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外の世界に一歩踏み出せば

 想像通り、エセルの料理は最高だった。


 四時間待たされるとは思ってもいなかったが、最高の赤ワイン煮に焼きたてのロールパンを食べられるのならば、その待ち時間は完全に報われたと思う。


 ただ、面倒くさかったが。


 私が一口口に運ぶたびに、彼は味はどうなんだという顔で私を見つめているのである。


 食べづらいったらない。


 これなら私から顔を背けた裸族のままでいてくれた方が良かった。

 それならば、私も全裸の彼から目を背けていられる。


 あぁ、クラッカー事件というものもあった。


 料理が出来る前に頼んだクラッカーだが、彼は多すぎるだろ!的な量のクラッカーとクッキーというか、食糧庫にあった焼菓子全部持ってきたのだ。

 そして、ボールを取って来たよというレトリバー犬の顔で私を伺い、私は私で適当な一箱の一枚で良かったのに、と困ったのである。

 こんなに持ってきてくれた男に対して、たった一枚で済ませられるのか、と。


「違うの買ってこようか。」


 お前は思考を発展させるんじゃない!


「う、ううん。たくさんで吃驚したの。エセルはこの中ではどのお菓子が一番好きなのかしら。」


「俺はあまりクラッカー食べない。」


 どうしてそんなに買い込んでいる!


 私は仕方が無いと適当な箱を受け取り、一枚を自分の口に放り込み、もう一枚をエセルの口に咥えさせた。


「あなたのお料理が楽しみだからこれだけね。」


 犬はボールを取りに駆け出して行き、そして、必要以上に料理に凝りだしたのである。

 パンがあるからケーキを焼くなと、材料を取り出した時点でエセルを止めた私の先見の明は素晴らしすぎる程である。




 昨夜のことをくどくどと考えながら、私はエセルの大きすぎる服を溺れる様にして着込んで外の世界に出ていた。

 自然の普通の雪山という銀世界であるのだが、外からエセルのロッジを見れば、近代的どころか宇宙船ですか?というような、普通だったらガスや自家発電機が設置されるような所にメタルに輝く余計な物がくっついている。


 ここは一体何なんだ。


 召喚術という魔法がある世界ならば、発展した科学力なんか不要では無いのか。

 いや、スペースオペラというジャンルではオッケーか?


「ミミ!寒くないか!」


 私はロッジから出てまだ五分も経っていないとエセルに振り返ると、奴は昨日から着ているような形の、今日はグレー色のネグレジェのような物を着用しているが、そこに物凄く高そうな毛皮のついた皮のコートを羽織っている姿だ。


 そして、パンツはやっぱり履いていない。


 それから私の名前として、彼は自分の飼い猫の名前をつけたのだ。



「君の青い眼があの子にそっくりだと思い出して。あの、嫌だったら、ごめん。」


「いいのよ。名無しでいるよりいいわ。その子は大事な子だったのね。」


「あぁ、そうなんだ。実家に帰ると一番に俺の所に来てね。可愛い奴なんだよ。」


「まだ生きていたんかい。」



 私は理解できない男のエピソードを思い出しながら、やっぱりというか、この裸族め、としか思えない男に振り返った。

 奴はお高そうなコートを脱ぎだして、この、服でだるま状態に自分でしたばかりの私にさらにコートを被せるという、それは拷問だろう、という行為にトライしようとしているようなのだ。


「きゃあ!エセルが風邪をひいてしまう!」


 うわぁ、私は自分に蕁麻疹が出そうだ。


「いや。俺は大丈夫。」


 私が大丈夫じゃ無いんだよ。


 しかし、彼は無理矢理に私にコートを覆いかぶせ、なんと、私を抱き上げると運び始めた。

 ロッジに戻すのか?


「もう見ちゃったよ。それが召喚獣だね。呼び出したら管理局に連絡の上に引き渡さなきゃ駄目じゃない。平の兵隊では無いでしょうに、支局長。」


 はい?


 若々しい青年の軽そうな声が私には軽くない内容を唱えた。

 召喚獣は引き渡し?

 なにそれ。


「召喚獣ではない。召喚獣は消えた。これは俺の婚約者だ。」


「うそだぁ。」


「本当だ!」


 うぉ、何が起きてる?

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