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善悪綯交夢現/原罪情勢夢現  作者: 朝霞ちさめ
第一章 魔神は利便性を尊ぶ
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14 - ダイナミックに覗くべし

 色々あって神族の領域をのぞき見るために、まず城の中庭に出る。

 適当な広さを確保できる当たりに立って、自分自身を中心に半球状のドームをピュアキネシスで展開。ピュアキネシス、真空、ピュアキネシスという構造にしてあるのは、熱伝導を防ぐ意味合いが強い。ちなみに今回、ピュアキネシスは『完全な透明』。正直展開している僕でさえも視覚的には解らなかったり。

 また、半球の広さは僕を中心として半径二メートル、直径四メートル程度になっている。地面にはいざというときに酸欠になっては困るので、水とか空気の材料を準備しておいてある。ま、気密性は十分以上に高くしてあるので、それほど問題では無いはずだ。たぶん。酸素濃度が足りなくなっても錬金術でどうとでもなるしな……。

 閑話休題、ともあれそんな周到とまではいわずとも一定の準備を行った上で、僕は若干不安そうな洋輔に「いってきます」とだけ伝え、洋輔はあきらめ顔でうん、と頷いてきた。

 ので、あとは簡単。

 床の下にピュアキネシスを展開する。結果、展開されたピュアキネシスの分だけ僕が立っている半球状のドームがせり上がる。それを延々と繰り返すだけ……エレベーター程度の早さで、僕は宙に浮かんでいた。

「考えてみれば、僕単体でもこの方式で空は歩けるのか……」

 まあ手間だからあんまり使う事はあるまい。

 そんなことを考えている間に百メートルを突破、目指すのは高度七千メートルほどである。

 途中の雲が邪魔だったので、ふぁん、と除去。錬金術で雨を降らす事は難しくても、雨を止ませるのは難しくないのである。

 で、いざ予定通りの高度七千メートルに到達。

 ピュアキネシスは前述の通り全て透明……なので、端から見れば僕は浮いている感じになるのかな? まあ端から見るも何もない気がするけれど。

 あとは手にしていた地図とコンパスを頼りに、前線、神族の領域がある方向を眺める。当然距離はとんでもなく離れている、肉眼では見えるわけも無いけど、掛けている眼鏡の『機能拡張:遠見』の倍率を上げれば見え、

「また雲が邪魔だ……」

 ふぁん、と除去しつつ、あらためて見えたのは……、えっと、多分城なんだけど、あれはどの城だろう。

 洋輔の視界を借りて、洋輔が眺めている地図を頼りに算出。一方で洋輔も僕の視界を共有しているので、僕が見ている場所を見れているはずだ。

(たぶんそれは違う城だな。魔族の旗だし)

 それもそう。

 ということはもうちょっと東寄りかな?

 ああ、あの川がこの地図にある大河ならば……よし、ここが前線地だろう。

 ちなみに遠見の機能はあくまでも倍率を上げるだけで、必ずしもクリアな視界を用意してくれるわけじゃ無い。間に雲があれば当然雲が邪魔だし、霧が発生していればそれでも視界は塞がれる。千里眼じゃ無いのだ。

 けれど幸い、この世界の大気はかなり澄んでいる。工場とかが無いからかな? まあこっちにとっては都合が良いので、しっかりと確認……。

 結局、僕たちの居る城から東北東に千キロ以上離れた場所に、神族の集団を見つける事が出来た。

 皆同じような鎧を纏っていて、同じような盾と剣を構えた一同と、弓のようなものを構えた一同もいる。比率としては普通という感想だ。

 見た目は概ね人間と同じだけど、時々翼のようなものを持っている者や、尻尾の生えている者も居る。魔族と同じくヒトの単体種族というわけじゃ無いのだろう。

 また、特徴としては全員光輪を持っている。光輪の色は真っ白だな……。

(えっと、位置的には地図の……これか?)

 そう、その丘の上。たぶん軍だね。数はえーと……、七百。

(ふむ)

 それとそんな集団とはちょっと離れた所に、三人から六人でひと組って感じのが十七つある。こっちは鎧や武器に統一性が感じられない。なんていうか……。

(冒険者のパーティ……か)

 そんな感じ。

 こっちも皆光輪があった。光輪がある、イコール、神族なのかな?

(いやあ、どうだろうな。ちなみに道は見えるか?)

 うん。道をたどって視線を動かしていくと、さっそく街を発見。

(……街?)

 見えてると思うけど、それなりに規模が大きいね。二千人くらいは暮らしてるかも。

(地図にはねえんだけど……)

 …………。

 つまりそれほどまでに前線は押されてるってわけだ。そんな近くの街にさえ斥候が到達できないほどに。

(そういう事になるな……あるいは地図の作成がよっぽど大雑把なのか)

 どっちだかね。

 ともあれその街にいる神族を確認……うん、洋輔の考え通りだった。

 光輪が無い人のほうが多い。

 時々光輪を持ってる人も居るけど。

(だな。割合は……、二割くらいか。主に男が多いが女でも付けてるのは居て、子供はほぼ無し)

 一人だけいたけど、まあ、ほとんど考慮しないで良い数だろう。

 ちなみに光輪はやっぱりマテリアルとして認識できない。あれも生き物なのか、あるいは魔法の類いなのか……。神通力の一種かもしれないな。

(色も真っ白なのが多いっぽいが)

 時々ちょっとくすんでるのは見かけるね。ただ、灰色と言うほどでも無い。まだ白って表現してもいいくらいの違いだ。

 で、街の設備は……、うーん。

 見間違いじゃ無いよなあ。

(だな。街灯がある)

 うん。街灯がある。

 燃料式……には見えないんだよね。かといって電線もないし地下配線なのかな。そもそも電力を使っていない可能性の方が高いけど。

 それと水道らしきものを発見、水道橋ってやつだな。下水道らしきものは無い。あくまでも水を運ぶだけの道か。

 それと道具屋らしき露店を発見、細かく見てみると品質値がやっぱり高め。建築物も含めて、数段階は文明的に突き放されてしまっているような気がする。

(けど、思ったよりも深刻じゃあ無い、か)

 そうだね。

 あとは街道沿いに視線を動かして、最寄りの大都市を探す……あったあった、かなり大きな街だ。この規模ならば人口は一万を超えると思う。

 で、光輪を持っている人の割合は大分減っている。一割くらいだ。

 露天の武器屋さんがあったので品質値をチェック、やっぱり高い。あとは……、うーん、妙な数字は無い。超等品という概念が神族には無いのか、あるにしてもかなり高級品なのか。少なくとも露天で売られるような物ではないのだろう。

(おう、そんなもんを量産しようとするんじゃねえ)

 数で勝ててないんだから質だけでも圧勝しないと前線の負荷がヤバイって。

(そりゃあ、そうだけど)

 他に気になるものは……うーん、街そのものには無い感じかな。

 けど……。

(けど?)

 街の西側になんか、妙な建物があるんだよね。あそこもしかして地下道にでもなってるのかな?

(……地下道?)

 地形的に……、なら、こっちに進む……と川があるか。じゃあどっちかに曲がって……ビンゴ、たぶんこの施設と繋がってるのだろう。

 その施設は砦のように見える。けれどその中で動いている神族は全員が光輪を持っていて、なのに武装はしていない。

 麻袋を積み上げて、建物の中に運んでいるように見える……品質値は……なんか、妙な感じか。

(佳苗が気になってる以上何らかの施設なんだろうが、何だ、あれは)

 単純に考えれば魔族の死体から魔素を取り出す施設。麻袋の中には魔族の死体が入っているとか。

 全員が光輪を付けているのは、やっぱり何か意味があるのだろう。たとえばそれが神族でも一部の認められた者にだけ与えられる、とか、そういう類いのものという可能性はまだまだあるけど。

(……捕虜から聞き出せるかな?)

 どうだろうね。

 やらないという選択肢は無い、どうせダメでも聞くだけは聞いてみるべきだ。

(ごもっとも……そんじゃ俺が軽く突いてくるか)

 ん、手伝わないで良いの?

(さっきの今でまたお前が行ったら捕虜が壊れるっつーの)

 壊れたら治せば良いと思うんだけどね……ま、洋輔がやってくれるならば任せよう。

 今回のように明確な問いがあるならば、洋輔の方が真偽判定の精度も高いし。

 視覚的にこれ以上入手できる情報はあんまり多くはなさそうだったので、最後に今しがた観察していたその施設からこの真下、つまりこの城までの道のりを確認しておく。最短ルートだと大きな崖を通る事になるけど、崖はさほど問題ないか。

 そもそも帰りのことを考えないならば今回のように高いところまで昇って、そこからふわふわジャンプでも良いしな。ほぼダイレクトに近場に着地は出来ると思う。

 思うけど、ここからじゃ見えない所もあるからな……それこそ崖の下がどうなってるのかという所も疑問だし、高い山の向こう側にはちょっと死角がある。それの向こう側に何かが無いとは言い切れないし、他にも探索したくなるような、怪しいところがちらほらとある。

 それに野生の猫も居るかもしれないし。

 ま、情報収集はこのあたりにしておいて、っと。

 最低限必要な場所は『機能拡張:表示固定』で記録しておき、足下に展開していたピュアキネシスを解除。

 当然、重力に従って僕の身体は落ちてゆく。暫くはフリーフォールをたのしみつつ、地面まで三百メートルほどになったら重力操作をしようとしたら、洋輔が矢印をうまいことに付け替えてくれたらしい。

 すっとそのまま、当然のように中庭の中へと着地。

『ま、魔神様?』

『あれ、ノルマン。どうしたの?』

『いえ、魔神様こそどうされましたか。……えっと、空から落ちてきたように見えたのですが?』

『ああ。ちょっと神族の勢力圏をのぞき見してたんだよ』

『さようですか……』

 一周回ってなんか違う意味でもあるのだろうか、この魔族のさようですか、って言葉は。

『ノルマンはノルマンでどうしたの? 珍しいね、ここで見かけるのは』

『例の捕虜たちを収監している独房の看守役です。ご存じの通りこの城に詰めているのは六人ですし、順番で役回りという事になったのですよ』

『なるほど』

 これもこれで負担かな。

 となるとやっぱり、捕虜はどうにかしちゃった方が早いんだけど……うーん。

『……ならば、欠点も逆に活用するしか無いか』

『…………? 何が、でしょうか』

『いや、こっちの話。ごめんね、ノルマンに限らず皆に負担を掛けてしまって』

『いえ、そのようなことは』

 ありませんよ、と答えるノルマンではあるけれど、やっぱり疲れは見える。

『遅くても明後日までには捕虜の処遇は決める。それまでは悪いけど、ちょっと耐えて。変わりに何かほしいものとかがあるなら言ってよ、作るから』

『ご配慮に感謝します。ですが……いえ、そうですね。一つ私事で申し訳ないのですが、お願いしたいものが』

『うん?』

『失礼』

 と、断りを入れるなりノルマンはぐいっと深いお辞儀をするようにして、地面に両手をつく。そしてその手を持ち上げると、それに沿うように地面から岩がせり上がってきた。

 けれどその岩は奇妙に整った形……というか、これは、家具か?

『このような形で、可能ならば丈夫な、透明な材料で作られた家具が欲しいのですが……』

『色は? あと重さは?』

『重さは多少重い程度でしたら。可能ならば女性でも動かせるくらいが良いですね。色は透明……で、無理ですか?』

『いや、できることはできるけど』

 ふぁん。

『たとえばほら、今こうやって目の前に完全に透明な状態で作ったけれど、見えないでしょ?』

『…………?』

 ふむ、わかりにくいか。

 足で地面の石を蹴り上げてそれを左手でキャッチ、ついでに水の魔法も混ぜてふぁん。

 完成した色つきの水をその場にぶちまければ、透明で見えない家具にもその色つきの水がさらっと染められる。確かにそこにあることが、それで立証できるわけだ。

『……少し色を付けて頂けると』

『ん。何色が良い?』

『そうですね……。難しいかもしれませんが、藍色、インディゴは可能でしょうか』

 インディゴというと……、

『えっとちょっとまってね。インディゴ……だと、えーと、エルバアイト……んー、ブルートルマリン系かな』

 ふぁん、ふぁん、ふぁん、と手近な石を変換。

 とりあえずで作ったのはインディゴライト、カイヤナイト、アイオライト、それにラピスラズリ。

『この中ならどれが一番イメージに近い?』

『え? いえ、どこから取り出したのですか?』

『気にしない気にしない。で、どれ?』

『……これなら、この石でしょうか』

 インディゴライトか。それなりに硬いけど耐衝撃性はどうだっけ?

 まあ完全耐性はやり過ぎでも、一通り耐性は付けておいてやるべしって感じかな。

『もう一つ質問。自動修復機能はいる?』

『自動……修復?』

『うん。たとえば多少の傷は数分で治るし、おもいっきり欠けてもすぐに治るよ。保存性はすごいた高くなる半面、使用感は全然出ないのが難点で……。もしもこれを家具として使うならば、家具は年月の詰み重ねで使用感が増えていって、それもまた味になるわけだしね。その当たりも含めて一応聞いておく』

『……そう、でしたら、そうですね。傷は……、ええと、自動修復以外にも修復はできるんでしょうか?』

『出来るよ』

『では、自動修復機能は無しでお願いします』

『了解』

 そんじゃインディゴライトをマテリアルにして、目の前、ノルマンが作った岩の模型もマテリアルにしてふぁん、と錬金。換喩を入れれば簡単に、形はそのまま材質変更ができるわけだ。

『完成っと。誰かにプレゼントするならば相応のラッピングもするけれど』

『……お願いしても?』

『了解』

 ふぁん。

 デパートとかの包装をイメージしてソレっぽくしてみた。

『はいおしまい』

『魔神様。お願いしておいて何ですが、色々と理不尽では?』

 本当にお願いしておいて何なんだ……。

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