百十八話 迷宮攻略⑥
――九階層・最深部――
ザッ!
『闇夜を照らす篝火 戦火に響く慟哭 心火の咆哮 救済の灯火』
「あれは、長文詠唱か?」
「半分正解で半分不正解やね。あれは並行詠唱。短文詠唱では最大限の力を発揮できないとか安定性がなくて危険な魔法を使う時なんかに用いられる攻撃と長文詠唱を同時に行う技術やよ」
「そんなものが……」
「知らなくても不思議やないよ。これは昔、まだヤマトが荒れてた時代に使われていた技術。それを国内だけで受け継いできたんやから。ま、それでも今では使える人は減ってもうたけどなぁ」
(国に伝わる古の技、みたいなものか)
「うちでも使えるんは私とサクラちゃん、それにキョウヤ君だけや。かく言ううちも二人みたいに動いて攻撃しながらなんて二つ以上のこと同時にできるわけやない。せいぜいその場にとどまって攻撃しながら詠唱するぐらいなんよ」
「それだけ難しい事を、今サクラはやってるって事か。なら、俺も負けてられないな」
俺は眼前で戦闘を繰り広げるサクラに続くようにタコの魔物へと攻撃を再開した。
「ふふっ、そういうとこ、ホンマによう似とるなぁ。さてと、二人にばっかり任せとらんでうちもそろそろ働こか」
「いや、お前はそこに居てくれ。魔力を貯めている間は攻撃防げない。奴の攻撃の手がこちらへ向くようなら捌いてほしい」
「仕方ないなぁ。その代わり、しっかり頼むよ」
「嗚呼、任せておけ。それより、あっちは大丈夫か?」
「心配いらんよ、ほら」
「?」
『時には救い、時には滅する。遍く火に違いはなく、全て等しく焼き尽くす。ならばその力、我に貸し与えよ』
『森羅万象 全てを無に帰す炎刀!』
ズダァンッ!
サクラの繰り出した魔法は上空から標的を狙い、叩き切る。
『ブモォォォォッ!』
「あの魔力の密度、もはや斬撃というより打撃じゃないか……」
「凄いやろ、うちのサクラちゃんは。あれでも火力だけなら2番手なんよ?」
「レオの奴、とんでもないのに目をつけられたな」
「ほんと、ご愁傷さまやね。それより、あんたは自分の事に集中したら?」
「嗚呼、あれなら心配する必要も無さそうだしな。そうさせてもらおう」
□
「ははっ、えげつない魔法だな。いくらあのタコと言えど今のはかなりダメージ食らったんじゃないか?」
それでも、やっと斬撃で傷をつけられた程度だ。逆を言えばあのレベルの魔法で無ければ斬撃はほとんど効果が無いという事にもなる。
(けど、アレクの作戦が上手く決まれば活路は見える)
「その前に、俺も色々試してみないとな。まずは……」
すると、レオは白夜へと魔力を集める。
「『次元斬り』」
空間属性の付与がされた白夜の一撃がタコの魔物へと迫る。
ザシュッ!
(空間魔法を付与すれば切れなくはないか。でも)
「想像以上に浅いな……」
「多分、魔法耐性があるんやないかな」
「サクラ」
「うちの攻撃も予想以上にダメージが減らされてたし。何より、焼き切ったつもりが普通に切れてるだけなんよ」
「なるほどな。単純に海に生息する生物だから火の効果が薄いのか、それとも魔法耐性のせいで魔力で生み出した火そのものが弾かれてるのか」
「もしくは、そのどっちもか……それともう一つ分かったことなんやけど」
「どうした?」
「あそこ、うちがさっき切ったところ見てくれる?」
サクラが指さす先、そこには数秒前にサクラが付けた傷があったのだが、はっきりと数秒前との違いが見えた。
「傷が、小さくなってる? ……まさか、再生してるのか!」
「そのまさかやね。さっきここに来る前にはっきりと見たんよ。ゆっくりとだけど確かに傷が塞がっていくのが」
「となると、完全に断ち切るぐらいじゃないとどんなに傷を与えても再生されるってことかよ」
(だとしたらさっきサクラが使ったレベルの魔法をいくら当てても回復される上俺の空間魔法を付与した攻撃もほとんど効果が無くなるぞ! あとは……)
「あれしかないか」
「? レオ君、何か方法があるん?」
「決定打にはならないけどな。失敗すれば魔法耐性で弾かれるだけかもしれない。でも、もし成功すれば魔法耐性を剥がすくらいなら……」
「順分だ。やってくれ」
そう答えたのは後ろで魔力を貯めていたはずのアレクだった。
「アレク、もういいのか?」
「嗚呼、時間を稼いでもらったおかげでな。それより、魔法耐性があってはこの作戦も上手くいくか分からない。剥せる可能性があるならやってくれ」
「分かった」
アレクへと返事を返すと、レオは二つの眼を閉じ、準備に入る。
(こんな事やった事は無いけど、上手くできなきゃここで終わりだ。イメージするのは魔法耐性という鎧を破壊すること。あの魔物を切るのではなく、魔物が身につける鎧を切る)
次第に、レオの握る白夜を赤黒い光が包み込む。
(破壊の剣魔法耐性を壊す。相手の魔法耐性が切れるのが先か、こっちの魔法が弾かれるのが先か……)
「ふぅー、よし」
「大丈夫そうか」
「あぁ、問題ない」
「頼んだぞ」
「任せとけって。それより、これが成功したらその後はお前だからなアレク」
「ふっ、分かっている」
そうしてレオはゆっくり歩き出し、地面を蹴る。
(タイミングの勝負だ。ギリギリまで近づいて……)
だが、自身に迫る外敵を魔物が見逃すはずもない。
『ブモォォォォッ!』
「っ!」
「『業火の太刀・焔』」
「『烈風の舞・暴嵐砲』」
ズバァン!
ドゴォン!
「道はうちらが開いたる」
「だからレオ君は攻撃に集中してえぇで」
「嗚呼、助かる!」
二人のサポートを受け真っ直ぐに標的へと迫るレオ。そしてついに、自身の剣の間合いまで近づくことに成功した。
(間合いには入った。次は……)
「『光弾』『創造・槍』」
レオが詠唱をすると無数輝く光の球体と二本の鉄の槍が頭上へと現れる。
ドドドドドッ!
目の前の標的目掛けて魔法を放ったレオだが、攻撃をされた魔物はというと避ける訳でもなくその場にとどまっていた。
(ここまでは想定内、本当の狙いは……)
「ここ、だっ!」
土煙が舞う中、レオは破壊魔法を付与した白夜を魔物目掛けて突き立てる。
ザクッ!
『ブモォォォォッ!』
(破壊魔法を付与した攻撃が弾かれずに効いた。ってことは!)
「アレク!」
「ふっ、よくやってくれた。ちゃんと避けろよ!」
そう言って三人より下がった位置で自身の出番を待っていたアレクが必勝の一撃を放つ。
「『絶対零度の雨』」
アレクが詠唱をし、両手を前に出すと当時に魔物の体全体を覆うほどの大きな魔法陣が魔物の頭上に展開される。すると、魔法陣から次々に氷の杭が生成され、雨のようにタコの魔物へと降り注いだ。
『ブモォォォォッ!』
フロア全体に響き渡るほどの魔物の断末魔。しかしその声も数秒後にはパタリと止まった。
「ふぅ、何とか上手くいったみたいやね」
「あぁ、見事なタコの氷像の完成や」
そう、それが突然魔物の断末魔が止んだ原因だ。二人の目線の先、タコの魔物はアレクの魔法により真っ白な氷の氷像へと姿を変えていた。
「はぁはぁ、っ!」
(まずい、一度に魔力を使いすぎたか……)
「っと、大丈夫か」
「レオか……一度の魔法で少し魔力を使いすぎただけだ。数分も休めば大丈夫だろう」
「そうか。なら後は俺たちに任せてアレクはアリシア達の方で休んでろよ。すぐ終わらせるから」
「あぁ、ただ凍らせてるだけであの氷がいつ溶けるかも分からないからな。後は任せた」
「おう、任された」
そうしてレオは、後方で待機している二人の元までアレクを送り届ける。
「アリシア、こいつのこと頼む」
「分かりました。とりあえず魔力ポーションを飲んで少し休んでいてください」
「嗚呼、分かった」
その様子を見届け、レオはアレクに任された最後の仕事をこなしに戻る。
(さてと、アレクの予想が外れて無ければ凍ってすぐの今なら体表だけでなく、体の奥まで凍ってるはずだ)
「尚且つ、魔法耐性も剥がれている今の状態なら剣でも切れる。サクラ!」
「はいはーい。ここにおるよぉ〜」
「ダメ元で聞くんだけど、さっきあいつに傷をつけた魔法ってもう一度出せるか?」
「そうやねぇ、悪いんやけどあれは発動までに時間がかかるから無理なんよ。でも凍ってる敵を切るんならうちの属性は相性悪いんやないかな?」
(確かに、あんまり火力が高すぎても氷が溶けるのを早くするだけかもしれないな)
「分かった。そしたらサクラはいつも通り攻撃してくれ。って言っても、サクラのできること全てを把握してるわけでも無いから、その辺の調整は頼む」
「ふふっ、了解。初の共同作業やね〜」
「共同作業ってさっきまでも一緒に戦ってただろ……」
「そうやけどぉ、さっきまでのは別々に攻撃してたし共同作業って感じしないやろ?」
「はぁ、分かった分かった。それでいいから無駄口は後にしてさっさと終わらせるぞ。アレクが言うにはあいつがいつまで凍っててくれるか分からないらしいからな」
「はーい。ほな行こか」
そう言うと、サクラは自身の刀を構え、俺も並んで剣を持ち直し、魔法を付与する。
「行くぞ」
「えぇ、いつでも」
そして、俺達は同時にタコの氷像との距離を詰めた。
「『次元斬り』」
「『陽光の太刀・陽炎』」
ス――――ッ
二人が詠唱をした次の瞬間、前方のタコの氷像は十時に切断されていた。そして……
ドドドッ!
四つに別れたタコの体は音を立てて崩れ落ちる。
「ふぅ、何とか勝てたな」
「一件落着やね」
そうして強敵との戦いは、レオ達の勝利で幕を閉じた。
最後の方、少し駆け足になってしまった……
そして、いよいよ次回から第6章迷宮攻略編最終決戦へ突入する……予定です。お楽しみに。
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「組織を追放され、絶望した重力魔道士。この世界で生きる気力を無くしたので二度目の人生に希望を託し転生します! 〜人の世界を救った英雄のはずなのに組織から裏切られた俺は、二度目の人生を幸せに生きたい〜」
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