36 - 突撃! 神族秘密基地
今回使うもの、は手持ちにないので、作る事にする。
本来ならば僕の場合でもそれのマテリアルとして要求されるのが『アネスティージャ、毒消し薬、ストロー、空気、うちわ』である。調達が難しいのはアネスティージャ……つまり透明なエッセンシアくらいで、毒消し薬は一般的なそれで良い。またストローは厳密には筒なら何でも良いし、空気は空気。うちわも扇いで風を起こせるものならばなんでもいい。
ちょっと面倒なので換喩を使って大分強引に、かなり簡単なマテリアルで代用することも出来るけど、そうすると品質値が結構ばらけちゃうんだよね。ということで大人しく全部普通に準備。
(…………。好奇心には勝てねえから聞くけど、その代用ってのは?)
方法はいくつかあるんだけど、一番面倒なマテリアルであるアネスティージャ。でもアネスティージャは要するにエッセンシアの一種だ。
(ああエリクシルあたりを換喩すると)
それも手だね。そっちなら品質値もある程度任意にできるかも。
(は? ……別なもんで換喩するのか?)
血を換喩する。
(血?)
赤いエッセンシア、エクセリオンは『あらゆる血液の代替品』という性質を持つ道具だ。だから、エクセリオンは血と言い換えることが出来る。
(嫌な予感がするんだが……)
つまり『エクセリオン=血』なのだから『血をエクセリオン』として、さらに『エクセリオンがエッセンシア』とし、『エッセンシアはアネスティージャ』、つまり血がアネスティージャによって代用できるわけだ。
(なんだその滅茶苦茶な考え方は……)
いやあ僕も出来るとは思ってなかったんだけど、一度試したら出来たんだよね。流石に血がアネスティージャそのものになるわけじゃない。錬金術のマテリアルとしてそう見做せるというだけだし、結構不安定なのでそこまで自由に使えるもんでもない。例えば凝固体の材料にするとかは流石にちょっときつい。詳しくは換喩術が占有する――
(ああうん……もういい。いいからさっさと済ませろ)
――聞いてきたのは洋輔なのになあ。
まあいいや。
というわけで、『アネスティージャ、毒消し薬、ストロー、空気、うちわ』――を、空に浮かんでいる大きな雨雲に付与する形で錬金。ついでに雨雲の密度を変えてあげれば、無事に雨が降り始めた。
といっても、ざあざあと降るようなものでもない。多少濡れるな、と思う程度である。
(……それ、結局俺はいまいち効果をしらねえんだけど。つーか道具の名前も良くしらねえぞ。一応説明できるんだろうな)
道具自体は僕のオリジナルだからなあ。名前らしい名前はないよ。
暫定的な名前のままだと……ぼんやり薬?
(なんだその妙な名前は)
その名の通り摂取した生き物が『ぼんやり』するって薬だよ。原理としてはアネスティージャの完全な麻酔を『意識』にかけてる感じ。
名前の通り『薬』なので毒消しでは消せないことに注意するべし。それと一定以上、具体的には7000を超える品質値を持ったものを摂取した場合、ぼんやりしすぎて呼吸が止まることがあるので更に注意。流石に不随意筋までは制御しないから死ぬことはないけど、軽い窒息状態が断続的に起きると後遺症が残る可能性があるよ。
(名前にしては悪辣すぎねえかな? あとそれ、お前はどうやって無効化してんだ)
『ぼんやり薬』の反対を作れば良い。『はっきり毒』と名前はまた暫定的なものだけど、これを摂取しておくことでぼんやり薬は中和できる。但しぼんやり薬と中和させない場合ものすごい元気になるので注意だ。もっとも、こっちは毒なので毒消しで消せるけどね。
(ああうん……うん? いやそれ、どういう道具だ? ヤバイヤツじゃねえの?)
そうでもないよ?
材料はカフェインだし。
(まさかのエナジードリンク理論かよ)
なんとかなったのだ。
(なったのだ、って……。まあいいや。それで、そのぼんやり薬とやらを雨に混ぜて超高域に散布しているって感じか?)
ん……八割正解かな?
(あれ、二割は?)
雨として降ってくるのは当然だけど、水滴が跳ねたり色々あって極小の粒子になるんだよね。で、それが空気中に広がってる。
要するに雨粒を避けたところで無意味と言うことだ。それに空気の循環がされているところならば問答無用で全部に掛かる。
(……それは、その薬限定の技術か?)
いや、概ね全部の薬や毒でできるね。
モアマリスコールとかでもできるよ。
(やるなよ?)
解ってるって。
それにこの薬、効果時間はそんなに長くないからね。
具体的には一時間程度しか効かない。
(……あれ、以外と短ぇな)
長くしようと思えば出来ると思うけど……ね。
まだ暫定の名前が付いてないことからも解るように道具としては未完成なのだ。
完成した暁にはちゃんとネーミングをする予定ではある。
(完成した場合、見込める効果時間は?)
最長で永続。品質値で時間を決めるのが原則で、それプラス、補正値次第で永続とかそういう条件付けしようかなって。
(便利そうだからこそやめろ。お前がそれを使いこなし始めると手が付けられそうにない)
まあ洋輔なら割とどうにでもしそうだけど。
最近の洋輔のリザレクション、毒を消すだけじゃなくて薬の効果も消せるみたいだし。
(あれはリザレクションじゃねえ、クリアリングという別の魔法だ)
ああ、そうなんだ……そりゃそうか。
とまあそういった所で、もうそろそろ全域に効果が発生した頃だろう。
なので施設に潜入する。
というか、普通に正面の門から入る。
警備をしていた門番は全く反応しなかった。まあ門はあるんだけど、鍵は掛かってなかったので重かったけど持ち上げれば問題なし。
門を潜った先は地面が石畳で綺麗に整備されている。そんな整備された空間の先には、ちょっとした砦のような施設――が、二つ向かい合ってる感じかな。二つの施設は渡り廊下のように簡単な屋根で繋げられている。どちらも構造的には同じに見えるな。左右反転すらしていない、コピーアンドペーストしたみたいな感じ。百八十度回転させているだけで。
ま、とりあえず片方の扉を開けてみる。門と違って簡単に開いたな、施設内は特にセキュリティ的な保護は薄いのかな。あるいは生き物に任せているのか……。
少し進めば結構な人数とすれ違う。武装している者は滅多にいない、大体は普段着だ。そして警備をしていた門番も含めて全員光輪がある。やっぱりといえばやっぱり、なんだけども。
施設内の地図とかないかな。……ないよな。
そしてまだ代入術のマテリアルとしても認識できそうになかったので、適当に探索を続行……していると明確に厳重な扉を発見、開けて中に入ってみると、その中はもの凄く狭い部屋だった。
…………?
まあすぐに扉があるので潜って、更に奥へ。
ちょっと明るすぎるくらいに明るくされた、巨大な地下室……が、見える。
目算、この施設……というか砦というか、それよりかは広いな。ひょっとして上では二つの建物に別れてるけど、地下では繋がってるのか。
地下室といっても高さは四十メートルくらい。地下施設といった方が良いかな。そこらの城と同じくらいの容積はあるだろう。
そんな地下室の奥底では、さっきまではおそらく普通に動いていたんだろうけど、いまはぼんやりとして動かない光輪を付けた神族が大量に。
(台無しだな)
さらにそんなぼんやりとして動かない神族達の手元にはばらばらに分解された、恐らく魔族の身体の部品が。
(めっちゃ光景的にはグロそうだな)
うん、正直遠慮したい。なので精密な表現はしないよ。
どうしても詳しい状態を知りたいなら視界を共有して欲しい。
(誰がするか、誰が。俺はそういうの苦手なんだっての)
僕だって得意じゃない……ってこれはこれで何度もやったな、後回しにしよう。
色々と視認していけば、大雑把に施設の概要も見えてくる。
要するにライン工だなこれ。
(ライン工?)
うん。
やってることは……えっと、オブラートに包むと、魔族の死体がまずあるでしょ。
で、その死体を分解す一段階目。二段階目でなんか液漬けにして、三段階目で瓶詰め。四段階目でその瓶ごと籠に入れて、五段階目で加熱……かな、で六段階目で冷却して、七段階目で瓶の中から液体を取り出し。
眼鏡の『機能拡張:魔素色別』によると、死体の段階では『魔質/伏』、それが加熱の段階で徐々に『魔地/起』に変わって、冷却される頃には完全に『魔地/起』……というか、液体が『魔地/起』になってるな。なるほど、『魔質/伏』を『魔地/起』に変換する機構である、と。
となると……うん、概ねに解析は出来そうだ。
けれど熱だけで変換が出来るとは考えにくいし、あの液体に秘密があるんだろう。
そこまでを確信したところで、僕は施設を出る。
として門から外に出て、施設から距離の離れたところに腰をかけた。
あの液体の正体が何れあれ、やっぱりあの正体は魔素に関するもので違いない。
他にもここまで手に入れることが出来ていた情報から鑑みれば、
であるならば、ちょっと救いもあるな。
そんな事を感を交えつつもこの施設の本質は魔族の死体からリソースを回収する機構であると断定。そして取り出された『魔地/起』はというと、律儀に貨物として梱包され、運び出されているらしい。んー。
(ま、ある意味前進だな)
洋輔の問に僕は頷く。
ま、あんまり長居をしてもしょうが無い。
他にもギミックらしいところは確認してから、少し考えることに。
魔素の取り出し。概ね方法も予想した通りではあった。
あの液剤、ひょっとして明星閃光から生成できたアレと同質だったりするのかな?
サンプルとしてちょっと貰っておくか。但し魔素関係は察知される恐れがあるので、
(ああ、こっちに直送するのな)
うん。洋輔の手元じゃなくて『ロジスの槍』で指定されてる領域に直接入れておく。
(ん、なんでそっちなんだ?)
なんでって毒性がないとはまだ断言できないし、そうでなくともその魔素の場所を特定する技術がないとも断言できないでしょ? だからだよ。
ロジスの槍は指定した領域を共有するようなものだ、場所の特定をしようにも『複数の座標が重なって』表現されるだろうから、混乱させることは出来ると思う。
そしてロジスの槍の外側と内部は原則として隔絶された状況にある。たとえロジスの槍の中が猛毒で満ちていようとも、ロジスの槍を破壊したところでその中の猛毒は漏れ出すことがないほどに。そういう意味で考えれば絶対的な安全なのだ。その分取り出しとか投入には錬金術が必要ってだけでね。
(……なーるほど)
なので液体各種を瓶と錬金して、瓶詰めの液体に変換しつつロジスの槍の中にぽいぽいと入れてゆく。こんなものかな……いや、二重化ができるかも試したいから一セット作っておこう。今度こそ良し。
あまり長居は出来ないので、他にやることがないかをきちんと確認。通常の色別で色を確認、赤がない事を確定。うーん。やっぱり必ずしも神族が僕たちにとっての敵対関係じゃないんだよな。それにどうもかみ合わない手筋に、強引では済まないような現実。
……これは、当たりかな。
もはや後は一気に寄せると決めた以上、数日内に一つの結論は得られるだろう。長居は出来ないけれど、焦る意味も無いのだ。
というわけで施設面を改めてざっと確認。
品質値も一通り確認して、全体で見れば特に異常なしっと。
品質値7000の品物がごろごろしているというのは本来であれば異常……とまではいわずとも、珍しいことだ。とはいえ国家の研究機関とか、そういう類いのものならば揃えうる最高品質で作るだろうし、これはそういう事なのだと思う。
あるいはもう一つの可能性かな?
(つまりお前じゃない錬金術師がいるってことか?)
それならまだマシかもね。
(……は?)
どうもこの施設にせよいつぞやの十二万の兵にせよ……いや、まだふんわりとしてるんだよな。もう数日まってて。
(……緊急性はないんだな?)
緊急性があるとしたらもうとっくに手遅れだし、ないってことにしておこう。
(オッケー。それとこっちからもちょっとリクエスト、確認したい事があるんでさ、その施設内の適当なやつが着てる服をこっちにもよこしてくれるか)
手元でいい?
(ああ)
それじゃあたまたま目の前に居た神族、凶鳥のような翼を持つこの人の服をふぁん、と二重化。二重化する際片方を洋輔の手元に位置をずらして、っと。
(サンキュ)
けど、なんで?
(いや、『外』の連中の服はお前が真似して作ってくれたけど、『内』の連中はどんなもんかと思ってな。かといって視界を共有するのは今は嫌だし)
…………。
まあ、解るけども。願って見たがる人はさほど多くないだろう。少ないなりにそういう好みの人も居るだろうけど、洋輔の趣味じゃないもんね。
(そういうこと……だが、この服、何製だ? フェルト地ではないよな。コットン地っぽくはあるが……)
……コットンかなって僕も思ったんだけど。
(……聞かなきゃ良かったぜ。いずれ突きつけられるんだろうから大人しく聞いてるけど。材質はなんだ?)
たぶん、ポリエステル。
(は? ……いや、それってたしか人工繊維だよな?)
うん。
生産している工場なんて無かったと思ったんだけど……、ここにある以上、どっかで作ってるのか。まさか自然に取れるもんじゃないとは思うから、意図的に造られてるってことは違いないはずだ。
(……その辺も含めて、解りそうか?)
僕たちの想像がどこまで当たってるか、そして当たってた時にどこまで上手く行くか、だけど……。
不安がるだけじゃしょうが無い。
(……ん。じゃあ、神都に直行か)
そうだよ、と答えつつ、僕は施設から外に出る。
まあ……概ねの内部構造は把握できた。魔素以外では妙な事をしている様子はないし、特に細工は要らないだろう。
少なくとも現時点で『相手』はまだ、絶対的な敵ではないかもしれないのだから。




