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善悪綯交夢現/原罪情勢夢現  作者: 朝霞ちさめ
第一章 魔神は利便性を尊ぶ
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04 - 兵站いろはに回答を

 異世界に来たとはいえど、まずやるべき事は拠点(インフラ)整備と情報収集ときまっていて、拠点整備は「ふぃん」で終わる以上、となれば次は情報収集である。

 情報収集の最初の部分は、三階にあった資料倉庫を漁ることで解決したり、あるいはこの城に居る六人の魔族に聞くことで解決したり。

 この世界のこと。魔族という種族について。それぞれにできること、できないこと。そして魔族として認識している様々なこと。さらには魔族という勢力の社会制度などなどど、知らなければならないことは大量にあった。

 で、二人で一緒にやったほうが確実に精度は高く、安全でもあるとはいえ、魔族にどの程度の時間が残されているのかすら分からないこの状況ではある程度急がなければならなかったので、特に魔族に直接聞くべきことは洋輔に任せつつ、僕はと言うと資料倉庫のほうを確認した。

 この振り分けは洋輔ならば問いかけ型とはいえ真偽判定がかなり高い精度で発動できるので聞き出す程度ならば問題なかったことと、資料倉庫にあるものが僕たちの身体に何らかの影響を与えるとも限らず、その影響を未然に知ることが出来るのは僕だけで、かつ万が一影響を受けてもとりあえず即座に戻せるのが僕だったため、だ。

 結論から言えば大して意味も無かったんだけど。

 当然だけど資料倉庫に危険物なんてものが置かれているわけもなかったし、色別でも全部緑色。よって何ら問題なしなのだ。

 一方で洋輔の方はというと、こちらから聞くのと同じ分だけ向こうから聞かれることもあったようだ。大半は電気や水道に関する質問で洋輔の管轄外、あとで全員で疑問を纏めてから僕に聞き直すようにと指示していたから、あとで僕を訪ねてくるだろうとのこと。それ以外の当たり障りの無い範囲は洋輔が答えたらしい。

 その上で洋輔が獲得した情報を整理し、僕が資料から確認出来た情報と合わせると次の通り。

「時間の感覚はさほど地球と変わらない。概ね一日は二十四時間、一時間は六十分で一分は六十秒……とりあえずアナログ時計を作ってみたけど、ズレが分かるのは早くても一週間くらいかな」

「だな。ほとんど差らしい差は感じない……」

 ただまあ、『概ね』の冠詞が付くことから分かるように、微妙なズレはある。それはきっと一日あたり一秒にも満たないようなものだろうから、殆ど無視して良いとは思うんだけど……。

「いざとなればアジャストは出来るんだろ?」

「マテリアルにこの星の自転速度を代入すれば良いだけだからね」

「…………。それって、『だけ』なのか?」

 僕にとってはそうだ。

 他の錬金術師にとっての事ならば知らない。

「日付とかは?」

「うん。そっちはかなり曖昧だな。ただ、年始だけは確実に固定される」

「明星閃光か」

「そう」

 明星閃光。なんだか必殺技とも読めそうなそれは、僕が見つけた資料にも何度も表記された物だ。

 簡単に言えば『きっちり一年に一回』のペースで発生する自然現象で、『昼でも夜でも星が輝く』という現象である。この表現だと『曇りとか雨とかの日は見えないんじゃ?』とか思ったんだけど、そういうわけじゃ無い。星が輝くのだ。

 星が……といってもそれは『空に瞬いている星』ではなく、『この星』である。

「資料によると何度かその原因は調査しているみたいだね。ただ、特定まではできなかったみたい。で、その現象それ自体は『大気中、それも地表付近で同時に発生する極光現象』らしい」

「極光? というと……オーロラか?」

「うん。ま、実際に目で見てみないとコレばっかりはわかんないね……地球には存在しない現象だし」

「まあ、そうだな。幻想的ならば良いが」

「眩しいだけなら最悪だね」

 あとでサングラス作っておこう。

 ちなみに今はどの程度の時期かというと、ほぼ一年が終わるような時期らしいので、さほど期間を開けずに観測することが出来るだろう。

 それに詳しい暦の概念はないとはいえど、『年』単位でならば大体何が起きたのかが分かるだけマシとすることにする。

「魔族の平均寿命は種族によってやっぱり異なるらしいな。それと、種族はさらに五つに区分できるそうだ」

「五つ? 資料にあったのは四つだったけど」

「ああ、たぶんその四つ、プラス、『その他』って分類だ」

 納得。

「一応俺が聞いたのは『鬼』種、『塊』種、『凶』種、『餓』種。それに『他』だ」

「資料と同じだね」

 で、僕たちが今のところ実際に目にしているのは赤鬼、小鬼、岩塊、凶鳥、餓狼。

 直接見たわけじゃ無いけど名前が出されたのは粘塊、他にも様々な種族が見つかっている。

「平均寿命はそれぞれの種の中でも差違はあるが、概ね『餓』種が一番長生きで、『凶』種が短命。『鬼』種と『塊』種はほぼ同等、『他』は場合によりけり。この前合った六人でも最年長が『餓狼』のリオだそうだ」

 確かに一番落ち着いていたようにも見える、か。

 あとは変わった特徴として、『塊』種かな。そこに分類される魔族は『老化』が無い。成長はするから、生きている限り強くなり続けるそうで。まあ例外もいるにはいるけど、あまり考えないでいい。

「こうやって見ると、魔族って幅が広いようで狭いというか」

「言うほど分類が複雑って訳でもないらしいからな」

 となるといよいよ粘塊(スライム)が気になるんだけど。僕たちが想像しているようなスライムとは違うんだろうな。まあそのまんまで来られてもこまるけど……。

 ただ、僕たちを見てもさほど驚いては居なかった。

 それはつまり、

「人間の存在か」

「うん。可能性はあるかもしれない」

 そして魔族にとっても『さほど珍しい物ではない』……のだとしたら、もしかしたら魔族なのかもしれないし、あるいは魔族と神族のどちらにも所属していない種族として存在しているのかもしれない。

 資料倉庫にはそれらしき資料が無かったから、どっちもまだ可能性だけども。単に魔族全般で見た目のデフォルトに人間の姿が近いだけかもしれない。角が無い赤鬼ないし小鬼、翼の無い凶鳥、耳や尻尾が生えていない餓狼みたいな。そう考えると塊種が意外なことにほぼ人間なんだよな……。

「それと魔族は『身体機能の延長』としてちょっとした能力を持つことがある。本人達はそれを各種種族ごとの特徴だと言っていたが」

「たとえば?」

岩塊(ガーゴイル)は岩や土をある程度操れる。凶鳥(ハーピー)は空を飛べる。そんなところだな」

「やっぱか。資料倉庫にあった資料も、似たような内容だったよ。ただ、操れる度合いは個人差がある……得意苦手が種族の中でも個々にあって、やたら強く獲得するのも居れば、逆に弱いのも居るみたい」

「ふうん。餓狼(ウルヴス)は?」

「瞬発性の方向で力が強いのと、視力がとても高い」

「なるほどな。その点『鬼』種は適応力や学習力が高いらしいぞ」

 適応力はまだしも、学習力に関してはどうだろうな。

 で、ここから判断する限りにおいて、だけれど。

「やっぱ魔法あるね、これ」

「そう思うか」

「うん。特に『渦』は見えないから、僕たちが使える魔法とは全く別だけど……そもそも僕が見れる渦は魔法だけ。第三法(ことだま)とか呪いは見えない以上、別におかしな話じゃ無い」

「まあな。ということは岩塊(ガーゴイル)……いや、『塊』種はそれぞれの自然を操るって所かな?」

「あるいは状態か……固体って見れば、液体、気体、あとはプラズマももしかしたら居るかもしれないけれど、そのあたりで操作できる範囲が決まるとか」

「ふむ。凶鳥(ハーピー)はどっちだろうな? 単なる空中移動か、重力操作か」

「単純に考えれば空中移動だよね」

 もちろん併用の可能性もあるけれど。そしてそう考えると、こっちは行動範囲が違うのかな?

「行動範囲……ああ、空中移動が凶鳥だから、水中とか地中とかの方向か」

「地中はどうかと思うけど……。森の中とか山の中とか、そういうのはありそうだよね」

 ま、このあたりも追々で解っていけばいい。

 ここで重要なのは、魔族が持つそういった力はどうにも身体的な特徴の延長や身体的な能力の延長では無く、魔法に類する何らかの技術によるかもしれないという点だ。

 きちんと僕と洋輔で詰めていけば、恐らく解明はできるだろう。応用までは持って行けないかもしれないけれど、それでもちょっとやりたいことはある。

「お前もなかなか悪いことを考えるよな」

「魔神である前に僕は魔王だからね。地球じゃ想像はしてもできやしないし」

「そりゃそうだ」

「もっとも、僕としては今回洋輔にある程度お願いしたいんだよね。あんまり戦略系の発想は得意じゃ無いから」

「つってもなー。俺も似たり寄ったりだろ。戦国系では一番難易度が高いやつで遊んでるけど」

「この前も佐竹家が天下盗ってたよね。その前は姉小路だっけ」

「土佐一条よりかは楽だったぞ」

 ごめん、僕は名前だけ知ってるけど場所はわかんないんだよ洋輔。

「ていうかだな、佳苗。あの手のゲームと現実で大きく違う点がある」

「ふうん? 兵站とか?」

「そう。兵を動かすとなれば相応の飯が必要だ、そしてその飯をどのように運ぶのか……。運ぶ方法も大変だけど、まずその飯を確保するって点が難しいんだよ」

「とりあえず一食分あれば冪乗術で無制限に増やせるし量は問題ないんじゃ無いかな。あとは圧縮薬草の応用で圧縮食料にして、いつぞやの圧縮圧縮圧縮薬草の時と同じで重力操作で重さを変えれば移動もそんなに大変じゃ無いし。一万食くらいならさほど苦労せずに手のひらにのる程度に出来るよ」

「お前の錬金術やっぱりおかしくねえかな」

 使えるものは全部使うべきだろう。

 もっとも僕のこれにも問題がある。食料の確保は問題ないし保存もちゃんと意識しておけば数ヶ月は持つし多少強引に扱っても問題は無いけれど、その根本的な部分で使う技術が錬金復誦術であり錬金冪乗術なので、たとえば最初に準備された物がハムエッグトーストだとそればっかり増えるし、最初に準備するのをグラタンにすると全部グラタンになる。

「いや問題はそこじゃねえよな?」

 あとは小型化して持ち運びを簡単にしちゃうと万が一敵側に渡ったとき、敵がものすごく満腹になる。

「いやそこも問題じゃねえよな? いや相手に兵糧が渡るのは問題か……」

 うん。

「まあなんだ。お前がいる限り飯については考えないで良いと」

「運ぶルートは多少考えて貰わないと困るけど、まあ、伝令役に持たせちゃっても良いかもね。んー。十二万食程度でよければ、重さも一キロ程度で収まると思う」

「程度……?」

「程度」

 頑張ればもうちょっと詰め込めるかな? でもなあ、ある程度バリエーションをと考えるとどうしてもそのくらいにはなりそうだ。

「……なんだろうな。お前がいれば世界中の戦争が価値を失うような、けれどすぐにお前を手に入れるための戦争が続発しそうっていうか……」

「手に入れるも何も、僕は洋輔以外の命令は滅多に聞かないだろうけどね……」

「俺を巻き込むな、俺を」

 はいはい。

「まあいいだろう。実際、佳苗がいる限り物品面で困ることは無い、か」

「うん。もっともご飯がどんなに用意できても、それを食べる兵士の方は作れないけど。だから僕的に考える兵站の一番の問題って、物の移動と言うよりも者の移動なんだよね。兵士をどうやって調達するか。そしてどうやって移動させるか……」

「そうだなあ。リオに前線の兵力と食料にどの程度余裕があるのか、それと守っている城の状況を最速で報告するように頼んだんだが、七日から十日はかかる、だそうだ」

「距離があると仕方ないか」

「うん」

 というかもう一度にわとりバードとひよこチックを作って連絡網でも作るか?

 マテリアルは最悪全部完全エッセンシアで代用……、いや無理か。無限の魔力として扱えるリソースが今は無いし。もう一度作るにもあれはランダム頼りだったからなあ、そもそも同じものが作れるという保証すら無い。

「この時間差ばっかりはどうしようもねえなあ……」

「だよね。僕と洋輔みたいに使い魔の契約をしてれば精神共有である程度はいけるんだけど」

「重複契約は原則不可能だしな……」

 例外はあるらしいけど、その例外は狙って作れる状況でも無い以上、仕方の無いことだ。

「ま、無い物ねだりをしても仕方が無いしな。現状では前線の状況を報告して貰って、その上で考えるとして……佳苗、そんじゃ食糧確保はお前に全部ぶん投げていいんだな?」

「それは良いけど、食料だけで良いの?」

「ん?」

「武器防具とか、薬品類とか。最初に材料さえ揃えちゃえば無制限に作れるよ?」

「…………」

 洋輔は暫くきょとんとして。

「お前がいるとあらゆる戦略が意味を成さねえ気がする」

 と言った。

 褒められているというか、ものすごい呆れられているような……。

「いや実際呆れてるからな。……武器防具は現状だとまだ判断付きかねるが、どうしたもんかな」

「それについてなんだけど、魔族の武具系統の作成を一手に担ってる街があるんだよね。ちょっとそこを見てこようかと思って」

「ああ、一度見ておけば一通り模倣できると」

「うん。材料も気になるし」

「そんじゃそのあたりは任せるか……、ちなみに距離が離れても俺を参照して俺の近くに完成品を出したりすることは?」

「たぶん出来ると思うけど、本格的にどの程度の距離まで大丈夫かはわかんないね……」

 やったこと無いし。

 逆に言えば制限が無い可能性もある。

 でも世界超えはダメだろうな、渡鶴とのリンクも切れてしまっているし……。

「そのあたりの確認も含めて、少しの間別行動かな」

「そうだな……お前が行く、でいいのか? 俺が行っても良いぞ。怪我しても直せるのはお前の特権じゃ無いしな」

「そりゃそうだけど、マテリアル採取は僕にしか出来ないじゃない……」

「そりゃそうか」

 ああ、槍と檻も使い方を変えれば物質転送に使えるかもしれない。というかそれが本来の使い方なのだ、あとでマテリアル集めて作っておこう。

「ますますもってエンダーなチェスト扱いになってきてねえか?」

「だとしたら洋輔は魔術で僕は工業だね」

「間違ってねえからまた困るんだよな……」

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