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はじまりの話

作者: 賀川 清嵐

色々な世界の話。

独立していて、繋がっている。

それでいて全く無関係だったり……

そんな感じの、最初の話。

それは遠い昔の話です。

いえ、もしかしたら、この世界ですらないかもしれません。




ある港町に負けん気が強くえばりんぼうな女の子と、気が優しくてちょっと臆病な男の子がいました。

女の子はこの町の町長さんの娘でした。お転婆で町のちびっ子たちのボスのような存在です。対して男の子は商人の息子で、みんなとはあまり遊ばずいつも本を読んでいるような子でした。


「なんでみんなとあそばないの!?

あたしのいうこと、きけないの!

よわそうなやつ!

おとこのくせにかっこわるぅい!!」


女の子がこう言っていつも意地悪してくるものですから、女の子に逆らえない他のちびっ子たちも同じように男の子をいじめてきます。


そう、男の子にとってこれはいじめ以外の何物でもありませんでした。でも男の子はいつも黙ってやられっぱなしです。行商人でその日の食糧にも困る生活をしていた両親が、やっと落ち着いて生きていけると言った町です。下手に逆らって町を追い出されたら…そう思うと怖くて何もできずにいました。

しかし、親の目は誤魔化せないものです。異変に気付いたお母さんが何も話さない息子の代わりに近所に聞いて回り、いじめの事を知りました。

お母さんは悔しいのと悲しいのが混ざったような顔で男の子を抱きしめると町を捨てる事を決意しました。

その夜、お父さんとお母さんが話し合い、町長さん夫婦の所に行って一週間後、引越す旨を伝えました。幸い、ワインの卸し業が順調で何処へ行ってもやっていけることになってましたから。

村長夫婦は娘の所業に涙を流して謝罪し、引越す事も娘には知らせないと約束しました。


村長夫婦もまた、女の子の親だから、娘がなんでそんな事をしたかわかっていました。だから、一番の罰として男の子とお別れも言えずに『さよなら』させることにしたのです。


女の子は男の子のことが大好きでした。自分とは違う世界をもっているように見えた男の子が、ひどく魅力的に感じられたからです。

けれど|女の子≪レディー≫から好きだと言うのは違うわ。女の子はそう思いました。

意地悪したのは、本ばかりで自分のほうを見向きもしない男の子の気を引きたかったからです。でも、相変わらず男の子は女の子を好きになった様子はありません。むしろ嫌われているような感じすらします。それが気に入らなくて女の子は、他の子が一緒になって男の子に意地悪するのを止めませんでした。



お互いの両親による話し合いの翌日から、男の子の姿がないことに気付きました。

男の子は潮風で本が傷むのが嫌でいつも高台の所にいたはずです。

気になって探しに行きたいのは山々ですが、ちびっ子たちの面倒を見なくてはなりません。女の子は焦れったい気持ちで数日を過ごしました。


そして遂に、引越しの朝。ずいぶん早くに目が覚めた女の子が家の外から両親の声がすることに気付いてそっと、窓から覗きました。

するとそこには大荷物を抱えた男の子とその家族がいました。

(どうしよう!きっと町を出るんだわ!!)

焦った女の子は急いで着替えると外に飛び出しました。

もう男の子一家はいません。女の子は迷うことなく港へ向かって走り出します。

「こら、バカ、やめなさい!!」

「行ってはいけません!!戻りなさい!!」

後ろで両親が怒鳴っていますが気にしません。



やっとついた時にはもう船は港を離れていました。男の子が甲板から港を見ているのが見えて大声で呼びますが何も返さず、船の中へと消えてしまいました。

二人が六歳の時のことです。





それから十年後…



子どもの時の平和さを女の子はもう、思い出せません。世界に暗雲が立ち込め、女の子の国ももうすぐ隣国と戦争です。

女の子は年頃になると直ぐ青年騎士団に志願しました。子どもの頃から喧嘩は強かったため天職だと思ったからです。

しかし、実際は鎧や剣の重さ、振るい方に苦労し、周りからは女のくせにと馬鹿にされ、みくびられ女の子は苛々してばかりでした。

それでも実力があった為に戦場に立つことが許されました。

(見ていなさい!!絶対に戦果を上げて騎士隊長になってやる!!!)



男の子はその頃隣国に住んでいました。

引越して何年かは順調でしたが、王が代替わりし、独裁政治を始めてからは苦しい生活になりました。

新しい王様は戦争が大好きで、いつもどこかと戦争をしようとしていました。ですが、小国のためどこにも相手にされていませんでした。痺れを切らした王様は、今まで友好な関係を築いていた隣国の王を怒らせ、遂に戦争を起こしました。

国中の若者の殆どを徴兵し、苛酷な訓練を課しその日を待っていました。男の子もその中にいました。全員が戦場に立つことになります。男の子は恐怖で震えておりました。訓練のお陰で重い鎧や剣には慣れましたが、剣技がからっきしだったのです。

(戦場に立てば必ず誰かが死ぬ。ううん、ぼくが一番最初に死にそうな奴じゃないか!!いやだ、死にたくない)

男の子がどんなに祈ろうともその日はやってきました。




二つの国の国境にある荒野で戦争は始まりました。それぞれ、国旗と同じ色の赤と青の鎧を着こみ王様の合図によって互いの兵士がぶつかり合います。ごちゃごちゃ混ざり合う赤と青。金属と金属がぶつかり合う音、悲鳴、怒号。

男の子は何が何だかわからなくなって混乱しながらも、生き残りたい一心から四方からくる斬撃をなんとか上手く躱し、気が付けば兵士と兵士がぶつかり合う中心点に来ていました。

そこでは赤い鎧に身を包んだ戦士が返り血で更に赤く染まった姿で次の獲物を見定めているようでした。

男の子は心臓が凍りつくのを感じました。頭からは逃げろ逃げろとやかましく警報が鳴ります。しかし、足がすくんで動けません。

その時、戦士が男の子に気付きました。

鎧兜で、顔は見えないのに、男の子は相手が歓喜の表情になったのがわかりました。




女の子は戦場で水を得た魚のようでした。次々と青の戦士たちを斬りつけて意気揚々としていました。


(あはっ。戦争ってなんて簡単なのかしら?私を馬鹿にしていた男達なんて一人に苦労して、みんな馬鹿なんじゃない?)


気が付けば女の子の周りには敵の死体で円ができており誰も近付きませんでした。

そこに人の山を掻き分け、一人の青の戦士が現れました。女の子は心臓が高鳴り身体が熱くなるのを感じました。

(いたぁぁぁあ!!!)

歓喜の余り女の子は戦士に突進しました。完全に突きの構えで行ったのに予想外にも上手く躱されました。

(私の攻撃を躱すなんて!!やるわねコイツ!!)

女の子は興奮しました。今までの敵は闘う気が微塵も感じられないほどあっさり|斃≪たお≫せたのです。

剣と剣を交えるうちに女の子はどんどん楽しくなります。ですが次第に、相手が防戦一方であることに気が付き女の子は気分を害します。そしてこの戦士にも興味を失います。

(なんだ。結局コイツもヤる気がないのね。もう終りだわ)

女の子は相手の一瞬の隙をつき、鎧と兜の間に剣を突き立て喉を切り裂きました。

大量の血を噴射しながら糸の切れた操り人形のような動きで倒れ、そのまま動かなくなりました。

(フンッ、まぁ他の奴に比べたらよくやった方だわ。ひとつ、顔を見て覚えてやりましょう)

女の子が乱暴に斃れた戦士の兜を外すと息を呑みました。

(ウソ…)

絶望の表情を浮かべ絶命するその顔を女の子は覚えていました。それは、あの日町を去った、自分の初恋だった、彼でした。

「な…なん……なんで?」

女の子は震える手で自分の兜を外すと、膝をつき、兜を地面に置いてそっと男の子の顔を撫でました。まだ温かく柔らかい感触に死んでいることが信じられず、受け入れ難く、女の子はそっと、彼の唇にキスをしました。

「ごめんなさい、本当ごめんなさい。来世でまた会えたグボッ」

女の子が語りかけている途中、飛んできた矢が首に刺さり、そのまま男の子の上に重なるようにして絶命しました。


直後、青の戦士側の王様が首を撥ねられ、赤の戦士側の勝利で戦争は終わりました。

赤の戦士達も戦争とはいえ人を殺す事に抵抗があったため、お互い闘うフリをしながらどうにか戦死者が出ないようしていました。

結果、戦没者は女の子が狂戦士になって殺してしまった青の戦士十五名、赤の戦士三名(止めに入りそのまま)という最小限で済みました。

戦争の元凶である独裁者の王も、戦犯になろう狂戦士の女の子も斃され、一応、この物語はめでたし、めでたし。




しかし、女の子の願いは無慈悲の神に聞き届けられ、その後二人は輪廻転生の先で再び出会うこととなる。それはまた、別の機会に。



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