03 - 汝の名前はインフラ
『それじゃあ揃ったところで、一通り自己紹介してくれるかな?』
指定した時間にやってきたのはアンサルシアとイルールムを含めて六人。
思った以上に少ない。城の広さ的にものすごい無理をしているだろうし、早めにゴーレムを作った方が良いかもしれない。
そんな事を考えつつも促すと、まず最初に答えたのはイルールムだった。
『「赤鬼」のイルールムです。魔王様の従者として、この城に出仕しておりました』
『同じく「赤鬼」のアンサルシアでございます。イルールムとは双子の姉妹でありまして、魔王様からお声を頂いた次第です』
なるほど、似ているなあとは思ってたけど、普通に双子か。
そして『赤鬼』と敢えて名乗った。他にも鬼は居るんだろう。青鬼とか。
『「小鬼」のパトリシアです。この魔王城の清掃を担当しています』
とか言っていたら次に名乗ったのがまさかの小鬼だった。ううむ。
パトリシアは人間で言えば……僕たちのお母さんみたいな世代かな、優しげな表情をした黒く長い髪にほんのりと赤みを帯びた肌の人だった。そして小鬼とは名乗られているけれど、見た感じは小さい角があるだけで、それ以外は特に人間と変わりないようだ。
そのあたりの種の違いは後でまるごと聞いた方が効率的だろう。ということで疑問派後回し。
『「岩塊」のノルマン。魔王城と近辺の整備を担当している』
岩塊……ふむ、もっと分かりやすい『岩!』って感じじゃ無いんだな。赤茶けた肌に短く揃えた白い髪、角が無い分むしろ他の面々よりもより人間っぽい気がする。魔族って魔物の類いって意味でも無いとか? いやでもスライムとかも居るっていってたし、謎だ。
『「凶鳥」のハルクラウンでございます。周辺調査はお任せあれ』
で、凶鳥。……凶鳥ねえ。
なんというのかな。人間に白い翼を生やした感じ……こう、ステレオタイプな天使って印象のほうがよっぽど強い。長い金髪には少し弱めのウェーブが掛かっていて、全体的に線が細く色白だ。あの程度の翼で飛べるのかな? 正直体重を支えきれるとは思えない。何かこう、魔法的な事がやっぱりあるんだろうか。でも体格的には一番細いからな。
『「餓狼」のリオ。魔族の伝令を担う種の長として、魔王城を拠点としている』
最後に名乗ったのが餓狼。獣のような耳と尻尾が付いているけど、ベースはほぼ人間だ。獣人みたいなものだろうか、あるいは人狼とか。ちなみに髪の毛の色は亜麻色で、肌の色は僕たちと同じくらい。ちょっと身長は高めかな、そして大分若くみえるけれど、長。それなりの年齢なのかな?
思った以上に人間に近い特徴の方が多いな、魔族。いや、魔族の中でも魔王城に呼ばれるくらいほど有能だからこそそうなのか? スライムとかは人型でも流石になんか違うだろうし。うーん。
『私ども六人が魔王様直属でした。現在では魔神様がたに直属する形です』
最後にそう言葉を纏めたのはイルールム。リーダーシップがあるというより、やむにやまれずという感じがありありとしている。他の五人もちょっと微妙な表情をしている。
概ねの力関係は分かった感じかな……、まあいいや。
『分かった、ありがとう。ごめんね、色々と作業を中断させてまで呼び出しちゃって』
『魔神様の命令は何よりも優先されますゆえ』
『そう。それじゃあ早速だけれど、集まって貰った理由を話したいと思う』
洋輔にちらっと視線で確認。洋輔は問題ない、と頷いていた。大丈夫、本当にコレで全員だ。
『神族との戦いにおいて、神族の捕虜とか居ないかな』
『捕虜、ですか……。リオ?』
『カンツ防城戦で何体かを捕縛している、かと』
『ならばそれを連れてきて欲しい。できれば三人以上。色々と聞き出せることがあるかもしれないからね……』
『かしこまりました』
すっとリオが頷いた。他の五人もそれぞれの感情を抱きながら、それでもとりあえず反発は無いらしい。
『それとこの城、もうちょっと便利にしたいんだけれど、いいかな?』
『便利にと言うと、改築ですか?』
『改築というか改造というか。まあそのあたりではあるね』
『ならば私の出番ですね』
と、ずいっと身体を出してきたのがノルマン。岩塊、か。
『我々「岩塊」は岩や土を自在というほどではないにせよ、ある程度操ることが出来ますでな。この城も我々種族が築城しました』
『ああ、そうなんだ? じゃあ今度そのあたりは見せて貰おう。僕もそっちで黙ってる方も、そのあたりは早めに確認したかったしね』
『腕が鳴ります』
『それはよかった。で、改造しても構わないかな?』
『はい。もちろん、ここは既に魔神様がたの居城ですから、お好きなように』
『じゃあそうさせて貰おう』
マテリアルを認識。
マテリアルはあらかじめ準備しておいた金属各種を筆頭に、様々な宝石ガラスといった装飾品や布、その他諸々に魔法ももちろん追加で入れる。
そして洋輔の大魔法を解して領域指定を重ねて錬金復誦術をひっかけ、いくつかのマテリアルを利用して、っと。
「洋輔」
「ん」
『あ、ちょっと浮かせるけど気にしないでね』
洋輔に頼んで僕たちはもちろん、その他の六人をちょっとだけ浮かして貰って、マテリアルから僕たち生き物を明示的に排除。そんなことをするまでも無く錬金術は生き物を対象に捕れないので大丈夫といえば大丈夫だけど、魔族もそうとは限らないので念を入れる形だ。
改めてマテリアルとして認識、特に問題は無いかな……、うん、大丈夫だろう。たぶん。ダメならダメで後から直せばいい。
ふ ぃ ん っ 。
もの凄く大きな音ではあったけれど、まあいつもの音が周囲に鳴り響く。エコーがかって聞こえるのは反復術を絡めたせい、でよさそうかな?
そしてすとん、と床に着地。
「失敗は?」
「一カ所だけ。その一カ所も概ね予想してた所だから強引に書き換えた」
「相変わらずな奴だな」
何とでも言うが良い。
『え……、な、何を? されたのですか?』
『何って、お城とその周囲の改造。いやあ便利が一番だよ。色々と追々で覚えてくれれば良いけれど、最低限これだけ伝えておくねっていうことは三つ』
一つ目の変更は電気の導入だ。といっても本格的な機械は流石に存在しない。いや構造知らないし……。それっぽいものでいいならば作れるけどね。
じゃあなんで電気を導入したのかというと、主に『あかり』を目的としている。だって廊下暗かったし。
『一つ目。全部の部屋と全ての廊下に電気で付く光を用意した。近くにこんなスイッチがあるから、それを押せば「あかりがつく」よ。ちなみにもう一度押すと「あかりは消える」。火を付けて回るの面倒だしね』
なお、LEDライトである。演劇部の小道具や大道具、セットに至るまで色々と使ったおかげでちょっと構造を知っていたのだ。そして簡単にでも構造を知っていてそのマテリアルが揃って居るならば理不尽に再現するのが錬金術である。
そのマテリアルも代用の代用とかでも良いならば無理矢理そろえる事は容易なので、作るのにさほど困ることは無いというわけだ。
(まあそこまでは今更だけど、肝心な電源はどうしたんだ。発電施設なんて無いだろ)
インフィニエの杯という道具を作っている。
(……あー)
インフィニエの杯は『一定量の電力を常に生み出し続ける』という道具で、一度作ってしまえば半永久的に動作し電力を供給し続けてくれる電源だ。そして場所もさほど取らない。いやそれなりには大きいんだけど地下に埋めてしまえば何のことはあるまい。
(地球で作ってみろ、お前間違いなく拉致られるからな)
いや、もう今更って気もするけどね?
制限版とはいえエリクシルとか渡したし。何人かに。
(…………)
まあその辺は置いといて、ともかくそういう便利なものがあるのだ。
地球では使えない分、こういう異世界でこそ使わせて貰う。
『二つ目は水道の導入。近くにある清流から水をそのまま引っ張ってこれるようになってる。ポンプは電動で、ある程度は自動修復機能も付けてあるから……まあ大丈夫でしょ。水道は上水道と下水道の二系統あるんだけど、そのどっちにも「自動浄水装置」を付けてある』
『え、えっと、すみません。魔神様。すいどう、というのは、どういう物ですか?』
『えっと、水道管ってのを使って……うん、ちょっと模型作るか』
ふぁん。
でおしまい。
『でこれが模型ね。ここが水源、でこの管に設置されたポンプが水をくみ取る。で、そのくみ取った水はここで浄水器できれいな水になって、城全体に渡されるわけだ。そして使った水を流す排水溝、ここから流れた物は須く下水道という大きなところに流れていって、ここでも浄水器が入る。浄水器では汚水をきれいな水に戻したり、異物を無害なものにしたりしてくれるから、環境への影響は無いよ』
ちなみに浄水につかっているのはブルースフィアという藍色のエッセンシアで、それが液体であるならば何でも綺麗な水にしてしまうという道具である。たとえばそれが泥水であろうと血液であろうとも、液体に違いは無いから『水』になるし、ストラクトの杯などで液体化した金属などだってブルースフィアと接触させれば『水』になる。
で、ブルースフィアの製作コストはそれなりに高いのだけど、僕の場合は鼎立体を揃えちゃったので、最初の一個さえ作ってしまえばあとはほとんど無意識に増やせるという。完全な自動化までは至ってないから有限だけど、既にやりようは思いついているので実際にどう実現するかの試行錯誤がちょっといるかな、程度だ。
『で、この水道とさっきの「あかり」にも使ってる電力を使って、厠と沐浴場を大幅に改装しちゃった。厠は……まあ一応、元々あった形のも残しておいたけど、センサー型の水洗式。洋式っていうやつもあって、そっちのほうが個人的には楽だと思うけども』
『えっと……?』
『まあ使おうと思えば分かるよ。たぶん。図もつかって説明してあるし。沐浴場はもろに大浴場だね。水風呂と暖かいお湯とを分けておいたから、どっちでも好きな方を使って。僕たちは暖かいお湯につかるのが好きなんだよねえ』
『は、はあ……?』
困惑はさておきまだ三つ目が残っている。
まあ一番たいしたことの無い変化ではあるのだけれど。
『で、最後。三つ目の変更点は、「強度」だよ』
『……「強度」?』
そう。
最後の変更はそれだけだ。
『うん。ここまで攻め込まれたらおしまいだっていうのも理解できるし、その通りだと僕たちも考えたけれど、それとこれとは話が別……敵本拠地を最初に叩く、なんて方法も思いつくからね。それにここの強度を前提に、前線も改造していこうかなと思ってる。壊れなくて困る城は無いでしょ』
万が一占拠されても特に問題は無い。性質を解除してやれば元の強度に戻せるし、マテリアル扱いする分には強度なんて関係ないし……。
『変更点はこの三つ。城のデザインとか、ディティールは基本的に変えてないよ。だからこれだけを覚えてくれれば良い。「水回りがとても楽になって」、「今後は灯を付けるために火も燃料も要らなくなって」、「丈夫になった」。これだけだ』
どうかな?
六人の様子をうかがってみると、いまいちよく分からない、という表情を浮かべている。そりゃそうか。
『何日かこれで暮らしてみて。基本的には僕たちにとっての便利に近づけてる分、皆には不便なところもあるかもしれない。そういうのがあったらどんどん言ってよね、改善するから』
特に体格に違いがあるというわけでもないから大丈夫だとは思うけど……まあ、念のため。
「ちなみに佳苗、鍵はどうした」
「鍵って、この部屋の?」
「そう」
物理的な鍵が欲しいと言うことか。ふぁん、と作って洋輔に投げ渡すと、洋輔はやれやれと首を振った。僕はピュアキネシスで毎回作っちゃえるし、物理的に鍵を持っている事に意味は殆ど無いのだ。
『特に質問が無ければ以上だよ。今日はもう夜だしね、そろそろお休みの準備かな……』
『しからば。強度を変えたと魔神様は言ったが、本当に変わっているのだろうか』
『試しに殴ってみれば?』
ノルマンの問に雑に答えると、ノルマンは少し困った様子で他の五人に視線を向けた。
もっともその五人もどう答えて良いのか分からないようだ。小首をかしげるだけだった。
『他に質問が無いなら、今日はこの辺で。ああ、この部屋には鍵を掛けさせて貰うね。お昼は空けて置くけれど、僕たちが寝てる間とかは閉めてると思う。何か用事があるなら扉を叩いて知らせてよ』
『かしこまりました。しかし私からも一つだけ、質問をさせてください』
『どうぞ。どうしたの、イルールム』
『私どもは魔神様をどのようにお呼びすれば良いでしょうか?』
…………。
(ああ、そういえば自己紹介してなかったな)
そうだね、完全に忘れていた。
『僕は』「渡来佳苗」『だ』
『俺は』「鶴来洋輔」『だ』
…………。
あれ?
なんか今、自分の口から出た言葉に違和感があったような。
そんなことを思いつつ視線を六人に向けてみると、その六人も聞き取れなかったようだ。
『まって、「洋輔」って言葉は認識できるよね? 「佳苗」も?』
『はい。少し発音が難しいのですが……、なんとか』
『じゃあ、』「鶴来洋輔」『とか』「渡来佳苗」『はどうだろう?』
『…………? じゃあ、とか、はどうだろう? とは?』
ん……んん?
「俺たちの名前を認識できない……? いや、名前は認識できる。ただ、フルネームだと認識できてないのか?」
「そうとしか見えないけど……そんなことあるかな? 日本語だからダメとか?」
「んー……?」
謎だ。
『ちょっと確認するんだが、』「ヨーゼフ・ミュゼ」『……もだめそうだな』
『はい。なにかを喋っている、ということは分かるのですが……全く聞き取ることができません』
白黒世界の言語でもダメ、か。
僕たちの本名を名乗ることが出来ない? ってこと?
……ま、なにもフルネームで伝えなきゃダメって事も無いか
『じゃあ、僕のことはカナエと呼んで』
『それなら俺はヨースケか、あるいはヨーゼフか。好きに呼んでくれ』
『かしこまりました。ではつくりかみかなえさま、うせのかみようすけさまでよろしいですね』
あんまりよろしくないけど……。
長いし。
まあいいや。
『じゃ、それでいいや』
『俺も異存ない』
ぺこり、と六人は揃って深いお辞儀をしてきた。
……なんか下心あるなあ。
(ちょっと枷を填めておくか?)
いいよ。それこそ面倒だ。
(まあな)




