8. 神帝、詮索される
予想外に時間が取れず、更新が遅れてしまいました・・・すみません( ˊᵕˋ ;)
「どうやらやっとご理解頂けたようですね?」
「・・・・・・」
にっこり笑顔のレイノから無言で視線を逸らすクロノアール。
大勢の前でやらかしている以上、意味の無いことではあるのだが。
「まず・・・・・・先程、闘技場であったことに関しては全員に口外しないように緘口令をしきました」
ーーー時間帯的にあまり人が多くなかったこと、観客となった冒険者たちがロイド君の教え子やその仲間が多かったことが幸いしました。
そんなレイノの言葉にほっと息をつく二人。
観光レジャー施設にどれほどの効力があるかは分からないが、とりあえずさっきのやらかしが必要以上に外へ広まることはないらしい。
「その上で、ですが。・・・・・・とりあえず、ロイド君との模擬戦に関しては問題にはなりません。冒険者は実力至上主義、あなたが勝利した以上、ギルドはあなたのギルド加入を許可します。シルヴィ君、あなたの試験も後ほど行います」
そこで言葉を切り、レイノは笑顔のままーーーその瞳に鋭い視線を滲ませてーーー続けた。
「問題はここから。あなたがロイド君との模擬戦に勝利したことだけなら問題はありません。しかし、その試合の最中に魔剣を破壊したとなれば話は別です。私もそれなりに長く生きてはいますが、未だかつて、魔剣が破壊されたなどという話は聞いたことがありません。・・・・・・言い方を変えましょう、魔剣を破壊できるほどの力量を持った者はいません」
この世界に存在する魔剣を使用したとして、たとえその魔剣同士に能力の差はあれど、破壊するのは不可能である。
それは今までの歴史が証明しており、いかに魔剣に選ばれ、愛された者であったとしてもほかの魔剣を破壊する程に圧倒的な力を行使できた者は存在しない。
にもかかわらず、クロノアールが魔剣を破壊した。
その事を客観的に見るならば。
「あなたがその年でーーーいえ、見た目通りの年では無いのでしょうがーーーいかにしてそれほどの力を身につけたかは分かりません。他人の力量に関して詮索するのは冒険者ギルドとしてもマナー違反ですのでしません。ですが・・・・・・それほどの力をあなたが持っていることがわかった以上、あなたをHランクの冒険者とするわけにもいかないのです」
強いとわかっている者を低ランクに甘んじらせては、実力至上主義が廃る。
とはいえ、見た目は幼い、強いとは思えない少年を高ランクに上げればどんな噂がたつかは分かりきっている。
「ですので、あなたには特例としてGランクの冒険者になって頂きます。本当はFランクから、と言いたいところですがそれでは色々と問題になるでしょうから」
「上のランクから始められるのは有難い。感謝するよ、ギルドマスター」
力量について詮索されなかったことに内心安堵しつつ、それを悟られぬよう笑顔で答える。
ーーーもっともこのエルフ、何か色々勘づいている気がしないでもないのだが。
「感謝するなら、今後、あまり問題を起こさないようお願いします。やらかしそうならその前に私にまず相談を」
(・・・・・・すみません、それは無理だと思います・・・・・・)
色々問題を処理するのも面倒なのですからーーー少し疲れたような表情でこぼすレイノに、黙して成り行きを見守っていたシルヴィは内心そう謝罪した。
「・・・・・・それから問題はあともう一つ。あなたが魔剣を魔剣で癒したことについて、です」
「それが、なにか?あの時も言った通り、攻撃の魔剣があれば癒しの魔剣もある。そうだろう?」
「ええ、その通りです」
レイノのはそう同意して頷くも、その瞳に探るように細めて言った。
「あなたは先程闘技場でその魔剣について『魔剣を癒す能力』である、というように思わせました。が、あの魔剣ーーー本当の能力はそれだけではないのでしょう?」
「・・・・・・。冒険者の能力は詮索しないんじゃなかったのかい?」
表情に一切の動揺を見せず、むしろ面白いものを見るようなクロノアールにレイノは苦笑を返し、肩を竦めた。
「それは申し訳ありません。個人的に少し気になりまして」
「個人的に、ねぇ?」
レイノは生命剣の能力についてほぼ確信しているのだろう。
ならばわざわざムキになって否定しても意味は無い。
(本当にくえない男だ。どっかの誰かさんを思い出すよ)
眉間にいつも皺を寄せた、黒が似合う“神帝の右腕”を思い浮かべて思わず唇の端をつり上げた。
「話は以上かな、ギルドマスター?」
「・・・・・・ええ。この後、シルヴィ君には観客無しの模擬戦をして頂きますがよろしいですね?」
そう言ってレイノはクロノアールの隣で控えていたシルヴィの方へ視線を向けた。
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(side レイノ)
ーーー冒険者志望の少年とロイドが模擬戦を行う。
そう、受付嬢のミリアから連絡を受け、私はああ、またかと思いつつ、闘技場へと向かった。
冒険者に憧れでも抱いたのか実力の伴わない子供が志願してくることは少なくない。
そういう子供は大抵現実を知らず、たとえそのまま冒険者となった所で呆気なく命を落とすであろうことは目に見えている。
いかに自己責任の冒険者とはいえ、何も知らない無知な子供が死んでいくことは見過ごせない。
そのため、レイスの冒険者ギルドではロイドとその仲間達に初心者を初手で打ち負かしてもらい、冒険者にさせないようにしていた。
もちろん、彼らとの模擬戦で勝てなくとも実力がある程度認められれば子供でも加入を認めているし、実力がなかったとしても新人教育という形で力を養わせていた。
ミリア曰く、今回は冒険者志願の子供の方からロイドへ勝負を挑んだと聞く。
大方己の力を過信した子供がムキになった結果だろう。
貴族かどこかの大商人の息子だろうという話だし、どうせ甘やかされて育ったわがままな子供の戯言だろうーーーそう思いながら私は闘技場へと足を踏み入れた。
そうして件の少年をーーークロノアールを見た時、私は予想外の衝撃を受けた。
それは、彼が遠目から見てもこの世の者とは思えぬほど美しかったからだけではない。
その姿を目にした瞬間、私は確信した。
ーーーロイド君はこの模擬戦に敗北するだろう、と。
ロイド君はもちろん、弱い訳では無い。むしろ、ベテラン冒険者として確かな実力がある優秀な男だ。
だがーーー対するクロノアールは「実力者」などという言葉に当てはまるレベルですらない。
私は長命種であるエルフとして、人よりは多くの時間を生き、今までに多くの強者たちを見てきた。
その中にはもちろん、努力では決して届かないレベルの強者達も数多くいた。
けれども。
未だかつて、これほどの戦慄を覚える相手はいなかった。
ーーーあれは勝てる勝てないの話ですむ相手ではない。
その思いはかの美しい少年がロイド君の魔剣を破壊したことでより一層強まった。
長い歴史の中で、魔剣が破壊された例は存在しない。
魔剣を破壊できるほどの力を持った魔剣の所有者も、それほどの能力を持った魔剣も存在するはずもないからだ。
魔剣は破壊は愚か、刃こぼれひとつしない、それが世の常識である。
だがーーー私には一つ、思い当たることがあった。
いまから1000年ほど前。
この世界が荒れた時、ある一振の魔剣をたずさえた「勇者」が世界を救ったという話がある。
それはもちろんおとぎ話として語られるものではあったがーーーその勇者が持つ魔剣と切りあった魔剣が刃こぼれをした、という話がある。
勇者ほどの力を持った者が選ばれた、魔剣を刃こぼれさせるほどの能力を持った魔剣。
こんなものは所詮、おとぎ話でしかない。
勇者が本当に存在したかなど分かりはしない。
ーーーだが、もし、このおとぎ話が事実ならば?
ならば、あの少年が持つ美しい純白の魔剣はーーー?
ーーーそれこそ勇者の魔剣をも超えるーーーいや、それ以上にそんな魔剣に選ばれるあの少年はーーー。
そう、脳裏に浮かび上がった一つの有り得るはずもないーーーけれどゼロではない可能性に、私は背筋に冷たいものが走るのを感じた。
次の更新は金曜日の予定です