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白い手

 声が聞こえた。

 また、だ。また、あの声。

 僕が沈む時、必ず聞こえてくる。


『……………………』


 どうして、止めるんだよ。

 もうやめるって決めたのに。ほっといてくれよ。止めるなよ。

 これは僕が望んだ結果だ。


『……が、……とでも?』


 ……知らない。そんなの知らない。

 耳を手で塞ぐ。目も閉じた。ドロドロと、真っ黒な液体の中に沈んでいく。

 それなのに、誰かが僕の手を掴む。

 離せよ。

 君もこっちに来たいの?そうじゃないだろ。君は違うんだろ。

 なら離して。僕はもう駄目なんだ。

 全部、間違ってしまったから。


『どうして?』


 わからないよ。わかるわけ、ない。

 僕だって好きで間違ったわけじゃない。


『だったら……すればいい。……も、……から』


 無理だよ。

 何度、こんな目にあったと思う?

 爆発して、暴走して、沈んで、助けてもらって。

 その繰り返し。

 次こそはと思っても、また繰り返す。そのたびに、どんどん被害が大きくなる。

 とうとう、彼らにもばれてしまったじゃないか。

 今更目覚めたって、今まで通りにできるわけがない。それどころか、また昔のように、恐れられ忌嫌われる。

 そんなことになるなら、生きる意味なんてない。

 もう終わりなんだ。


『それは、逃げ続けたからだよ』


 ……そんなの知ってる。でも、仕方なかったんだっ。

 僕には、逃げることしか、できない。

 臆病で卑怯で自分勝手で最低最悪な奴なんだよ、僕は。

 全部僕が悪いんだよ。わかってる。全部、僕のせいなんだ。

 だから、だから今度こそ、本当の意味で終わらせるために。


『そうやって、また逃げるの?』


 違う。今度は逃げてない。


『……じゃあ、目を開けてみてよ』


 ……どうして。


『信じてくれないの?』


 違う。君は、誰だかわからない君は、いつも助けてくれるみたいだから。

 だからこそ、怖いんだ。

『一瞬だけで良い。本当にそれだけで良いから』


 ……わかったよ。

 言われた通りに目を開ける。耳から手を離す。

 真っ黒な闇。ほら、やっぱり何も変わっていな……違う。

 その中で、不釣り合いなほど真っ白な手が、僕の手を握りしめていた。


『…………?』


 わからない。もう、何もわからないよ。

 君は誰?

 どうして、そうまでして僕を助けようとするの?

 何の意味があるの?


『……から。……だから』


 ぐわんと視界が歪んだ。ズキズキと、こめかみが痛む。

 感覚が戻ってくる。

 知りたくない知りたくない知りたくない。その言葉を言わないで。

 思い出させないで。

 痛い。痛みなんかいらない。

 僕を助けようとするくらいなら、セレナを助けてよ。


『……………………』


 ほら、助けてくれないじゃないか。

 それとも、君がセレナになってくれるの?……違うよね。僕だって、偽物のセレナなんか嫌だ。

 セレナ以外が口にするその言葉は、聞きたくない。

 だから、もう終わりにしてよ。早く。


『思い出せないかもしれないけど……思い出さなくて良いけど、これだけは』


 その瞬間、漆黒に覆われた視界が飛び、真っ白に染まった。たぎるような熱さも凍るような冷たさも消え、温かくて柔らかい光を感じる。

 視界に色素の薄い茶色の髪が揺れるのが映る。

 ふわりと、どこか懐かしい甘い香りがする。

 どうして。

 やっぱり、君は?


『…………』


 それは、ほんの一瞬だったけれど、少女が淡く微笑んで。


 再び意識が遠ざかって行った。

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