弱虫な僕と平和で残酷な世界
僕は御坂家の次男、御坂奏太。僕は今日、衝撃の事実を知った。片思いの相手、駿河比奈がいなくなったということ。
先程のニュース曰く「交通事故」。そんな礼儀正しくておとしなやかな彼女が。ありえないし、死んだなんて絶対信じない。だけどもう隣に太陽のように温かく、眩しい存在はいないのだと再認識する。でも・・・。別にまぁ、身内でもないんだし、泣きはしない。涙も出ないかもね。大切じゃないんだから。最低、僕が彼女の彼氏だったら泣いてるかもね。ただ、もう一緒に泣き、笑い合える”友達”はもう僕の周りにいないっていうのはさみしいかもね。・・・。僕は一人。
「―っ。どうして。」
自分の身体が言うことを聞かない。なんで、どうして。僕は何故か一人きりのリビングで天井に手を伸ばしていた。
「僕を置いて行かないで。こんな世界イヤだ。君のいない世界なんて、物語なんて・・・!」
どうやら僕は身体だけでなく、口まで言うことを聞かなくなってきたようで。だからいっそ君の元に逝こうか悩んだ。言いたくも無い戯言を言っているからね。口はどんどん”偽り”の言葉を言っていく。
「みんな世界は平和って言うケド、それって自分の周りだけだよね」
「世界の国々一つ一つ見ていったら以外に残酷なんだよぉ」
「!そうか!そうだ!一日は誰かの誕生日で命日だから」
「昨日はたまたま彼女がターゲットになっただけなんだよね。ねぇ、花蓮。」
まるで僕は人格が別の人格に話しているかのように質問?をし、答え?を出していた。つまりは自問自答なのだ。口を手で塞いでもまだまだしゃべる。うそ笑いしながら。
「きっと彼女はまた生まれ変わって僕の前に」
「僕がいなくなっても」
「この世界の歯車は止まらない。」
「―君が消えても」
僕の人格?の自問自答だが、僕自身、言っていることは大抵正しいと思う。沢山いた人格が僕の中に戻ると、僕は一人が急に怖くなった。僕はその場から逃げるように立ち上がる。音ひとつ上から聞こえない。・・・。兄や妹達はいるのか?僕はびくびくしながらリビングから出る。・・・って。トイレの電気つけっぱじゃないか・・・。僕は自分たちの共用の部屋に向かうため、階段を上る。きし、ぎし、ぎし。どこか古家を思い出す。そしてやっとのことで、階段を上りきると、自分たちの部屋のふすまを開ける。
―人はいる。いや、想定はついている。あとは声を聞くだけだ。部屋の中はカーテンで光が遮断され、部屋の中にはゲーム機の光だけがあった。
「あ、お兄ちゃん!」
やはりそうだった。声色でわかった。こいつは、
「花蓮!!」
暗い部屋でゲームをしているのは花蓮だと前々からわかっていた。僕らが寝静まった後、僕がトイレに起きたらゲームをしていたから。深夜の2時くらい?
花蓮は僕のほうに突進するかの勢いで走ってくる。
「うおっ」
花蓮は僕に抱きついてきた。・・・。
「ずいぶん重くなったなぁ」
・・・。あ。声に出てた・・・。
「お兄ちゃん!!」
花蓮の怒声が響く。僕は気を取り直して、彼女に兄、妹について聞いてみた。
「花蓮・・・。みんなは?」
その瞬間花蓮は肩をびくっとさせるが、すぐに戻る。
「?出かけてるよ。」
本当だ。リビング、この部屋には僕、花蓮以外いなかった。いつもは嘘つくくせに・・・。
「お兄ちゃんだまされ過ぎ。千秋が下にいるよ。」
「え?誰もいな・・・。あ。」
まさか、トイレの電気がついてたのは、千秋が入っていたから・・・?
「もう、お兄ちゃん寂しがりや何だから・・・。行くよ。」
花蓮は僕の手を引いて階段を降りる。いつもなら引いてもらう側の彼女に僕が引かれているのでなんだか珍しい光景だ。
一階のリビングに行くと、千秋がいた。
「あ!お兄ちゃん!・・・?比奈さんなら出かけたよ。いやや、帰ったよ?」
トイレに突っ込まないでくれるのはうれしい。千秋と比奈は仲がいいから確か、たまに遊びに来てたっけ・・・。ここは真実を伝えるべきだ。
「お空、いや、天に帰ったよ。」
最初、千秋は理解できていない顔をした。そして、何かに気づくと大きく目を見開く。花蓮を見ると、花蓮も創めて知ったとでもいうようにとても驚いていた。すると、「ばりん」と何かが割れる音がする。音源を見てみると、そこには写真たてが落ちていた。写真たての中の写真は。
「・・ヒル。あ、あ・・・!」
それは昨日まで生きていた彼女と僕ら兄妹の写真だった。みんな笑顔。写真たてにはひびが入っており、彼女の顔の部分がひび割れていた。
「ねぇ・・・!もっとずっと一緒にいたかったのにぃ・・・!」
僕は泣き崩れる。泣くことしかできなかった。が、ここであることに気付く。
”大切じゃない人の為には泣けない”
「そうか、そうか・・・。僕は君のことが大切で好きだったんだな・・・。」
僕は写真たてを握り締めると、二人のほうに顔を向ける。
「お兄ちゃん?」
「おにい・・・?」
僕は手に力を加え、勇気を振り絞って伝える。
「・・・。僕らは比奈の分までがんばって生きなければいけない。それが今の僕らの使命、じゃないかな?ねぇ、比奈。僕らはまだ君のところへは逝けないけれど、いつかそっちに行くから、それまでは天から僕らを見守っててくれないかな?」
くそダサい気持ち悪いせりふを言い切ったよ。二人は少しの間ぽかん、とするが
やがて立ち上がる。
「そうだね、お兄ちゃん!あたしたち、比奈さんの分までがんばるんだ!」
「がんばろ!私たち4人兄妹って今は3人だけどね」
「お兄さんどこ行ったのかな・・・」
僕らは笑い合う。そして、窓から入ってきた風が彼女の返事だと思って精一杯の笑顔を作ってみた。
fin