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JOKER  作者: 二見
プロローグ
2/55

転入生

 この世界には、霊能力というもの存在する。

 霊能力とは、限られた人間だけが使用できる魔法のような能力だ。霊能力には十つの属性があり、それぞれ木、火、土、金、水、風、雷、光、闇、時とある。一般的に普及している属性は木、火、土、金、水、風、雷の七つであり、光と闇に関しては使用者が少なく、時に関してはある一族のみが扱っている。霊能力は精霊から授かった能力であり、はじめは人助けや生活を便利にするものとして使われていたが、次第に戦いへと使われるようになった。


 その人間の行動を嫌ってか、かつてはこの世の中に存在していた精霊たちは人間界から姿を消した。霊能力を身に着ける方法は、先天的なものと後天的なものの二つがある。先天的なものは、生まれつき霊能力を使用することができる。後天的なものについては、霊能力を使うために必要な「霊力」を蓄える臓器である「霊臓」を体に埋め込み、精霊の刻印を刻むことで使用可能となる。


 しかし、霊能力について判明していることは思っている以上に少なかった。前述では霊能力は精霊から授かり、人助けなどに使われていたとあるが、これは一説にすぎない。ある伝記は、かつて世の中に存在していた妖を倒すために精霊が人間に与えた、とも記してある。妖の存在は他の書物でも確認できるが、この世に存在していた痕跡などがないことから、古代の人々による架空の存在とされている。一部では、精霊が存在していたのだから、妖も存在していてもおかしくはないという声もあがっている。いずれにしても、明確な根拠などはない。


 そんな現代では、霊能力の研究が進められている。霊能力の歴史や新たな使い道、新しい属性の発見など、研究内容は尽きることはない。研究には多くの属性の霊能力や霊能者が必要となっており、その霊能者を派遣する機関も存在する。その代表的な存在となっているのが、霊能力者養成学園、通称「霊能学園」だ。霊能学園は、世界で最初に創立された、霊能者だけが通う学校だ。今でも多数の霊能者がこの学園に通っている。


 そして本日、この学園に転入生がやってくることになっていた。


「……ここがあなたのクラスです。1-G組。覚えておいてね」

「はい」


 一年生の教室の扉の目の前で、女教師が転入生の男子生徒に説明した。

 教師が教室の扉を開けると、クラスメイトの視線がそちらに注目する。


「では、軽く自己紹介をお願いします」

「はい。皆さん初めまして。私はケンと申します。体力と我慢強さには自信があります。よろしくお願いします」


 ケンと名乗った少年はそういうとぺこりと礼をした。


「おいおい、就職面接かよ!」


 クラスメイトの一人がはやしたてた。その言葉を皮切りに、クラスが笑いに満ち溢れた。


「みんな静かに。ケン君は、事情があって5月からこのクラスに編入ということになりました。みんな仲良くしてあげてね」

「はーい」


 クラスメイトの一人が気のない返事をした。


「このクラスの子たちはみんな癖の強い子ばかりだけど、やっていけるかしら」

「大丈夫ですよ」


 ケンは笑顔で返答する。


「そう、よかった。じゃあケン君は昨日作ったあそこの空いている席に座ってね」

「はい」


 ケンが空席に座ると、その周囲にいたクラスメイトが話しかけてきた。


「転入生のケン君、よろしくな! 俺はヨハン。仲良くしてくれよ」

「ああ。よろしく」


 ヨハンと名乗った少年は、雰囲気から察すると気さくな性格のようだ。


「何かわからないことがあったら、俺に遠慮なく聞いてくれ。チャラそうに見えるけど、意外と世話好きなんだ」

「ああ。頼りにさせてもらうよ」


 ケンはにこりと笑って答えた。




「それで、ケンは何で5月から編入になったんだ?」


 休み時間になると、ヨハンをはじめとするクラスメイトたちが質問をしてきた。


「あー、詳しくは言えないけど、家庭の事情だよ」

「そっかー。せっかくだから、一緒に入学したかったな」

「まあそれを言っても仕方ないでしょ。質問攻めしてケン君困らせちゃダメよ」


 クラスメイトの一人である、ミスティがヨハンに注意をした。


「ケン君、昼休みになったら学校内を案内してあげるよ」

「あ、それは助かるな」

「それ、俺も行く!」


 ヨハンが大声で主張する。


「はいはい、……あ、マリカも来る?」

「え……あ、うん」


 マリカと呼ばれたおとなしそうな少女は控えめに答えた。


「じゃあ、昼休みは三人で案内するね」

「ああ。みんなよろしく」




 昼休みに校内を一通り回り終えると、四人は休憩用のベンチに座って談笑し始めた。


「そういえば、皆はどんな霊能力を使うんだ?」

「俺は土の霊能力だ。よく道端に落ちている土なんかを使ってあらゆるものを生成できる」


 そういいながらヨハンは近くに落ちている土を霊能力でかき集め、手のひらに集中させた。


「土の霊能力か」

「私は金の霊能力。無から金属を生み出すことができるの」


 ミスティは素早く金属の棒を生み出し、ケンの目の前に差し出した。


「すごい、確かに金属だ」

「私は、木を操る霊能力。草木を自在に動かしたり、それらが生み出すエネルギーをもらったりすることができるの……」


 マリカは近くに生えていた草からエネルギーを吸い出し、それを具現化してケンに見せた。


「神秘的な能力だな」

「それで、ケンの霊能力は何なんだ?」


 感心していたケンに、ヨハンが尋ねる。


「俺の霊能力は光。攻撃には向いていないけど、聖なる力で相手の動きを一時的に止めたり、傷を回復したりすることができるんだ」


 そういうとケンは自分の手の甲を爪で傷つけ、それを霊能力を使って治した。


「光の霊能力か。珍しいものを持っているのね」

「イブキと同じく、珍種ってわけだ」

「イブキ?」


 突然出てきた名前に興味を持つケン。


「ああ。俺らのクラスの学級委員をやっているんだけど、あいつは希少な闇の霊能力を操るんだ。しかもそれだけじゃなくて……」

「霊力値が尋常じゃないほど高いのよ」


 ミスティが続けて話す。

 霊力値とは、霊能力の強さの値である。

 この値が高いほど、高威力・高クオリティの霊能力を発動することができるのだ。


「霊力値?」

「うん。だいたい高校一年生の平均的な霊力値は850前後って言われているのは知っているよね。私は890なんだけど、ケン君はいくつぐらいなの?」

「俺は820かな」

「だいたいそんな感じだよね。じゃあ、イブキの霊力値はいくつだと思う? ヒントは本当に規格外の数値なんだ」

「規格外か」


 ケンは少し考え、


「規格外っていうなら、6万とか?」

「不正解だね」

「やっぱ、流石にそこまではいかないか」

「その逆。もっとあるんだよ。イブキの霊力値は推定8500万と言われている」

「……え?」


 流石に信じられなかった。いくらなんでも規格外すぎる数値だからだ。


「しかも恐ろしいのが、これで推定だからな。実際はもっとあるかもしれないんだ」

「……どうやってそんな膨大な霊力を体に蓄えているんだ?」

「さあ。イブキに関しては様々な実験を行ったらしいけど、具体的なことは何一つわかってないらしいぞ」


 ヨハンが首を振りながら答えた。


「でも、推定8500万というのは想像できないな。いったいどれほどの霊力なんだろうか」

「シミュレーションだと、最大出力で太陽系を消滅させることができるらしいよ」


 ミスティがさらりととんでもないことを言い出した。


「え、それほどなのか!?」

「まあ、あくまでシミュレーションだよ。本当にそれができるかなんて誰にもわからない」

「まあそうだよな」


 話が一段落したところでミスティが、


「マリカ。あんたさっきから何も喋ってないけど、ケン君に聞きたいこととかないの?」

「あ、えと、ケ、ケン君は昨日の事件のことは知ってる?」

「昨日の事件? 何かあったのか」

「あれだろ、クロノ一族の城から放たれた謎の光のことだろ」


 クロノ一族とは、この世界に存在する時の霊能力を操ることができる唯一の存在だ。クロノ一族以外の者が時の霊能力を使うことはできないと言われており、過去にも他者が使っていたという記録は残っていない。故に世界中から注目されている一族で、人々からは憧れの対象や妬みの対象になっている。クロノ一族に生まれたものは希少な霊能力を使うことができる反面、良くも悪くも人々の注目を浴びなければならないのだ。


 時の霊能力の効力は絶大で、触れたものを時空の彼方に消し飛ばしてしまうといわれている。噂では、クロノ一族が時の霊能力を使ってタイムスリップしているのではないかといわれているが、真偽は定かではない。時の霊能力は使い方によっては驚異的なものになるので、世界中から監視されるように、一つの城に一族全員が集まって暮らしている。


 クロノ一族に生まれたら自由に外出することはできず、常に人々の目に怯えながら暮らしていかなければならない。霊能力を暴走させてしまったら、どんな被害が出るのかは想像することもできない。クロノ一族を慕うものたちが、過去にクロノ一族の自由を与えるために乱を起こしたこともある。そのため、一部の人間には「存在するだけで厄介である」と思われているのだ。


「そのクロノ一族がどうしたんだ?」

「あ、知らないんだ……。何でも、その光の原因はクロノ一族が何かを別次元から呼び出したんじゃないかって噂が流れているんだよ。私の考えでは、多分未来から未来人を連れてきたんだよ、きっと」

「あ、ああ……」

「ごめんね、ケン君。この子普段はおとなしいけど、クロノ一族に関することだと饒舌になるのよ」

「なるほど。でも、俺はクロノ一族に関してはほとんど知らないから、今度時間があったらいろいろと教えてほしいな」

「う、うん。是非!」


 マリカはにこりと微笑んだ。


「あ、もう昼休みが終わるぜ。教室に戻ろう」

「ああ。皆ありがとう。貴重な昼休みを使って案内してくれて」

「なに、これから友好を深めようぜ」


 そんな他愛もない話をしながら、ケンたちは教室へと戻った。

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