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第5章 ドラグリア編 八十四話 また10年後に


 現在、俺とシンはグレンさんに連れられて特訓をするための部屋へと案内されていた。


「さぁ、2人とも到着しましたよ。ここが修行の間です。レオナルド君は手前の扉に、シン君は奥の扉に入ってください」

「分かりました。……その前に一ついいですか?」

「はい、何ですか?」

「竜王が特殊な部屋って言ってたけど、具体的にどんな部屋なのかなって思って」

「あぁ、それですか。この部屋の詳細については入ってみれば分かりますよ。……と、言いたい所ですが説明をしないと使い方も分かりませんし危険もあるのでちゃんと説明しますね」


 そう言うとグレンさんは二つの扉の前で部屋の説明を始めた。


「端的に言ってしまえばこの二つの部屋は私達が今こうして存在している空間とは時間の流れが違って現実の時間の流れよりも遥かに早い。ですが流れる時間の早さが一定という訳でも無くその辺は中にある魔力結晶で調節可能と言った感じですね」


 要約すると、この部屋は現実よりも時間の流れが早いから現実の時間軸で考えて短時間しか特訓していないとしても長時間分の特訓が出来るということだ。


「ただし、注意点が幾つかあります。この部屋は現実と時間の流れが違うだけで部屋の中で負傷したりすれば当然部屋から出た後もその傷は残ります。もう一つはこの部屋の仕組みです。この部屋の中でも通常通り成長もすれば技術力や判断力と言った経験も特訓した分だけ得ることが出来ます。ですが部屋から出た時に引き継がれる情報はその技術や経験値だけです」

「つまり、それってどういう事なんですか?」


 そう質問したのは俺ではなく隣で話を聞いていたシンだ。


「つまりはですね、部屋から出た後に反映されるのは部屋の中での記憶だけで体は今のまま成長していないと言うことです。なのであまり現実との時間の流れを離しすぎると部屋から出た後に脳がその情報を処理しきれずにダメージを受け最悪の場合死に至ります」

「そ、それってどれぐらい離すと危ないんですか?」

「人間の体であれば現実での一日分で考えて五年程度が限界でしょう。それ以上は保証しかねます」

「五年……、分かりました」

「とりあえず今回は一日二年ぐらいの速さをオススメします。それだけあれば五日間で十年分になりますし人の体であればそれでも十分な時間でしょう」


 確かに、人よりも寿命の長い種族だと十年では短いかもしれないが人であれば十分な時間だ。


「あー、後もう一つ。何度も出入りを繰り返すのも辞めてください。部屋の中では数ヶ月経っていても外では数時間しか経っていない。そんな少ない時間で何度も時間感覚が変われば脳にどんな被害が出るか分からないので。今入ったら次に出るのは皆さんが帰る五日後です」

「分かりました」

「あの、でもそうすると他の3人が心配するんじゃ?」

「その辺は心配いりません。竜王もこの部屋の仕組みは知っているので他の御三方には竜王から伝えてくれるでしょう」


 なるほど、それなら外の心配をする必要は無さそうだ。


「それでは、部屋の説明も終わったので早速中に入りましょう」


 そう言ってグレンさんがドアノブに手をかけたところで俺は大事な事に気づく。


「あ、あの! 最後に一ついいですか?」

「えぇ、まだ何か気になることがありましたか?」

「食料ってどうするんですか? この部屋の中で数年間生活するのを考えるとさすが部屋の中にある物だけじゃ足りないかなと思って」

「ハハハッ、レオナルド君は本当に面白いですね。そちらの部屋に食料はありませんよ?」


 え、いや、ちょっと待て。グレンさん何かめちゃくちゃ笑ってるけど全然笑い事じゃないぞ。何もその辺の話がされないから少しはあるのかと勝手に思ってたけど食料が無くて一体どうやって数年間も生活すればいいんだ!? 


「えっと、そちらの部屋って事はグレンさん達が入る部屋には食料はあるんですか?」

「はい、それはもう食べ切れないほどに。生物が生きていく上で必要な衣食住の内服と食料は勝手に湧き出てくるので」

「えっと、じゃあ少し分けて頂くってことは……」

「それは不可能です。さっきも言いましたが何度も出入りをするのは危ない。それは人よりも遥かに長寿な私とて例外ではないので」

「それじゃあ俺はどうすれば……」


 このままじゃ数年どころか数日で餓死してしまう……


「安心してください。私達が入る部屋には服と食料は無限に現れますがそれ以外は幾つかの武器しかありません。建物も雑貨も何もかもないただの部屋です。ですがそちらの部屋は魔力結晶で時間を設定した後に自然の溢れた空間へと変わるので問題はありません」

「えっと、つまりそれは……」


 額から汗の流れる感覚がした。


「さすがレオナルド君、これだけでどういう事か理解したみたいですね。お察しの通りそちらの部屋の食料は現地調達でお願いします」


(や、やっぱり!)


「まぁでも大丈夫ですよ。そちらの部屋に出現する魔物は確かに今まで戦ってきた魔物とは桁違いに強いでしょう。ですがだからと言ってレオナルド君が手こずるような魔物はいません。油断せずにいつも通りの実力を発揮していればなんの問題も無く過ごせますよ」


 なるほど、そう言う事なら一先ず心配する事は無さそうだ。


「それと、あなたにとってその部屋は必ず何らかの可能性を広げてくれます」

「可能性?」

「はい、私が生まれる前の事なので言い伝え程度にしか知りませんがこの二つの部屋を作ったのは時と空間を司る竜らしいです」

「っ! それって!」

「はい、人間界には君以外未だ一人もいなかった時間と空間魔法の使い手ですがその2体の竜は確実に君と同じ力を持っていた。その部屋に入るのを他の3人の内の1人ではなく君に選んだのもそれが理由です。君と同じ力を持っていたであろう竜が作ったこの部屋は、必ず君の力になってくれる。君が今回の特訓で目指すゴールはそこにあると私は思います」


 俺と同じ力を持っている存在なんて今までいないと思ってたけど、確かにこの部屋なら何か今以上に強くなれる可能性があるかもしれない。

 俺がもっと強くなれば、そうすればもう二度と、ブリッツの様な被害者を出さずに済むはずだ。


「そちらの部屋は広さに限界がありません。ですが逆に言ってしまえば部屋の端は常にそこにあるとも考えられる。何はともあれ、次に会った時に君が今よりもさらに成長している事を期待しています」

「はい、ありがとうございます!」


 俺の返答を見てグレンさんは静かに頷く。


「話も終わった所ですし、気を取り直して中に入りましょう。次にレオナルド君と会うのは部屋から出た時なので10年後ぐらいですかね。それではレオナルド君、また10年後に会いましょう」

「はい、また10年後に。シンも……その様子なら大丈夫そうだな」


 俺が見たシンの表情は、国に着く前までのような暗い様子では無く何か希望を見つけたような、決意を固めた顔をしていた。


「俺は、この中で今以上に強くならなきゃいけない。じゃないと、今も囚われているサヤを助けること何て出来ないからね」

「そうだな。じゃあ、頑張れよ」

「嗚呼、そっちも気をつけて」


 そう言い残してシンはグレンさんと共に部屋の中へと入って行った。

 

「さてと、俺も行くか」


 二人が部屋に入ったのに続き俺もドアノブに手をかける。

 次に外に出るのは10年後、今までの俺の人生の3分の2だ。それだけ長い時間アレクや先生、それとセイクリッド学院で今も誰かの手助けをしているであろう皆とは会えない。


(それでも、これは俺にとって必要な事だ。この部屋に入って必ず何かを掴んでみせる。アリシアに会えるのも10年後かぁ……と言っても、部屋の外の時間ではたったの数日間か。まぁでも、学院に帰ったら真っ先にアリシアの所に行かないとな。この中に癒される要素何て無さそうだし)


 目の前の小さな絶望に対し、そうして10年後の未来に希望を抱くことで下がる気持ちを持ち直した俺は、少しの逡巡の後、ドアノブにかけた手を捻りその扉を開いた。

 


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