと王子たちに催促し始めた。


「わかったよ。じゃあ、僕が変わるから……」

「いや、俺が変わろう……アンナと対峙なんて……無理だ」


焦り始めた男二人。


「もう!どっちでもいいから、相手してください!!

 私、とってもとぉーっても、退屈なの!!」


そういって、ツカツカと二人に寄っていく。

後退る2人。にじり寄るアンナリーゼ。


「なんで逃げるの!めんどくさいから、二人いっぺんに来なさいよ!」

「二人と言われても……ここは殿下が先に……」

「いや、臣下であり幼馴染のハリーが……」

「殿下だって幼馴染ですから……」


情けないやりとりをしている間に二人の間にすっぽりおさまったアンナリーゼ。


「そんなに私のこと嫌い?」


上目遣いに甘えた声で聞かれた二人の手首には、アンナリーゼの手がガッチリ掴まれていた。

ヤバイという顔をした二人は、ニッコリ笑ったアンナリーゼに次の瞬間投げ飛ばされた。




バターン…………


バターン……





「いたたたた……」

「アンナ…………」


「「手加減!!」」



見事な手際だった。

あんなにきれいに、男二人を倒せるのかと思う。


「もう少し鍛えたほうがいいですよ?

 護衛にばかり、守ってもらうのは、いかがなものかと……」


満足したのか、また、アンナリーゼは脇に控える。

ギャラリーは、アンナリーゼの見事に男二人をなぎ倒したところをみて言葉を発せなくなったらしい。

ことの端末を見ていなかったローズディアの生徒の声だけが訓練場に響いている。



「アンナリーゼ様、お手合わせ願えますか?」


俺は、声をかけてみることにする。

するとニコニコとして、アンナリーゼはこちらを見てくる。


「まぁ、私と対戦してくれますか?本気でお願いしますね!?」


そう、ウキウキとしながら人の疎らなところで向き合う。

この令嬢は少し変わっているのだろうか……


「私は、トワイス国侯爵家アンナリーゼ・トロン・フレイゼンです。

 お名前、伺っても?」

「ウィル・サーラーだ。ローズディア公国子爵家のものだ」

「じゃあ、男の子だし、それなりにお稽古はしてる?」

「嫡男じゃないから、近衛を目指してる。毎日鍛錬はしている」

「体つき、いいものね。手ももちろん剣だこが出来てる」


気配なくすっと横に並んで俺の手を触っている。

それにも驚いたが、剣だこなどは、剣を握ったものしか出来ないのに、どこにあるのか的確に確認していく。


「楽しめそうね!」


そういえば、とても、アンナリーゼも女の子とは思えない手をしている。

わかりにくいが、剣だこがあるのだ。


「剣、してるの?」

「嗜み程度にはね。自分の身くらいなら守れるわ」


その言葉に多少、驚いた。

令嬢とは、おしとやかに部屋でいるものだと思っていたからだ。


「では、始めましょうか?」


お互い背中合わせに10歩歩く。

振り返ったところで、開始合図をしてからしか、動いてはならない。

向き合ったところで、ニコッと笑うアンナリーゼは、悪魔か天使か……


お互いに距離があるので、実力をはかることにする。

体格は言うまでもなく俺の方が上だ。

体力とか全般も上のはずだと思う。

ただし、さっきの男二人を難なく倒してしまったのだ。

それも、見る限りではある程度の実力はあると思われるものをだ。

油断は、できない。

向こうもこちらの技量をはきっているのか動かない。

小首を傾げて悩むフリすらする。


考えがまとまったのか、目の色が、少し変わったように思った。

その瞬間には、距離は半分に詰まっている。

やべっ!と思って構えてたら、意外とすんなりアンナリーゼの手首を持てた。

でも、アンナリーゼの口角が上がった。

そのまま腕を体に絡めて投げ飛ばされてしまった。


あぁ……青空がみえ……


「大丈夫?」


ストロベリーピンクの髪が、見上げていた青空を遮って影を作る。

投げ飛ばした本人が、こちらを覗き込んでいるのだ……


「あぁ、大丈夫。

 ………………

 じゃじゃ馬だな……」


「へっ?」


「じゃじゃ馬だっちゅーの!」

「私、じゃじゃ馬じゃないし!」

「じゃーお転婆か?」

「違うわよ!」

「手、剣だこあったよな?」

「えっ?あるわよ?」

「次は、剣だ!」


のそのそっと俺は、起き上がる。

咄嗟に受け身が取れたのか、多少痛いところもあるが、まぁ、大丈夫だ。


「先生に許可とってくるから待ってろ!」


近衛に入ろうか思ってる俺が、トワイス国のお気楽そうなお嬢様に負けた……

お気楽では、ないのか……

手には剣だこがあったのだから……

でも、悔しいに決まっている。

女に負けたのだから……

体格も力もこちらの方が上だというのに……

悔しい…………


確か、トワイスでは、女性の騎士登用もされていたはずだ。

それを目指しているなら、強いはずだ。


許可をもらい模擬剣を二本持って、アンナの前に立つ。


「次は、勝つから…

 騎士登用でも、目指してるいるのか?」

「ん?騎士登用?目指してなんてないわよ?」


渡した模擬剣を手の甲も使って器用に回しているアンナリーゼ。


「目指してないだと?何故だ?」

「何故って言われても……私、これでも侯爵家のものだから、

 どこか見合ったところへお嫁に行くのだけど……

 騎士を目指す道理もないわ!」


回していた模擬剣の柄を持った瞬間!


「いくよ!」


アンナリーゼのその掛け声で、打ち合いが始まる。

終始圧され気味である。


様子見されているのがわかった。

なのに俺は、今の時点でも全力なのだ。


「ヨイショー!!」


よくわからない掛け声が聞こえたときには、俺の後ろに模擬剣が飛んでいくところだった。

掬い上げるかのような軌道で、アンナリーゼは模擬剣を打ち上げたのだ。

そのまま首に模擬剣の先を向けられる。


「勝負あったね?

 こんな打ち合い、久しぶり!!楽しかった!

 また、試合しようね!!」


そう言って去っていくアンナリーゼの背中にに声をかける。


「な……なぁ、おい!」

「ん?私?」

「手抜いただろ!?」

「……手は抜いてないよ?様子見が長かっただけ。

 ウィルは、近衛とか、目指してるでしょ?

 攻め込む隙がなかなか……ね?」


周りで見ていた他のやつらは、俺が負けたのが信じられないといいあっている。

そう、俺も思う。

お茶でも飲みに来ましたとかいう感じで、ふらふらっと近づいてきたかと思うと剣が振るわれる。

それが、力いっぱいではなく、舞うかの如くだ。

それなのに、要所要所では、必ず強撃がくるのだ。

気を抜いていたわけでもなく、ただ、遊ばれた……そんな感想だった。


「くっそ……なんなんだ……じゃじゃ馬じゃねーか!

 それも、相当な……」


それからというもの、シャドーや模擬剣を振って仮想アンナリーゼを倒す練習をした。

シャドーでさえ、何度やっても勝てない……

ウィルが、アンナリーゼに興味を持ったあたりをかければなぁ……と

思います。

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