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善悪綯交夢現/原罪情勢夢現  作者: 朝霞ちさめ
第一章 魔神は利便性を尊ぶ
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17 - 魔神は派手を好むにしても

 何をもって派手として、何をもって地味とするかについては人に依るところが大きいと思う。けれどあえて洋輔は、できる限りの派手を、と、リクエストしてきた。

 これはつまり、『事案』ではなく『事件』でもなく『異変』でもなく『大惨事』をそこで引き起こせという事に他ならない。

 単純な殺害ならばその調査は事案として簡単に終わってしまう。だから事案ではいけない。

 奇怪な事件ならばその調査は多少慎重になるかもしれない。だけどあまり時間を稼げない。

 明確な異変ならばその調査に相応の時間を掛けるだろう。けれどそれは魔族の関与を強く疑わせるだろうし、その結果魔族が何か変わったと悟られかねない。

 だから大惨事を引き起こす。

 どのみち魔族は疑われるだろう。けれどその疑いを確たるものにしてもなお、手を出せないようにしてやるわけだ。

 言うは易く行うは難し、だけれども。

 洋輔には僕の工房に一度移動して貰いつつ、洋輔の視界から位置を確認。マテリアルを認識……行ける。錬金術を実行、むぉん、と大剣をいくつか作成。

 錬金超等術によって得られる超等品の効果も結局、一度使ってみるまで正しい効果は解らない。けれど効果の絶対的な量は、概ね品質値にも反映されるようだ。いずれはちゃんと超等品用の数値として可視化できるようにしたいけど、優先度としては結構先かな。

 で、いくつか、といいつつ十七振り、同一形状の大剣を作ったわけだけど、品質値は見事にばらけている。錬金超等術によるブレ、というわけだ。殆どのものにおいて品質値は七万程度。けれど二本ほど、おかしな数字があった。一つは二十三万八千、もう一つは四十一万六千。

 当然後者の剣を選び、残った十六振りの大剣は改めて『ふぁん』と材料段階に還元させつつ、完成品を『自分の手元』の『自分』に換喩術を掛け、『同一の感覚を持つ』から『自分』と言えなくも無い『洋輔』の手元に書き換え、洋輔の近くに完成品を発生させる。

(ああ……あの馬鹿げた遠隔錬金って一応そういう原理だったのな)

 そりゃそうだよ。ある程度完成品の位置がずらせるとはいえど、せいぜい視界とイコールくらいが良いところだろう。けれど換喩術を使えばちょっと無理が利くというだけで。

 …………。

 いや、他の錬金術師に知られたら何を言われるか解らないけど。

(自覚があるのは何よりってことだな)

 閑話休題。

 手元に残った大剣の疑似超等品作成に使った宝石はアメジストだ。紫色の宝石なので、色計算によれば火や水の効果が出る可能性があり、また紫単体として得られる効果もあるような気がするけど現状では不明……まあ、今回はその例外なのでどのみちどんな効果が出るかは解らない。

 それでもその効果量は確かだと考えて良い……はずだ。まあ最悪ダメなら別な方法をいくらかとれば良い。

 そして準備は以上。もはやこれ以上に何かをする必要は無い。

 森をかき分けるように進み、駐屯地のある丘の下へと移動……見張りの数人くらいは居るかと思ったけど、居なかった。居たところでやることに違いは無いけれど……。

「どんな武器になっているやら――」

 大剣を構える。

 『理想の動き』を最大値で、完全な形で適応させて、左下から右上へと斬り上げるように動かす……とても重たい、そう思った。大剣の刀身は青紫色の光がぎゅっと集まるように染めてゆく。いや、直後に刀身が真っ黒に染まっ……た、かと思うと、血のような赤から橙、黄、緑、藍、青、紫、白、とめまぐるしくその色を変えてゆき、最終的には色が無くなくなった。

 敢えて表現するならば黒になるのだろう。けれど黒という色ではないような、そんな色がそこには詰まっていた。もう振り抜く寸前なんだけど……、これ、大丈夫かな? なんか駄目な奴じゃ無い? いやもう遅いけど。

 身体はあくまで僕の指定通りに、理想の動きを最大値、完全な形として再生し、疑似とは言えど超等品として性質を十分以上に獲得していた大剣の効果を完全に発揮させたらしい。


 ど ぅ ん っ、


 と、空気を裂くどころか空気を圧縮して放出したかのような、そんな音が周囲にはじけた。空気が震えるどころか、空間が震えたようにさえ感じ、た瞬間、大剣からその奇妙な色が一瞬のうちに消え去り、大剣の斬撃の先、丘に風圧かなにかで多少の傷を付け……、あれ?

「…………?」

 これだけ?

 不発……、ということは無いと思うんだけど。明らかに今、何かが起きた。

 けど効果らしい効果が解らない、というか……丘にちょっとだけ風圧の痕跡はあるけど、それだけだし。

(なんだ、ハズレか? もう一度作り直してやり直すならさっさとやれよ、音はしてたみたいだし不審がられる……)

 それは……と、その時だった。

 空が暗くなったのは。

 いや、空が暗くなったんじゃ無い。周囲が暗くなったんだ。

 もともとまだ夜明け、そもそも明るい時間じゃ無いけれど、それでも明確に暗くなっている。

 そして次の瞬間、逆に周囲がものすごく明るくなった。

(…………)

 洋輔。見てる?

(……ああ、見てる。えっと……言いたいことはいくらかあるが、とりあえず無事に帰って来いよ)

 はあい。

 果たして、僕の目に映っているものを簡単に説明すると、まあ、流星群のようなものだ。

 つまり太陽のあかりを遮る形で流星が大量に落ちてきたから、暗くなった……の後、それが大気に突入して火球現象を引き起こしつつこちらに落ちてきていると。

 つまりこの大剣に付与された超等品としての能力は流星落としなのだろう。

 まさかメテオなんてものを魔力を使わずに使えるようになるとは……。

 正直威力を確かめたいような気はするけど、地表到達時点で直径がメートル単位はありそうな流星……というか隕石というか、それがざっと見積もって三百くらいは落ちてきているので、威力を確かめようとここに残るとちょっと無事で居られる気がしない。完全エッセンシアの完全耐性でガチガチに固めれば耐えられるとはおもうけど、そうすると僕がいるところだけ無傷とか言う状況になるからな……。

「吾輩は猫である、」

 まあ、あとで上からまたのぞき見よう。

 そう決意して、緊急脱出のワードを紡ぐ。

「名前はまだ無い」

 ぱちり、とまばたきをするよりも前に、僕の視界はがらっと切り替わって……見慣れはじめた城。

 時差があったのか、城にはすっかり朝日が差していた。

『…………? つくりかみさま、お帰りなさいませ?』

『ああ、ただいま……早速で悪いんだけどイルールム、お願いがあるんだ』

『なんなりと』

『前線付近でちょっと色々とやらかしちゃって、神族側は当然だけど、魔族側もちょっと消耗してるかもしれない。その当たり把握してくれる? それとあと数十秒……いや、数分かな、ともあれ地震がおきたりすると思うから、それの被害報告もお願い。魔族の勢力圏全体で』

『は、はあ……。えっと、何をなされたのですか?』

 それはなんとも、ごもっともな反応だった。

 そして僕も一体何をしでかしてしまったのか、いまいち即答に困る。

『……まあ、作った剣を振っただけなんだけど』

『はあ……』

『ちょっとそれで隕石が大量に落ちてきて……』

『はあ……?』

『いやまあ、神族は暫く混乱すると思うから。うん。アンサルシアとかリオとかにも手伝わせて。というかハルクラウンにせよノルマンにせよパトリシアにせよ、全員総出でやって。被害が無いならそれはそれで良いけれど、被害があるなら治して回らないと……』

 神族側の方はやらないけれど、魔族側のほうはやらないといけない。

 そんなことを強引に納得させると、ぐら、と地面が揺れた。

 ああ、やっぱり地震になるかあ。そうだよなあ。

 海には落ちてないから津波はないだろうけど、それがなんだというのだって感じもする。

『…………、地震……』

『……あの距離離れててこのくらい揺れるのか』

 暫く揺れが続き、そして収まった。震度二あるかどうかという小さな揺れではあるけれど、そもそも地表で起きるタイプの地震の揺れがこの距離にとどくのかと考えるとちょっと疑問符も付くんだよな。ひょっとして隕石でちょっと地滑りでも起こしたかな? あるいは断層を刺激して本格的な地震になったか。

『この大剣は封印だな……』

 首を振りながらイルールムに丸投げをして、僕はそのまま城の中へと歩みを進める。ようやく揺れも収まってきた。ううん……、魔族にそこまで被害が出ていないことを祈るばかりだ。

「自覚がある分まだまだマシだが、加減を覚えろよ加減を」

「いやあ。とびきり派手にってリクエストもあったから、とりあえずの全力全開でいいかなって……」

「……まあその点、確かに俺にも過失はあるか」

 いや洋輔に責任は無いよ。

「実際この後どうするつもりだ? まあリクエスト通りと言えばリクエスト通り、向こう半年は神族としても被害の確認に追われると思うが、こっちも同じだけかかるんじゃ意味が無いぞ」

「片っ端から塗りつぶすように治して回るから……二、三ヶ月もあればこっちは問題ないと思う」

「ならばアドバンテージは二、三ヶ月か」

 いやあどうだろう。

「何が」

「アドバンテージとは言えないかもしれないって事……魔族についてはいくらか言い訳ができそうだけど、神族の連中、もしかしたら調査を放棄するかもしれない」

 とりあえずあれを天災であると仮定して貰えたとしても、その天災の調査をするためには目の前の魔族が邪魔になるだろう。後顧の憂いならぬ眼前の憂いなのだ、先に叩き潰してからゆっくりと調査をした方が良いと考える可能性もあるわけだ。

 叩き潰すと行っても完全に滅ぼすまでは行かず、もっと領域を押し込むって考え方になるだろうけど……神族としても魔族の滅亡は都合が悪そうだし。

「一時的な停戦協定を持ちかけてくる可能性は? 神族の連中、おもったよりかはまだ話が出来そうだったよな」

「一方的に勝ちって状態なのになんで敗者の要求をのむ必要があるのかって世論になる場合がどうしようもないよ……」

「それを政治が抑えるかもしれないぜ」

「政治で抑えようとしても軍は反発するかもしれない」

「そうだな。けどこうも考えられる。大規模な自然災害に対して、最低限敵対勢力への備えはするが、それ以外の兵は全兵力を持って復興作業にあたれ……って命令が出るパターン」

 希望的観測の域を出るかと聞かれると微妙なところだなあ……。

 まあいいや。

 やってしまったことは仕方が無い。どうフォローをするかを考えよう。

「思ったよりも神族はシステマチックというか、事務的というか。現代的とは言わずとも、近代的な組織系統がありそうだった」

「だな。そこを上手く突けるか……。それと、お前に気付かなかったのもポイントだな。まあまさか地面の下に隠れてるとは思わなかったんだろうってのもあるし、お前も相応に痕跡は消してたとはいえ」

「そうだね。魔素そのものを検出する機材はあるのかもしれないけど、少なくとも遭遇したあの四人はそういう道具を持ってなかったみたい」

 持ってたけど使ってないならば、それを使う事は習慣になっていないということだ。最近になって導入されたのか、あるいは導入以降時間が経ちすぎて簡略化されたのか……。ともあれ、前線においてはなかった物と考えて良い。

「ん……微妙な過去形だな?」

「いやだって、あんだけ派手なことが起きたんだ。どんな行動を後に控えるにしても、とりあえずは国境封鎖ならぬ勢力圏封鎖くらいしてくるでしょ。そうなればその手の道具があるなら厳重に使う」

「そりゃそうだ」

 ただ、本当にその手の道具が無いのだとしたら、あったとしても形骸化しているのだとしたら、なんでこれまでのスパイが失敗し続けていたのかの理由が掴みにくい。掴みにくいだけで全く見当が付かないってわけでもないけど。

「その場合はお前自身が実は魔素を全く作り出していないって可能性が一つ目だな。魔素の検出装置も持ってたけど、そもそもお前が魔素を作ってないから検出できなかったと」

「まあ、一つ目だね」

 その場合捕虜が何で僕たちに魔素を感じたのかが問題になるけど、場所も場所、魔王の居城だったのだ。溜まりに溜まっていてもおかしくは無い。

「次に光輪があるかどうかを確認しているパターン。光輪が無ければそもそも魔族の勢力圏に近付くことすらできないみたいな感じならば、そりゃ、魔族の勢力圏から光輪を付けてないスパイを飛ばしても一瞬で怪しまれる」

「お前は今回見つからなかったからな……その辺の反応は不明か」

 うん。

 ……というか、そもそもの話。

「ん?」

「いや、僕たちって魔神って呼ばれてるじゃん?」

「そうだな」

「魔神って魔族なの?」

「……は?」

 何言ってるんだこいつ、といった視線で見られた。

 けど結構深刻な問いだと思う。

「確かに僕たちは魔族に対する命令権みたいなのもの持ってるみたいだし、そりゃ魔族を統治するだけの資格もあるのかもしれない。でもそれって、僕たちが魔族である証明じゃ無いんだよね……それに」

「それに?」

「魔神、なんだよ。魔神。そりゃ、僕たちはイメージとして魔族の神様って受け取るけどさ。それが自然だし」

「まあ、魔族に喚ばれたっぽいからな」

「でも『神』って入ってるんだよね。神族の、『神』の字が」

「…………」

 洋輔は深く考えるようなそぶりを見せて、暫くの思考を経て答えた。

「つまりお前が指摘したいのは、俺もお前も『魔神』であって『魔族とはまた別のカテゴリ』だから、『神族』のセンサーを逃れた、と?」

「うん。もちろん可能性だけど……、たとえば神族が判別する方式が『それが神族か』って問なら僕たちはたぶん否ってなるけど、『それが魔族か』って問だとすると、結構微妙なんだよね――」

 ま、このあたりも含めて結局、色々と検証するべきなんだろうけど。

「それどころじゃねえか」

「ごめん……」

「……まあ、謝ってどうにかなる問題でもねえしな」

 全くだ。

 地形や道具、家財とかはいくらでも取り返しを付けてみせるけど……。

 魔族も、そして神族も。

 結構、被害は大きいだろうなあ……。

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