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75話 悪戯



 オルハロネオさんには殺されない内に謝れたら良いのだけど…。ただ、彼はアルバくん殺害の容疑者第一候補だ。僕としては極力関わりたく無い。


『後は…キシリスク魔導王国って、もしかして公用語が使われてる国じゃないの?』


「嗚呼、【ルナー】か。彼の国ではキシリスク語が主流だ。【月】は最初公用語が上手く喋れなくてな。近年の上達ぶりは努力の結果だろう」


 ジュノさんは公国の件でフォローしてくれたし、怪しんでる訳じゃない。ただ、横目でチラッと見た彼の表情が頭にこびり付いて離れない。


「【ルナー】が気になるのか?」


『…気になるって言うか…そうだな』


 あの時のジュノさんは此方を、輝く目で見詰めていた。まるで憧れのヒーローに出会った子供みたいに澄んだ瞳が忘れられない。


「まぁ、咄嗟の言葉はまだキシリスク語が混ざるが、会議には支障ない範囲だ」


『…僕は…彼にも何かしちゃってたりする?』


「さぁ?俺には分からないな。【ルナー】に何か言われたのか?」


 そう言う訳じゃないんだけど。


「…、」


 するとイーダが人差し指を立て笑みを含んだ唇に当てる。黙った方が良いって事かな?


「そうかそうか、アルバは兄貴分の俺より【ルナー】の方が気になるのか〜。寂しいもんだ」


 ソファから立ち上がり、廊下の隅に寄る。僕は不思議そうに彼を見ながら、肘掛けに頬杖を突いた。イーダは何かを探す素振りで床を見回したりしている。


「俺の方が序列は上だし?お前の我儘も聞いてやれるぞ」


 ニィと意地悪く笑って戻って来たイーダの手には小さな黄金虫が摘まれていた。僕は首を傾げる。

 兄貴分は自身の耳を指差し、次に指先の虫をしゃくった。


 此処までされたら鈍い僕でも分かる。この虫を通して誰かが聞き耳を立てている。

 僕はオーケーサインをして脚をバタつかせる黄金虫を吟味した。


「そう思わないか、なぁ?アルバ…」


『あ?…どういう意味だ?』


 イーダが会話を続けているし、内容は頭に入って来ないけど取り敢えずアルバくんモードで口を動かしておこう。


「俺のモノにならないか?」


『……お前のモノになったとして、俺の利益は?』


 イーダの悪ふざけは留まる事を知らないなぁ。虫を摘んだまま楽しそうにしている。


「お前の為に全ての力を使っても構わない」


『ほぉ…それは』


 現実になれば魅力的な話だ。怒れるオルハロネオさんから守ってほしい、切実に。


『俺に断る理由はないな』


「…」


 イーダが身を乗り出して来る。不意に口を塞がれ、『んン…』と、くぐもった声が出た。大きな掌が僕の口元を覆っている。彼が身に付けている中指の指輪が唇に触れ体温を奪っていった。

 その上から兄貴分は自らの手の甲に口を付け、遠くから見たら僕と彼が如何わしい関係なのではと疑われる格好に目眩がする。


 バタバタと何者かが走り去る音がした。


 イーダは僕から離れると、黄金虫を小さな金色の針で貫く。貫通した針は瞬きをする間に空気中に溶けて消えた。絶命した虫をパチンと指を鳴らして焼却する。

 兄貴分はいつものニッコリとした笑顔を此方に向けた。


『…誰?』


「誰かまでは分からんが、少なくとも観客は2組だ」


 すると、ランドルフさんが此方に歩いて来る。


「申し訳ありません、イーダ坊ちゃん」


「いや、誰かが近付いて来るのは【探知】で分かったからな。何処の奴だった?」


「帝国の従者のようです。丁重にお断りをしたのですが、此方に来られない事に憤られておりました。坊ちゃんの悪ふざけを目の当たりにし、慌てて主人へ報告に行ったようです」


「アルバを監視していたのか…?偶然?【不滅】の命令…ふむ、だとしたら……」


 長い脚を組んで考え込むイーダは絵になる。


『黄金虫の方は…?』


「会議が始まれば分かるだろうさ。何たって【鮮血】に【琥珀】が尽くすんだぞ?魔大陸の未来は絶望的だ。聞いていたら絶対無視出来ない。何かしら行動を起こすだろう」


 (ん?またもやディスられてる?)イーダの遠慮の無い物言いにも慣れてきた。

 つまり、暴君の僕が核爆弾を抱える感じかな。確かに隣国からしたら大事件だし、放っておけないね。


「くく、楽しいなアルバ」


 悪知恵が働き、からかい好きな性格のイーダ。遊ばれるのは御免だし、絶対敵に回したく無い。


======


 会議室に戻ると中は騒がしかった。誰が騒ぎの中心に居るのかなんて、見なくても分かる。


「戻って来やがったなこのホモ野郎ッ!!」


 従者はやっぱり帝国の人だったみたいだ。オルハロネオさんの後ろに控える燕尾服の青年は僕と目が合うと顔色が悪くなった。


「なんだ【不滅】妬きもちか?俺達の仲間になりたいならそう言え」


 イーダはオルハロネオさんの剣幕にも動じずに実に良い笑顔だ。イキイキしてる。


「ふざっけんな【琥珀アンバー】ッ!!俺の従者が見たんだよ!態々人払いさせてやがってよォ!…テメーらが廊下でイチャついて!……あ、挙句には…っ、…ス、してんのをなァッ!!」


 改めて言葉にするのは恥ずかしい単語なのか大事な部分が聞こえない。口籠るオルハロネオさんは怒りでワナワナ震えている。(笑っちゃ悪いよな…)


魔王会議レユニオンの神聖な場所で何してやがるんだクソッタレがァッ!」


「おいおい、確かに会場に選ばれてはいるが、元々此処は俺の宮だ。それにパートナーは異性じゃなきゃいけないなんて古い考えだしな。それとも?お前は自分の価値観を俺に、押し付ける権利があると思ってるのか?」


 イーダがこれ見よがしに反論する。序列優勢の絶対的自信が滲み出てる。良い性格してるよ。


「…ッ、この機に乗じて隠れてそう言う事してんのが問題なんだッ!!公平さも損なわれる…会議にも支障が出るだろうがッ!!」


 オルハロネオさんって真面目なのか馬鹿なのか、馬鹿なのか分からない。(意外に純粋?)


 周囲に居た魔王が拍子抜けしてゾロゾロと席に着く。時間が来たみたいだな。


「さっさと座れオルハロネオ」


 リリィお婆さんは溜め息混じりに彼を促した。


「いや、コイツか【鮮血】が序列から降りるまではぜってェ座らねェぞッ!!」


「【不滅】の旦那ぁ、遊ばれてんだよ【琥珀】の旦那にぃ」


 端から聞いていたイヴリースさんが呆れた様子で声を掛ける。


「な、…!?おい…ッ?お前ら…」


「何カト思エバイツモノ戯レ。イイ加減気付ケ【不滅】。時間ガ惜シイ、会議ヲ再開スルゾ」


 フェラーリオさんにまで急かされ、オルハロネオさんは現状を理解するや否や僕達へ向けて罵詈雑言を垂れ流した。


「この金髪野郎がッ!!クソッタレ!腹黒!」


「お前の反応がイチイチ大袈裟で面白いのが悪いんだ。悪戯にも直ぐ引っ掛かるしな。良い加減賢くなったらどうだ【不滅】」


「んなッ!?この野郎…覚えてやがれ…!」


「お前で遊んだ事なんて、態々覚えていられるか」


 ピクピクと血管が痙攣するオルハロネオさんを、心底小馬鹿にした様子で軽く遇らう。


 クツクツ笑うイーダにいきなり引き寄せられ肩を組まれた。


「俺達の仲の良さに嫉妬するのは良い。だが次はちゃんと腕の立つ者に偵察させるんだな」


 仲良しアピールをして、黄金虫の方を炙り出す作戦かな。

 虫を通して声を聞いていたなら、帝国の従者と違って僕とイーダの会話が聞こえていた筈だ。

 

 オルハロネオさんへの悪戯とは違い、イーダが僕に全面協力する宣言は悪ふざけと一蹴出来るものじゃない。黄金虫の相手へ向けた隠れたメッセージ。先の言葉は冗談ではないとプレッシャーを与えている。

 此処で仲良しアピールしておけば、廊下でのやり取りに信憑性が増す。


『…イーダ、さっさと会議を始めるぞ』


「はは、アルバが言うなら仕方ない」


 取り敢えず彼を愛称で呼んでおく。ごく限られた者にしか呼ばせていないって言ってたし、僕と彼が親密な仲だと思わせるには充分だと思う。


 フと、沈黙を貫くジュノさんが視界に入る。彼は僕、と言うより横のイーダを瞋恚の目で見ていた。(なんか怒ってる?)


「…… Cazzoカッツォ(くそ)、【琥珀アンバー】さっさと進行しろ」


 何が何やら分からない。もしかして黄金虫の主人は彼で、僕達を警戒してる…?


 暴れるオルハロネオさんをフェラーリオさんが羽交い締めにして椅子へ縛り付け、無理矢理着席させる。全員が席に座ったところで会議が再開された。




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― 新着の感想 ―
[一言] 魔王会議編、今までで一番好きかもしれません(^ー^) オルハロネオさんも結構好きです。 久しぶりに前のアルバ君が見れて嬉しいです(^^) ジュノの反応についても気になるとこです!
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