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9月6日 デート準備?



 昨日は散々な目にあった。

 あれから春姉の誤解を解くのに苦労し、望遠鏡の組み立てと分解だけで終わってしまった。

 時間がかかるのは導入作業だが、このままで大丈夫だろうか?


「……はぁ」

「おつかれですね、先輩」

「春姉は犬井ちゃんが呼んだんだろ? おかげで無駄な労力を使ったよ……」


 あのとき犬井ちゃんは春姉に連絡していたらしい。

 どうりで静かだったわけだよ。犬井ちゃんも、まさかあそこまで大げさになるとは思っていなかったみたいだけど。


「ちょっと離れなかっただけじゃない。それで先生を呼ぶなんて、貴女嫉妬深いのね」

「白鳥先輩はくっつきすぎなんですよ! あの時の先輩の顔見ました? 気にしないように取り繕ってるのバレバレでしたもん!」


 やめてくれ、それは俺に効くから。

 春姉はご丁寧にも恋愛禁止を掲げ、二人はまだ仮入部ということで見逃された。

 俺はというと、望遠鏡の説明ということで納得……はしてくれなかったので、次の春姉の仕事を無償奉仕で片はついた。

 土曜日に丸々とかは、さすがにないと思いたい。


「じゃあ今日は組み立てからやってみようか。実際の使い方まで行けたらいいんだけど」

「それはいいですけど、いつ観望会はできるんですか? 今のところ、望遠鏡しか触ってませんけど」


 犬井ちゃんは今の活動に少し不満があるらしい。

 たしかに組み立ててバラすだけじゃ、あまり楽しくないだろう。


「予定は金曜か土曜かな。次の日が休みのほうが好ましいし」

「金曜……」

「金曜って、明日じゃないですか! え、じゃあ今日中に望遠鏡をマスターしないといけないってことですか?」

「マスターといっても、組み立てた後は導入作業だよ。これは実際に天体を見ながらやったほうがわかりやすいね」


 星を見た感動というのは、それだけで知識を学ぶ原動力となる。

 あれこれ説明するよりも使いながら覚えてもらったほうが早い。

 そんなことを考えていると、白鳥さんが申し訳なさそうに手を挙げた。


「あの、秋彦くん。私、金曜日はどうしても無理なの」

「なら土曜日に――」

「すみません。土曜日はわたしがダメです」


 今度は犬井ちゃんが首を横に振る。

 となると、三人で星を見れる日はないのか? しまったな。


「そっか。予定では19時から22時までだったが、二人とも予定があるのか……なら、わけていくか?」

「それって――」

「つまり、土曜日は私と秋彦くんだけで観望するということ?」


 今週は新月からあまり経っていない。

 月明かりが邪魔しない今が、星を見るのにも月を見るのにも適している。


「できれば三人で行きたかったが、両方とも俺には予定がないしな。二日にわけていこう。それでいいか?」

「つまり、先輩とデ――二人きりの観望会ですね!」

「わかった。土曜日の待ち合わせは14時でいい? ショッピングとご飯のあと、観望会を行いましょう?」

「あっ! ずるい。先輩、明日は制服のまま行きますよね! 帰り道一緒に歩いて、そのまま望遠鏡を担いで!」


 二人とも肯定的なのは良いが、メインは夜ですよ?

 それに金曜日に関しては少し問題がある。


「一旦家に帰ってからにしようか。さすがに制服で遅くまでいると補導されちゃうし、明日は部活も無しのつもりだったから」

「えー……でも、それもそうですね。では、明日のためにもチャッチャと覚えちゃいましょう!」


 犬井ちゃんがやる気になったのはいいが、そのやる気が星とは違う方向に向いてるような?

 ま、これで二人に星を教える目的は達成できそうだし、問題ないか。




 二人は少し戸惑いながらも、テキパキと望遠鏡を組み立てる。

 あと教えられるのは、バランスの調整くらいか。

 ここまでやる必要はないが、安全に関わってくるしな。


「あとは実際に使ってみて……となるのだが、その前にひとつやることがある」

「やること? これにレンズをつければもう見えますよね?」


 室内で組み立てたとは言え、窓からちょっとしたものは見える。

 犬井ちゃんは自由自在に動かしているが、その動作は少しストップだ。


「はい、犬井ちゃんアウト。白鳥さんは正解だね」

「? 何がですか」

「普通に考えたら当然ね」

「むかっ」


 細かいことだが、望遠鏡をまわす際にはレンズのある方を下に向けない。

 地面と擦れる場合があったり、大体はレンズのほうが重くなっているからだ。

 バランスもめちゃくちゃな今の状態だと、重い望遠鏡だったならば転倒していたことだろう。


「望遠鏡は、レンズがあるほうを下に向けないんだよ。それと、手を放してごらん」


 二人に望遠鏡から離れてもらうと、鏡筒を地面と平行にした時、自重でどちらかに傾く。

 白鳥さんのほうは安定しているようだが、犬井ちゃんが組み立てた方は勢いよくレンズ側が倒れてくる。


「はわわっ、何がいけなかったんですか?」

「ちょっと上により過ぎかな。このバンドのネジを緩めて……この辺か」


 天秤のように鏡筒を動かし、大体中心位置。

 レンズの取り付けなどで多少変わってくるが、この位置なら自重で傾くことはないだろう。

 細かいことだが、これで望遠鏡の下敷きになった人もいるくらいだ。

 二人にケガはさせたくないしな。


「バランス調整といってね。こうすると使う時に動かしやすいんだ」

「へー、ここのネジで調整できるんですね」

「私は既に完璧」


 白鳥さんは更に先を行っているようで、三脚に備え付けられた工具でビスまで締めていた。

 そんな工具、俺も知らなかったぞ……。

 後で聞いたら、説明書に書いてあったらしい。さすがです。


「よし、二人とも使う望遠鏡はそれでいいか? どちらも屈折式だが、口径120mmのほうは重いぞ」

「問題ない。カタログ的に、こっちのほうがよく見える」

「わたしは軽いほうがいいです!」


 二人ともやる気なので、明日は俺の望遠鏡を持参しなくても大丈夫だろう。

 待ち合わせのため二人と連絡先を交換し、望遠鏡は今日と明日にわけて俺が運ぶことにした。



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