食べる?食べない?
あの後、ロッジ型宇宙船は大気圏を出た後に何度かワープらしきものをして適当な星の上に来ると、そこに再び着陸した。
今度は春盛りの植物園という風情の星だが、サマエルがあんなに騒いでいた割合には追いかけて来る者はいないと言う所が不思議だった。
だったら逃げる必要は無かったのでは?と。
春の星だからか、エセルはグレーのネグリジェから、なんと、白のロングTシャツに着替えていた。
そして、何事も無かったようにソファに座って手元の四角いパッドを覗いているのである。
私は彼の真横に座り込むと、今一番気になっている、サマエルが言ったパンツを捨ててしまった件については聞けないので、一番聞かなければならない別の事を聞くことにした。
「あなたは私が何者か知っていたのね。」
「うむ。」
「どうして私を召喚したの?」
彼は答える気がないどころか、私から顔どころか体ごと背けた。
食べられてもいい、という彼の言葉を思い出した私は、背けた彼の耳元にふぅっと息を吹きかけた。
「教えてくれないと食べちゃうわよって、きゃあ!」
私はエセルによって背中をソファに押し付けられており、形勢逆転の私に対して、エセルはどんどんと唇を寄せてくるのだ。
うわ、え、ちょっと待って!
しかし、彼の唇は私の唇を塞ぎもかすめもしないどころか、私の耳元に寄せてふぅっと息をふきかけただけだった。
「きゃあ!」
「お返し。」
彼は私を解放すると身を起こし、再びパッドに注目し始めた。
くやしい。
私は右手の指先で彼の耳たぶをそっと撫で、彼の首筋に軽いキスをした。
「さぁ、話しなさい。話せばお返しなんか必要ない。もっと食べてあげる。」
答えは大きな舌打ちだった。
「しつこい。」
「そう。」
私はソファから立ち上がってエセルから離れることにした。
が、私の腕はエセルに掴まれた。
「あぁ、違う!待って!」
ゴゴんとロッジが大揺れした。
「きゃあ。」
私は彼に引き寄せられて抱きしめられ、その大きな体に守られる格好となった。
「ありがとう。大丈夫?」
「大丈夫。砲撃を受けただけだから。」
「全然大丈夫じゃ無いじゃない!」
「うーんやっぱりローグは撒けないな。」
彼は私を手放すと立ち上がり、そしてなぜか服を脱いで丸裸になった。
それから、ミシュニュ、ヌル、云たらと蛇が出す威嚇音にも聞こえるような言葉の羅列を唱えだしたのである。
「うわぉ。」
腕や背中、とにかく全身に髪の毛と同じ色の剛毛が生えていき、背骨もぼきぼきっという感じで曲がり、気が付けば彼は大きなチョコレート色の狼だ。
象ぐらいの大きさの狼に変わった彼は一声遠吠えを上げると、ロッジを飛び出して行った!
えぇ!奴こそ召喚獣だったのか!
私は彼が飛び出して行った窓から外を眺めると、彼がナッツ型の小型飛行機に飛び上がったところだ。
小型機は巨大狼の重さでぐらりとバランスを崩して下降し、するとその飛行機を後ろ脚で大きく蹴り捨てると次の機へと飛び移った。
蹴られた小型機は地面に打ち付けられて爆発し、今彼の足元にある機もすぐにその後追いをさせられるだろう。
獣となった彼は、レーザー光線のような物まで発射する未来兵器と同等に戦っているのだ。
「うわぁ。」
これは彼の勇姿に驚いた声ではない。
私は背中に銃を突き付けられていたのだ。