勇者です。ティンクルベアのレーザー光線が避けられません
ティンクルベア討伐クエスト。
俺たちにピッタリだと思っていたのだが……。
「ハヤト君。おかえりなさい」
「マリー、そうか……俺はロスったのか」
にっこりとほほ笑むマリーの顔を見て俺は本日数回目のロスを悟った。
身体が痛い。
何度経験してもロスはつらい。
モンスターからの攻撃は痛いし、防御力に極振りしたいくらいだ。
「あれ、そういえばラピスは?」
俺が復活するたび文句をぶーたれる駄精霊の姿が見えない。
「はい、ラピスさんもハヤト君と仲良くロスしたようです」
あーなるほど。
珍しく全滅したわけか俺たち。
いつもラピスは俺を楯にして逃げるはずなんだが今回はそうはいかなかったようだ。
「おにーさんたち感謝してーな。帰ってこんへんからロスったと思うて復活したんやで」
「うう……お腹が痛いわ」
リーシャがラピスを連れてやってきた。
そうか、俺たちが帰ってこないからリーシャが復活依頼してくれたのか。
ありがたい。
「それにしても今日はいつにもまして多いですね。なにかあったんですか?」
「ん、ああ。昨日まではスライムの洞窟に行ってたんだけど、今日はクエストに行ってて……それで」
「あのモンスターにやられたのよ」
ラピスがガクブル震えながら伝える。
そう、アイツ……ティンクルベアは思った以上に強敵だった。
基本的な攻撃方法はパンチとかキックとか、かみつくとかでそこは大したことはない。
強い……というかめんどくさいのはティンクルベアが瀕死になったときに行うレーザー攻撃だ。
近距離でサビた棒を振るっていると突然、首をクルクル振り出して周囲にレーザー光線を吐き出すのだ。
はじめの3回はそのレーザー光線にやられたのだ。
近づいたら危ないと思ってからはラピスの魔法を頼りに距離を取って戦っていたんだけど……。
あいつ雷属性なんだわ。
ラピスの放つビリビリ魔法は無効化されるどころか、魔法を受けるたびに身体を纏う光が強くなっていき、特大レーザー光線を放出する。
ラピスの楯として複数回そこでロスった。
もう、レーザー光線で焼きロスされるのはごめんだ。
近づくと周囲を焼き尽くすレーザー光線。離れて戦っても遠距離攻撃がラピスの魔法しかないため、特大レーザー光線となって返ってくる。
となるとやれる方法は一つ。
ラピスはサポートに徹底し、俺が近づいて攻撃。レーザー光線はなんとか避けることだ。
そう思って試してみたけど、レーザー光線は避けられない。
口からレーザーが放出されるので後ろ側に回ってみたけど、すぐに振り向きレーザーで焼かれる。
かくなる上は機動性で勝つしかないと思ってティンクルベア―の周りをグルグル回りながら戦ったけど、やっぱりあのレーザーは避けられない。
もう、もう無理だよ。
「えと、頑張ってくださいね。私は応援してます」
マリー。
やっぱりマリーは天使だ。どこかの駄精霊とは違って本物の綺麗な心を持つ聖女様だ。
「ちょっと、ハヤト! 私の勇者のクセにシトリの奴隷にデレデレしないでよ!」
「いや、デレデレなんかしてないよ」
「ふーん、そう? なら、その手を早くどかしなさいよ」
「あ、わ……ごめん!」
いつの間にかマリーに手を握られていた。
ちょっとうれしい。
「じゃあ、うちはもう帰りますわ。またご贔屓になー」
「あ、俺たちも帰ろうぜ。もう夜だし酒場行こうぜ」
「……」
「おーいラピスさーん?」
「焼き鳥」
「?」
「コカトリスの焼き鳥が食べたいわ」
なんてわがままな奴なんだ。あんな高級品食べたいとか。
でも、仕方ない。
ラピスがいないと冒険ができないしな。
「じゃあ、マリー。ありがとな。もう行くよ」
「はい、いってらっしゃいませ」
ああ、やっぱりマリーは可愛い。
だって、あんなにきれいな笑顔を浮かべているんだから。
大聖堂から外へ出るともうすっかり夜も耽っていた。
「聖女って仕事大変なんだな」
「なによ、やっぱりあの女のこと考えてるじゃない」
「いやいや、みろよ。普通の冒険者ならもう酒場でドンチャン騒ぎしている時間だっつうのに大聖堂でひかえているんだぜ」
「まぁ、そうね」
大聖堂はいつ復活依頼が来るのかわからないので24時間営業らしい。
そんな中、マリーはずっと大聖堂で働いている。
あれ? 大聖堂って思ったよりブラック?
俺たちは月費と毎回の復活料を支払っているのだから当然と言われたら当然だけどな。
復活者がいないときは休めるとかか?
考え始めると埒があかないな。
もうよそう。
ラピスの機嫌も悪いのでとりあえずコカトリスの焼き鳥を与えてやらねば。
ってそういえば今日は魔核全然回収できてない。
道中のスライム狩りで手に入った十数個くらい。こんな収入じゃあ、破綻しちまうよ。
明日にはティンクルベアを倒さなければ……。
「あっ」
「どうしたのよ」
突如、あるアイデアがひらめく。
そうだ。ティンクルベアに勝てる方法があるかもしれない。
「ラピス。今日は食い倒してもいいぞ。明日にはアイツを倒せる」
そうこの方法なら奴を倒せる。
「ふっふっふっ……俺ながら素晴らしいアイデアだ」
「なによ気持ち悪いわね……ま、食べていいなら好きするわよ」
さぁ、好きに食え。そして、明日には祝勝会だ。
「ハヤト君。おかえりなさい」
「マリー、そうか……俺はロスったのか」
「……って勝てるわけないじゃん!」
なんだよアイツ!
今日1回目のロス。いや、今日はロスするつもりなんてなかった。
ティンクルベアを早めに倒してクエスト報奨金で豪遊するつもりだった。
「ちょっと、ハヤト! 話が違うじゃない!」
ドタドタドタッとラピスが走ってやってきた。
どうやら、ラピスもロスったみたいだ。
「今日は倒せるんじゃなかったの? なによ、あの『俺に任せろ』ってセリフ。ぜんぜん任せられないじゃない!」
「いや、今日は本気でそう思ってたんだよ……」
そう、あの策が破られるまでは。
ティンクルベアのレーザー光線は口から放たれている。
周囲を焼き尽くすときは首を振ってするし、特大レーザー光線も口を中心に発射される。
あの口さえふさげばどうにかなると思っていた。
超接近してレーザー光線を吐く瞬間に顎を攻撃したり、口の中に土を放りこんだりして口を塞げばなんとかなると思っていた。
でも、無理だった。
顎を攻撃しようと近づく前にレーザー光線が飛び。
口の中に土を投げ込んでも関係なくレーザー光線が発射された。
もう、マジ無理だよ。
俺は再びロスってしまうのだった。