模擬戦
「さて、ケン君も無事転入してきたということで、今後の授業について説明します」
ケンたちのクラスである1-G組は、担任教師から今後のスケジュールの説明を受けた。
「約一か月後には、毎年恒例のクラス内対抗戦があります。この対抗戦の好成績者は秋に行われる学年別新人戦の出場者を決めるための参考になりますので、皆さん必ず本気で戦ってくださいね。なお、クラス内対抗戦後から学年別新人戦が始まるまでは他クラスの生徒との戦闘を禁止しますので、こちらも予め頭に入れておいてください」
「先生、クラス内対抗戦とは何ですか?」
ケンが手を挙げて質問をした。
「クラス内対抗戦とは、毎年入学してから一、二か月後に行われる学校行事です。クラスの交流を深める目的や、自分の実力が今どれくらいあるのかを知るために開催されます。なので、たとえ弱くても全力で戦ってもらわないと対抗戦を開く意味がないので、くれぐれも手を抜かないようにお願いしますね」
「はい。わかりました」
「学年別新人戦より後の行事についてはまた後日連絡します。では、他に何か質問はありますか?」
特に返答はなかった。
「では、各自対抗戦に向けて特訓等を行ってください。残り一か月しかありませんが、何もやらないよりは何かやったほうがいいに決まっていますので、できることは何でもやりましょう。以上です」
放課後、ケンは昼休みに学校内を案内してくれた三人たちとともにいた。
「なあケン。突然だけど、俺と模擬戦をしないか?」
ヨハンは突然、ケンに模擬戦を提案した。
「模擬戦?」
「ああ。正直お前の実力がどれほどなのか興味があるんだ。もちろん、怪我しないように軽くだけど、よかったらやらないか?」
「そうだな……」
ケンは少し考え、
「じゃあ、お願いしようかな」
「よし、じゃあ校庭に行こうぜ。ミスティとマリカも見ていくだろ?」
ヨハンが女子二人に尋ねる。
「ええ」
「でも、俺はそんなに強くないよ」
「そんなの気にしなくていいよ。じゃあ行こうぜ」
ケンはヨハンに連れられて校庭へと向かった。
「よし、じゃあ先行はそっちからでいいぜ。いつでもかかってきな」
「……よし」
ケンは身構えて、ヨハンを真っすぐ見据えた。
(軽く戦うとは言っていたけど、俺は全力でやろう。そうじゃなきゃ、ヨハンにはついていけないような気がする)
ケンは光の閃光弾を生み出し、それをヨハンに向かって飛ばした。しかし、ヨハンはそれをいともたやすく土で作った盾で防ぐ。
(威力はあんまりないな。昼休みに霊力は820くらいといっていたからこんなもんか)
ケンの攻撃を冷静に観察するヨハン。普段の軽い雰囲気とは違い、いつになく真剣だ。
(あっさりと防がれた。なるほど、ああやって土を自由に造形できるんだな)
ケンもヨハンをじっくり観察しながら戦っている。
「よし、じゃあ次はこっちからいくぜ!」
そういってヨハンが校庭の地面に手をつけると、まるで雨でも降ったかのように土がぬかるんでしまった。
「!! これじゃ素早く移動できない」
ぬかるんだ地面に足をとられて、まともに移動することができない。ケンは機動力を大幅に失ってしまった。
「それだけじゃないぜ」
今度はぬかるんだ土をいくつかもぎとり、それを固形化させて超スピードでケンに向かって飛ばした。
土といえど、能力で固められ、更に超スピードで飛ばされたら威力はかなりのものだ。
ケンは回避しようとするが、地面がぬかるんでいるため満足に回避することもできない。
「だったら……」
ケンは反復横飛びの要領でステップしながら回避した。
(まずいな……。これじゃ近づいて物理攻撃することもできないし、かといって閃光弾を投げつけても俺の霊力じゃ土の盾で防がれる。どうしたもんか)
現時点で、ヨハンを攻略する術がない。ケンは必死に頭を回転させながら攻撃を回避しているが、
「悪いけど、何か思いつく前に決着をつけるぜ」
とヨハンが先手を打ってきた。
ヨハンは地面に手を付け、ケンがステップを踏んで着地した瞬間を狙ってケンの足元から突き上げるように土を塊を作り出した。
「がっ!!」
突然の攻撃だったのでケンも回避することができず、まともに食らってしまった。
そのまま地面へと倒れたケンは、起き上がろうとするが土が体にくっついて離れないため、体を起こすことができなかった。
「な、なんだこれ……」
「俺の能力で土の粘度を上げたんだ。動くことができねえだろ。今のお前は体に地球がくっついているようなもんだぜ」
「ぐっ!」
必死に起き上がろうとするものの、体はびくともしない。
「さて、じゃあここらでとどめといくか」
ヨハンは土を剣のように造形し、それをケンの喉元につきたてた。
「はい。これで俺の勝ちな」
結局ケンは、ヨハンにかすり傷をつけることもできずに敗北してしまった。