第5章 神竜国ドラグリア編 七十八話 ドラグリア
「シルバ学長!」
「っ! メルト先生! どうしてここに」
「早馬でセイクリッド学院の状況を聞いて急ぎ応援に来ました」
「だが、早馬を出したのは数日前だ。どうしてこんなに早く……あぁ、なるほど。レオナルド君か!」
セイクリッドの学長はメルト先生の後ろで待機していた俺を見つけ何かに納得したみたいだ。
「はい、これだけ早く到着したのもこいつの魔法です。本当ならもう1人についてもここで紹介すべきだと思いますが今は緊急事態だ、落ち着いた後にまた紹介します」
「そうだな、早速で悪いが手伝って貰えるか?」
「はい、どこか広い部屋を借りられますか。他の人員と道具も運びたい」
「それなら奥の1番広い控え室を使ってくれ。量にもよるが問題無く荷物も置けるだろう」
「助かります」
「いや、それはこちらのセリフだ。我々だけでは人員が足りていなかった。アストレアの力を借りられるのなら本当に助かる」
「困った時はお互い様です。レオ、ダン、行くぞ」
俺達はその場に居た教師の案内で奥の控え室へと急いだ。その部屋はかなりの広さで、学院の教室よりもはるかに大きいだろう。だが――
「確かに広いが軍の部隊までは入れそうに無いな……」
「あぁ、それについては学長に話してグラウンドを貸してもらおう。レオ、転移門を開いてくれ」
「はい!」
俺は入口付近の壁に手を付いて転移門を開く。
「それじゃあ先生、皆を呼んできます」
「頼む」
開かれた転移門を潜り、俺は王城で待機する皆の元へと向かう。
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数十分後、ルステリア王国からの応援隊もそれぞれ自分の力を発揮できる場所で各々作業を始めていた。
そんな時、控え室でアリシアの手伝いをしていた俺をアレクが呼び出す。
「レオ、今後の革命軍に対する作戦が決まった」
「お、やっと俺にも本格的な仕事が回ってきたか」
「嗚呼、俺達にとってはここからが本番だ。気を引き締めろよ。アリシア様、少しこいつを借ります」
「はい、分かりました。こちらは任せてください!」
そうして俺はアレクに連れられ臨時会議室として使われている反対側の控え室へ入る。
「来たか、レオ。早速だが時間が無い、ざっくりと決まった事を説明するぞ」
「はい」
「まずルステリア王国軍部隊が先に敵を追っているウィルバート王国軍部隊と合流。お前とアレクにはその部隊に入り攫われた生徒の救出をしてもらう」
「俺達の役目は敵の捜索じゃないんですか?」
「嗚呼、予想に反して敵の居場所が掴めたんでな。捜索の必要が無くなったんだ」
捜索する必要が無くなった? それって一体……
「どうやら先に逃げた敵を追っていた部隊が拠点と思われる場所に入っていく敵を見たらしい。まぁ、まだ罠という線も捨てきれないがこの機会を逃す手も無いだろう」
俺の疑問を察したのかアレクがそう答える。
「なるほど、分かりました」
「よし、それじゃあ早速準備をするぞ!」
「その事なんだが、少し待って貰いたい」
そう言ってメルト先生の掛け声に待ったをかけたのはシルバ学長だった。
「シルバ学長?」
「確かに、私も今すぐにでも生徒を助けに行きたい」
「ならどうして……」
「奴らを率いていたリーダーが去り際にこう残して行ったんだ。『また近いうちに来る』と……。正直、今この学院が襲われたらその時こそ全滅も有り得る。その為敵の撃退に割く人員を少し残してもらいたいんだ」
確かに、今この学院もう一度襲われるような事があれば戦力も足りず蹂躙されてしまうだろう。その事を考えると無闇に人員を割くこともできない。
「そう言う事でしたか。分かりました、それを踏まえて少し作戦を考え直しましょう」
「時間を取らせてすまない、ありがとう」
「学院の長が決めた判断であれば我々は何も言うことはありません。それに、敵も被害が少ない訳では無いはずです。再度襲撃するにも後数日、少なくとも5日はかかるでしょう。その間にしっかりと準備をすればいい。幸い敵の位置も把握しています動きがあればすぐにでも対応できる」
「嗚呼、しばらくの間世話をかけるがよろしく頼む」
その後メルト先生と軍部の人達で再度作戦を練直すという事で会議は一先ず終わった。
会議が終わってすぐ、俺は部屋から出るシルバ学長の後を追う。
「シルバ学長!」
「? レオナルド君、何か用かい」
「いえ、用って程では無いんですけど、シンは今どこに?」
「シンなら隣の医務室で寝ているよ、あの子が1番傷が大きくてな。ちょうど今行こうと思っていたところだ、一緒に来てくれるか?」
「はい」
そうして、シルバ学長について行き医務室の前に着いた時だった。部屋の中から数人の男女が言い争う声が聞こえてくる。その中の一つに聞き覚えがある事に俺は気づいた。
「この声は……」
「どうやら、もう起きているみたいだな」
学長が扉を開き部屋の中へと入っていく。それに続くようにして俺も部屋の中へと入るとその声はより鮮明に聞き取れるようになった。
「話せガゼル! 俺は今すぐ助けに行くんだ!」
「そうはいかねぇよ! だいたいお前、その傷でどうやって戦うつもりだ!」
「そうですよシン! 作戦が決まるまで、今は大人しくしていてください!」
「私からも、今動く許可は出せないは。今回の襲撃で1番重症なのは君なのよ」
「それでも俺は行きます! 今この瞬間にもサヤが危険な目にあってるかもしれない、誰が何と言おうと俺は行く!」
「シン!」
「大人しくしてください!」
俺が医務室へと入り目にしたのは、対抗戦でも見かけたガタイのいい生徒に後ろから取り押さえられるシンと、シンを止めようとする2人の男女だった。
外まで言い争う声が聞こえていた時点で想像はしてたいたけど、今のシンはかなり荒れてるな……
「起きたみたいだな、シン」
「学長、貴方も俺を止めに来たんですか……」
「あぁそうだ。だが、今の調子を見るにだいぶ動けるようになったみたいだ」
「学長、何を言って……」
白衣を来た教師と思われる女性が、戸惑うように学長の言葉に対して呟く。
「先程、今後の作戦会議が終わった。その中で今すぐにでも先遣隊と合流し敵のアジトを叩く作戦が立てられたのだが……」
「それなら、直ぐにサヤを!」
「まぁ落ち着け、話はまだ終わっていない。一旦はそれで作戦は決まりかけたが、結論としてはまだ部隊は出さない事に決まった」
「それは、まだサヤさんの救出に行かないと言うことですか?」
「嗚呼、そう言うことだ」
それを聞いた瞬間に、ベッドの上で体を上げているシンからとてつもない程の圧力を感じた。純粋な魔力でもなければ、ゼルさんが放つようなその道を極めた達人だけが放つことができる気力とも違う。全く体験したことの無い謎の圧力だ。
何だ、今シンから感じた圧力は……?
「な、んで……、何ですぐに、助けに行かないんですか……」
「まだ時間があると判断したからだ」
「――時間?」
「知らないと思うが、お前が気を失った後、敵のリーダーと思われる男が『また来る』と言い残して去っていった。その言葉から察するに、恐らくまたこの学院を襲撃するつもりだろう。だが、奴らの傷もそう浅くはない。再度の襲撃にはまだ少し時間があると考えられる」
「それとサヤを助けに行かないことになんの関係があるんですか……こうしている今も、サヤが安全とは限らない! 誰も動こうとしないなら、俺一人でも行きます!」
シンの決意は固い。これを説得するのは骨が折れるだろう。
「行ってどうする。万全の状態でも勝てなかったお前が、その傷でノコノコと行ったところで返り討ちにされて終わりだ」
「――っ! だとしても、俺は……!」
「シン、少しは周りを見ろ。何故1人で背負い込もうとする。お前には、他にも残されたものがあるだろう。仲間という存在が、まだいるんじゃないのか?」
「なか、ま……」
「そうだ、そこにいるガゼルとベルメール、それにレオナルド君たちだって、わざわざこうして応援に来てくれた」
「……っ! レ、オ……」
そこで、やっとシンと目が合った。
「やっと気づいたのか。さっきからずっとここにいたんだけどな」
「レオ……でも、どうして」
「今学長が言ってたろ。アストレア学院にも連絡があって、急いで応援に来たんだ」
「そ、そうだったのか……」
「シン、あんまり無理するなって。お前の怪我も軽くはないんだぞ」
「でも、この間にもサヤが! ッ……」
「ほら見ろ、まだ傷が治りきってないではないか。さっきも言ったが、奴らが襲撃して来るにしてもしばらく時間が空く。その間はサヤ君も無事のはずだ」
「学長……」
「その代わり、お前にはこの僅かな時間を無駄に使うことは許されない」
「それは、どういう事ですか」
この言葉には俺も少し引っかかる物があった。
作戦は再度練り直し中でまだ何も決まっていなかったはずだ。一体学長は何を伝えたいんだ?
「お前には、ある場所で修行をしてもらう」
「修行、ですか……?」
「嗚呼、それも、恐らくお前とは縁のある地だ」
シンと縁のある地? 益々分からなくなって来たぞ。
「学長、こいつと縁のある地って一体どこなんですか?」
「いい質問だガゼル。シン、お前に行ってもらうのは人と竜が共存する幻の里、数は少ないが古くから歴史書にも名を残す伝説の国、神竜国ドラグリアだ」
「神竜国、ドラグリア?」
ドラグリア、その名前どこかで……
「っ! 学長、それって!」
「さすが、察しがいいなベルメール」
「その、国の名前……」
そうだ! ドラグリアってどこかで聞いた事あると思えば!
「シン・ドラグリア。お前の姓と同じ名の国だ、シン」
「――俺と、同じ名前の国……」
章タイトル回収!




