序章 親愛なる君へ
親愛なる君へ――
夜明けの大平原に、さわさわと草の葉が鳴いている。
その葉を踏みしめて、大地に薄い影を伸ばす、人々の姿があった。
東の方、遠い山脈の端には、今にも朝陽が顔を覗かせようとしている。
夜明けの気配は、空の端をほの白く染めて迫り――草原に佇む一団を、照らし上げる。
身長の高低、体格もまちまちな人影は、みな頭から足首まで覆うローブを身にまとっている。
それぞれが、天に差し伸べた手に、緋色の鉱石を掲げる――白い朝陽の一閃を浴び、きら、きらと、黄金色の光を散らす――その光を確かめ合うようにして、懐へしまいこんだ。
風のさざめきが、草原を駆けていく。みなが、不思議な彫像のように佇んでいる。
「ねえ、お船……来るの?」
幼い声が問いかけ、隣の細身の影が、そっとうなずき返した。
「さあ、はじめよう」
歳月を経た男の声が言って、一人ひとりが両隣のローブ姿と手をつなぐ。
すると、草原に人の輪があらわれる。
誰かの靴底が、静かに草を踏みしめる。
そして、輪はゆっくりと回りはじめた。
本日(9月19日)朝8時に、第一話(二万字弱)予約投稿済みです。
よろしければ、引き続き、お楽しみくださいませ。