-2 - これまでと今から
色々とあって異世界に転生して、でもその先で幼馴染で親友だった人物と再会し、結果としては地球に帰ることはできて。
中学一年生としての生活を満喫していたかと思ったら、またも異世界に飛ばされて……。
さすがにこの状況、誰に説明しても信じて貰えないよな。
白黒昼迄の記憶や黒迄現在の記憶をざっと思い出し、そういえば中間色々な思い出もあったなーとか感慨にふけりつつもいざ新たな世界に転生することになった。
なんだか前回はもうちょっと劇的な変化というか、こう、『気がついたら僕だった』的な感じだったと思うんだけど、なんか今回はそれがないなと思いつつ、ふと周囲が墨をぶちまけたような黒一色から色付いていったので、どうやら世界の移動が終わったようだと状況の確認をしてみる。
まず、現状。僕は世界を移動する直前と同じく荷物を抱えたままであり、僕の前には二人の女性がいた。僕よりもちょっと背が高いくらいなので、女性と言うより女の子とか少女という表現のほうが正しいのだろうか? まあその辺は異世界共通でタブーっぽいのでしばらくは静観するとして、その二人の女の子はちょっと肌の色が青白く見えるけども、それは鮮烈な赤い髪の毛がそう見せているだけかもしれない。
そして女の子達の頭には見覚えのない突起が。角? 人間じゃないのかな?
幸い前回とは違って、持っていた物は持ってくることが出来たようだ。かけていた眼鏡もそのままだったので、眼鏡に仕込んでいた特殊な機能、『機能拡張:色別』を使って害意があるかどうかを確認。二人とも青判定、つまり害意無しの敵意無し、むしろ率先して味方をしてくれるという色なので今は置いておこう。
(それがいいだろうな)
ああうん。やっぱり洋輔だよね。
(そういうお前も佳苗だよな?)
よろしい。
一応確認のためにも自己紹介をしておこう。
今、僕の目の前で僕が買った荷物の半分ほどを変わりに持ってくれているのは、僕の買い物にも付き合ってくれた幼馴染で親友というかなんというか、まあ腐れ縁とは言い切れず抜き差しならない仲でもある鶴来洋輔だ。洋輔は一回目の異世界転生において魔法という技術を才能面からも習得し、今でもなかなかに理不尽な魔法使いならぬ魔導師にして、僕と使い魔の契約を交わしている。この契約は洋輔がマスターで僕が使い魔側になっているけど理由は単純、『人間が主人』という儀式だからだ。
(そういうお前は俺を買い物に付き合わせた挙句異世界セカンドツアー2016に巻き込んだ、俺の幼馴染で親友つーかなんつーかな仲の渡来佳苗だな。佳苗は一回目の転生で錬金術を学んだ結果世界レベルで『頭のおかしい』域に達して、結果自分を魔王化させちまったもんだから人間の俺と使い魔の契約ができていて、五感を共有したり共有される精神的なスペースを使ってこんな脳内会話が出来たりするわけだ)
はい、正解。ちなみに洋輔、洋輔が持ってたゴーレムはどうなったの?
どうも姿が見えないんだけど。
(付いてきてねえな。ひよこチックにせよにわとりバードにせよ直接的に持ってたわけじゃねえし……後ろでふわふわ浮かせてたからな、そのせいかも。お前に渡してたひよこチックもねえだろ?)
言われてみれば。なるほど、つまりあの時……僕たちが認識している範囲では2016年の12月27日のお昼過ぎ、三時頃に歩いていた時に『直接持っていたもの』だけは持って来ている、と。
ていうか洋輔は今回見た目の変化ないね。
(佳苗も全く変わってないぜ。転生じゃない、のかもな)
いやどうだろう。
移動する直前にあの野良猫が提示してきた契約書みたいなやつによると『乙の異世界での身体は地球上に存在する身体をベースに再現される』って書いてあったよ?
(俺あれ読み飛ばした。めんどくさい)
洋輔はそう遠くないうちに詐欺に掛かると思う。
(いやだってあんな小さい文字で延々書かれてもよ、だるいだろ。利用規約とかとりあえぞ同意ボタン押せば次の画面に進むんだからそれでいいじゃねえか)
時々洋輔っておおらかになりすぎるところがあると思う……それは僕の領分なんだけど。まあいいや。
(で、さっきから俺たちをまじまじと見てるこの二人組は何だ?)
知らない。そこまでは書いてなかったし。
ていうかあの契約書に書いてあったの、言っちゃえば『僕たちの世界の地球』から『この世界』を僕と洋輔がペアで貸し出されますよってのが一点目、『僕たちがこの世界で何かを成せば元の世界に戻しますよ』ってのが二点目、『この世界での僕たちの身体は僕たちの世界の地球における僕たちをベースに再現しますよ』ってのが三点目で、最後に『地球上とこの世界での時間の速度は大分違うので、よっぽどもたつかない限りは地球でも大事件にはならない』的な補足がそれぞれやたら難しい文体で書いてあっただけだ。
(な。お前が読んどいてくれるから、やっぱり読まなくてもさして問題ねえだろ)
洋輔はやっぱり近いうちに詐欺に掛かると思う。帰れたらだけど。
(全くだ)
ともあれ洋輔の視界を借りて僕自身の身体も見てみる。恐らく洋輔も逆に僕の視界を使って洋輔の身体を確認しているのだろう。見た感じ本当に変化はない。髪の毛の先から足の先まで、服装も含めて同一……いや、ちょっと荷物が減ってるかな?
(あれ、マジか。なんか足りない……と思ったら、財布とカード入れ、あとは連絡器具がねえな)
だね。別に異世界で電子機器が使えるとも思えないし、財布を持って来れたとしてもお金がそもそも違うだろうからあんまり気にしないでいいことか。
個人的には買ったばかりのグッズを無くさないで済んだのでラッキーだ。
(いやアンラッキーだと思うぜ?)
え、どうして。
(だって地球上に残ってりゃあ俺たちの遺留品として警察が丁寧に保管してくれてただろうけど、こっちに持ってきちまってるからな。地球に持って帰れねえんじゃねえの?)
おいあの野良猫覚えてろよ。
(手のひら返しにもほどがあるっての)
いや洋輔も正直あの野良猫には不満があるんじゃない?
(まあな……)
さて、話が脱線しきる前に確認は済ませよう。
とりあえず僕の身体も洋輔の身体もかわりはない。着ている服も……まあほぼ変更無しかな、なんか微妙にデザインが変わってる気もするけれど誤差の範疇だ。どうせ誤差の範疇で変更するならもうちょっと僕の身長を伸ばして欲しいんだけど……。
眼鏡の機能は一通り残っている。それと直接的に所有していたアイテムも大体は持ってくることができているようだ。
(大体? つーことは無いのもあるのか)
うん。鼎立凝固体がない。
(あー。残念だな。あれがないならお前、ちょっと頭がおかしいだけの錬金術師で済んじゃうしな)
いや洋輔。ないならば作れば良かろう凝固体。
(なんで五七五調なんだよ……)
で、洋輔の方はどうなの? 何かこう、明らかに足りないものとかない?
(んー。とりあえずゴーレムのひよこチックもにわとりバードもなくなってるな。けどそれくらいか? 財布とかケータイがない、のはさっき言ったしな。そもそも俺の魔法はお前と違って物理的に持ち歩くもんでもない)
それもそうか。
(ちなみに魔力はリセットされてたな。寝起きみたいな感じ。お前もじゃねえの?)
言われてみればそうかも。
こうやって考え事をするだけで溜まるんだから集中力という魔力は便利だよね。
(まったくだ)
さてと、それじゃあ周囲の状況を確認しよう。
(色別判定は?)
洋輔と目の前の二人は青、それ以外は緑。
(つまりこの二人は現状味方か)
そう考えていいと思う。
場所的には……んーと、気温は十七度くらいで、湿度はそんなに無い。外は晴れてるのかな。時刻的には夜だろう、外は暗く、部屋の中もぶっちゃけかなり暗い。
明かりに使われているのは燃料式、油か何かを使うタイプのランプかな? 電気を使っている様子はないし、魔法って感じでもないな。
床や壁は石を積み重ねた感じで、置かれている家具も毛皮や動物の革、あとは綿などを使ったソファのようなものから、木製のテーブルとかもある。すぐそこにはキングサイズっぽいベッド、天蓋付き。もしかしてここ王様の部屋?
(かもしれねえな。王様いねえけど)
言われてみればその通りだ。
中世ヨーロッパ的なお城なんだよね。窓ガラスはあるけど透明度は低い。それと机の上に置いてある食器は木製で、金属製のスプーンっぽいものも置かれている。あれは銀かな、鉄じゃあなさそうだ。もっとも純銀かと聞かれると微妙だけれど。
(前回の異世界はなあ。あれで存外、科学力もあったんだが)
そうなんだよね。無駄だから使われてなかっただけで電力を使った機械という考え方もあったようだ。魔法や錬金術のほうが圧倒的に早く応用が利いてコストが低かったのが運の尽きだった。
そのあたりが分かりやすくでているのは医療方面で、外科的手術にせよ内科的診療にせよ実はそれなりに発達していたのだ、あの世界。ポーション飲めば捻挫が治り、風邪を引いても毒消し薬を飲めば治るから、そっちで済ませる方が早かったけど。
(今聞いてもポーションで捻挫が治るのあたりがわからん)
僕にもわかんない。
ちなみに毒消し薬はインフルエンザだろうがなんだろうがその場で即座に治す。
(やっぱり理不尽だよなそれ)
体力はポーションでよろしく。
じゃなくて、場所の把握だ。えっと、とりあえずここが地球ではないの証明をしたほうがいいかな?
(ああそれなら俺が)
あ、なんかある?
(重力が違う。地球を1としたとき、ここは0.9925だな)
妙に細かくわかるね……いや良いけれど。それ誤差って言わない?
(誤差にしては大きすぎるぜ)
そうかなあ。
たしか重力って赤道付近と北極南極付近ではかなり違うんでしょ?
(まあそうだけど。でもなんか空気の味が違うしな。その方面からもやっぱり地球じゃねえと思うけど)
まあね。
ちなみに毒は無いよ。安心して良い。
(んじゃ荷物置くか、とりあえず)
それもそう。
ということでようやく持っていた荷物をどさりと置くと、ビリッと包装紙が破れた音がした。ああ、せっかく可愛い包装紙を使ってくれたのに……あとで直そっと。
『…………。あなた方は、つくりかみ様と、うせのかみ様。でしょうか?』
と、問いかけてきたのは二人の少女のうちの片方だった。
いや実際、この二人、かなり似ている。本当に双子なのかもしれない。髪型が違うから認識は出来るけど……。
「つくりかみとうせのかみ、って何? 僕たちのこと?」
「さあ?」
「ていうかこれ、通じるのかな。言葉。日本語だけど」
「ああ、そっか……前回はあの世界で『地球を思い出した』からほぼほぼ自由なバイリンガルだったけど、今回はそうじゃねえもんな……」
「そうなんだよね」
不便だ。
幸い相手が言っていることはわかるんだけど、こっちが言ってることは分かってくれないだろうしなあ。実際きょとんとされてしまっている。
どうしよう。
魔神の最初の敵:
言語。