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善悪綯交夢現/原罪情勢夢現  作者: 朝霞ちさめ
第三章 魔神が忍ぶは神族の
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32 - 見て知る彼らの技術力

 二日。

 厳密には十六時間で僕は神族の領域に侵入、プラス二十六時間を移動することでついにまともな街に到達することに成功した。

 さすがに休憩無しなのでめっちゃ眠い。

(寝てこい)

 いやあ時間的にはまだお昼だし。

(は……? いや、もう夜だろ?)

 いやいや……洋輔、時差。時差があるんだよそっちとこっち。

(…………。あー。当然か)

 解って貰えて良かった。

 というわけでこっちはお昼なので、普通に街に忍び込むというか入り込むというか、自然と訪れる感じにしてみよう。服はその辺の子供が着ていたものを模倣したし、眼鏡をかけている人もちらほら見かけるから、不審がられることもなさそうだしね。

 街には特に門番のようなものは居なかった。検問らしきものもなく、入場審査のようなこともなく、普通に入れてしまう。なんだか拍子抜けだけど、考えてみれば魔族の街でもまともに入場審査があるのはベルガくらいなんだっけ。

(一応イリアスも滞在期間の確認くらいはしてるらしいぜ)

 初耳だった。

(俺は三回ほどお前に説明している)

 多分寝てたね。僕。

 もしくは興味なし情報として右から左に抜けていったのだろう。

(おう、今は遠いから無理だが帰ってきたら説教と体罰な)

 いや体罰の宣言はどうかと思う。

 あとついでだから視界を共有して欲しい。

(ん)

 というわけで改めて街の外観を確認しよう。

 街の道は石畳で完全に舗装されている。石畳の材質は恐らく花崗岩だ。

 次に家屋は概ね木造建築だ。一部煉瓦造りに見える建物もあるけど、木造建築の壁に煉瓦のタイルを貼るというおしゃれタイプっぽい。

 で、等間隔に置かれている街灯はほんのりと明るくなり始めている。明かりは……正直に言おう、火ではない。

 そして品質値が表示できたので、魔法と言うことでもないようだ。

(……そうか)

 水回りはそこまで発達していないね。水道の概念はいつぞや覗き見たときもそうだったけど、現代的な水道とは言いがたい。それでも水道橋を敷いてるし、井戸以外にも貯水槽はある。

 他に気になるのは……。あれかな。

(塔だな)

 うん。

 ただ、品質値がちょっとおかしい。

 他の建物が3000とか、良くて4000ちょっとなのに、あの塔だけで見ると12000くらいがある。流石に三倍とか四倍となると何らかの違いがあるってワケだ。

 ちなみにその塔は石造りで、所々に金属質なものも見えるな。補強してるのか、それとも別な理由があるのか……。塔の頂上付近には大きめの鐘が吊されている。ただし解りやすいアナログ時計はないな。

(わかりにくい時計があるみたいな言い方だが)

 日時計っぽいものがさっき広場にあったでしょ。

(いやそこまで気は向けてなかったぜ)

 じゃあ改めてそっちに視線を移して、と。街の広場、の中心には細い柱がある。そしてその周囲には色をあえて変えた石畳が敷かれていて、その石畳の隙間が丁度目盛りのように見えないこともない。

(確かにそう言われてみりゃ日時計……か?)

 影法師型にしてぇあ中央の柱が邪魔だけど、まあ、たぶそういう用途だとは思う。そしてそれなりに精度はありそうだ。

(ふうん……?)

 まあ夜だから確認出来ないけどね。

(明日の朝だな。……宿屋っぽいのはあるのか?)

 一応あそこに何かあるから、そこかな……。

 不審がられないように猫被らないとね。猫居ないけど。

(ああ。やっぱいねえのか)

 狼なら居たよ。

(ああうん……)

 羊も居たよ。

(……わかった。わかったから。猫がどっかに生息してることを俺も心の底から念じておくからさっさと進めろ)

 はあい。

 と言うわけで宿屋らしき建物へと直行。そこには『ルーフ飯店』と書かれた看板があった、正解のようだ。

(いやそれレストランじゃねえの?)

 洋輔。飯店はホテルだよ。

 ということで入場してみると、やっぱりここはホテル……というか旅館かな、みたいな感じだ。

 旅館と言っても老舗旅館とかそういう感じではないけれど。

『……おや、坊や。どうしたんだい? ……大分疲れているようだけれど』

『すみません……僕、ずっと南西のほうから歩いてきたんですけど、どうしても都に行かなければならなくて……』

『南西……って、え? あの被害地帯から?』

 僕はできる限り深刻な表情を浮かべて頷く。

『お父さんから伝言を頼まれたんです。絶対に直接、上の人に言いなさいって言われました。……でも、ずっと歩いてたら、もう疲れ切っちゃって』

『それは大変だ……ううんと、怪我はしていないのかい?』

『なんとか……ですけど。その、あんまりお金持ってないんですけど。休憩だけでも良いんです。少し、休ませてくれませんか。少し風から身体が守れるならば、それで十分ですから……』

『何を言ってるんだい、そんなことならばちゃんとした部屋で休まないと、この後続かないよ。今日は空き部屋もあるし、そこを使わせてあげよう』

『で、でも、お金が……』

『いいよいいよ、坊やは頑張って歩いてきたんだろう。ならば今度、余裕が出来たときに思い出したら心ばかりに届けておくれ。それで十分だ』

『あ……ありがとう!』

『どういたしまして。さて、部屋に案内してあげようね。ご飯は? お腹はすいていないかい?』

『それが、ちょっと……でも、今はそれより眠くて……』

『とはいえ何も食べないのは問題だね。スープを出そう、それを飲んでから寝るようにしなさい』

『なにからなにまで、……本当に、ありがとうございます!』

『いいんだよ。坊やのような頑張りやさんを応援しないなんて、私の性根が許さないわ』

『助かります。……あの、明日、起きてからですけれど。出来ることは限られていますが、お手伝いをさせていただけませんか?』

『あはは、お気持ちはうれしいけれどね。坊やには一刻も早くその情報を神王様に伝えなければならないという役目があるんだ。さっきも言ったけれど、今度余裕が出来たときに、思い出したら心ばかりに届けておくれ』

 話ながら案内された部屋は大きな部屋だった……そんな大きな部屋にはベッドや家具が一通り置かれている。ベッドの横には休憩用の衣服まで準備されている始末……前言を撤回しよう、やっぱりここ、老舗旅館の類いだ。

『それじゃあ少し待ってておくれ、すぐに暖かいスープを準備するからね』

『はい。ありがとうございます!』

 お辞儀をすると、案内をしてくれたその人はそそくさと一旦去って行った。

 ……ううむ。なんというか――

(…………。いやいやいやいや。お前今、心理誘導(いいきかせ)とか何もしてなかったよな? え、何? ぞっとするほど妙に神族って優しくねえか?)

 ――だよねえ。

 神族全体じゃなくて、たまたまこの宿の店主さん……でいいのかな、あの人が優しかっただけかもしれないけれど。

 まあいいや、若干薄気味悪いくらいだけど、ここは好意に甘えておこう。

 重要なワードも解ったし。

(神王様……ね)

 うん。一般的かどうかはまだしも、それで通じるって単語なんだろう。

 神族の親玉。王。まあ、神王と名乗るのは至極当然とも言える……ちょっと言葉が強すぎるように感じちゃうけどね。

(日本語的にはな。神の王なんて言ったらゼウスとかの域だからなあ)

 ま、その辺の言葉遊びもあるいは関係あるのかもしれないけど、現状ではそういう特別な意味合いには感じなかった。そもそも僕たちだって魔神なのだ、大して気にすることでもあるまい。

 洋輔と意思疎通を図りつつ、とりあえず着替えを手に取る。ついでに部屋の中を一通り確認、大丈夫、赤判定はなし。品質値も概ね平常。

(概ね?)

 いやまあ、電気があるからそれをどうしたもんかなーって。

(……種類は?)

 幸いというべきかなんというべきか、白熱灯だね。

 蛍光灯やLEDではないことは確かだよ。

(本当になんというべきかだな……)

 あとはコンセントもないし、家庭用の電化製品って考え方はなさそうかな?

 あくまでも明かりだけ……とか。少なくとも一般向けに解放できるほど電力は確保できていないか、あるいはそもそも加工技術が無いのだと思う。

(『そうであってほしい』、だろうに)

 まあ、うん。

 可能性としてはこの辺は辺境だからいまいちインフラが整っていないだけで、親玉のお膝元はもろに機械や電化製品が勢揃いとかもありうる。

(だとしても、どうやって発電してるんだかな。それが解れば多少は状況が見えるかもしれねえけど)

 あんまり期待しないでね。

 洋輔のことだから解ってて言ってるんだろうけれど、今洋輔がいる城に導入してる電気の発電機はインフィニエの杯っていう飛んでも道具であって、普通の……というか、科学的な発電方法じゃない。

 神族も同じように……いや、まてよ。

 魔素を利用した発電というのが可能なのかな?

(無理とは言えねえだろうな)

 だとしたら、僕たちが思っている以上に大事が起きてるかもなあ。

 といったところでスープが到着。

 コンソメ風のスープにはにんじんやベーコンが入っていて、とても落ち着く味わいだった。

『食べ終わったら食器は部屋の外に出しておいてくれればそれで良いからね。ゆっくりおやすみなさい』

『はい。ありがとうございます』

『うん。それじゃあ、また明日』

 ……そそくさと戻っていったのは、僕に対して配慮をしてくれたってことか。

 それはとてもうれしいけど、ベーコン。

 ベーコンかあ。

(思ってた以上に……)

 食生活がいい、よね。

 ちなみに味付けも含めてパーフェクトと言いたいほどにほっとするような感じ。

 洋輔も食べたら普通においしがるタイプだろう。

(食いてえな)

 作ろうか?

(いやお前が作ったやつは確かに美味いんだけどな。そうじゃなくて)

 だろうね。

 きちんと全部を平らげて、ごちそうさま……っと。

(魔族も大概に偏った進歩の仕方をしていたが……)

 神族も大概なんだろうね。

 それはたとえば食事であり、あるいはこの部屋であり。

 ちなみにこの宿屋、木造建築ではあるのだけど、所々でネジもある。特に家具類。

 魔族の魔王城にあった『見せかけネジ』じゃなくて普通のネジ――きちんと規格化されてるっぽいな。

 但しネジの規格化はされていても品質値には大分ばらつきがあるから、機械的な量産だとしても機械がそこまで精密ではないのか、あるいは作ってる機械が複数あって、その複数の機械の間で世代に差があるか、そのあたりかな。

 現代的な感覚から言えばまだまだ発達していない。

 けれど近代的とは言えそうだし、魔族とは明確な差がある。

 僕たちが殆ど初手に近い早さで統一規格の導入を決めたけど、それでもどれほどノウハウに差がでているやら……。

(その当たりの心配は俺がしておく。とりあえず今は休息しておけ)

 そうだね。そうしよう。

 食器は外に出しておいて、洋輔、一旦おやすみなさい。

 洋輔の返事を待たずにベッドに身を投げ出し、そのまま目を瞑る――眠気に身を任せて、そのまま眠る。


 そして翌朝。

 目を覚まし、朝の空気を感じつつ、僕は不意に外を眺める。

 晴れ渡る空……但し、少し風が強いようだ。

 洋輔は……寝ているっぽいので諦めて、普通に起き抜けて軽く準備運動をし、部屋を出ると宿の店主さんの基へ。

『あら、おはよう』

『おはようございます。おかげさまでよく眠ることができました』

『それは良かったわ。……朝食も食べていきなさい、って言いたいところだけれど、急ぎだものね。ああ、そうだわ』

 と。

 店主さんは少し待っていてね、と言って裏手に向かい、そしてすぐに帰ってきた。その手の中には布に包まれた箱がある。あれ?

『これをどうぞ。中にはサンドイッチが入ってるわ』

『い、良いんですか?』

『もちろんよ。あまり量はないかもしれないけれど……ごめんなさいね?』

『そんなことはありません! 本当に、何から何までお世話になりっきりで……』

『良いのよ、良いのよ』

 そう店主さんは笑って言う。

 どこまでも人が良い。これは神族としてそういう傾向があるのは間違いなさそうだけど、その中でもこの人は特段すごいって感じかな……。

『とはいえ、神王様がお住みになられている神都まではかなりの距離があるわ。何日かかるかもわからない。……私に出来ることは本当に少しだけね』

『それでも、僕はとても助かりました』

『ふふ、それは良かったわ』

 いや、本当に。

 箱を受け取る。ずっしりと重たい、かなり詰め込まれているようだ。

 大きさもそれなりにあるし、数食分にはなりそうであえる。

『ここから先の旅路も、頑張りなさい。神王様にお会いになって、伝えなさい。きっと神王様は、すぐに応じてくれるはずよ』

『はい。……頑張ります!』

『ええ』

 気をつけて。

 行ってらっしゃい。

 そんな暖かい送り出しを受けて、僕は宿を後にする。

 ルーフ飯店。

 覚えておこう、神族にいずれ反攻作戦を執るにしても、この街は襲わない方向で。

 朝の街に出ると、そこはなかなかの活気に包まれていた。

 中央通りらしき場所では朝、市場もやっているようだ。

 僕はまずそちらに向かい、雑貨店を探す……と、すぐに見つかった。

 そしてお目当ての品物も見つけたので、強引にふぁんと完成品を二重化、一つを手元に作り出しておく。

 お目当ての品物とはこの街周辺の地図だ。

 この周囲における大都市までの道のりは詳細に書かれていて、その先、神王がいるらしい神都の方角も記されている。

 そしてその名前も。

 地図に書かれた神都の名は『イェルス』。

 ……どこかで、聞き覚えがあるような?

余話:

なおくん全凸ヤッター!(30位代)

そしてSRにゃんすもヤッター!(こっちはただの10連)

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