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プルーム  作者: おっぱい紳士
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第二話(顛末)

「はぁ……ここでずっとこうしててもしょうがないものね……」

「気を取り直してとりあえず冒険者登録だけでもしよ、泊まるところもお金もないし」

気分を入れ替え、冒険者ギルドのドアを押し、開こうとした矢先、桜の横をすり抜けて、ドアを勢いよく開け放つ人影が一つ、

「ちょっ、そんな急にドアけたらぁぁ」

当然ドアに手を当てて体重をかけていた桜の体制は崩れに崩れ、はからずも顔面ダイブを決める事になる。

「……」

ちりちりと痛む、少し赤みのかかった顔でこの現況を作った影をにらみつけ、

ようとしたところで事態は思わぬ展開に。

「伝令!現在げんざい、王都に災害級モンスターベヒモスが接近中!!繰り返す、王都に災害級モンスターベヒモスが接近中!ただちにギルドマスターに言伝ことづてをお願いします」

シン――、一瞬の静寂の後あたりが騒然と騒ぎだす。

「急いでギルドマスターを呼んできて!」

すぐに受付嬢の一人が手持ち無沙汰の鑑定士に叫ぶ。

「は、はい!」

突然、叫ばれた鑑定士は驚きつつすぐさま我に返り、返答して駆けだす。

騒然としたギルド内は混迷を極め。中には恐慌状態に陥る者や死にたくない死にたくないと、言い続けている者までいた。

そんな混沌としたギルド本部に、しわがれた、それでいて威厳のこもった声が響き渡る。

「おちつけ……皆おちつけ、慌ててても命を落とすだけじゃ、冒険者の心得の一つを思い出してみ、どんな時も冷静に、じゃ」

顔をしわくちゃにしてにっこりと笑ったギルドマスターにみな毒気を抜かれ、

しかし、その言葉は不思議と皆の胸にすとんっと落ちていった。

シンと、静まり返った場でギルドマスターは続けて受付に目配せを送る。

「……えっあ、はい、こほんっええと、それでは王国ギルド運営法に(もと)づきEランク以上の冒険者の方々は6人1つのチームを作って頂き、戦闘準備に取り掛かってください!」

その受付の言葉を最後に冒険者達はすぐさま動き出す。

「おい、だれかチームに入れてくれ」

「おぉ!こっちは丁度一人足りなかったんだ」

連帯して次々とチームができ皆走り、急ぎ準備に取り掛かって行く。

そんな光景を一人蚊帳の外ならぬドアの外で、未だにらみつけた顔のまま、その予想外の展開の速さに桜は一人、物語りの外から眺める様な気分でねめつけていた。


……。

「副ギルドマスター!、間もなく目標地点に災害級モンスターベヒモスが到達します!」

「おう、各自戦闘配置にいたか!!」

福ギルマスが大声で張り上げる。

「皆大切な者達を思い出せ、守るべき者達を思い出せ!いくぞ!!」

福ギルドマスターの合図に冒険者たちも声を張り上げる。

「ォォォオオオオ!!」

そしてなぜかこの叫ぶ冒険者チームの一つに桜もいた。

「ぉおおお!私が倒す!この竹刀セイケンでっ」


――「ズゴーーーー!!」

突如眼前に現れたそれは、王都を飲み込まんばかりの大きさの災害級モンスターベヒモス。その大きな口から大音量の咆哮を放つ。

冒険者達は硬直し、誰もが息を飲みその存在感に圧倒されていた。

そんな静寂の中、福ギルドマスターの大きな声がとどろく。

「各自戦闘開始!決して近づくな!離れて攻撃しろ!近づけばその巨体に飲み込まれるぞ!」

副ギルドマスターの合図に一斉いっせい攻撃が開始される。

その一斉に放たれた攻撃は怒涛に吹き荒れる、豪雨ごううごとくベヒモスの巨体きょたいを飲み込んでいく。

そうした攻撃が長く続き、その終わりの見えない攻撃に誰もが疲労を浮かべていった。

しかし、そんな途方もない攻勢の嵐にも終わりがくる。

「全員攻撃、め!」

福ギルドマスターの合図にまばらと攻撃が止んでいく。

もくもくと視界しかいを埋め尽くす土煙は、やがて少しづつ晴れていった、

誰もが勝利を疑わなかった、土煙が完全に流れると、冒険者達は次第しだいに顔を歪ませていった。

冒険者達は、

何の悪夢かと思った。

災害級はこれほどなのか、とも。

――

そこには、ただそこには、出現時と何一つ変わらない、

怒涛の攻勢を意にも介さない、

王者の如く、傷一つないベヒモスが、いた。

驚愕に顔を歪ませ、戦慄する冒険者達。

咆哮一つ、また凄まじい勢いで進行を開始するべヒモスに誰もが死を予感した、最中さなか、一人、前に駆け出す少女の姿が冒険者達の目にうつる。

「キターーついに私の出番!」

そう高い声で叫びながらベヒモスへと衝突する影一つ。

「ふっふふっーついに私の出番っ出番っ」

と、ひたすら竹刀で災害級モンスターベヒモスを叩き続けその進行をくい止める。

「最初この竹刀セイケンかっこ悪いし切れないしなんかだめな感じって思ったけど偶然ある特性がある事に気づいたのよね、見た目はたしかにただの竹刀だけど、そこはさすがの聖剣様!どんな衝撃も即座に吸収してしまうとんでもチート付きだったの♪ぱしーんっぱしーんっ」


「な、なんかあの子凄いぞ」

「おれ達は、助かった…のか?」

そんな中いち早く我を取り戻した副ギルドマスターが冒険者達に指示を飛ばす。

「い、いまの内に戦列を整えろ!負傷者はいまの内に下がれ、動けない者には手をかしてやれ!」

好機とばかりに再び動きだす冒険者達。

災害級モンスターを一人で止める偉業はともかくとして、竹刀でぱしっぱしっ叩く姿はどこまでもシュールだった、なぜかしまらない聖剣である。

そんな光景はやがて緊張の連続に硬くこわばっていた冒険者達の顔をゆるませ、情けない表情にに変えていった。

……。


そんな事は露知つゆしらず颯爽さっそうと竹刀で叩き続ける桜はただ焦っていた。

「くっ、ぱしーん、こんなっぱしーん、叩いても、ぱしーんっ、決定打がないからっぱしーんっ、倒せないじゃん!!私ってば、ばかーーぱしーんっ」


実はこの竹刀セイケン衝撃吸収はできても、吸収しすぎて逆に自身の打撃をも一緒に吸収してしまうという残念チートであった。

「こ、このままじゃどうしよ……ぱしーんっぱしーんっ」

次第に疲労がたまっていく事に焦りがつのっていく。

瞬間――あまりに場違いな機械音声が鳴る。

「ピピッ、ピピッ、マスター、マスターの窮地を確認、聖剣システム強制起動、封印の一部を開放、オートスキル自動選択起動、奥義壱の太刀:刹那せつな弐の太刀:閃光せんこうをスロットに登録」

「オートスキル奥義、弐の太刀:閃光を使用しますか?YES/NO」

「いえすっいえーーすっいますぐ使うっ使いますっ」

突如喋りだした竹刀セイケンに驚きつつもこの膠着こうちゃくを動かせるならっと即答で返事をする。

――瞬間、桜の体を謎の力が、光が包みこむ。

「な、なんか、なんかキタかもぉぉ」

もの凄い力がみなぎってきたことにテンションをあげに上げる桜。

「いくょーーー!!桜的奥義ぃ!閃光――どっかーん」

ズコーーーーーン!!!

奥義名を叫んだとたんに、爆発的な力が竹刀から解き放たれる。

その勢いは勢いのままにベヒモスに当たり、瞬時にその巨体を消滅させ、しかしその勢いはとどまる事を知らず。

王都のシンボルであり、観光名所であるプルーム山脈さんみゃくの右半分を消し飛ばし、綺麗なことで有名だったプルーム湖の水を瞬時蒸発させ、ベヒモス倒したーっと歓喜を浮かべた冒険者達一同の表情を即座に凍りつかせ、戦慄させていた。その力の蹂躙が駆け抜けたあと、そこには半壊して奇抜で斬新な先鋭的デザインの三日月形に変貌をげた、元観光名所プルーム山脈が……そして、冒険者達の目線は自然と、桜の元へ。

「!……えぇぇえええええ!なんで!なんでっ竹刀セイケン強すぎじゃないっどいう事!聖剣っ説明っ」

「マスターの命令を確認、説明システム起動。ピピッ、……えっと、こほんっ、オートスキル閃光は竹刀セイケンで吸収したダメージすべてを2倍にして開放するスキルでした。桜さんはべヒモスの衝突を何度も吸収してしまっていたので、というわけです。」

「っ、つまり、先にあんたが説明していれば、被害もなく、1、2、回叩いて終わりだったじゃない!それにあんたの声、お調子者天使ジョン・スミスに似ているし!」

「お調子者ではなく小間使い天使のジョン・スミスです、桜さん」

「本人ですってぇぇっ!!あんたには言わなきゃいけない事がたくさ――」

「きゅ、急用がーーっそそそ、それでは引き続き聖剣ライフをご堪能ください~ノシ」

「ま、待ちなさいよ!めっちゃ動揺してるじゃないっ待ちなさいってばーー、ツーツー」

テレパシーで通話の切れたような電子音が鳴り響く……。

「ノシじゃないわよーーーーっムキィィィィ!!」

そんな撤収作業を開始している冒険者達を他所よそに桜の叫びが半分に割れ三日月型になったプルーム山脈に反響して鳴り響いていた。

……。


「と、いうのが此度こたびの騒動の顛末てんまつであります」

兵士長が緊張した面持ちで、報告を終える。

「ご苦労、下がってよい」

王様の一言で兵士長はほっとするも、失礼のないようにすぐに顔を引き締めすみやかに退室をする。

「ふぅ……」

あまりに強烈すぎる顛末を聞いた王様はため息一つして、重い口を開く。

此度こたびのプルーム山脈半壊はまことに残念であった、しかし災害級モンスターの討伐の功績はあまりに大きい、よって長らく授与される事がなかった剣聖の勲章とSランク冒険者の地位を褒賞ほうしょうとしようと思うが異論はないか?」

その問いに皆、肯定とばかりに首を縦にふる。

「ふむ、」

と、王様は会議室の窓から見える三日月形になった観光名所を一瞥いちべつして一つうなずくと苦笑いをこぼし

「ならば、以上で会議を終わりとする」

と、締めくくった。

……。


そうして、こうして、国賓待遇で迎えられた桜は、超一流ホテルの一室に案内され、すぐさまシャワーを浴びた後、ふかふかのベットにもぐりこむ。

これからの生活に不安と期待を織り交ぜながら、とりあえず乗り越えた危機に心でガッツポーズし、「疲れた~~」と一言出すと。すぐにすやすやと寝息を立てはじめていた。

つづく




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