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善悪綯交夢現/原罪情勢夢現  作者: 朝霞ちさめ
第二章 魔神も加減を考えろ
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31 - 魔素についての中間報告

 明星閃光から二十七日。

 形式的な祝祭を形式的に行ったり、洋輔は洋輔で円卓のようで全く違った組織を作り始めていたりしている間、僕はといえばいまいち進展がなかった。

 いや一応、錬金超等術に改良は出来たんだけど。具体的にはこれまで剣気のものしか作れなかったけど、今は壁気や発気にあたるものも作れるようになっている。計算式そのものにはさほど変化がない、どころか全く変化がないのにある程度指定できる当たり、かなり曖昧なものなんだろうと洋輔に語ったところ、

『いやお前の場合は換喩なり生成なりで色々と強引に成立させてるだけだぞ』

 と突っ込みを受けた。

 否定しきれなかった。

 閑話休題、この二十七日間で僕があげた成果は、残念ながらそれくらいしかない。

 そりゃ魔族に配る道具だとか前線、海岸線近くへの城砦の作成、補給用超等品の準備と実演による戦闘員への指導とかもやってるけど、指導に関しては一度ずつ見せただけだしな。さっさと前線に入って貰わなきゃまずいってことで。

 まあそういう停滞にも近しい状態ではあったけど、それでも明星閃光から二十七日という今日を迎えるまでにおいて、神族はリアクションらしいリアクションをしていない。一応、例の城砦を簡単に整備して根拠地としたり、その根拠地から派遣する形で壁の調査はまだやってるけど、それだけ。特にそれ以上の行動は起こしていない――海も含めて異変はない。

 洋輔に言わせれば『神族は当面魔族を放置することにしたんだろう』って事らしい……けど、実際には放置というよりも『後回し』だろう。なんかそんな感じの……言っちゃえば場当たり的な対処って感じがありありとしている。それが許されるだけ兵力に遊びがあるというか、殆ど自由に使えるって事なんだろうなあ。羨ましい。

 ってまた思考が逸れている。ともあれ、じゃあこの二十七日間にも及ぶ時間を僕はただ超等術だけで遊んでいたのかといえば、それもまた当然違うわけで。

 僕が本格的に調べていたのはあの明星閃光をマテリアルとして作り出した道具の性質や、明星閃光という現象で引き起こされたあの極光現象ならぬ発光現象に関する事だ。それによって本体の位置を特定できれば最高だったんだけど、さすがにそこまではたどり着けなかった。残念だ。

 けれど、全く進展が無かったわけでもない。恐らく本体は『さほど遠くはない』、けれど『普通は意識もしないところ』にある。というか候補地は二つに絞った。

 問題はそのどちらにも現状では到達しようがないと言うことだ。片方はあるいは頑張ればなんとかなるかもしれないけれど、もう片方については手の施しようがない。

 ので、本体の位置や本体がどのようなものであるかについてはこの際二の次にして、あのマテリアルとすることが出来てしまった発光現象に関する調査や、完成品として出来てしまったものの分析を深めた結果、少し奇妙な現象を見つけ、それを色々とつつき回していたらとある可能性が見えてきた。

「魔素の正体?」

「正体っていうか性質だね」

「性質……」

「うん。ちょっと複雑になるけど、これが現状での仮説」

 というわけで洋輔にレクチャーついでに自分でも改めて整理をしてみよう。

 まず、魔素と僕と洋輔が言っていたものは実は二つの段階があって、その全てが『魔素』という一つのリソースだ。

 名前は仮称、適当に付けただけなので追々大分変わるとは思うけど、具体的には『魔地/起』と『魔地/伏』、『魔質/起』と『魔質/伏』があって、これらを全て『魔素』と呼んでいたと考えて欲しい。

 僕が調べた範囲では、魔族は生命活動において『魔地/伏』を材料として『魔質/起』を生成している。生命活動ってふわっとしてるなあとも思うけど、『消費カロリー』に依存しているようだ。ここで生成された『魔質/起』は原則体内に溜まっていくようだ。上限は今のところ見つかっていない。

 で、『魔質/起』というものはリソースとして消費することでちょっとした現象を引き起こせる。それは個体・液体・気体などを操作するといった『塊』種のそれや、重力・引力・斥力などを操作するといった『凶』種のそれの事だ。

 そして消費された『魔質/起』は『魔質/伏』という状態に変化する。変化するだけで体内には残るというのがポイント。

「…………? 『魔質/伏』は何が出来るんだ?」

「『魔地/起』に変換できるんだよ」

 そして『魔地/起』というものをリソースとして消費することでも何かが起こせるらしく、それを行うことで『魔地/伏』に状態が変化する。僕はこのあたりに神族に神通力のリソースがありそうだと考えているわけだ。

「……えっと?」

「つまり、魔素は循環するタイプのエネルギーとして使えるんだ。実際にはロスもあるだろうから永遠に稼働は出来ないだろうけど、かなりエコ」

 『魔地/伏』は『魔質/起』に。

 『魔質/起』は『魔質/伏』に。

 『魔質/伏』は『魔地/起』に。

 『魔地/起』は『魔地/伏』に。

「……んーと、じゃあ質問だ。『魔地/伏』を『魔質/起』に変換するのは魔族の生命活動だって言ったけど、それはつまり魔族に特殊な器官があるってことか?」

「うん。解剖図にはなかったんだけど、ちょうど人間でいうこのあたりにあったよ」

 僕はそう言ってシャツをめくり、お腹を出す。そしておへその上に指を三本分はかって、その上をつん、と突く。

「ただ、洋輔が想像してるような内臓じゃないけどね」

「ん……? じゃあ何があるんだ?」

「赤か青かは人に寄るんだけど、入れ墨みたいな痣があった」

「……痣」

「パトリシアにも聞いてみたんだけどね。『概ね魔族はその痣を持って生まれて、死ぬまで消えない』そうだ」

「死ぬまで消えない、って……死んだら?」

「消えるんだよ、それが」

 魔族にとってそれは当たり前だった、だから解剖図には特に記述もなかったんだろう。

 僕たちからしてみれば異常なんだけど。認識の齟齬というものはいつまで経っても埋められそうにない。

「痣は消える。但し魔素は消えない。身体に残るんだ。但し……」

「……『伏』状態になる、か?」

 先回りするような洋輔の確認に僕は頷くことで答える。

 そう、そしてそこまでが解れば概ねの想定ができる。

「神族は『魔質/伏』を『魔地/起』に出来る何かを持ってる可能性が高いな」

「だよね。でも捕虜達を検分しても特に、痣とかはなかったんだよね」

「未知の内臓器官もなかったんだろ?」

「うん」

 ちなみに未知の内臓器官がないって断言をどのように行ったかというと、まさか生きている捕虜でやるわけにもいかなかったので、生きている捕虜から髪の毛をちょっと拝借し、そこからその神族の捕虜の身体だけを作成。

 錬金術で作った身体には魂魄がない、死んでいないだけの人形だ。とはいえ可哀想なので透明なエッセンシア、アネスティージャによる完全麻酔は行い、その上で色々と中身を確かめた。ちなみに洋輔はこれの最初の内は立ち会ってくれてたんだけど、途中で吐きそうになってそのまま緊急脱出で離脱、二度と参加していない。

「俺はああいうリアルにグロいの苦手……」

「待って。僕も得意じゃないってば。語弊があるよ。僕は血が好きだからまあいっかって割り切れるだけ」

「いやその理屈はおかしいだろ。猫が好きだからって猫を喜ばせるためだけにセミを……、…………、お前なら取ってくるな……」

 そういう事だ。

 ちなみに神族だけじゃなく魔族の身体でも試している。協力して貰ったのはノルマンだ。そしてノルマンと全く同じ痣が発生したことや、生きている間は痣が残っていたこと、そして身体的に死亡した時点で痣がすっと消えたことや、それ以外に特段奇妙な器官がないことは確認済みとなっている。

「……お前も容赦しねえよな」

「地球じゃできないからね、こんな経験」

「やっぱり楽しんでるじゃねえか」

「血をね」

 内臓はどうでも良い。

 まあその辺は議論にならないので放っておいて、神族はどうやって『魔質/伏』を『魔地/起』にしているのかについては、だから解らなかった。

 それと、だ。

「神族にとって魔素が毒っていうやつ。具体的にはどこが毒なのかも検証してみたんだけどね」

「おう。どうだった?」

「『魔質』がダメみたい。『魔地』は大丈夫」

「……ふうん? ちなみに魔族にとって『魔地』は?」

「特に毒性反応はなかったよ」

 なるほどな、と洋輔は頷く。

 そしていよいよ、その質問は紡がれた。

「そのリソース、俺らに使える余地はあるか?」

「残念ながら直接は無理だね。再現――あるいは、エミュレーションならば出来るかもしれないけれど、少なくとも生身じゃ無理。神族がどうやって『魔質/伏』を『魔地/起』にしているのかが解れば、解決……僕たちにも直接行使できる可能性はある」

 うんうんと数度洋輔はうなずき、数秒目を瞑って――そして、改めて僕に視線を向けてくる。どこか決意を帯びた目だ。

「『生成』側の佳苗でさえもそうやって一段落できたって事は、いよいよ決まりか。となると次は……」

「そうだね。あとは洋輔を介して座標をずらした錬金術でも十分にいけるし……それに、あの大雨も収まったみたいだし」

 だから僕も力強く頷いた。大丈夫だよと、そう告げるために。

「そろそろ神族の領域に、殴り込んでこようと思う」

「空からか? 海は使えねえしな」

「途中まではね。一つ街に入れたらそこからは原則陸路かな……変にリスク背負うのもおかしな話だし」

「だな。ま、何かあったら緊急脱出だ。調整は済んでるし……」

「そうだね」

 ちなみに緊急脱出の魔法の調整は二日ほどかかった。それでも洋輔が僕を、あるいは僕が洋輔を強制的に緊急脱出させることができるように改変することに成功した。

 ……まあ若干の制約というか、副作用みたいなものもできちゃったけど、まあいつか直そう。いつか。

「早めに地図を手に入れられるとでけえんだけど、どうだろうな」

「この前覗いた限りだとお店で売ってそうなんだよね。ちょっと高そうだけど」

「金銭的にはお前なら問題ねえか」

 そういうこと。

 問題は金銭的ではなく外見的な問題だ。

「外見ねえ」

「幸い、一般的な神族は人間とほぼ同じらしいから、それで大丈夫だとは思うんだけれど。それでも子供の一人旅は目立つかなあって」

「目立たないと考える方が無理だろうな。対策は?」

「身長を伸ばす薬とか作ってみる?」

「お前ならマジで作りかねないから困るんだけど、えっと、ジョークの方だよな?」

 うん。

 というかこのジョークが通用しない当たり、

「洋輔、緊張してる?」

「……まあな。なんだかんだ色々対策を立てたとは言え、お前が一人で切り込んでいくと考えるとちっとさすがに不安にもなる」

「信用無いなあ」

「違う。お前の心配はしてねえよ」

 あれ?

「つーかお前を心配するだけ無駄だろ。俺が心配してるのはアレだ、お前が一人で切り込んでいくことで一時的にとはいえ魔族の連中を俺が制御しなきゃいけないってこと――お前と違って俺はなー。これって感じの明確な異常性みたいなのを見せられてねえから、あいつらたぶん俺のことを舐めてるぜ?」

「いいじゃん、変に警戒されるよりさ」

 それに……。

「洋輔も最近、どうもハルクラウンと仲が良いみたいだし」

「仲が良い……とは違うんだけどな」

 あいつが一番使いやすいんだ、と洋輔は内心で呟いていた。

 気持ちは分かる。ちょっとおだてれば体外のことはやってくれる軽率さと、それを実現出来きるだけの能力もあるし。

「ま、何かあったら脱出ってのは原則として。俺とお前の間ならば共有領域でどこでも会話は出来るな」

「うん。僕は特に塞ぐつもり無いから、いつでも好きなときに吹っかけて良いよ」

「俺もだ。今更隠し事をする場所もねえし」

 …………。

 異論は無いけど、その言葉、地球では言わないで貰いたいところだ。変な偏見で見られそうだし。

 そう言うと、洋輔は違いない、と言って苦笑した。

「佳苗」

「ん?」

「一つ提案がある。共有領域を介した感覚の共有について、一つな」

「何かな」

「痛覚だけ、常に双方向に開いておこう」

 痛覚?

「……なんで? いや別にいいけど、触覚とかの方がよくない?」

「いやそれはちょっと。風呂入ってるときにお前が外で活動してたりすると服を着て風呂に入ってるような気分になるからやだ」

 あ、うん。

 ものすごい素朴に拒絶された気がするけどごもっともだった。

「痛覚ならばお互いに異常がおきたらすぐに把握できる。それこそ思考するよりも先にだ」

「そう考えるなら確かにメリットだけど、デメリットも多くない? 僕がちょっと怪我したとき、洋輔は無傷でも痛いよ?」

「その程度なら御の字だけどな。お前が道ばたで野宿してる間に馬に轢かれたりして激痛を感じるのは多分俺だけだし」

「いやいや。さすがに僕もそれは痛いと思う。起きたらだけど」

「せめてその痛みで起きようぜ……」

 結局あれこれと言い合いはしたけれど、別に僕にとっても依存のない提案だったので、それを受入れることにした。普段は基本的に気にしないで言い感覚というのも有るけどね。

「で、佳苗。いつ出発するんだ?」

「そうだねえ。……出発前にちょっとパトリシアにお願いしたいことがあるから、そのお願いをして、その後一段落してからかな。……僕がいない間、ごめんね。負担を全部かける」

「ふん」

 僕の言葉に、けれど洋輔はつまらなさそうに息を吐いた。

「そもそもお前、内政方針の決定とかの周りだと何一つとして手伝ってくれねえじゃねえか。何も変わらねえぞ多分」

「…………」

 何も言い返せない……。

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