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善悪綯交夢現/原罪情勢夢現  作者: 朝霞ちさめ
序章 二人と二人
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-1 - まずは部屋から始めよう

 考えていたところで解決するわけもないので、とりあえず意思疎通を試みることにする。とりあえず『それ』とか『何』とか『私』とか、その辺の単語が分かればちょっと無茶も出来るし。

(無茶?)

 まあそれはそれとして、目の前の女の子を順番に指さしてみる。大丈夫だよね? 指をさすのが宣戦布告のサインとかそういう文明じゃないよね? とりあえず防衛魔法の展開は準備しておいてっと。

「えっと、名前を教えて?」

 通じるかな。通じないだろうなー。

 そう思いつつも察しが良い人であることを願ってみると、

『私……、でしょうか?』

 と、片方が言った。

 そうそう。頷いてみると、

『私はアンサルシアと申します』

 と言って、もう片方も続くように、

『イルールム、と申します』

 と言った。

 オーケイ、最低限の単語は聞き取れた。

 そして文法はほとんど日本語と同じかな。英語よりかはまだ日本語に近いタイプで、たぶん主語の省略も多い。

(ぶっちゃけ聞く分には受動翻訳があるから問題ねえけど、喋る方がつらいな)

 全く以てその通り。でも聞くだけってのも問題だし。

(そりゃそうか)

 というわけで、『私は』、と言ってみる。反応があるかな? ……あった。驚いているようだ。

 あとは文字か。

 適当にその辺にあった紙を錬金術を使って手元に寄せて、ペンはそれこそその辺にある素材から勝手に作成。渡来佳苗、と名前を書いてみる。

(漢字はキツイと思うが……)

 ものは試しだ。

 名前を書いた紙とペンを、ええと、アンサルシアだっけ。

 そっちにい渡すと、アンサルシアは困惑を強く浮かべた。

『私は』

 名前を書いたところを示すようにしてあげて、っと。

 これで『私は』を意味する言葉の文字を書いてくれると良いんだけど。

『契約、と言うことでしょうか?』

 しかし彼女はそう答える。そう来たか。いや契約の概念があるのはちょっと嬉しい。

(そこそこ文明が発達してるわけだしな)

 そういうこと。

 でもなあ。なんとか『私は』って所を書いてほしいんだけど。

 と思ったら、イルールムだっけ、そっちが紙とペンを奪い取るようにして何か文字を書いた。書かれているのは『私は』、ナイスフォローだ。

 あとは受動翻訳の魔法とかを混ぜて、そこに概念として変換した日本語の知識をフルランゲージマテリアルとして認識、さらに受け取ったメモをマテリアルに指定して、ふぃん、と錬金術。

 はい、発音辞書の完成。

(ねーよ)

 いや作れるんだよこれで。

(いやそうじゃなくてドン引きだよってほうのねーよって意味な。冬華が知ったら殴りかかってくるぞ)

 冬華は異世界にまでついてきてないからセーフ。

 とりあえず中身を確認っと。

「ああ、主に発音なのなこれ」

「一応文字も書いてあるけどね。それと全部の単語があるわけじゃないよ、旅行者向けの『頻出用語ノート』程度しかない」

「それでもないよりは便利だな。一冊よこせ」

 そんじゃあふぁん、と品質値を弄るついでに完成品を二重化。これでよし。一冊を洋輔に渡して、っと。

 もうちょっと読んで、一通り覚えたので後は実践。

『こんにちは』

 僕がそう言ってみると、二人は驚いたような表情を浮かべ、けれど『こんにちは』と声を合わせて答えてきた。よかった、通じた。

『言葉はよくわからない。少しなら話せる。聞く方は理解できるんだけど。……通じた?』

『言葉が分からない、けれど単語単位でならば話すことは出来る。ただし、私たちの言葉は理解できる、ということでよろしいでしょうか』

 それでよろしい。満足して頷くと、安堵の息を吐く二人だった。

 そして二人は、

『それでは、つくりかみ様。うせのかみ様。どうか』

『どうか私たち、魔族をお救いください』

 と順番に言う。

 はて……、

『つくりかみ、うせのかみ……?』

 たぶんそれ、僕たちの事だとは思うんだけど、どういう意味だろう。

「ああ」

 と、しかしまるで理解したかのように洋輔は頷いた。

「いやほら、つくりかみがお前でうせのかみが俺だな、その場合だと」

「なんで?」

「お前の特性が『生成』だろ。で、俺は『削除』」

「それは分かってるけど……つくりかみは『作り神』とかそのあたりだけど、うせのかみはどうなるの?」

「『失せの神』で、なくすって意味じゃねえの?」

 ああ、そういう受け取り方があったか。納得。

 一応確認しておきたいけど。

「それもそうか、えっと――」

 洋輔は少し目を瞑って、

『つくりかみ。うせのかみ。とは何だろう? 魔族についても知りたい』

 と聞いた。

 すると洋輔の問いかけに答えたのはアンサルシア、のほうで。

『まず魔族とは、私たちのような存在のことです。次につくりかみ様とうせのかみ様ですが、それは「二重魔神」の言い伝えにおいての魔神のお名前とされています』

『魔神……?』

 あ、強烈に呆れながら洋輔が僕を見てきている。いや僕は魔王だけど。

 …………。

 僕のせいっぽいなあ。

 お手上げだ。

『わかった。歴史とか記録とかをくれるなら協力するよ。必要っぽいし。じゃあ……』

 ま、青判定だ。

 この子たちは味方だから、とりあえずピュアキネシスで剣をでっち上げて、その鋒を窓の外へと向ける。

『敵っぽいのは排除する。それでいい?』

 少し怯えたように二人がこくりとうなずく。あれ、怖かったかな?

(そんなことは無いと思うが……世界が違うからな。多少価値観は違うかも)

 それもそうか。気をつけないと。

『では、記録を準備いたします。暫くお待ちください』

 うん。

『お荷物は片付けま――』

『まって。その猫グッズは僕のだから』

 盗む気じゃないだろうな。

 鋒を向けて威嚇しておく。

(おい。さっき怖がらせないように気をつけなきゃ的な事考えてただろう)

 それはそれこれはこれ。

(相手もそう考えてくれりゃあ良いけどな……)

 まあ、

『出過ぎた真似をしました。大変申し訳ありません』

 とかしこまりながら頭を下げてきたので威嚇だけだけだ。

(ちなみに盗んだ場合は?)

 刺すよ?

 その後ちゃんと治すけど。

(より拷問的で悪辣じゃねえか)

 え、じゃあ治すなって言うの? 可哀想じゃない?

(まず刺すなよ)

 ごもっとも。

 とりあえず剣は消して、っと。

『僕たちはどこで生活すれば良いの?』

 最低限これは聞いておかないと。

(ああ、忘れてた)

 洋輔……いや何も言うまい。

 そんな僕の問いかけに答えたのはイルールムの方。

『この部屋をお使いください。もしくは、お二方で別の部屋を準備いたしましょうか?』

『いや、それには及ばないよ。ありがとう』

『はい』

 というわけでこの部屋を貰った。

(王様の部屋って勝手に使っても良いのかねこれ)

 王様いないっぽいし別に良いんじゃない?

 アンサルシアとイルールムが一度部屋を出て行ったところで、とりあえず使い勝手の良いように部屋を改装。

 ベッドは……、

「別にいいよね。一個でも」

「つーかでかいからなベッド。俺とお前で寝てもすっげえ広いぞ」

「たしかに。一通り作るもの作るから協力よろしく」

「おう。代わりにに俺のも作ってくれよ」

 もちろんだ。

 まずはベッドの変更から。天蓋は要らないので外し、地球における現代的な、ちゃんとマットレスを敷いてる方のベッドにする。これでやわらかふかふかベッドだ。枕は二つ、僕用と洋輔用。ちなみに僕は固めの枕が好みで洋輔は柔らかめの枕が好みという違いがある。また、洋輔の枕には特に模様を付けていないけど、僕の方には猫の足跡を模様のように付けておいた。満足だ。

 次に布団、これは元々の素材がよかったので、ちょっと形を整えるに止める。ついでに二重化して僕と洋輔で一応掛け布団をそれぞれに使えるようにしたけど、一枚は折りたたんで足下に。原則は一緒で問題ないだろう。

 その次はソファ周りかな。

「んー、ちっと硬いな」

「じゃあふわふわがいい?」

「そうだな」

 洋輔の望み通りにふわふわソファに作り替えて、っと。これでよし。スプリングも使い、またクッションも配置しておいた。で、僕たち用にテーブルの高さを変更した上で、

「……透明なテーブルも要る?」

「俺はあってもなくてもいいけど」

「それじゃあ一個でいいか」

 僕が使うので適当にピュアキネシスで透明な天板を使ったテーブルを作成、足下はキャスターを使って簡単に移動できるように工夫。これでよし。

 あとは机の上に置く小物入れや簡単な雑貨類、これも全部ピュアキネシスなので材料費はただ。節約は大事なのだ。とりあえず最初の方は。

 最後に手持ちの薬草からさくさくっと薬草生成セットを作成、いつものように植木鉢を使った観葉植物への偽装を行って机の上に配置。これで薬草は使いたい放題になったから、血などを特異マテリアルとして用いて重の奇石を二つほど作成。

「待て。毒はどうした。毒が無いと確かエッセンシアは作れねえよな?」

「洋輔。酸素って生物的には大抵の場合で毒素なんだって」

「…………」

 以上、説明終了。

 で、完成した重の奇石も使って、もともと置いてあった食器から半ば強制的にフルメタルマテリアルを作成、その他の材料もそろえてストラクトの杯を二つ作成。

 次にストラクトの杯を使ってエッセンシア凝固体の赤である重の奇石、青である賢者の石、そして白の天の魔石から『赤+青+白』の鼎立凝固体を作成、ストラクトの杯の一つ目はこれで消滅。とはいえ以降、重の奇石の『完成品を二セットにする』効果、賢者の石の『品質値を6800上昇させる』効果、天の魔石の『品質値を30000に固定する』効果が使い放題に。

 残ったストラクトの杯の品質値を変更しつつ重の魔石の効果を使って二倍化、これでストラクトの杯がもう一個できたので、今度は『赤+黄+灰』で鼎立凝固体を作成。これで重の奇石と天の魔石の効果を同時に適応できるようになったから、色々と組み合わせて鼎立凝固体スターターセットを作成。

「スターターセットっていうかアレだよな。構築済みデッキ、チャンピオンモデル。しかもそのままで基本は最強的な」

「ブースターパックで違う色の組み合わせを用意すれば場面に合わせてたカスタマイズも出来るよ。基本が万能だからそれでいいけど」

「やっぱりそれスターターセットじゃねえって……」

 どうせ錬金術は僕しか使わないのでどうでもいいけどね、そのあたりは。

 さて、このあとはもうやりたい放題だ。

「ていうかお前にそれを作らせたが最後、もう本当にコストの概念がなくなるもんな」

「理想は完全自動化なんだけど」

「悪用されそうだなあ……」

 それが怖いんだよね。

 ともあれ家具を全体的に僕や洋輔にとって都合の良い形に作り替えて、せっかくなので猫グッズは開封し、使えるものは使うことにする。お皿とかマグカップとか。

「皿はともかくマグカップは便利だな」

「あとは灰皿とか」

「たばこは二十歳になってからだ」

 というか室内禁煙だ、と洋輔は言った。

 そういう問題でも無いと思う。この世界ってたばこあるのかな? 少なくともこの部屋にはなかったけど。

「いや本当にたばこ吸う気かよ」

「まさか。あれ、種類にもよるけどマテリアルとして優秀なんだよね。葉っぱで煙りで毒で薬、さらに分散とかの特異マテリアルにも使えるし」

「知りたくない情報だったぜ」

 改装を続けよう。クローゼットも僕たち向きの平積み方、いわゆる箪笥に作り替え。いちいちつるすのはめんどくさい。

 あとは衣服の類いも先に作っておく。もともとあったクローゼットには大人用の豪華な服が入っていた。やっぱり王様の部屋だったんじゃ?

 マントとかもあったし。

 あとは備品として鎧と剣。兜には穴が開いていて、ちょっと謎だったんだけど、ああ、角が当たるところかと理解。

 で、鎧や兜、剣の材質なんだけど。

「鉄か?」

「一応鉄だとは思う。青銅じゃあないね。ただ、品質値……ていうか純度がかなり低い。粗鉄って感じ」

「ふむ。銀のスプーンっぽいものもあったけど……」

「アレも純度は低かったから、やっぱり製錬技術はそこまでって感じじゃない?」

 加工技術はかなり高い、と思う。錬金術に類するものがあるにしては手作り感がすごいし、ちゃんと職人が作ったんだろう。

 ただ、金属加工は難しいとみた。難しいなりに全く出来ないわけじゃないけど、柔らかい金属はともかく硬いのは扱いにくいのだろう。

 ちなみに置かれていた剣は研ぎ澄まされてる感じだけど、切れ味はさほどよくなさそうだ。重さで殴る運用かな?

「あとはトイレとお風呂……だけど、トイレはともかくお風呂あるかな?」

「トイレも水洗かどうか。魔法的なものがあるならなんとかなりそうだが」

「最悪上下水道の概念があればでっちあげるし、なければそこから作るかあ」

「お前のそういうサバイバル精神なんだか現代への甘えなんだかよくわかんないのは本当になんなんだろうな」

「いやあ。だって」

 便利なほうが楽じゃん?

 僕がそう答えると、洋輔はなんとも形容しがたい表情で頷くのだった。

 どちらにせよ。

「前回とは色々と勝手が違うみたいだし、最低限、僕たちの身体がどの程度おかしいのか……とか、そのあたりは確認しないとだね」

過去情報Tips:

魔法…集中力を魔力として運用する魔法。発想と連想による効果の発揮を行う。

魔導師…一部の血液型を持つ人。上記魔法に強い適性を持ち、高難易度であるはずの魔法の行使を容易にしている。

剛柔剣…第六感あるいはそれ以上の感覚。あらゆる動きを矢印として捉え、その矢印の向きや軌道を書き換えたり、根元を付け替えたりすることで干渉をも可能としてしまっている。鶴来洋輔にしか本来の意味でのこれは扱えない。


錬金術…感覚によって何かと何かから別の何かを作り出す技術。本来は鍋で行うぐるこん式だった。

錬金術師…上記錬金術を扱える人。感覚に依存するところが大きく、その才能は特別な物とされる。

エッセンシア…錬金術師が目指すべき到達点。色毎に恐ろしい効力を発揮する。詳細は白黒あとがき参照。

エッセンシア凝固体…上記エッセンシアが固体として成立しているもの。詳細は白黒あとがき参照。

エッセンシア陰陽凝固体…上記エッセンシアの二種類が決して混じり合わず、しかし両立している状態で固体として成立しているもの。効果に幅が出来た。

エッセンシア鼎立(ていりつ)凝固体…上記エッセンシア三種類が決して混じり合わず、全て共立している状態で固体として成立しているもの。対応する色のエッセンシア凝固体が持つ特異マテリアルとしての効果を、自身を消費せず発揮することが出来る他、第三法と呼ばれる技術の道具にもなるらしい。


……我ながら長えな!

次回から本編です。

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