第4章 夏合宿編 六十三話 頼み事
――合宿3日目、夜――
明日の実技特訓の前に最後の仕上げをしようと思い、俺は自分の部屋の2つ隣にある4班男子の部屋へと向かっていた。
「バーン、ルイ、居るか?」
「レオ君、どうしたんだ?」
俺がドアをノックし開けると出迎えたのは部屋着に着替えたルイだった。
「いや、明日の特訓の前に少し魔法を使って起きたくてさ。今から練習場に行こうと思ってたから2人も誘いに来たんだ。本当は残りの2人も誘えたら良かったんだけど女子部屋のある2階には行けないしね」
昨日までは昼夜問わず使用禁止だった練習場がせっかく使えるようになったんだ、これを使わない手は無いだろう。
ちなみに、基本的に練習場の使用は禁止だが翌日の実技で魔法や体を使う場合に限りメルト先生が夜の9時までと言う制限付きで使用許可を貰ったらしい。本当に普段はあんなだが生徒思いの良い先生だ。
「なるほど、そう言う事なら俺達も付き合うよ。レオ君の魔法も少し見ておきたいしね。今バーンも呼んでくる」
「嗚呼、わかった。廊下で待ってるよ」
その後、ルイ達の準備も整い急いで練習場へと向かう。
今の時間は7時半か、9時前には引き上げるとして急げば1時間ぐらいは使えるかな。
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数分後、俺達が練習場の外まで来ると中から魔法を放つ音が聞こえてくる。どうやら既に誰か使ってるみたいだ。
「まぁ、そりゃ誰かしら居るよな。場所空いてればいいけど」
「さすがに空いてるんじゃねぇか? 外から見ただけでもかなりデケェしよ」
「外から見た限りでも同時に10人ぐらいなら問題無く使えそうだし大丈夫じゃないかな?」
確かに、昨日の朝メルト先生に連れられて来た時に1度入って中を見てるけどかなり広かったもんな。心配することでもないか。
そうして俺が2人と一緒に練習場の中に入ると1人の生徒が奥のスペースで魔法を使っているだけで他に人影は見当たらなかった。これなら十分使えるな。
「ん? あれって、ブリッツの野郎じゃねぇか?」
バーンの言葉でその生徒の方を見てみればそこには確かにブリッツが居た。
「みたいだね、でも1人なんて珍しいな。いつもなら腰巾着が2人いたと思うけど」
「喧嘩でもしたんじゃねぇか?」
「うーんどうかな。あの2人がブリッツ君と喧嘩するようなことは無いと思うけど」
ルイの言う通りあの3人が喧嘩するなんて事はありえない。2人が楯突こうものならブリッツは許さないだろうしそもそもあの2人はブリッツに楯突いたりはしない。貴族の間の主従関係なんてそう言う物だ。
「悪い2人とも、先に始めててくれ」
「ん? あ、おい、レオ!」
バーンのその声に反応したのか黙々と魔法を使っていたブリッツが近づく俺に目をやり苦虫を噛み潰したような顔をする。
「よォ、ブリッツ。1人なのか?」
「っ! レオナルド……何故貴様がここに居る」
「何故って、練習場に来る目的なんて魔法を使う以外にあるか?」
「そう言う事を言っているんじゃない! 何故わざわざ俺の元へ来たのかと聞いているんだ!」
「嗚呼そう言う事か。理由って程じゃ無いけど、いつも一緒にいる2人が居なかったから何かあったのかと思ってさ」
まぁ要件は他にもあるけど……
「貴様には関係ないだろう。それにあいつらはただ休ませているだけだ。俺の行く先々どこにでも着いてこられるのも鬱陶しいからな」
「なるほどな」
ブリッツはこう言っているが普段の3人の雰囲気からして言葉通りの意味では無いだろう。恐らく今1人なのはブリッツなりに2人を思いやっての行動だ。
多分、実技前に少しでも2人を休ませてやりたかったんだな……
「じゃあな、精々悪足掻きをするがいい」
「嗚呼、そうするよ。あ、そうだブリッツ、1つ頼み事があるんだけど……」
「俺が貴様の頼みを聞くと思うか?」
「そう言うと思ったよ。まぁでも、話だけでも聞いてくれ。これを頼めるのはお前だけなんだ」
そう言って俺が話を切り出せば何だかんだ言いつつもブリッツは最後までその内容を聞いてくれた。
「多分、と言うかこれは殆ど確信に近い事なんだけど2班で1番強いのはお前だ。だから、もし何か危険な事が起こったら、アリシアを守って欲しい」
「ほう、その口振りだと他の班員はどうなってもいいと聞こえるが? 首席様は血も涙も無いんだな」
「嗚呼、お前の言うことは間違ってないよ。でも俺だって人間だ。全員助かるならそれが1番いいけど、やっぱり誰かが犠牲にならなきゃいけない場面になったら自分の友達には助かって欲しい」
他の2班の人達だって確かにクラスメイトだ。優劣なんて付けるのは最低かもしれないけれど、それでもやっぱりアリシアには無事でいて欲しい。
「そもそも、彼女は十分に強いだろう。俺が気にかける必要など無いと思うが? それに、貴様の空間魔法とやらを使えば直ぐに助けに来れるはずだ」
「まぁそれもその通りなんだけど多分、アリシアは他の人が危ない時は自分を犠牲にしてでも助けると思う。そう言う優しい子だからこそ自衛の手段を持っていたとしても万が一の時は危険な場面が何かしらあると思うんだ」
それに、俺の魔法も万能じゃない。今日の案内で何ヶ所かにはマーキングしておいたけど必ずそこにアリシア達が居るとも限らないしな。
「ちっ……まぁ良い、話だけは聞いたからなあとの事がどうなるかはせいぜい神にでも祈ってるがいい」
「そうさせてもらうよ」
そう言い残すとブリッツは足早に練習場を後にした。
これで大丈夫、ブリッツは何だかんだ言って優しい奴だ。それにこの学院内で身分差は無いと言えども小さい頃から染み付いた目上の相手に対しての行動はちゃんとしている。ブリッツに任せておけばいざとなった時は安心だ。
「おい、レオ! 大丈夫だったのか、ブリッツの野郎すげぇ嫌そうな顔して出て行ったけどよ」
「嗚呼、1つ頼みたい事をしただけだから、多分大丈夫だと思う。それに本当に嫌だったら、話も聞かずに出て行くと思うから」
「まぁそうだね。内容にもよるだろうけど彼の性格で話を最後まで聞いてくれたなら俺も心配する事はないと思うよ。それより、時間も限られてるし早く始めよう」
「そうだな、少しでも多くお互いの魔法も把握しておきたいし早速やるか」
こうして俺達は当初の予定を大幅に過ぎ時間ギリギリまで練習場に籠っていた。




