君は逃げて
「安心しろ、俺もミミが好きだ。」
わぁ、勝手に相思相愛ということになっている。
わ、話題を変えなきゃ。
そうでしょう。
「ね、ねぇ!あなたはどうして服を着ないの?」
エセルは私の質問に先ほどまでの鼻の下が伸びた様な顔を取りあえずやめると、今度は私が馬鹿だなぁという表情に切り替えた。
あ、さっきの間抜け面の方がいい、なんかカチンときた。
「ま、いいわ。あなたにはあなたの理由があるのでしょう。」
「うむ、理由はある。人狼を解除した後にいちいち服を探すのが面倒だ。」
探す面倒よりも、人としての尊厳を守る方が大切では無いのか?
確かに彼は石像の神様みたいに素晴らしい体でもあるのだが、ミケランジェロの作品にだって、人は一応は下半身部分から目を背けるものなのだ。
「は、恥ずかしくは、無いの、かな?」
だって、プラプラじゃない。
そのプラプラは、プラスにならないプラプラじゃないの!
「なれた。楽だし。」
「……そう。で、とりあえず、私達はどこに行くの?」
「俺の宇宙船。この船の格納庫に無理矢理ぶち込んだ。早く行こう。」
「え、そんな所に脱出用のアイテムを突っ込んじゃったの?」
絶対脱出は無理じゃないかと、SF世界に疎い私にもわかる悪手だろうと彼を見上げ、けれど彼は全く平気そうどころか余裕の顔立ちだ。
私は彼を信じればいいのじゃないかしらと、彼の力強い手を握り返した。
数分も経たずに、振り払えば良かったと、がっかりすることになったけれど。
格納庫は厳戒態勢だったのだ。
ヘルメット着用の特殊部隊風の人達の全員が、玩具にも見える大きな銃を構えて待ち受けているという、誰だろうと自分が主賓になりたくないだろうパーティ会場だったのである。
「すいませんね、グレイン元支局長。あなたの留守の間に宇宙船はロックさせてもらいました。もう逃げられないですよ。抵抗するのならば、あなたへの発砲許可もある。では、そこの女王様を引き渡してもらいましょうか。」
どうやら私がサマエルに解放されたのは、エセルを宇宙船から引き離す餌にする目的でしかなかったようだ。
彼が撃ち殺されるのならば、私はサマエルの所に行くべき?
麻酔薬とか打って貰えば、シチューになる時は痛みを感じないかもしれないじゃない。
「うむ。」
え、そんなにあっさりなの?
私はエセルのあっさりさに、とりあえずぎりぎりまでは彼を道連れにしようと思い直した。
大体頼んでもいないのに、私を勝手に召喚したのはこの男だ。
私はエセルの手を握る手にぎゅうっと力を込めた。
「うむ。」
私の腕はぐんっとエセルに引っ張られ、何という事、私は彼に格納庫の天井へと、ロボットアニメのロボットがいてもおかしくない程の空間へと、ポーンと放り投げられたのだ。
「飛んで逃げろ!」
「無理!」
叫び返した私はひゅるひゅると下降して、丸裸の男ではなく、白い制服の男によって抱き留められ、今すぐ命を失う事からは救われた。
「大丈夫?怪我は無いか。」
「あ、ありがとう。」
私を鍵穴とやらに放り込みたい男の方が、私を守ると宣言した男よりも私に対しての気遣いがあるってどうなのだろう。
私は恨めしい気持ちでエセルを見返すと、彼は物凄く怒った顔だった。
表情だけではない。
目が合ったとたんに、彼は私に吼えたのだ。
「どうして飛んで逃げない!お前には羽があるだろう!」
「飛んだこともないし、服を着ているのよ!私は!」
「脱げばいいだろう!」
「できるか!ばか!裸族と一緒にするな!」
私どころか兵隊に取り囲まれているエセルが拘束もされないのは、兵隊に指示を与える権限を持ったサマエルが、しゃがみ込んだまま笑いを堪えているからだろう。




