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63話 鉱石



 この辺りは大昔に開拓したが、古代遺跡と繋がり魔物が大量に出て封鎖された採掘場所らしい。

 スケルトンやゾンビ、レイス、食屍鬼グール、聞いただけで蒼白になるアンデッド達。僕にとってはおっかない魔物だけど、彼女達にとってはそうでもないみたいだ。現にスケルトンの他にもゾンビや食屍鬼に遭遇したけど、戦闘に慣れた彼女達によって華麗に討伐されていった。


 古いトロッコがレールに残されている、開けた採掘場に出る。赤色の鉄筋が見えるが、恐らくエレベーターみたいな機能があったっぽい。もう錆だらけで使えないだろうけど、あれに乗れたら目的地に早く行けたりしないかな?


 地下の採掘場の更に奥、此処は人の出入りが少ないせいか豊富に鉱石が散見している。


『ジェニー、此処の鉱石は取っても大丈夫かい?』


「嗚呼、自由に持って行け。ワタシも良い物が有れば採取するぞ」


 心が躍る思いで岩肌の鉱物を吟味した。岩の間から覗く燃える様な赤色い石、足元に発現してる緑く輝くクリスタル、妖精の粉の様な光を放つ青い原石。


 その中でも目に止まったのは歪な形の鉱物だった。


「シロ?あの鉱石が欲しいの?」


『ん?うん…少し気になるかなって』


 天井で可笑しな光を内包するソレは、雷を宿した様な輝きを内包した鉱原。


『届かないし、違うのをーー…』


バギィッ!


 へらへら笑って見せた僕の頭上で、凄まじい音がした。遅れて僕の足元に先程の鉱石が転がってくる。

 レティが華麗に着地して、此方に明るい笑顔を向けた。


『あ、有り難うレティ』


「良いのよ」


 多分、剣を鞘に入れたまま鉄筋に脚を掛けて、跳躍して殴打したのだ。逞しい彼女の活躍に、驚嘆しつつ畏怖する。つまりあれだ、こんな硬い鉱石をボッキリ折れるなら人間の首だって…。背筋が冷たくなる。僕は自らの首を抑えた。

 レティが取ってくれた鉱石を拾ったところで、僕の周辺に魔法陣が展開される。


「っ!?」


「し、シロさん何を…!?」


『僕じゃないよ…!』


「古代魔法陣…ットラップだ!」


 全員の足元に広がる程に大きい、光り輝く魔法陣が僕達を下から照らした。ジェニーには描かれた魔法陣の文字が読み取れるのか、地面の記述式呪文に注目している。

 そう言えば、この世界に来た時のイザベラさんの魔法陣もこんな感じだったなぁ。


『きっと転移の魔法陣だ!気を付けて!』


 ジェニーが此方を信じられない、と言った顔で凝視する。(え?)僕、何か変な事言ったかな。


 こんな事になるなら、皆には言っておけば良かった。僕が昔から頗る運が悪い事を。

 僕が小さい頃欲しがった玩具は商品回収になるし、菓子パンを買えば密封されているにも関わらず一つ少なかったり、惣菜には金属片が入っていたりと、僕は数ある選択肢の中で“当たり”を引きやすい。


 魔法陣が一際輝き、全てを飲み込んだ。














































『ん…、』


 気付けば地面にうつ伏せになっていた。頭の中が鈍く痛む。僕はゆっくり起き上がり、辺りを見回す。魔法陣の範囲に入っていた全員、違う場所に転移させられたっぽい。

 近くに倒れていたジェニーへ身を寄せた。


『ジェニー、ジェニー』


 背中に手を当てて、揺り起こす。


「ッ、」


 形の良い眉が顰められ、ゆっくり瞼が開いた。


『良かった。怪我はないかい?』


「…嗚呼、大丈夫だ」


『じゃぁ、レティを頼むよ。僕はアナを』


「了解した」


 僕は近くに居た壁に背を預けるアナの肩を軽く叩く。


『アナ、』


「ぅ…シロさん…?、此処は…」


 気が付いたアナは状況を確かめる為に周囲を見た。そこは石造りのタイルが敷き詰められた洞窟の様な場所だ。明かりは一切無い為、ジェニーの鉱石の明かりだけが頼り。


 レティも目覚めたのか、声が聞こえて来る。


『皆ごめんね、』


 申し訳なさで居た堪れなくて謝罪が口を突いて出て来た。(僕が変な鉱石を欲しがったばっかりに)


「いや、シロ。寧ろ良くやった」


『うん?』


「此処はワタシの目的地に程近いと思われる」


 沈んだ表情の僕とは対照的に、ジェニーは思わぬ時間短縮に口元が緩んでいた。マフラーの手に握られた鉱石が暗闇の道を照らし出す。彼女は石壁に刻まれた古代の文字を興味深そうに指でなぞっていた。


「ねぇ、あれ…」


 レティが奥を見つめて一点を指差す。真っ暗で僕には何も見えないなぁ。

 一早く何かに気付いたアナが動き出した。弾けた様に走り出し、暗闇へ飲まれる。訳も分からないまま追い掛けると、そこには4人の男達が居た。


「うぅ…」


 見た所冒険者で、最初に駆け寄ったアナに【治癒】を掛けて貰っている。大分疲弊していて、魔物にでもやられたのか鎧が凹み、火傷や出血がある。全員疲労困憊で壁へ凭れて脂汗を流していた。


「まさか、ジェニーが最初に依頼した冒険者かしら?」


「生きて、いたのか…!」


「傷が深いです!【癒しの波動】を使用します」


 治癒の高位、範囲魔法だ。瞬く間に白い魔法陣が辺りを包み、温かな光が僕にも降り掛かる。


「はぁ、はぁ…」


「アナ、無理しないで」


 魔力の枯渇が近いのか、アナの顔色が悪い。散々アンデッドと闘って魔力を消費していたから無理もない。レティが背中を摩っている。

 アナとは反対に、冒険者達は傷が癒えて会話が出来る状態に回復した。ジェニーが置いた鉱石を中心にして、皆思い思いの場所で話を聞く。


「あんたら…俺達を助けに来てくれたのか?」


「君達はギルドで消息不明扱いになっている。ワタシ達は君達が出来なかったクエストの遂行に来た」


「や、止めといた方が良い…!向こうにはヤツが…!」


『ヤツ?』


 恐怖に震える冒険者達は言葉を詰まらせ首を上下に振る。


「化け物だ…ッ!向こうの遺跡に化け物が居るんだ!」


「A級の俺達が手も足も出ない魔物だ!」


 取り乱す冒険者達は目に涙が浮かんでいた。心を完膚なきまでにへし折られている。僕はゴクリと唾を飲んだ。


「くそ、くそぉ…っ」


「混血が出す様なクエストなんざ、受けなきゃ良かったぜ!」


「…、 …」


 彼らの吐く言葉にジェニーの表情が曇った様に見えた。彼女が数歩後ろに下がって暗がりに行ってしまう。


『…混血だったら何かダメなの?』


 怪訝そうな僕の質問に、冒険者は目を丸くする。


「当たり前だ…混血だぞ?奴らは災を招く!」


「穢れた輩だ…皆表立って言わないだけで、心の中では疎んでるさ」


『ふぅん…』


 心底どうでも良さそうにそれだけ言った僕は彼らを通り過ぎて、離れてしまったジェニーを追い掛けた。


 真っ暗な石畳みの洞窟を、彼女の足音を頼りに進む。すると進んだ先に、不思議な光が漏れるだだっ広い空間があった。天井も高く、まるで吹き抜けだ。一見すれば外に出た様な錯覚を覚える。

 地面には見た事の無い花が一面に咲いていて、一つ一つが青白く光っていた。花から分泌される花粉の様な、胞子の様な粉状の何かが青く輝き空気中に漂っている。


 花畑の中心に古代遺跡の神殿の様な建物があった。その手前にジェニーの後ろ姿を見付ける。彼女はバツが悪そうに此方を振り向いた。


「……悪かった。シロは混血についてあまり馴染みが無い様だったし、災を招くなど聞いたら…もう店に来なくなると思ってな」


 無理して笑っている。短い付き合いだがそれ位は分かる。


『…ジェニーが魔族嫌いなの、少し分かった気がするよ』


 僕が世間知らずだった。


『よく頑張ったね』


 小柄なジェニーの頭を撫でる。きっと彼女は、僕が想像も出来ない程の辛い体験をして来た筈だ。


『僕の前では無理して笑わなくて良いよ』


「……ッ、」


『今まで、辛かったね』


 ラズベリー色の瞳に涙が滲む。それは堪え切れずに彼女の頬を伝った。


「…、 つら、かった……。寂しかったんだ…」


『うん』


 焦点の合わない目で訴える。堰を切った様に、言葉が溢れてきた。


「ワタシは、ずっと…独りだった……、それがどうしようもなく、  ッ、…そうだ。… だから、ありもしない事を空想して、ひたすら物を作っていたんだ。…っ、ひく… 、誰にも必要とされない自分に嫌気が差していた!」


『…僕にはジェニーが必要だよ』


 嗚咽を噛み殺そうとする彼女の頭を優しく撫でながら、正直に答える。それを聞いたジェニーは僕のローブに顔を埋め、子供の様に泣きじゃくった。握られた拳が僕の胸を叩く。


「 、…ひっく…何も知らない癖に…ッ!お前は魔力だって……ッ、 …ワタシの気持ちなんて分からない癖にッ!う、あぁ…」


『よしよし』


 次第に拳は力を無くしていき、叩かれても全く痛くない。ジェニーの背中に手を回し、泣き崩れる彼女と一緒に膝を突いた。

 周りに咲き乱れる花は、幻想的な光で僕達を照らす。僕にはこの花達が、彼女を慰めている様に感じた。



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