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118話 帰還



 アルバが目を覚ますとレティジール達がニコを取り囲んでいた。

 何事かと欠伸を漏らしつつ近付き、『どしたの?』と尋ねる。


「嬢ちゃん!俺達のパーティーに入ってくれ!丁度1人足りなくて困っちまってたんだよッ!」


「その素早さなら盗賊シーフ役も出来る筈です!嗚呼、治癒が使えるのであれば聖職者役でも…僕が交代しますので!」


 よく分からない勧誘を受けていた。

 ニコは相変わらず感情の読めない表情をしていて、起きてきたアルバのローブを掴む。


『おはようニコ。何してるの?』


「おい、その子の給料は幾ら払ってるんだ?」


 突然ニコの給与を聞かれてもアルバは知らない。だがゼレスは真剣そのもので、青年は気圧されつつ答えた。


『それは…ペトラさんに聞いてみないと…』


「何も知らないんだな…。今の2倍出すから俺達と来ないか?」


 パーティーの加入を誘われている。

 確かにニコはマスコット的な役目は申し分ない。だが冒険者としてはどうだろう。彼女はまだ幼いメイドだ。危険過ぎやしないか。

 

「坊や、その子を私達に売って頂戴!」


『ニコはモノじゃないから…』


 皆の剣幕は相当なものだ。アルバは困った顔で両手を振る。


『勿論彼女の意見を尊重するよ。勇者のパーティーに勧誘されるなんてなかなかない名誉な事だし…』


 彼女の幸せを思えば、王城で働いているよりも英雄の仲間として名を馳せた方が良いのではないかと擡げる。

 頭では分かっていても、ついつい声が尻窄みになった。


「そ、そうだぜ!このパーティーに入れるなんて誰もが羨む栄誉だ」


「もう一度よく考えて下さいニコさん!もう主人にこき使われる事もないんですよ?シロさんもこう言ってる事ですし、チャンスでは?」


 ニコは【白百合】の面々をジッと見詰めた後、アルバを見上げる。紺色の瞳眸と目が合うと、彼は弱々しく笑ってみせた。


『僕個人的にはニコが居なくなっちゃうのは寂しいなぁ。冒険者って荒事に巻き込まれるかもしれないし…心配だよ』


 身を屈めたアルバの手がニコの髪を梳く。


「……何度言われても同じ。一緒には行かない。シロの側に居る」


 固い忠誠心の現れか、レティジール達に向けられたその声は泰然としていた。飾りっけも社交辞令もない語句は揺るがない意思を感じさせる。


『本当?有り難う、嬉しいよ!』


 喜んだアルバは満面の笑みでニコを抱き上げた。


「…チッ、くそ。戦闘メイドなんて簡単に手放さねーか…」

「ブルクハルトに着いたらまた聞いてみよう」

「そうですよ。気が変わるかもしれません」

「彼が居ない時が良いわ。私が本心を聞いてみる」


 コソコソと内輪で会話が行われる。


 その横を青年は上機嫌で通り過ぎた。

 ニコと一緒に川で顔を洗う。水が冷たくて一気に目が覚めた。

 すると荷馬車の近くに見慣れない集団がおり、興味を惹かれた。


 見るからに荒くれ者の風貌をした強面の男達が、縄で縛られている。

 気絶している者も居れば、腕や脚が折れているのか添木をしている者もいた。


『僕が寝てる間に何かあったのかな』


 きっと闇に紛れて襲って来た野盗だろう。雇い兵に加え勇者パーティーが居る荷馬車を狙うなど自分並みにツイてない。

 どうやらレティジール達の活躍でお縄についたようだ。


 数人の野盗がニコを見て体をビクつかせるが、青年は全く気づかなかった。


◆◇◆◇◆◇


 峠を越えるとブルクハルトの街が見えて来た。

 王城を視界に捉えてアルバは心底安堵する。


 広大な都市にレティジール達は開いた口が塞がらなかった。街の中央に聳え立つ大きな城は魔王の居住地に違いない。遠くからでも王城が所有する土地の広さは一目瞭然だった。

 気付けば土の街道が石畳に変わり綺麗に舗装されている。


「これがブルクハルト…」


「大きい…のね…。聞いてた話と全然違うわ」


 一同は圧巻の景色に舌を巻く。

 魔王が支配するおどろおどろしい街を想像していた彼らにとって衝撃的だった。

 自然と調和する美しい都だ。


 更に近付くと街と土地を分ける大きな壁に当たった。左右を見ても何処までも続いており、王都の広さが分かる。


『入るには簡単な審査が必要なんだ』


 眠ったニコを抱えたアルバが短く説明した。昨夜あまり寝れなかったのか少女は昼を過ぎた辺りから、うとうとと船を漕ぎ始めた。

 懸命に寝まいと目を擦る彼女に、彼は眠ってて良いよと微笑んだのだった。


 街道が続く先に門がある。人々が列をなして順番待ちをしていた。

 カーベルのような商人や冒険者も出入りしているようだ。

 アルバがフードを被った。

 

「荷馬車の中身の確認もされんのか?おいおい…んなに待てねーぞ面倒くせぇ。オイ小僧」


『何?』


「荷物待て。俺達は先に通させて貰うぜ旦那」


「勿論構いません」


 レティジールは荷馬車から鞄を取り、アルバに渡した。

 彼も当然のように背にからい、もう一方の鞄を肩から下げる。ニコを抱え直して審査を待つ列に混じった。


 地竜に乗った竜騎士が数名見回りから帰ってくる。去り際彼らは青年の姿を見つけて目を剥き生唾を飲んだ。

 そして列の前方、門の方へ消えて行く。暫くすると門番を担当していた竜騎士の1人が一行に近付いて来た。


「失礼致します」


「あ?何だ?」


 順番を待たされ気が立ったレティジールが対応する。それに国の竜騎士は魔王の手先だ。剣聖が舐められる訳にはいかない。

 竜騎士は動じた様子もなく微笑み、胸に手を当てて敬礼を行う。それはレティジール達へ向けたものではなく、偉大な主君へ向けられたものだ。


「最優先でお通しするよう通達が来ております。どうぞ、此方へ」


 密かに構えていた勇者パーティーは、強張った身体の力を抜く。


「……どういう事でしょう?」


「知るか…。だが、悪い気はしねぇ」


 アンドリューとレティジールが密談しながら、竜騎士の後ろを歩き始めた。


「魔王は俺を怖がってんじゃねーか?あまりにも偉大でよ」


 嘲笑を含んだ笑みを浮かべたレティジールは「魔王も大した事ねぇな」と続けた。


「ブルクハルトのスクォンクですよ?殺戮を繰り返して赤い眼の悪魔と恐れられる程の魔王です。いくら剣聖と言っても…」


「でも他に理由があるか?」


 アンドリューは考え込む。

 魔王が自分達を王都に快く迎える理由はない。


「恐れてると言うより勇者一行を歓迎したいんじゃないか?」


「剣聖と仲良くしたいって事?」


 ゼレスとニナが声を潜める。

 その更に後ろで、フードを被ったアルバが数日ぶりの王都に胸を膨らませていた。

 彼に向かって竜騎士が跪こうとして、周囲を気にした青年は焦って止める。代わりに最敬礼のお辞儀を行った竜騎士達は、彼が留守にしていた間の報告を行った。


「だとしたらそれらしく振る舞うぞ。俺達はあのS級冒険者【白百合】なんだからな!」


 ランフォード家と言えば、ユニオール大陸では知らぬ者がいない程に有名だ。英雄譚にも絵本にも出てくる伝説を紡いできた家系である。

 魔王は、それを名乗るレティジールを貴賓として扱い友好な関係を築きたいのだと匂う。


 そう思えば魔王の情報網など大した事はない。レティジールは勇者を名乗っているが、実際の実力はB級冒険者並みだ。彼を本当の勇者だと思っていなければ、魔王が此方をもてなす利益がない。


「偽物だとバレたら殺されるんじゃないか?」


「縁起でもない事言わないでよ。でも坊やを送り届けてたんまり報酬を貰ったらそのままローズ商会に行って、その後直ぐにアンジェリカにでも転移した方が良いと思うわ」


「ファーゼストに本物が向かったってリーダーが言ってましたもんね。今後の拠点をどうするか考えておかないと…」


 青年と少女を厩に追いやってから、その件について話し合っていた。

 本物がファーゼストに向かうという情報をいち早く掴む事が出来たのは僥倖だった。本物の剣聖が現れた以上、ファーゼストの街への出入りは今後控えるべきだ。


 竜騎士に続き審査もされず素通りする。


 アルバの連れという事でカーベルの荷馬車も審査を免除された。

 青年が事情を話したのか、昨晩捕らえた野盗を竜騎士が引き取ってくれる。


 審査を免除されるなど、初めての事にローズ商会会長は驚いた。余程信頼されていないとなせる技じゃない。

 最後尾で見ていたから分かったが、白髪の青年に対する竜騎士の態度が明らかにおかしかった。


 最初カーベルは通常通り列で審査を待とうと思っていた。しかし、青年が竜騎士に何事か囁いた途端、彼らの対応が一変したのだ。


「シロ様、その…」


『ん?』


「有り難う御座います。竜騎士の方に何か言って頂いたみたいで…こんなに早く王都内へ入れるなんて初めてです」


『ううん。カーベルさんにはお世話になったからね』


 カーベルは確信する。レティジールの肩書きの影響ではない。この青年の持つ権力だ。


 門を潜り抜けたら美しい街並が飛び込んでくる。道路沿いに赤い屋根で統一された建物が並んでおり、その一つ一つが芸術品のように洗練されていた。

 歩道と車道が分かれ、広い道路には馬車や地竜が闊歩している。


「此処…、あのブルクハルトよね?」


「…嗚呼。頭蓋と塵山の街だって言ってた奴は何処の何奴だ」


 前情報のいい加減さにゼレスは吐き捨てた。

 立ち竦む【白百合】一行から少し離れた所で、カーベルはアルバに小声で話し掛ける。


「あの、…まさかとは思いますが…王陛下でいらっしゃいますか?」


『!、…どして?』


「竜騎士の方々の反応と対応です。彼らは普通の貴族に膝を突こうとしたりなどしませんから…」


『……よく分かったね』


「竜騎士が忠誠を尽くすのは王陛下のみですし、王陛下以外に指示を出せるのは騎士長と幹部の方かと記憶しておりますので」


 カーベルは困ったように微笑んだ。

 五天王と統括の顔は見た事がある。四騎士は大迷宮に派遣されており、こんな所にいる筈がない。

 残る選択肢は1番有り得ないと思ったが、智謀に長けた魔王アルバラード王陛下であれば、自らのイメージと真逆の人物になりすますなど訳ない。


「ご事情がおありでしょうから、身分を隠されてる事に関しては何も触れません。お会い出来て大変光栄で御座います王陛下」


 彼は跪こうとしたが、先程の竜騎士達を思い出して低いお辞儀をするだけに留めた。

 そして「嗚呼何と恐れ多い、私は王陛下に命を救って頂いたのですね…!」と感動に打ち震える。


「娘に良い土産話が出来ました」


『娘さんが居るの?』


「はい、大事な一人娘です。今回の旅は良い刺激となりました。今後の商品開発や事業拡大に大いに役立てたいと思います」


 頬を掻いたアルバは逞しい限りだと頷いた。

 カーベルは無礼を承知で青年を観察する。

 文献や噂などではなく初めて実物の彼を見たが、聞くほど悪い人物でも気性が荒いわけでもない。どちらかと言うと温厚で礼儀正しい人物だ。


「何してやがんだ!行くぞ小僧!」


『あ、行かないと…』


 レティジールが遠くで目尻を吊り上げている。


「よ、宜しければ後日お城へ行かせて頂いても宜しいでしょうか?王陛下の仰った娯楽には私も大変興味があります!麻雀なるゲームもきっと広く国民に受け入れられると思います」


 商売人の血が騒ぐ。

 この機を流せば次は無いかもしれない。半ば強引だが命を救ってくれた恩を返さなくては。ブルクハルトの繁栄と発展に役立つ最高の形で。


『来てくれるの?カーベルさんさえ良ければ僕は全然構わないよ』


「有り難う御座います!」


 城へ行く事を許可して下さった。期待されていると思って良いのだろうか。

 カーベルは引き締まる思いで皆を見送った。



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