独白
優しく愛らしいオルゴールの音が流れる部屋で、××はその時を待っていた。
純白の絹の地に透かし編みの黒レースをあしらったドレスを纏い、手に黒衣の手袋をはめ、足には光沢のある漆黒の靴を履く。ほっそりした首に紫水晶の首飾りを巻きつけ、銀色の髪はそのまま垂らし、白薔薇を挿した。
美しく装った××は、哀しげな顔で青いガラスを撫でる。キラキラと澄んだ光を放つそれに、そっと口づけ、やがて名残惜しげに手放した。
ゆっくりと辺りを見渡す。
国宝級の調度品、数えきれないほどの本、クローゼットから覗く美しい衣装の数々。
どれ一つ、××には思い入れはなかった。所詮は借り物だったからだろうか。
けれど、あのガラスとオルゴールだけは、未練が残ってしまう。
あの二つだけは、××が彼からもらった、確かな××のものだから。
だからこそ、持っていけない。
宝物だから置いていくのだ。
そろそろ時間だ。未練を断つように目を閉じる。それでも、面影は消えない。
今頃どうしているだろうか。この後、どうするのだろうか。
わからない。
想像もつかない。
彼のことだけは、××はいつも読み違えてしまう。
「……好き。好きよ。愛しているわ」
届かない告白をこぼして、小さく笑う。
これでいい。もう十分楽しんだ。幸せだった。
だから、そろそろおしまい。
これは、××が始めた、歪みと欺瞞に満ちた物語。
たくさんの人を巻き込んだ。血も涙も流れた。狂った歯車は軋みながら加速し、不協和音を奏でて転がって、ここまで来た。
だから、××が終わらせなければならない。
……いや。
いいや。
そろそろ、××なんてやめよう。逃げ道を用意しては、何も始まらないから。
ガチャリとドアノブが乱雑な音を立て、冷たい目をした長身の男が入ってくる。そして、手にした槍を喉元に突きつけてきた。
怖くはない。驚きもしない。
あくまで悠然と微笑んで、自ら口火を切る。
「こんにちは、ローグ・ゼルド。わざわざクロフィナルからお迎えありがとう。セレナさんの命令ね?」
「……よけいな口をきくな」
動揺したのか、更に圧力をかけてくる。金属の鋭利な冷たさを感じながら、ますます笑みを深くする。
「さあ、どうぞ。私は逃げないわ。好きにすればいい。……けれど、これだけは言っておくわ」
透き通った泉を思わせる瞳を細めて、凛然と、そして冷ややかに、リラ・クラリス・フォードは言い放つ。
「私を、『本来の私』に戻した罪は、重いわ。それ相応の罰は受けてもらいましょう」
ローグがハンカチを口に押し当ててくる。薬品の匂いに眩暈がして、ふっと意識が遠くなる。失神させてから連れ去るつもりだろう。大方予想通りだ。
幕は上がった。もう、戻れない。戻るつもりもない。
さようなら、私の最愛のひと。




