6. 神帝、試験を受ける
冒険者ギルド加入の試験はギルドに隣接された闘技場で行われるのが通例である。
あくまで初心者のテストであるため、観客など本来いるはずもないが、どう見ても世間知らずのボンボンにしか見えない子供がベテラン冒険者ロイドに模擬戦を挑んだということで、闘技場には多くの野次馬が集まっていた。
その多くが身の程知らずの子供がロイドに為す術もなく叩きのめされることを期待しているようで、皆一様に面白いものを見るような目で闘技場の中央に立つクロノアールを眺めている。
「皆は誤解しているようだけど・・・・・・ボクは別に貴族じゃないから、その辺は気にせず戦ってもらって構わないよ、ロイド」
「・・・・・・分かった」
クロノアールの言葉に、予想外だったのか少し驚きを見せつつ頷くロイド。
そんな二人をフィールドの外から眺め、シルヴィは目を細めた。
ロイドの実力は、シルヴィの目からしてもかなりのものである。
単純な力のみならず、経験から育まれた高度な技は初心者はおろか、並の冒険者に対応できるものでは無いだろう。
(・・・・・・ですが)
それはあくまで普通ならばの話である。
(ああ、やっぱり穏便には済まなかった・・・・・・)
最初から期待していなかったとはいえ、この有様である。
クロノアールが万が一にも負けるとは思えないが、それはシルヴィの見解であって、ここにいる彼以外全ての人間達はクロノアールが負けると確信している。
とすれば穏便に済むわけがなかった。
はやくも遠い目で宙を仰ぎ始めたシルヴィをよそに、審判役の冒険者の合図により試合が開始されるのだったーーー。
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クロノアールという神は神帝であることに加え、創造を司る神でもある。
その性質上、魔法と同じように具体的な想像力を必要とする神術の行使を得意とする神でもあった。
神術は神の願いを世界が実現することにより行使される。
そのため、その願いがより具体的であればあるほど、そしてら神としての神格が高ければ高いほどより強く、より優先されるのだ。
神帝として神々を管理するに辺り、相応の戦闘能力が必要とされている以上、クラストリカでも有数の神術使いではあるのだがーーークロノアールは戦闘において主体的に使用するのは実は神術ではなかった。
「・・・・・・坊主、武器は持っていないのか?」
「いや?持ってるよ。ちょっと待ってね、今から出すから」
「!!空間魔法を使えるのか!」
何も無いところから突然出現した二振りの剣に、ロイドが驚きの声を上げる。
空間魔法は無属性の魔術であり、その名の通り術者の任意の亜空間を作るもので難易度はかなり高い。
所持品を劣化させずに保存させることや術者の魔力量によっては大きなものや重いものを収納することも出来る上、戦闘においても大きなアドバンテージにもなるのだ。
八属性のうち、最も所持率が低い属性でもあるため、空間魔法の使い手はとても希少性が高い。
最も、クロノアールの場合は魔術ではなく神術なのでそもそもの構造が違うのだが。
「まぁね。でも魔法はあくまで補助、本命は剣。だって、物理の方が面白いからね」
クスリと蠱惑的な笑みを浮かべ、二振りの双剣を両手で弄ぶ。
刀身から柄に至るまで白一色で統一された双剣を見て、ロイドが眉根を上げた。
「・・・・・・魔剣か?」
「んーまぁね。でもいいでしょ、ロイドのそれもみたいだし」
「・・・・・・本当に、お前さんには驚かされる。これは不味かったかもしれないな」
自身が持つ大剣を一目で魔剣と見破り、その上双剣をなれた様子で弄ぶクロノアールにロイドは思わず苦笑を浮かべた。
ーーー剣を持ったことでよくわかった。この少年、まず見た目通りの実力ではない。
そう確信し、両手に持つ大剣をぎゅっと握りしめる。
この少年が見た目通りの弱者ではない以上、目的は変わってしまったが、とはいえ負けるつもりもない。
「それでは模擬戦を始めてください!」
審判の合図が響き渡る。
が、両者動かず互いをじっと見つめ合う。
そんな二人の様子に、試合があっさり終わると思っていた観客達のざわめきが止まった。
「ん?あれ、貴方から来ないの?・・・・・・なら、ボクからいくね」
可愛らしく小首を傾げたクロノアールがそう呟き、そしてーーー。
「っ!?」
「あっは、良い動きだね!さすがベテラン冒険者!」
一瞬にして間合いをつめ、叩きつけられた双剣に、ロイドは驚きながらも本能的に両手剣で受け止めた。
(・・・・・・っ、重い!なんて力だ・・・・・・!!)
これほどの剣、受ければタダでは済まないだろう。
この細腕のどこにそんな力があるのかーーーと、クロノアールが先程使った空間魔法を思い浮かぶ。
(そうか!無属性魔法・・・・・・身体強化か!)
無属性魔法、身体強化。その名の通り筋力や俊敏性を上げるという単純ながら威力は十分見込める魔法である。
高難易度の空間魔法が使えるならば身体強化が使えないはずがない。
「っ、はぁ!!」
「おっと」
全身に力を込め、双剣を弾き飛ばす。
その隙に加えた攻撃もそんな抜けた一言であっさりと躱されてしまう。
クロノアールの猛攻はそれでも止まらず、ロイドは予想以上に防戦を強いられた。
(・・・・・・これは本気を出さねばマズいな)
ーーー正直なところ、この少年の実力は只者じゃないどころではない。
それこそーーー自分が全力を尽くしたところで勝てる見込みがないと、初撃で理解させられるほどに。
ロイドとて、Cランク冒険者として相応の実力は有していると自負している。
しかし、この少年ーーークロノアールの剣術はまさに超一流ーーーいや、ともすればそれこそーーー。
(勝てないならばせめて、一矢報いよう)
「っ、火弾!」
「わぉ!」
ロイドの所持属性は火と風の二つ。
彼は魔力には恵まれておらず、魔術師ではなかったが魔法もすこしは扱えた。
低級魔法程度でクロノアールを倒せるとは思っていないが、それを避けたその一瞬の隙に掛けたのだ。
「魔剣起動!『解放せよ、雷神剣』!!」
言葉に呼応するようにロイドが持つ大剣が光り、その形状がみるみるうちに槍へと変化していく。
「ーーー貫け!『雷槍』!!」
そのまま変化した槍を全力で投擲する。
閃光を放ちながら槍は一直線に放たれ、クロノアールの胸元にーーー。
「ーーー魔剣起動。『転身せよ、創造剣』」
カキ、ン。
そんな、何かと何かがぶつかる音が響きわたり。
「なーーー」
ーーー光に包まれた槍が砕け散った。
戦闘シーンって難しいですね・・・・・・
昨日、途中までの状態で間違えて投稿してしまいました^^;
次の投稿は木曜日の予定です