第4章 夏合宿編 七十三話 心配
前話で次が4章最終話と言ったのですがあまりにも長くなったので分割します
なのでこの後もう1話続きますがどうか、どうかお許しおm(*_ _)m
『ガラン、こっちは失敗しました。今ゲルトを連れて撤退中です』
「了解した」
どうやら、この辺りが潮時か……
「立てるな、イリス。撤退だ」
「っ! 了解、です……」
まさか、我々が足止めされるとはな。連れてきた魔物も結局全てやられたか。今の学生のレベルは桁外れという事なのか、この2人が頭一つ抜けて強いのか。どちらにしろ帰って一部作戦を見直した方が良さそうだ。
「アレックスと言ったな、今回は俺達の完敗だ。だが、次に会う時は必ず我々が勝利を収める。ゆめゆめ忘れるなよ」
「次があると思うか?」
「あるさ、お前はここで俺達を捕まえる気は無い。今思うに、最初から時間稼ぎが目的だったんだろう? ならばその当初の予定を成しえた今、リスクを冒してまで我々を追う必要が無い」
「どうだか、お前達は見たところ侵入者の中でもかなり地位が高い。そんな奴らなら何かしらリスクを冒してでも捕まえるメリットはあると思うが?」
確かに、こいつならここで俺達を捉えることも容易いだろう。だが、そうなった時、万が一後ろの宿舎内に居る他の生徒達に被害が及ばないとも限らない。それは避けたいはずだ。
「お前はクレバーな人間だ、だが同時に感情で動くタイプでもある。そんなお前が他の生徒達の身の安全まで捨てて俺達を捕らえようとするとは思えん。だから、お前は俺達を捕まえ無い。それに、案外次会う時は近いかもしれんぞ」
「何? どういうことだ」
「むこうが上手くいっていればまた直ぐに相対することになる。その時まで、さらばだ」
そう言い残して奴らは魔法で俺達の視界を遮り来た時同様言葉通りその場から姿を消しこの場から消え去った。
「良かったのか、本当に追わなくて」
「えぇ、元々目的はこの宿舎の防衛。それが達成出来たのなら欲を出す必要は無い。それに捕虜はレオが十分に捕らえました。これ以上リスクを冒す必要も無いですよ」
「それもそうだな」
だが、1つ気になることが無い訳でもない。ガランと名乗った奴が最後に言い残した言葉が引っかかる。
むこう、と言う事は俺達のように被害にあっている場所があると言うことか?
「どうした、アルカード」
「いえ、1つ気になることがあって。とりあえず今は戻りましょう。この事もレオが戻った時に先生達も混じえて話します」
「分かった、その辺りはお前の方が慣れているだろう。任せる」
俺達の戦いは一旦終わった、はずだ。だが何か嫌な予感がする。何も無ければいいが……
▽▲▽▲▽▲▽▲
レオ君と別れてから2時間は経っただろうか、まだ彼は私達の居る安全地帯に現れていない。
もしかして、何かあったんじゃ……
「……っ……」
「大丈夫だよ、アリシア。エリン先生から1時間前に敵は撤退したって通信があったし、それにあのレオ君だよ? そう簡単にやられたりしないよ」
「うん、そう、だよね……」
分かってる。分かってはいるけど、やっぱり顔を見るまでは安心できない自分がいる。
レオ君……
その時、私とサリーの隣に立っていたダリスさんが何かに気づく。そして……
「来たぜ、アリシア様」
「っ!」
ダリスさんの指さす方には本来そこには存在するはずの無い、それでもよく見なれた扉が、私達の前に突然現れていた。少し待てば、そこからずっと待っていた彼が扉を潜りやって来る。
「おまたせ、みんな」
▽▲▽▲▽▲▽▲
「はぁ、はぁ、やっと……着いた」
激戦に次ぐ激戦により魔力を殆ど使い果たした俺は重たい体を引きずり遺跡跡地エリアから1時間かけて宿舎まで戻っていた。
普通に歩いてもここまで数十分もかからないんだけどな、魔力切れ恐るべし。
「とりあえず、早く魔力ポーションを貰わないとな」
本当なら宿舎よりも先にアリシア達の居る安全地帯まで向かいたかった。けど転移門が使えない以上宿舎よりも遠い安全地帯に向かうのは効率が悪い。だが、宿舎ならば緊急回復用の魔力ポーションがいくつか用意されている。
事前にエリン先生に通信はしているし監督室まで行けば直ぐに出してもらえるだろう。
そうして俺がなけなしの力を使い宿舎の玄関まで向かおうとすればそれに気づいたのかエリン先生が数本の魔力ポーションを持って俺の方へ駆け寄ってくる。
わざわざ玄関前に出て待っていてくれたみたいだ。
「レ、レオ君!? 魔力切れとは聞いたけどこんなに酷いなんて、大丈夫なの?」
「えぇ、何とか。魔力切れには慣れてるので」
まぁかなり久しぶりではあるんだけどね……
「そんな事より、魔力ポーション貰ってもいいですか?」
「あぁ、ごめんなさい! とりあえず5本持ってきたんだけどこれで足りる?」
「十分です」
普通の人であれば魔力切れを起こしても2本程度で足りるが俺の場合は常人よりも遥かに魔力量が多い。それでも5本もあれば半分以上は回復するだろう。安全地帯まで転移門を開くだけなら十分な量だ。
「……っ、ぷはっ、はぁ、はぁ、ありがとうございます」
「気にしないで。それよりレオ君はこの後どうするの?」
「安全地帯まで避難している生徒達を迎えに行きます。転移門を開けば大人数でも直ぐにここまで連れてこれるので」
「分かった、メルト先生達には私から伝えておく。けど、その前に」
そう言うとエリン先生は俺に両手をかざし回復魔法をかけてくれる。
「傷は無いみたいだけど少しでも体力を回復した方がいいわ。そこまで回復魔法は得意じゃないから本当に気休め程度だけど」
「いえ、そんな事ないですよ。助かります」
「だから気にしなくていいのよ、貴方は生徒なんだから。はい、これで大丈夫。皆のことお願いね」
「はい、行ってきます」
エリン先生にそう言って俺は転移門を開き潜り安全地帯へと移動する。
▽▲▽▲▽▲▽▲
安全地帯へ着き1番最初に目に入ったのは今にも泣き出しそうなアリシアとその肩を支えるサリー、その2人の横で何故か親指を立てて笑っているダリスだった。
「おまたせ、みんな」
「っ、レオ君!」
「うおっ!」
え、え? 何が起きたんだ? いきなりアリシアが飛びついてきて、これは……抱きしめられてる?
え、ほんとにこれ、なんのご褒美?
この状況を説明するなれば、俺が転移門を潜るとそれに気づいたアリシアが凄い勢いで走ってきてその勢いのまま抱きつかれ現在に至る。と言った感じだ。
こ、これは、抱きしめてもいいのやら……でも女の子に無闇矢鱈に触るのは何か行けない気がする。
そんな事を言ってしまえば抱きつかれているこの状況が既に触れてしまっているのだが抱きつかれた衝撃で頭の回転が鈍っているレオにその事に気づくほどの思考回路は残されていなかった。
そ、それよりも、何故こんな事になっているのかきかなければ……
「ど、どうしたんだ、アリシア。何かあったのか?」
「……んですよ。」
「え?」
「心配、したんですよっ……。敵が撤退したって聞いてレオ君が退けてくれたんだって。なのに、そっちに行くって言ったのに全然来ないし、通信もルイさん達に繋がって連絡も取れないし……」
あー、そう言えば1班用の魔力結晶はルイに預けたままだったな。でも、こんなに心配してくれたのか。
「うん……ごめん、アリシア。心配してくれてありがとう。見ての通り怪我も無いから大丈夫」
これはエリン先生に回復魔法かけてもらって良かったな。
「だから、もう泣くなって、アリシア。俺はちゃんとここにいるから」
俺の胸に顔を埋めてるおかげか周りには気づかれてないと思うけど少し前からアリシアの目には大粒の涙が溜まり零れている。
今俺にできるのはこれが限界かな。
しばらくはこのまま収まりそうにないアリシアを見てその肩に手を置き、子供をあやすように頭を撫でる。
ここに来る前、アリシアは実際に人の死を目の前で見ている。そのせいと言ってはあれだが死のイメージが明確に頭に焼き付いてしまったことで余計に心配になったんだろう。
もう少しこのままでいよう。アリシアも離れたがらないし俺も役得だし。
そうしていると今までの光景を眺めていたサリーとダリスが俺達に近づいてくる。
「レオ君も抱きしめるぐらいしてあげればいいのに〜」
「全く漢気のねぇ奴だな」
「お前らなぁ……」
俺の耳元でそんな事を囁いてくる2人。多分アリシアにはギリギリ聞こえていない……はずだ。
「それより、本題だよ。ここにいる人達を宿舎まで連れていく。2人は他の人の様子を見て動けない人が居そうだったら手伝ってあげてくれ」
「分かった」
「了解」
俺が指示を出すと2人は直ぐに動き出し他の人たちへそれを伝えて宿舎までの移動を手伝ってくれていた。
「アリシア、俺達も戻らないと」
「まだ、もう少し……このままがいいです」
「……分かった。もう少しだけ」
どうやらお姫様はもう少しこのままで居たいらしい。涙はもう止まっているがまだ鼻をすする音が聞こえる。
その後、2人に加えルイ達やそれ以外のAクラスの班の協力もあり移動は数分で終え、残るは俺達1班とルイとバーンの5人だけとなった。
その頃にはアリシアも完全に泣きやみ俺の胸から顔を上げられる程度には気を持ち直していた。と言っても俺の傍から離れようとはしない。少しだけ小さい子供みたいだなと思ったのは秘密だ。
「アリシア、もう大丈夫?」
「うん」
サリーの言葉にアリシアはそう答える。
うん、って普段のアリシアからは想像も出来ないけどこれはこれで良いな。それだけサリーには気を許しているって事だろう。
「そっか、それじゃあ俺達も戻ろう」
俺達は転移門を潜って宿舎へと戻り、エリン先生に出迎えて貰ったり妙に距離の近い俺とアリシアに気づいたアレクに追求されたりしつつ激動の一日を終えた。




