『弱虫』なりの決意
「手分けして探しますか?」
スピードを落とすことなく、廊下を疾走しながら尋ねると、クラウス様は首を横に振った。
「一緒にいた方がいいだろう。ウルは一人で探しているし、城の位置も完全に把握している。そもそもお前は、ここのことをあまり知らないだろう?」
「そ、そうですね……あはは…」
もう半年以上ここに住んでいるのに、大まかな位置情報しか頭に入っていない。この城は無駄に広すぎるのだ。
「なら、俺がついていた方がいいだろう。それに……」
「それに?」
「俺が兵士の傍に行くと、奴らは俺を怖がってマトモに仕事をしなくなる」
「………………」
何と言ったらいいかわからなかったが、クラウス様の気持ちはよくわかった。先ほど僕も、猛獣扱いを受けたばかりだ。
「取り合えずついてこい。まだみつからないとなると、普段使わない場所に逃げている可能性が高い。……となると、塔か?」
「塔?……って、何ですか?」
「この城とは別にある建物だ。敷地内にいくつかあっただろう?」
言われてみれば、確かにあった。あったけれど。
「あれ、飾りじゃないんですか?」
やたらと芸術的価値は高そうだったが、とても住めそうにない。明らかに出入り口も窓もなかったし、細くて高すぎる。
すると、クラウス様が苦虫を噛み潰したような顔になり、
「……昔は、ああじゃなかったそうだ。だいぶ実用的だったと聞いている」
「え」
「それを、あのクソ王がただの飾りにした。金と労力の無駄遣いだ」
苛立った口調で吐き捨てる。が、すぐに冷静な表情に戻り、言った。
「ここから一番近い塔に行ってみよう」
「で、でも、あそこって出入り口がなかったような……」
「いや、あるぞ。ついてくればわかる」
それきり、クラウス様は無言で走り続けた。僕もついていく。
本当は、話していた方が気が楽だったが、仕方ない。
嫌な想像を振り払うようにスピードを上げる。焦燥感から、いつの間にかクラウス様を抜いて走っていた。
「おい、ハル。行きすぎだ」
クラウス様の制止が飛び、慌てて足を止める。見ると、重厚そうな木の扉の前にいた。
「ここは……」
「俺の部屋だ」
クラウス様が淡々と答える。どっしりとした扉を押し開き、僕もそれに続こうとして、ハッとする。
「ちょ、待ってください!ここ、クラウス様の部屋なんでしょう!?僕なんかが入ったら……」
「何を言ってる。リラの部屋に通わされているんだ、今更だろう?」
クラウス様が首を傾げる。
いや、命令で王女様の部屋に入るのと、世継ぎの皇子の部屋に普通に入るのとはだいぶ違う気が……まあ、いいか。
恐る恐る中に足を踏み入れると、意外なほどに殺風景だった。
必要最低限の家具しか置いていない。家具は上等だが、装飾が少なく、部屋もそれほど広くはない。大量の本でとんでもないことになっているリラ様の部屋とは対照的だ。
皇子の部屋がこれでいいのだろうか。でも、クラウス様の部屋だと思うと、妙に納得してしまう。
思わず部屋の中をきょろきょろと見回す僕を置いて、クラウス様が部屋の隅に行く。そうして、腰に挿した剣を抜き、壁に向かって投げた。
それだけでも固まったが、更に、信じられないような光景が目の前で起こった。
剣が突き刺さって五秒ほどたったその瞬間、壁に亀裂が入り、音もなく分かれて開いたのだ。そこからは階段になっており、暗くてよく見えない。
「………………はあっ!?」
半ば悲鳴のように声を上げる。
「え、ちょ、何ですかこれ!」
「見ればわかるだろう。階段だ」
「そりゃ、見ればわかりますよ、見ればね!?僕が言いたいのは、何でこんな機能がクラウス様の部屋についているのかってことですよ!」
「さあな。元からついていたから知らん」
しれっと言う姿に呆然とする。
この城、どんな設計になってんだよ。税金の使いすぎだ。国民にばらしたら、革命でも起こされそうだ。
クラウス様は驚きを通り越してあきれる僕に、階段を指さして言った。
「ここから一番近い塔に繋がっている。塔と塔も全て繋がっているから、お前の姉を探すのにもいいだろう」
「……本当に金いくら使ってるんですか、ここ」
「だから、知らん。あのクソ王のせいだからな」
嫌悪を滲ませた声で吐き捨てると、クラウス様は優雅な動きで階段に降り立つ。
長い栗色の髪を揺らし、振り返りざま、少し笑う。
「ほら、いくぞ」
「……はいっ」
一つ息を吸い、吐く。そして僕は、勢いよく暗闇の空間にとびこんだ。
きっと、ミシュア姉さんはここより暗い場所に閉じ込められている。血の海に溺れていた僕と同じように。
僕にはリラ様がいた。リラ様が僕を、絶望の淵から救って、立たせてくれた。
だから今度は、僕がミシュア姉さんを救おう。
もう、逃げない。真正面から向き合って、ミシュア姉さんを苦しめるあいつの影を、とりはらう。
だから、待っていて。すぐ行くから。




