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金の葉

作者: 耕路

いつものように短いお話です。

その惑星の夏は、ひとかけらの短いものでした。ずっと昔、まだ星に人々のにぎわいと幸福が満ち溢れていた頃、ひとりの若者が東の空へ向けて船を出しました。


出発の前の晩、王宮での宴で、若者は伝説にある金の葉の生い茂る星をきっと見つけてくると、王女に約束しました。


周囲の者は物好きと、若者を笑いましたが、王女だけは微笑を絶やさず、若者の言う言葉に頷き、航海のお守りにと、見事な宝石をちりばめた剣を与えました。


夜明けの空へ、船は旅立ちました。


最初の一年が過ぎました。王女は、若者を待っていましたが、とうとうその年は、船は帰ってきません。二年が経ち、三年が経っても船は戻ってきませんでした。


四年目の夏、惑星に大きな戦いが起こりました。王女の家来が謀反を起こしたのです。


王女は、忠誠を誓うわずかの兵とともに、王宮を逃れ、いばらの這う深い谷へと身を隠しました。


謀反をくわだてた一党は、王宮に残った王女の兵との激しい戦いの末に、これを全滅させ、自分たちに都合のいい掟をつくって、人々の上に君臨しました。


しかし、それも長くは続かなかったのです。三年後、裏切り者たちは、王位継承をめぐって、仲間割れをはじめ、結局は自滅してしまいました。


ふたたび王宮に戻った王女の見たものは、彼方までつづく屍でした。王女は廃墟の中で、朝まで泣き明かしました。


そのとき、あの東の空へ行ってしまった若者のことを考えました。そのことだけが、ちいさな希望に思えたのです。


王女は、朽ち果てた王宮のバルコニーで、七年目の夏の終わりの空を見つめて、船は、いまごろ何処を進んでいるのだろうかと、ふと思いました。



「見ろ、殺風景なもんだ。見事に当てがはずれたな」


探査車のハンドルを握る男が言った。


「無人探査機を使って、上から眺めると、星はみんな豊饒に見えるのさ」


相棒が笑った。探査車は、地形の起伏をホールドしながら、センサーを使って、地中に埋もれているかもしれないレアメタルを探していた。二人は鉱物探査会社の社員だった。


依頼主の希望に添う希少金属を探し求め、銀河を転々とする請け負い業で、必要経費プラス、利益の十パーセントが彼らの取り分である。


別名、テン・パーセンターと呼ばれている。ご多分にもれず、浮き沈みの激しい業界だが、銀河に戦雲みなぎる今は、会社は潤っている。戦闘宇宙船の船体の素材になる金属の需要が高騰しているのである。


いささか過剰労働気味の男は、ハンドルを握りながら、睡眠不足の目をこすった。


「行けども行けども、廃墟ばかりだ。学者の連中だったら、興味が湧くかもしれない風景だ。連中は退屈の中に生きがいを求める人種さ。俺も昔は考古学者に憧れたもんだよ。丸一日、日が暮れるまで遺跡の土を落として、ああでもない、こうでもないと、過去の時間を夢想したいとね」


「今だって似たようなものじゃないか。同じように埋もれた品物を探って一日を過ごしてる。それに、こっちは金になるんだぜ」


「わかってないな」


男は呆れて、運転席の前方に視線を向けた。尖塔と並んでバルコニーのある廃墟が見えた。日差しを遮るには格好の場所だった。


「あの陰で一服しよう」


車を停めると、二人の鉱物探査会社社員は、その辺の石の上に腰をおろして、持参の水で喉を潤した。


「おい、この石を見てみろ」


考古学者に成りそこなった男が相棒に言った。二人が掛けている石の表面に、何かの紋様が刻印されていた。指で、表面の土を掻き落とすと、何かの形状を描写したらしい絵が現れた。


「これは、船だ。ここに人物が描かれている。まわりに装飾がほどこされているのを見ると、この人物の船だな。誰かが思い出のために彫ったんだ」


子供が思わぬ発見をしたように、男は、いつまでもその紋様に見惚れていた。



巨大な恒星間宇宙船が現れたのは、敵味方双方の戦闘宇宙艇が入り乱れて戦っている銀河の空間だった。


突然現れた巨大な宇宙船に向けて、双方の戦闘宇宙艇がありったけのビームを浴びせた。だが宇宙船はびくともしない。何隻かの宇宙艇が巨船の進路に飛び出し、木っ端みじんに砕かれた。


自動推進する恒星間宇宙船の中では、ロボットが鉢に植えられた金の葉の植物に水をやっていた。植物は、見事な発光する白い花を咲かせていた。


部屋を出ようとしたロボットは、壁に掛かった若者をかたどったレリーフの汚れに気づくと、埃を払った。


この宇宙船の中で作られたロボットには、遠い昔、異星の地で病死した主人の顔は判別できなかったのだが……。

読んでいただきありがとうございました。

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