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39話 魔道具



 僕はその日、城の物置部屋の整理をすると言うエリザに無理を言って皆には内緒で片付けに勤しんでいた。なかなか入らない場所だから、見るものが新鮮で度々手が止まる。

 魔導師が使う杖や、騎士が扱う剣、服を作る際の生地、使わない絨毯、よく分からない置物や、未使用のスクロールの束。様々な物が埃を被っていた。


『へぇ、これ何に使うの?』


「それは加工して、明かりとして使用します」


 この世界は魔石とか鉱石、魔法の力で独特な発展を遂げている。文明としては中世ヨーロッパ並かと思われたが、魔法によって近未来まで卓越している所もあった。

 日用に便利な電化製品等は無いが、それを補う為に魔法が先進している。その違いを見つけるのは楽しいし、退屈しない。


 (僕にも魔法が使えたらなぁ)シャルの高位魔法を見てから、日に日に強くなる魔法に対する憧れ。

 魔力が皆無で諦め掛けていたが、せっかく異世界に来たのだ。初級でも良いから魔法に触れてみたい。


 シャルに相談しようとしたら「お兄様は殆どの高位魔法を使いこなしていらっしゃいますし、私がお教え出来る事なんて…」と眩しい笑顔で言われた。


 最近皆が僕を過大評価し過ぎている気がする。もう僕が無能だと薄々気付いていても可笑しく無いのに、皆口を揃えて流石、とかやっぱりアルバ様は、とか絶賛してくれるのだ。

 僕が強いと信じて疑わない彼らに、僕は弱いよ、と正直に言ってもご謙遜を、で済まされてしまう。次第に僕も言い辛くなって来ていた。


 このままではいつか、最悪の事態になる。


 例えば頭上から植木鉢が落ちて来た時など、僕は当然気付く事も避ける事も反応すら出来ない。そこに五天王の誰かが居合わせたとしても、「アルバ様なら避けると思ってました」「出しゃばるのは失礼かと思いました」との理由で植木鉢が見過ごされる可能性が十分にある。


 結果、僕は間違い無く死ぬ。(このままでは、不味い)


 僕が守って貰えないと直ぐに死んでしまうか弱い存在だと知って貰うのが先か、植木鉢が落ちるのが先かだ。


 溜め息を吐いたそんな時、細かく文字が入った木箱が目に止まる。蓋を開けてみると、中には3つの指輪が入っていた。興味本位で右手の人差し指、中指、薬指に着けて、天井の明かりに翳してみる。

 デザインは一緒だが其々青色の石、緑色の石、赤色の石で嵌め込まれた石の色が違う。


『ねぇ、エリザこれってーー…』


「、え?ッ、きゃ…」


 僕が不用意に話し掛けたせいで、エリザが梯子の上でバランスを崩した。


 気付いたら僕は駆け出していて、落下する彼女の方へ手を伸ばす。(ッ間に合わない)エリザの様子を見ずに不意に話し掛けてしまった己の行動が悔やまれる。


 すると目前で突風が吹き、それに煽られた彼女が僕の方へ落ちて来た。


『あれ?』


「きゃああ!」


 僕は落ちて来た彼女を受け止めきれず、後方に尻餅を付き、頭と背中を棚にぶつけた。(いったたた…)


 棚へ寄り掛かる情け無い格好になったが、エリザに怪我は無さそうだし良しとしよう。


『ごめんよ、エリザ。僕が話し掛けたから』


「そんな事ありません…!私が悪いです」


 僕の脚の間で彼女は申し訳無さそうに俯いてしまった。下を向いた彼女は僕の胸に手を突いてしまった事に気付いて、慌てて退き顔を真っ赤にしている。


 僕は立ち上がって、エリザに手を貸した。


『怪我は無いかい?』


「はい!王陛下が魔法を使い、更に受け止めて下さったので」


『うん?』


 嬉しそうに話す彼女の言葉に、僕は首を傾げた。
























































 エリザが僕が魔法を使ったと勘違いしたのは、明らかにこの指輪のせいだった。

 指輪の内側には細かな文字が書かれていて、僕には解読も不可能だ。


 廊下でユーリに会ったので指輪に関して聞いてみると、なんでもこれは人間が作った物らしい。彼らが作った物ならばと、僕は王都の西側、今では西街ウェストタウンと呼ばれる人間が多く住む街へ出掛けた。


 最初、此処に住む人間の多くが街の名前に僕の名前を付けようとしたので、全力で拒否して今の名前で呼ばれる様になった。


 リリスには内緒で、馬車を1台出して貰う。


 僕は西街に到着するまで窓から王都の様子を見ていた。人間を国に迎え入れた当初より、王都でも彼らを多く見るようになった。

 元々いた魔族達の中に溶け込んでいて、注目されたり悪絡みされたりしている様子も無い。人間達の中にも王都で商売を始めた人も居るみたいだし、住み易いと感じてくれてるなら良かった。

 魔族の人達も西街にはよく行ってると話を聞くし、何よりだ。今ではモンブロワ公国の人だけじゃなく、ブルクハルトへ移住を希望する他国の人も多く居ると聞く。


 それは西街を造る際に念願の冒険者ギルドをブルクハルトの商業区画に建設して貰ったのも大きい。


 リリスが冒険者組合に巻物を転送すると、直ぐに了承して貰えたらしく、あと国内に5カ所建設予定の街がある。お陰で身分証を提示すれば冒険者は自由に行き来出来る様になり、商いが更に盛んに行われているのだ。

 彼らの持ち込む情報や武器、防具、資源など其々を買い取る店も増えたし、逆にブルクハルトの物を彼らは買ってくれる。

 街の物は高品質らしく売れ行きは良い。沢山の冒険者が利用する酒場も増え、彼らをターゲットにする商人も少なくない。


 僕が外を眺めているとあっと言う間に目的地に到着した。馬車を降りて、如何しても付いて行くと言った近衛を1人引き連れて屋敷の門へ進む。


『イシュベルトは居るかい?』


「お、王陛下!?」


 僕に気付いた門番が直ぐ様門を開けてくれた。何度も此処に来ているせいで、門番の人は僕の顔を覚えてくれてる様だ。


『いきなりごめんね』


「ははは、いつも王陛下はいきなりいらっしゃるじゃないですか」


『…そうだっけ?』


 お喋りをしながら庭を通り、質素であり上品な邸宅の扉が開かれる。


「イシュベルト様!王陛下がお越しです!」


 門番が大きな声で告げると2階の廊下から急いだ革靴の音が近付いてきた。


「アルバラード様!仰って頂ければ私が城へ伺いますのに…」


『やぁ、イシュベルト。僕が用事があるのだから、気にしないで』


 今日も凛々しい彼が出迎えてくれる。ポマードで撫で付けた髪に、ブルクハルトで作られた服に身を包んでいた。


「アルバラード様がいらしたの?」


「アルバラード様!」


 イシュベルトに続いて2人の女の子が姿を見せる。『やぁ、2人とも。元気そうだね』と挨拶するとニコニコと階段を降りて僕の手を其々引いた。


 彼女達はイシュベルト最愛の双子の姉妹だ。本当にそっくりだけど、僕は2人の名前を違えた事がない。

 何度シャッフルしても、色違いのリボンを取り替えたとしてもだ。それがジュリエーナとマリアーナが僕を気に入ってくれた理由の一つだった。(耳の形が違うんだよなぁ)


「こらこら、お前達…!」


 ぐいぐいと手を引く彼女達を落ち着かせようとしているが、双子ちゃん達は聞いてない。


「此方に来てアルバラード様!」


「一緒にお菓子を食べましょう!」


「ジュリエーナ、マリアーナ」


 奥から女性が出て来て名前を呼ばれると、2人はピタリと動きを止める。


「王陛下、お久し振りで御座います。そして2人のご無礼をお詫び致します」


 イシュベルトの奥さん、パトリシア・マイン夫人だ。大人の美しさを持つ彼女は淑女らしく優雅に一礼して、此方へ歩いて来た。

 イシュベルトの横に並ぶと「貴方も、しっかり2人を止めて下さらないと」と主人を軽く注意する。薄々気付いてはいたけど、イシュベルトは完全に尻に敷かれていた。


「ジュリエーナ、マリアーナ、王陛下はお父様に御用があっていらっしゃったのです。邪魔をしないように、お部屋に居て下さい」


 2人を促すと「「えーー」」と全く同じ事を発する。流石双子だね。頬を膨らませていたが、「また来てねアルバラード様!」「今度はお茶をご一緒しましょうね!」と笑い声と共にパタパタと走って行く。

 その後へ丁寧なお辞儀をした夫人が続いた。


「アルバラード様、申し訳ありません…」


 イシュベルトが頭を下げて来たので『元気だね。今度は2人とお茶しに来ても良いかな?』とクスクス笑う。


「勿論です!2人とも飛び上がって喜びます」


『今回なんだけど、ちょっと教えて欲しい事があってさ』


 何かを察した彼が「では、場所を移しましょう」といつも話をする応接室へ案内してくれた。


 黒革のソファへ座るとイシュベルトが、僕が好きなルトワの紅茶を淹れてくれる。紅茶で唇を湿らした後、向かいに座った彼に指輪を3つ見せた。


『これ、人間が作った物らしいんだけど…』


「ほぉ…見た所、魔道具アーティファクトの様ですね」


 指輪を一目見ただけで答えが飛んでくる。


『魔道具?』


「はい、魔大陸ではあまり馴染みのない物かもしれませんが、魔力が少ない人間でも魔法が使える様になるアイテムです。魔石や鉱石の魔力を借りて、記述式詠唱呪文を回路に魔法を使います」


『つまり、魔力が無い人でも魔法を使える様になるって事?』


「左様で御座います」


 僕は手を震わせた。これは、僕が探し求めていた僕を救済するアイテムなんじゃ!?


 魔族は比較的、生まれ持つ魔力が高い為に魔大陸ではこう言った魔道具は作られないのだそうだ。作るより、自分で習得した方が時間短縮になるし強くなれるし、安上がり。魔道具を態々購入する事にメリットを感じる者が少ない為、こう言った物は流通しなかったらしい。


「恐らく形状と魔石の色から火属性魔法と、水属性魔法が込められている様ですね」


『あれ?緑だった石が…』


 緑色だった石が灰色に変わり、輝きを失っていた。


「魔道具の殆どは消耗品で、効力が切れてしまうと魔石や鉱石の美しさを失います。稀に魔力を補填すると永遠に使用来る魔道具もあると聞いた事がありますが、大変珍しく高価です」


『なるほど…』


 魔道具について大体理解出来た僕は、無限の可能性を秘めた指輪を指で撫でる。


「そう言えば西街に、珍しく魔族の方が営んでる魔道具屋がありましたが、ご覧になられましたか?」





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