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JOKER  作者: 二見
プロローグ
4/55

修行

「まいった。まったく歯がたたなかったよ」


 模擬戦後、ケンはヨハンたちとともに試合の反省会を行っていた。


「ヨハンは戦うのがうまいからねえ。初見だとやりづらいと思うし、見たところケン君は戦いにも慣れてないみたいだったからねえ。こういうのは失礼かもしれないけど、勝てなくて当たり前、って感じかな」

「うん。ケン君とヨハンじゃずいぶん差があるよ……」


 ミスティとマリカから厳しいアドバイスをもらうケン。


「う……そうか」


 ケンは少し考え、


「……よし、決めた。俺は今日から修行するよ。一か月後に皆に勝てるように」

「お、いいねえ。俺も燃えてきたぞ」


 ケンの発言に、ヨハンはにこやかに反応した。


「でも、正直なところ、一か月じゃヨハンには追い付けないと思うけど……」

「……確かに、そうかもしれない。けど俺は諦めないよ。我慢強さと体力には自信があるんだ。皆がやるような練習以上に練習すれば、何とかなるかもしれない」


 ケンは立ち上がり、


「じゃあ今日はもう帰るよ。ヨハン、模擬戦に付き合ってくれてありがとう。また明日」


 と言って去っていった。


「……なあ、どう思う? 一か月修行すれば俺たちに追いつくと思うか」

「ケン君には悪いと思うけど、無理でしょ。そんな簡単に強くなれたら苦労しないわ」

「……そうだよね」

「だよなあ。でも、あいつの純粋な瞳を見たらそんなこと言えないしなあ……」


 三人はケンに配慮してか、言葉を控えていたようだ。




「ただいま、ばあさん」

「おかえり。どうだった、初登校は」


 ケンが自宅に帰ると、60歳くらいの女性が出迎えてくれた。

 この女性の名はシグナ。身寄りのないケンの育ての親である。霊能学園の転入を進めたのも、シグナだった。

 ちなみにシグナは、保険の先生として霊能学園に努めている。


「楽しかったよ。クラスの皆も優しそうだったし」

「そうかい。ところで、ずいぶん汚れているようだけど」

「ああ。早速クラスの奴と模擬戦をしてきたんだ。結果はボロ負けだったけど」


 ケンは照れ笑いを浮かべながらシグナに今日の出来事を報告した。


「ボロ負けねえ。ちなみにどいつと戦ったんだい?」

「ヨハンっていう、土の霊能力を使うやつだよ」

「ヨハンか。あいつはセンスがいいから、今のお前じゃ歯が立たないだろう」


 シグナが評価を下す。


「それ、クラスの皆にも言われたよ」

「だが、修行すればお前でもあいつらを倒せるようになるさ」

「本当に?」


 ケンは純粋に尋ねる。


「ああ。……霊能学園の奴らは、どいつも才能に溢れたものばかりなんだけど、如何せんその才能に慢心しているんだよ。だからお前が強くなって皆の気を引き締めてもらいたいね」

「まあ、努力するよ。俺も強くなりたいしね」


 ケンは闘志を燃やしている。


「それでさ、俺は一か月後に行われるクラス内対抗戦に向けて修行しようと思うんだ。だから明日からは毎日帰るのが遅くなると思う」

「修行するのは構わないけど、あまり無理をしないようにね」

「大丈夫だよ。それじゃ行ってくる」


 ケンは勢いよく家を飛び出した。


「……さて、どんな修行をし、どれほど強くなれるのかねえ」




「よし、まずは修行その1だ」


 ケンは軽く準備運動をし、全速力で走り出した。


(まずは、体力をつけよう。今のままでも自信はあるけど、さらにつけるんだ。全力で10kmくらい走れば大丈夫だろ)


 ケンはただひたすら走った。




「よし……。次は特訓その2だ……」


1 0kmを全速力で走り終えたケンは、疲れた体でバッティングセンターへと来ていた。


(特訓その2は、バッティングセンターで耐久力と反射神経、そして動体視力を鍛える。まずは……)


 ケンは球速150kmのマシンに向かい、打席にではなくホームベース上に立った。

 マシンから150kmの球が発射されると、それはケンの腹部へと激突した。


「ぐっ!」


 球速150kmの球を疲れた体で受けるのはとてつもなく痛い。ケンはこれに耐えることによって、耐久力を身に着けようとしているのだ。

 しかし、それだけではなかった。150kmの球を常に見ることによって、そのスピードに目を慣らすという目的もある。150kmのスピードを目視することができれば、大抵のものを見ることができるようになると考えたからだ。

 さらに、目が慣れてくれば、そのスピードから放たれる球を回避することもできる。これをバトルに置き換えれば、球速150kmほどのスピードから繰り出される攻撃ならば、耐えきることができ、目視することができ、そして回避することができるとケンは考えたのだ。

 ただし、これが効果のある修行かどうかは、ケン自身にもわかっていない。


「普通にやってちゃ、一か月では強くなれない。だから、普通じゃない方法で強くなるしかないんだ!」


 そう心に言い聞かせながら、ケンは修行に励んでいた。




 翌朝、ケンはボロボロになった体で学校に登校していた。


「お、ケン君おはよう」


 ケンを見かけたミスティが、ケンの肩をぽん、と叩いた。


「っ!!」


 ケンは一瞬顔をしかめたが、すぐに戻し、


「ああ、おはよう」


 と挨拶を返した。


「ん、どうかした?」

「い、いや、何でもないよ」

「……」


 ケンとミスティのやりとりを、じっと見ている少女がいた。




 修行を初めて一週間が経つと、ケンは次のステップへと踏み出した。


「よし、次は修行その3だ」


 深夜12時過ぎに、ケンは繁華街へと来ていた。

 繁華街に来た理由は一つ。ある人物と会うためだ。


「お、いた」


 ケンは路地裏でたむろっている若者の集団に声をかけた。


「あ? 何だお前」

「お前らだろ? この繁華街を縄張りにしているギャングって。走り込みをしているときに噂を聞いたんだ」

「だから何だってんだよ」

「……お前らの心には邪が宿っている。俺がそれを浄化してやるよ」

「は? 何者なんだよお前は」


 ギャングはケンに問いかけた。


「……俺はジョーカー。お前らの内にある邪を浄化する者だ」


 ケンは自らをそう名乗った。


「は? バカじゃねえの」

「こりゃ相当頭がいかれてるな。病院行ったほうがいいぞ」


 ゲラゲラと笑いながらバカにしているギャングたちにケンは近づき、一人の腹に拳を打ち込んだ。


「てめえ! なにしやが……」


 話し終える前に、ケンは攻撃を繰り出す。

 その様子を見たギャングたちは、一斉にケンに向かって攻撃し始めた。


(こいつらと戦うことによって、実戦経験を積む。いくら修行しても、本番で戦えなきゃ意味ないからな)


 数では圧倒的に不利だが、これくらいしなければ強くなんてなれない。そう考えたケンの修行法は正しいものだとは言い難いが、本人が正しいと思っているならば、それでいいのかもしれない。

 そんながむしゃらに修行をしているケンを、陰から見ている視線があった。

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