第4章 夏合宿編 六十八話 地獄の始まり
おかしい、最初の爆撃で敵が侵入してきてから既に5分。宿舎に向けて移動していた奴らはどこに行った? いくら集団を引連れているとは言え侵入地点から宿舎まで1分もあれば到着するはず。
それが未だ宿舎に攻撃を仕掛けてきていないと言うことはこちらから入って来た奴らの狙いはここでは無いと言うことか……
「いや、そうして油断を誘う作戦という線もあるな。それに、何か嫌な予感がする」
奴らの言うことが間違いないのであれば狙いは確実に生徒だ。森と宿舎側、2箇所から侵入した事がそれを如実に物語っている。
「奴らの狙いは間違いなく俺達生徒。ならば餌の集まるこの場所を襲撃しない訳が無い。どちらにしろ警戒しておくに越したことはないか」
「っ! アレク君、これを!」
「? 何かありましたか。……っ、これは!」
エリンに呼ばれ魔力結晶から映し出される映像を見たアレクは血相を変えて窓の方へと向かいガラス越しに外を見る。そして、窓から宿舎の外を見たアレクの表情は焦りから驚きへと変わっていた。
「やられたっ……!」
時間がかかってたのはそう言う事だったのか!
魔力結晶から映し出される映像とアレクの目に映る光景。それは、宿舎の周囲を全方位囲むほどの魔物の大軍とそれを指揮しているであろう2人の人間だった。
▽▲▽▲▽▲▽▲
「エリン先生、ざっとでいいので魔物がどれだけ居るか分かりますか」
「いいえ、でも少なくとも300はいるわ」
「と言うことはそれ以上いると考えた方がいいですね」
「幸い、少し中型も見えるけどその殆どが小型だからこの宿舎に居る人達で倒せなくは無いわ。けど……」
「さすがに数が多すぎる」
「ええ、生徒達や教師を集めている間に攻撃されてしまえば数で押されてしまう」
その上、魔物を指揮しているであろう大柄な男と後ろにいる女。あいつらの実力は未知数だ、それの相手もするとなると状況はさらに厳しい物になる。
これは、俺が出るしかないか。
「先生、練習場に居る先輩に通信を。俺は奴らの相手をしてくるので戻るまでの間ここはお願いします」
「分かったわ、君なら大丈夫だとは思うけど気をつけて」
「はい、それと他の生徒や先生方に対魔法結界と魔法耐性をかけておくように伝えてください。俺と先輩が全力を出したら宿舎の方にも魔法の余波が飛ぶかもしれない」
「分かった、直ぐに残った人達に伝える」
先生の言葉に俺は頷き返し通信用の魔力結晶を全て置いて外へと向かった。
▽▲▽▲▽▲▽▲
「隊長、400体の魔物全ての配置が完了しました。いつでも動けます」
「良くやった、目標は宿舎の2階に集まっている。より多くの生徒を捉えろ」
「了解、早速中に……」
「『雷神の鉄槌』」
直後、黒ローブを纏った2人の頭上に黒雲が現れ閃光が走る。
「っ! 回避ィ!」
「クッ!」
2人が避けた後一瞬の間に上空の黒雲から雷が落ち、辺り一帯に轟音が響き渡る。
「何という威力……」
「隊長、この魔法は一体……」
黒ローブの2人は自分達が数秒前まで居た地点を見つめ、変わり果てたその地形を目にし驚愕を隠せずにいた。
「ほう、今のを避けたか。不意打ちのつもりだったんだがな」
「っ!」
「っ!」
2人が振り向くとそこには学院の制服を着た1人の生徒が宿舎の正面扉の前に立っている。
「まぁ、魔物20体は削れたか」
「今の魔法を放ったのはお前か?」
そう聞いたのは黒ローブの男だ。
「そうだが、それがどうかしたか?」
「隊長、恐らく奴が」
「嗚呼、これだけの威力と範囲の雷魔法を使えるのはノワールの言っていた4人の中では1人だけだ」
「次席、ですか。面倒な奴と当たりましたね」
「だが、俺達2人で相手をすれば問題無い。こちら側に残った魔物も使って何としてでも奴を捉える。残りの300体は予定通り宿舎内に送り込む」
「了解」
作戦を決めると2人は目の前の相手へ注意を向ける。
「話は終わったか? さてと、薄々勘づいてはいるが。一応、お前達の目的を聞いておこう」
「答える義理は無い」
「だろうな、まぁいい。どちらにしろやる事は変わらないからな」
「ふっ、面白い。お前、名前は」
「アレックス・フォン・アルカード」
「アレックスか。覚えておこう」
そう言って黒ローブの男が背中に背負った大剣を抜くと、それに続くように女が槍を構え、アレクが懐から複数枚のカードを取り出し三者戦闘態勢に入る。
「俺の名はガラン。ここを通してもらう」
「行かせるか!」
瞬間、ガランと名乗った大柄の男がアレクへ突進しそれを迎え撃つようにアレクがカードを構え魔法を繰り出す。
こうして、宿舎での戦闘が開始した。
▽▲▽▲▽▲▽▲
「さぁ早く、ここは危ないのであちらに避難を!」
「アリシア様、こっちに居た生徒達も安全地帯の方に避難させました。この辺りの生徒は全員避難完了です!」
「ありがとうございます、私達も安全地帯へ向かいましょう」
「アリシア様、お言葉ですがあまり1人で先走らないで頂きたい。あなたの身に何かあれば王国の一大事だ」
「ブリッツさん……、ありがとうございます。でも、これが私のやるべき事なので」
そう、1人でも多くの生徒を避難させるのが私の役目。
今でも1人で侵入者と戦ってくれているレオ君のおかげで未だ被害が出ていないんだからそのレオ君の頑張りを無駄にしないためにも私が頑張らなきゃ。
「……っ、分かりました。ですが、あまり私達から離れないでください。」
「はい、ありがとうございます」
「おぉ、おぉ、こんな所に沢山いるじゃねぇの」
「っ!」
「っ! 誰だ!」
「へぇ、面白そうなのがいるなぁ。俺か? 俺はゲルト、お前達に用があってきたんだ」
この人が襲撃者、エリン先生に知らせなきゃ!
「ちょぉーっと待ったぁ! そこの金髪のお嬢ちゃん。今、何しようとした」
っ! 気づかれ……
「んん〜、よく見たらどこかで……あぁ、この国の王女さんか、道理で見た事ある訳だ。と言うことは標的の中の4人ってことだなぁ」
私が標的? それってどう言う……
「アリシア様、下がってください。敵の狙いが貴方と分かった以上今すぐにでも避難を」
「ブリッツさん、私も一緒に戦います! 皆さんを置いて1人だけ逃げるなんて出来ません!」
「ダメです、貴方は少し自分の立場を考えた方がいい。今は学院で自由にできていてもこの国の王女と言うことは何も変わらないんだ」
「っ、ですが……」
「ん? 金髪にツリ目、眉間にシワがあって気も強い。もしかして、お前がノワールの言ってた奴か」
「何?」
ノワール? 確か今回の合宿にも来ていた2年の先生の名前がノワールだったような。でもどうしてその先生の名前が今?
「へぇ、そうかそうか。お前がねぇ……ふふっ、ははっ、はっははははっ! こりゃぁ面白くなってきたぜぇ。そうだな、よし、こうしよう。お前に力をくれてやる」
「力だと? つい最近も同じ事を聞かれたな。それも、お前が今口にしたノワールと言う男から。さてはお前ら裏で繋がっていたな。奴にも言ったが生憎、俺は他人から貰い受ける力などには興味が無い。丁重にお断りさせてもらおう」
ゲルトの誘いをノワールの時同様に断るブリッツ。
だが、それを見たゲルトは気味が悪いほど口角を上げブリッツの言葉には耳も貸さない。
「いいねぇ。その目、余計気に入ったぜ。お前には何としてでも力をくれてやる」
そうしてゲルトが懐から取り出したのは……
「あれは……種?」
そう、中に1つの種のような物の入った小さな瓶だった。
「と言っても、ただの種では無さそうですけどね」
「そうだなぁ、ただの植物の種なら良かったがぁ残念。世の中そんなに甘くはねぇよ。さぁ、ここからが地獄の始まりだァ」
そう言うと、ゲルトは腰に指した短剣を抜きブリッツ目掛けて地を駆ける。対するブリッツも自身の腰から直剣を抜き放ち、迫るゲルトを迎え撃つ。
直後、2人の刃がぶつかり合い火花と共に辺り一体に高い金属音を響かせた。
奇しくもそれは、宿舎の方の戦闘が開始したのとほぼ同時。こうして、2箇所での激しい戦闘が幕を開ける。
今思えば、この時から既に、俺達の夏合宿は地獄と化していたようだ。
今回登場したガランと言う男と4章プロローグの冒頭に出てきた大柄な男は同一人物です。
果たして、プロローグに出てきた残りの2人はいつ登場するのか?




