47 ^ 僕の来歴ダイジェスト
僕こと渡来佳苗は、とある野良猫によって強引に契約を結ばされ、そして異世界……つまりこの世界へと渡された。ちなみにこの異世界への移動は親友で幼馴染こと鶴来洋輔も一緒で、異世界への移動はこれが二回目になる。
僕は洋輔と使い魔の契約という特殊な状態にあって、これによって四六時中精神的な共有領域を開放しており、たとえどんなに離れようとも意思疎通が出来たり、お互いに感覚を共有したりといった事も可能だったので、連絡機器が発達していなかったこの世界において、僕と洋輔はタイムラグなく情報を他方と共有できることもあってかなり有利な立場にあった。
有利ってじゃあ何と、という話をすると、まず僕たちは異世界にきた時点で魔神と呼ばれ、魔族という種族を束ね、神族という脅威から魔族を守るべく奮闘することになったのである。つまり有利というのは、神族と比べたとき、僕たちは殆ど即座に遠く離れた二つの地点での出来事を観測できるという意味での有利だ。
その一番解りやすい結果が、ハヴェスタ大戦と後に呼ばれる大戦争である。
ハヴェスタ大戦は魔族が神族に対して行った大規模な反攻作戦であり、これによって魔族は神族軍を撃破、一気に前線を押し上げることに成功した――まあもっとも、神族軍はとある理由で兵力が恐ろしいことになっていて、その前線の押し上げまではともかく維持は難しいと僕と洋輔は魔族の側近達と結論、結果、僕と洋輔の精神共有を利用したスパイ行為を僕が行うことになり、洋輔は後方で魔族を取り仕切り、僕は神族の領域を奥へ奥へと向かって、そしてついに辿り着いた神族の首都で、神族の首魁と出会った。
その神族の首魁は女の子だった。
それも僕や洋輔とほとんど同じ境遇の女の子で、その子の名前はソフィアという。
ソフィアは地球の独逸生まれで、異世界への移動も僕たちと同じ二回目と、色々と似通った部分が多かった。
帰還には条件が付けられてるところまで一緒だったしね。
だから、というか何というか、僕は一目で彼女が同類であることに気付いたし、彼女も一目で僕という同類が突如現れたことに気付き、そこから色々あって秘密裏に協力することになると、僕と洋輔がこの世界に移動してきてから実に十八年かけて神族と魔族の和平に成功。
これによって僕も洋輔もそしてソフィアも帰れるのだろう、と思っていたのだけれど、世界は結局動いてくれず、どうやら帰還の条件がまだ満たされていないのだろうと判断。神族と魔族の和平からさらに五年ほどの月日が経過した後、技術部門が宇宙というものに関心を抱いた。
そしてそれを知った僕たちが色々と無理をして宇宙に対して信号を送ったり受け取ったりするアンテナを作ってみたりしたところ、思いのほかあっさりと別の知性体からの信号を受信、それに伴い洋輔が一つの仮説を出した。
即ち、僕と洋輔、そしてソフィアがこの世界から帰還するための条件は、この惑星の神族と魔族を和平させることでは無く、宇宙という規模でその種族を守ることなのではないか。
事実、それを裏付けるかのように最初の交信から僅か二年後、神族と魔族の暮らしていたその星は大規模な宇宙船団に包囲されていた。
宇宙船団の代表を自称したカ・ルマルというその知性体は、結晶体のような身体をしていて、その知性体曰く僕たちを含む神族や魔族は大分送れた文明だったらしい。ちなみにこの時点で僕たちは電話をようやく擬似的に再現出来たあたりなので、反発どころか三人で揃って納得していた。
そう、そこまでは納得していたのだ。ただその後、カ・ルマルは一方的な服従を要求した。神族と魔族というこの惑星の知性体の統治権と、この惑星の全資源をカ・ルマルが属する種族に引き渡すようにと告げ、地表に向かって砲撃を行ったのだ。
咄嗟に洋輔が防衛魔法を展開し、それを補強する形で僕とソフィアが支えたことでその砲撃が地表に到達することは無かったけれど、これによって神族と魔族にとって、カ・ルマルを含むその知性体、『フェン』という種族を敵対勢力と断定。
こちらにはあまりにも貧弱なテクノロジーしかなかったけれど、それでも恒星間戦争が発生したという認識のもと、僕と洋輔、ソフィアは全力を尽くし、その結果惑星を包囲していた宇宙船団の撃滅に成功……同時に十四隻を鹵獲、鹵獲した宇宙船は概ね三種類に分けられること、そして動力として核を利用していることなどを確認し、僕が主導する形で魔族と神族の技術部門を総出で解析、技術吸収に躍起になった。
その一方でソフィアは鹵獲した宇宙船から回収した『フェン』種族の遺体を解剖・調査し、洋輔は『フェン』本国ならぬ本星に向けて宣戦布告を受け取った事、壊滅させたこと、今後敵対関係として扱う事を宣言しつつも外交チャンネルの確保を目指したんだけど、僕たち三人は三人とも完璧な仕事とは行かなかった。
まず僕は鹵獲した宇宙船とほぼ同等の機能を持つ艦船を作成しうると判断したけど、核はちょっと使いにくかったし、かといって事実上の半永久機関であるインフィニエの杯では出力が足りないという問題に直面し、それを強引に解決した結果なんか基となった艦船とは別物になってしまった。まあ別に良いんだけど……。
次にソフィアは『フェン』種族がそもそもどういう生き物なのか全く理解できないと言っていた。まあ、身体のあり方がそもそも違うのだ。当然と言えば当然だけど、『どこからどこまでが内蔵でどこからどこまでが体表なのかが解らないどころかそもそもどこが身体でどこが衣服なのかも解らないしそもそもそういう区別があるのかどうかも解らないわ……』と完全にさじを投げていた。
そして洋輔も、『フェン』と最低限の意思疎通には成功したものの外交チャンネルの確保には至らず、結果、そこから数週間ほどで第二波として改めて惑星を包囲されてしまったという次第である。
仕方ないので全部轟沈させた。
そして第三波が来て……。
そんな事を何度も繰り返し、二十三波を壊滅させたところでやっと『フェン』が諦めてくれた。というかようやくさじを投げてくれた。この頃になるとさすがに鹵獲してきた宇宙船の数も多く、世代も進んでいたため、魔族と神族の技術部門は僕や洋輔、ソフィアの助力が無くとも宇宙船を作成・運用する技術を獲得し、これによって僕たちの惑星も宇宙時代に突入したのである。
宇宙時代に至った頃になると、魔族と神族はかつて戦争していたという事実を踏まえた上でも既に良き同胞となっていた。とても良好、理想的な関係になっていたと言って過言では無い。そして、『フェン』から鹵獲した宇宙船内部に入っていたデータなどから宙図を抽出していたため、ある程度の周辺知識を最初から持っていた。更にいわゆるワープ技術もこの段階で初期的なものは実現していて、応用的な部分の研究も始まっていたなどなど、順風満帆に事は進んだ。
で、現状では『さじを投げた』だけで特にこれといって和平をしているわけでも無い、そして通信に答えるそぶりも無い『フェン』をどうするか、という話になり、これに僕、洋輔、ソフィアの総称である『三神』は放置で良いんじゃ無いかと提案したものの、やっぱり興味というものはあったし、『フェン』が支配している宙域への軽い侵攻作戦が実施され……、結果から言えば、『フェン』はどうしようもない状態だった。
その後、『フェン』の本星からいくつかの情報を獲得し、この世界、この宇宙を構成する勢力を確認したところで僕たち三人が検討した結果、他には特に達成するべき条件らしきものも見つからなかったので、ならば宇宙統一くらいしか帰還条件になり得るものがないのではないかと結論、宇宙の天下を取るべくそれぞれがそれぞれに奮戦し、最終的には四百七十年ほどかかったものの、なんとか宇宙統一に成功。
途中何度か危険な場面が無かったわけじゃないけど、僕や洋輔、ソフィアというちょっと『ずる』をできる三人が居る時点で完全な敗北はありえないのである。誰か一人がいれば他勢力による全力攻勢を凌ぐ程度は容易だし、それをたたき伏せることだって条件や相性次第では出来てしまうほどだったからね。
そして。
そう、そして、僕も洋輔もソフィアも、結局帰還は出来ていない。
少なくとも宇宙統一というのは間違いだ、というのが僕たち三人が出した回答であり、じゃあ他に出来るべき事はあるか、そう考えたものの、僕たち三人ではもはや他に回答を出すことが出来ず、結局、最終手段を取ることとなった。
僕がペルシ・オーマの杯という道具を作り、それを使ったのだ。
ペルシ・オーマの杯。『強制的に望んだ結果をもたらす』というその道具は、その代償として見知らぬ誰かの犠牲を強いる上、どのように結果が起きるかもいまいち解らない。そしてその道具の性質上、この道具による犠牲がどのようなものであるかが検証できていないこともあって、いまいち使いたくは無かったのだ。
けれど他に手もなかった。ラストリゾートという似たような、『過程は選べないけど結果は起こせる』魔法があるけれど、その魔法を使えるのは僕だけで洋輔には使う事が出来ず、当然魔法という技術形態を覚えたばかりのソフィアにも使う事が出来ず、そして僕にしたって僕たちが今回求める結果を得るためには魔力が足りないようで不発に終わってしまった次第である。
だからペルシ・オーマの杯を使った。望んだ結果というのは『帰還の条件を知る』ことだ。帰還そのものを望むことも不可能では無かったけど、その場合は正規の方法とは違った別の手段での帰還になってしまうだろうし、そうなれば僕たちを世界から別の世界へと異動させたあの存在との契約を違える形になるだろう。そうなったとき、僕たちが本来の世界に帰れたところで時間が大きくずれてしまったり、世界という単位で見れば帰れたとしても地球に帰れないなんていう恐れもあったので、ギリギリ許されるだろうという範囲が『帰還の条件を知る』という結果である。ゲームでもよくチートコードを使って自動勝利を実現するとフラグ回りがバグって大変なことになったりするし、だから勝利条件を参照したとも言う。
で、僕たちが得た結果と僕たちに課された代償は次の通り。
まずは結果から言おう。それは『世界単位でどうにかする』――『世界単位で平和の状況を作り出す』である。つまり宇宙統一というのはあながち間違いでは無かったわけだ。ただし、そこに付帯する条件として『全ての知性体が種族として残っている状態で』、という一文があった。で、この時点で『フェン』以外に僕たちが確認していた神族と魔族を除いた知性体は全十一種属、そしてそのうち『フェン』と『バート』という二種属はほぼ絶滅状態、残る九種類も大分種族として弱っていた。
弱っている種族は強めてやれば良い。それはまだなんとかなる。ただ、ちょっとやりすぎた感は否めない――僕たちが支配下に置いてからはともかくそれ以前は全力で打ち破ってたし、神族や魔族、そしてそれを率いる『三神』は他種族からかなり警戒されていた。表面上は僕たちによる支配を受入れていてもその内心から信服されていたとは言えなかったし、そんな状況ではいつか反乱が起きるだろう。つまりその時点で平和にすることは極めて困難、という結論をソフィアと洋輔が出し、僕は別の理由からそもそも条件を満たすことが不可能だ、という根拠になりかねないものを発見してしまった。
それはペルシ・オーマの杯を使った代償。代償として消費された見知らぬ誰かは、あろうことか知性体の一種、『バート』という種族そのものだった。
つまりこの宇宙上から『バート』が完全に消えてしまったのだ。それもまるで『存在していなかった』かのように――遺体一つすら見つからなかった。この緊急事態に際して僕達は遺伝子型をなんとか手に入れようとはしたものの全く見つからず……、つまり、代償として奪われた可能性が高いと認識。
事実、この宇宙上から『バート』という種族が消え去ったことが判明し、宇宙の平和をもたらすことは出来ても付帯事項である『全ての知性体が種族として残っている状態で』が達成できない状態になってしまったという有様である。
だから僕達は、僕達自身でそれを成功させることを諦めた。この状況ではだめだ、ならばどうするか? リセットするボタンも存在しないのに。
それでも『事件が起きる前に戻す』というのは有力な方法だった。
ワープ航法の研究の途上で、いくつか無茶をすればそれが時間軸に対しても擬似的に適応できることが解っていた。それはかなりの無理を必要とする、成功率は存在するだけマシという有様の技術だったけれど、そこに僕と洋輔とソフィアが干渉することで成功率を可能な限り高めて、疑似時間航行を実行。
……成功したのは僕だけで、洋輔とソフィアが今、どうなっているのかは解らない。
さらに時間航行の結果、一体僕達がどの程度の時期に来ているのかも解らない。星図などを頼りにして算出した結果、まだ大決戦すら起きていない時代である事は解ったのは幸いだ。僕が知り得た情報を彼に伝えることが出来れば、きっと彼は成功させてくれるだろう。
ただ根本的な問題として、当時の神族や魔族が存在していた星がどこにあったのかについての記録が無かったのだ。とはいえ、逆に言えば記録されていない宙域に恐らくはあるはずだと機械的に調査をして……。
宇宙の隅から隅までを探し直し、り八号と仮称が付けられたそこでようやく僕は彼を見つけた。
あとは彼に合わせて僕らも対応を取り、そして僕らの意図を彼が察してくれるのを待つだけだ。
僕のことは僕が一番よくわかっている、はずだし、大丈夫だとは信じてるけれど……彼と僕が必ずしも同じように考えてくれるかどうかが鍵になるんだよな。
念のために何か手を考えておこう。




