見知らぬ天井
6/13 改訂作業に伴って、直したかった箇所を章にして増やしました。
25、26、27章。 追加加筆してあります。
女の子として、目を開けたら見知らぬ天井、というシチェーションはとてもまずいというか、とりあえず状況を見極めたうえで逃げの一手しかないと思う。
だが、私が私であるという事を忘れているという状況は、逃げるどころではないというか、どこに逃げるの!だ。
うん、やっぱり何も思い出せない。
私は昨夜の事どころか、どうして見知らぬ家の天井を眺めながら見知らぬ家のベッドにいるのだろうか、などということ自体が軽くなってしまう状況に陥っているのだ。
つまり、私は誰?ってことだ。
私はぎゅうっと目を瞑り、こうやって思考が動いているという事は、私が考えている言葉や考えの中に私が生きてきた経験、なんてものもあるはずだからと、そう、とりあえず色々考えることで思い出すよすがが見つかるはずだと自分に言い聞かせ、そして、思考をもっと動かすために自分の左側へ目線を動かした。
真っ黒ではなく、カカオ成分がかなり高そうなチョコレート色の髪色をして、本当は色白だろうが太陽の下ではしゃいじゃった風の色合いの肌色の背中がめっちゃ筋肉質だな、というような、つまり、裸の男の上半身が私の左隣にいる、という状況を再確認できただけだった。
はっきり言って、隣の熟睡する男を起こして、何が起きたのか聞けば一番早いと私的にも理解しているが、背中に紺色の意味の解らない魔法陣のような刺青がある男なのである。
このまま、起きないで冷たくなってくれ、と願わざるを得ない怖い状況だ。
ヤクザに風俗にでも売られてしまったのだろうか。
よし、新たな単語を思い出したぞ。
ヤクザに、風俗だ。
その意味は、と思い出して、そんな単語を日常的に思い浮かべる人間は駄目だろうと思い直して、数秒前の自分の思考回路は消去する事にした。
あぁ、消去、これは良い言葉だ。
私も実は裸なのだ。
もう、丸出しの丸出しだ。
あぁ、どうしようと何十回目のどうしようと同じ行動を私は繰り返し、つまり自分の体を見下ろしたのだが、死んでもいなかった男が少々動き、私の体の上のシーツは胸の上からぺろりと落ちた。
なんということ。
乳首がピンクだよ。
あ、私は乳首がピンクじゃなかったのか?
え、どんな色だったのだ。
うわぁ、ここはピンクでいい。
ピンクにしておこう、思い出す必要ナッシングだ。
そしてピンクな乳首色は、目が覚めてから初めてといえるほどの積極的な行動力に私を駆り立てた。
下半身を確かめてみたのである。
……見えない。
まあるいお椀のような綺麗な乳房の下の腰はへこんでいて、までは確認できたが、これ以上シーツを持ち上げれば隣の男を起こしてしまう。
いや、起こしたっていいではないか。
シーツを持ち上げたがために冷気が裸の身体をくすぐり、私は尿意というものを思い出してしまったのである。
ログハウスのような造りの広々としたこの部屋には開口部として窓と三つのドアがあるが、窓側の扉は軽い造りだからクローゼットに違いなく、あとの二つ、クローゼットのある壁にあるドアか、ベッドの上部方向の壁にあるドアになるのか、私には判断がつけようが無い。
あぁ、どうしよう。
「トイレ!」
思わず叫んでしまったが、隣の男は私に振り向くどころか右腕で上部方向を指さした。
「うわあああ。」
私は男が起きていたことに脅え、そして漏らしそうな自分に恐怖し、恥じらいなどかなぐり捨ててトイレに全裸のまま駆けこんだ。