イブキ
「はあっ、はあっ」
およそ一時間ほど戦い続けただろうか。ケンの体力は限界近くまで来ていた。その場に座り込み、体を休めていた。
「でも、これくらいやらなきゃ強くなれないからな……」
持ってきたお茶を飲みながら、ケンは頭の中で今後のスケジュールを立てていた。
そんなときに、不意に後ろから、
「ずいぶん無茶な修行をしているんですね」
と声がかかった。
ケンが振り返ってみると、そこには学校で見覚えのある少女がいた。
「あれ、クラスで見たことがあるな。君は?」
「私はイブキ。クラスの委員長をしています。一週間ほど前からあなたの修行を見ていました。何というか、バカみたいな修行をしているんですね」
そういいながら、ケンのもとへと近づき、隣に腰を下ろす。
「ああ、よろしく。そんな前から見られてたのか」
「学校での会話から、あなたが強くなりたいのはわかりました。なぜそんなに強くなりたいのですか?」
イブキの質問に、ケンは真剣に答えた。
「……第一は、ヨハンたちに追いつきたいから。ちょっとしか戦ってないけど、俺と彼らにはかなりの差があることはわかったからさ。あの実力が羨ましかったんだ。そしてもうひとつは……」
「もうひとつは?」
「……何だかわからないけど、強くならなきゃダメな気がするんだ。なんか、そう告げられている気がして」
「……よくわかりませんね」
ケンの回答に、イブキはしっくりきていない。当のケンにもわかっていないのだから無理はない。
「それより聞いたけど、君は規格外の霊力があるんだろ。それを存分に使えたらさぞ気持ちいいだろうな」
「そう簡単なものじゃないですよ。自分の中にある霊力をすべて使えるわけじゃないんです」
「へえ?」
「以前全力を出そうとしたら全身に激痛が走りました。おかまいなしに霊能力を使い続けていたら、体中から出血したんです。流石にやばいと思って直ちに使用中止しましたけど」
「……それは、すごいな」
大きすぎる力をもっても大変なんだな、とケンは思った。
「まあそれはともかく、私はあなたに期待してますよ。できれば戦ってみたいですね」
「言っておくけど、俺はクラス内対抗戦で優勝する気だからな。誰であろうと負けるつもりはない」
「修行は間に合いますか?」
「間に合わせてみせる」
「……ふふ、頑張ってくださいね、ジョーカーさん」
イブキはいたずらっぽく笑った。
「なっ……」
「俺はジョーカー。お前らの内にある邪を浄化する……」
「や、やめてくれ。恥ずかしい」
「あら、自分で名乗ったんでしょう」
「そ、それはそうだけど。だって本名を名乗るわけにはいかないだろ」
普段の堅物さからは想像できない様子を見せるケン。
「そういう表情もできたんですね」
「え?」
「だって、いつも真面目な感じでしたから。近寄りがたいって思ってる人もいるんじゃないでしょうか」
「……俺ってそんな風にみられてるのか」
イブキの言葉に、落ち込むケン。
「……なるほど、ただ不器用なだけだったんですね」
「確かに、コミュニケーションはあまり得意ではないけど」
「そうですか。今日はあなたについていろいろと知ることができましたね」
イブキは立ち上がり、
「では、私は失礼しますね。あまり無茶な修行のしすぎで体を壊さないようにしてくださいね」
「ああ、ありがとう。また学校で」
「ええ。また明日」
そう言ってイブキは去っていった。
「……よし、俺も帰るか」
フラフラと立ち上がった後、ケンも帰路へとついた。