誓い
誰もいない真っ暗な部屋に逃げるようにとび込み、鍵をかける。
そうすると、もう立っている気力さえわかず、××はそのまま床に倒れた。ふかふかの絨毯に体が沈みこむ。
気を抜けば、涙がこぼれそうで。
泣くものか。××は泣かないと決めたのだ。
自分なんかが泣くことは許されない。ことに、彼のことに関しては。
絶対に絶対に、泣いてはいけない。
それでも、どうしても苦しくて。哀しくて。叫んでしまいそうで。
絶望に体を貫かれるこの感覚を味わったのは、一体何度目だろうか。
「まただ……」
××は、また、同じ過ちを犯した。
あの時。血まみれの彼の姿を見たときに、いっそ狂ってしまえればよかったのに。
何年経っても、繰り返して。
どうしたらいい。どうすれば、正解に辿りつける。
そもそも、自分が彼の傍にいることは正しいのだろうか。
自分が傍にいるから、彼が傷つくのではないか。
掠れた笑い声が漏れる。
もう、嫌だ。
彼が傷つく姿を見たくない。彼のあの姿を見るくらいなら、自分が死んだ方がマシだ。
頬を何か冷たいものが滑り落ちていく。視界がぼやけていることで、それが涙だと気付き、唇を噛みしめる。
数年前のあの夜。あの日のことを、××は一度だって忘れたことがない。
きっと彼は、正確には覚えていないのだろう。あの人にとって都合のいい、捻じれた記憶のままだ。
あの夜のことを正確に覚えているのは、××とあの人だけ。
××と彼とあの人は、いったんはバラバラになった。それで、終わるはずだった。
止まっていた時間を動かしたのは、間違いなく××で。
彼が今傷ついているのも、××のせいなのだ。
××がいなければ、こんなことにはならなかったかもしれない。
……でも。
このままじゃ、彼は前に進めない。
自分とあの人のせいで、彼は前に進むことができない。
「……ごめんね」
ごめんなさい。
もう少しだけ、一緒に居させて。絶対に君の足枷を外してみせるから。そうしたら、君の前から消えるから。
だから、もう少しだけ。
涙に濡れた目をこすり、ずっと握りしめていた右手を開く。
××の手の中にあったのは、×××だった。
これはきっと、××への宣戦布告なのだろう。
彼への狂った愛情。それが今回の事件の裏側。
あの人は、彼への愛情から彼を傷つける。
それなら、自分は。
「あの人から彼を守る。そして、彼を開放する」
彼は、××の何より大切な人だから。