第4章 夏合宿編 六十九話 異形の化け物
『エリン先生、ブレンです。状況は』
「ブレン君、今アレク君が1人で敵2人を相手にしてるわ。入ろうとしてくる魔物の大軍もアレク君が数を減らしてくれたおかげで他の教師達で対応できてる」
『なるほど、大体把握しました。俺はアルカードの援護に行きます』
「お願い」
現状はアレク君が1人で敵の主戦力を相手してくれているおかげで宿舎への攻撃は最小限に抑えられている。戦況もアレク君の大技を警戒してか敵もあまり深く攻め込めずに1人相手に押され気味。
ここにブレン君も合流してくれればこっちは何とか守りきれるはずだけど……
「問題は森の方、よね。ノワールを追ったメルト先生とも通信が取れないし一体どうすれば……。? これは……っ!」
▽▲▽▲▽▲▽▲
「はぁっ!」
侵入者が現れてから数十分、俺は既に事前に知らされていた数の半分の敵を捉えていた。
「7人目、森に入って来た敵が確か15人だからこいつで大体半分か」
けど、何かがおかしい。侵入してきた半分の敵を捉えたにしては今魔力探知にある反応だけでも4つ。なんでこんなに戦力が偏ってる?
「いや、辞めよう。考えてる時間が無駄だ。どっちにしろ敵は全員捉えるんだ。偏ってるならむしろ好都合だろ」
そうして俺が思考を辞め侵入を捉えに動こうとした時だった。監督室に繋がる魔力結晶から通信が入る。
監督室から通信、アレクか?
「はい」
『レオ君! 聞こえる?』
通信してきたのは予想外にもアレクでは無くエリン先生だった。
アレクが通信してこなかったって事は今監督室にアレクは居ないのか? それに先生のこの慌てようもしかして宿舎の方に何かあったんじゃ……!
「はい、聞こえます。先生が通信してきたって事はそっちで何かあったんですか?」
『あったにはあったけどアレク君が対応してくれてるおかげでこっちは何の問題も無いから心配しないで。それよりも、今は森の方が大変なの』
森が?
『まず1つ目、レオ君も薄々気づいてはいると思うけど宿舎側から侵入した敵の殆どが森に入ったわ』
なるほど、違和感の招待はそれか。戦力が偏ってたんじゃなくて単純に聞いた人数よりも敵の数が増えていたんだ。それより……
「先生、1つ目って事は2つ目以降もあるって事ですか?」
『えぇ、どちらかと言えばこっちが本題よ。今崖エリアの方で侵入してきた敵の幹部らしき男と2班が戦闘中、ブリッツ君達男子3人係で相手してるけどいつやられてもおかしく無い状況よ』
「2班、って事は……!」
アリシアの居る班じゃねえか!
「クソっ!」
『レオ君!?』
「先生、俺が行きます! そっちの通信でアリシア達に俺が行くまで持ちこたえるよう伝えてください!」
『分かったわ、そっちはお願い』
崖エリアはここから真逆の1番遠いエリアだ。急いで向かったとしても数分はかかる。
「頼んだぞ、ブリッツ。何とか耐えてくれ……!」
▽▲▽▲▽▲▽▲
こいつ、強い……数はこっちが有利なのにそれでも全く歯が立たないとは……っ!
「おいおい、そんなもんかよ。期待外れもいい所だぜ」
「クソっ、黙れ!」
あいつら2人はもう動けない。アリシア様が回復魔法をかけているから死ぬことは無いだろうがここからは俺1人でこいつの相手をしなければ。
「はぁ〜あ、お前つまんないな。貴族特有の魔力の量に才能もある、筋も悪くねぇ。だが、まだまだだ。お前には決定的に経験が足りねぇ。今のまま才能とご自慢の魔力量に物を言わせて戦ってるだけじゃ俺に勝てるどころか傷1つ付けられねぇよ」
「チッ!」
こいつの言っている事は間違っていない。だが、王国貴族として下僕もやられ尚且つ馬鹿にされたままで引き下がる訳にはいかないんだ!
「うぉぉっ! 『岩槍』!」
「遅い、脆い、弱い! どうしたどうした、集中力が切れてきたかぁ? さっきまでより魔法の質が落ちてんぞ!」
距離を取って魔法で攻めれば全て防がれ接近戦では相手にもならない。何か他に方法は……
「はぁ、つまんねぇ。もういい、終わりにしよう」
そう言うとゲルトは短剣を腰にしまい、ブリッツとの距離を詰める。
「貴様、何を言って……ゴフッ!?」
ゲルトに懐に入られ突如血を吐くブリッツ。その腹部にはゲルトの拳が鳩尾に深く突き刺さっていた。
「俺はよぅ、面白ぇ奴が居るって聞いてたんだ。それがなんだ? 蓋を開けてみれば威勢だけのつまらねぇガキじゃねぇか。お前がもう少し歯ごたえがあれば良かったんだけどな」
「グッ、ガハッ……! きさ、ま……一体俺に、何を、ゴホッ、した……っ!」
「さっき見せた種、あれをお前の体内に埋め込んだ。言ったろ? 力をくれてやるって。その種は取り込んだ物に強大な力を与える」
ただし、
そうゲルトは続けた。
「それは適応した場合の話だ。種に適応出来なかった者はその姿を、何も考えずに目に映る物をただ壊そうとするだけの異形の化け物に変える」
「っ! そんな……っ!」
そう驚愕を口からこぼしたのは離れた場所で2人の男子生徒に回復魔法をかけるアリシアだった。その隣には2人の女生徒が驚いた様子で何も言えずにいた。
「グッ、ガアァッ!」
「その種は魔族の住む魔人領の最果ての地で見つかった物でな。それぞれ特殊な能力があるんだ。その能力って言うのが取り込んだ物に今は存在すらしているか怪しい古代の魔法を使用可能にするって物だ。まぁ厳密に言えばちょっと違うが結果は同じだからどうでもいいだろ」
「古代の……魔法? そんなもの、文献でも見たことは……」
「そりゃ当然だぜ、王女さんよぉ。何せかなり古くに失われた物だ。それも魔人領の極わずかな種族にしか伝わってないような物。どうやって作られたのかはたまた自然に生まれたのかそれすらもわからねぇような物が人間の世界で文献に残る方が不思議ってもんよ」
そうしてゲルトが種の情報をつらつらと喋る中、ブリッツは内部から体が崩壊する激痛に耐えられず声を上げる。
「グアァァァッ!」
「ブリッツさん!」
「こりゃハズレだな。体の一部が既に変化し始めてやがる。まぁ安心しろよ、腹に空いた穴はその内すぐ治る。化け物になる代わりに身体能力も回復力も魔力も何もかもが急激に上昇するからな」
「グッ、ガアァァァッ!」
ブリッツが叫び、左半身が既に黄緑色の植物のように変化したところでゲルトの攻撃により気を失っていた生徒、普段からブリッツに付き従う2人が目を覚ましその光景を目にした。
「うっ、ブリッツ様は、無事で……」
「クッ、ブリッツ様……? そ、そのお姿は……」
「信じられないかもしれませんが、あれがブリッツさんです……」
アリシアの言葉に2人は絶望する。
「そ、そんな事が、なぜあんな姿に……」
「敵が戦闘前に見せた種、あれを体内に埋め込まれた直後にあの姿へと変わり始めたんです」
「そ、そんな……」
「とりあえず今はこの場から逃げましょう! お2人とも立てますか?」
「は、はいっ!」
アリシアの指示で2人の男子生徒も立ち上がり他の女生徒と5人でその場から逃げようとするがその前方に巨大な木の幹が現れ道を塞ぐ。
「なっ、これは一体……」
「そりゃぁ、こいつの魔法だなぁ。正確にはこいつに埋めた種の魔法だ。植物魔法、周りの草花や木を自由自在に操りさらに作り出すこともできる」
「これでは先に進むことが……」
「っ! アリシア様!」
アリシアの隣にいた女子生徒は叫ぶと同時にアリシアに飛びつき自身とアリシアの体を地面に伏せさせる。その直後、2人の頭が先程まであった位置を巨大な蔦が猛スピードで通過しその先にあった大木をへし折る。
「なんて言う威力……」
大木すらも容易くへし折るその一撃は異形と化したブリッツの左腕から繰り出される横薙ぎだった。
「助けて下さりありがとうございます」
「いえ、アリシア様にお怪我が無くて何よりです。それよりもどこか別の道を探しましょう!」
だが、またしてもそれをブリッツが阻む。
『グアァォォッ!』
もはや人の言葉すらも喋ることができなくなったブリッツはゲルトの説明通りに視界に移るものを全て破壊していく。
「おぉ、おぉ、こりゃすげぇな。元があのガキとは思えねぇ強さだ。俺も高い位置に避難した方が良さそうだな」
そう言ってゲルトは自身がここまでやってきた方向にある崖へと上り戦闘を静観する構えをとった。
『ガアァァァッ!』
「このままじゃ全員やられてしまう……せめてアリシア様だけでもお逃げ下さい!」
「それは出来ません! 王国の王女と言う以前に私は、クラスメイトを置いて逃げるなんてできない! 逃げるなら全員で逃げます!」
「ですが、アリシア様……」
「それに、さっきエリン先生から通信が入りました」
――アリシア様、今レオ君がそちらへ向かっています。だからあと少し、何とか持ちこたえてください!――
「あと少しでレオ君が来てくれます。レオ君が来てくれればこの状況だって何とかしてくれるはずです!」
「アリシア様……分かりました。レオナルド君が来るまでは何としてでも私達がアリシア様を守ってみせます!」
「いえ、私も守られているだけではいられません。皆さんが私を守ってくれるのであれば私も皆さんを守ります」
レオ君が来てくれれば、必ず全員で生き残れる。それまでは何としてでも耐えてみせる!
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