桃色のプレゼント
「ごめん水奈。これにはわけがあって…。」
目線を落とす彼女に、文夜は何度も謝り続けます。例の包装紙は、そんな中でもやはり、大事そうに握られています。
水奈はその包装紙の中身が気になって仕方がありません。許してもいいから、その中身を知りたくなりました。
「わかった、いいよ文夜。そのわけを説明して。」
このとき水奈は、一つの期待を抱いていましたが、彼の答えはそれに的中するものでした。
彼は、手に持ったものを胸の前に出して、照れ臭そうに言いました。
「あの、今日は水奈の誕生日だろ? 去年は写真だったけど、今年はやっぱりもう少し高価なものがいいと思って…。」
「そんな、いいのに。」
慌ただしく手をひらつかせる水奈に、文夜も空いている右手を振りました。
「いや、だって、去年のお前からの誕生日プレゼント、コートだったじゃないか。」
「あれは…まあ、高かったけど、別に見返りを望んでいる訳じゃないし…。」
口を尖らせる水奈の目の前に、文夜は左手に持った包装紙を差し出しました。問答無用、買ったんだから貰え。ということでしょう。
彼からのプレゼントで喜ばないほど、水奈は冷淡な女ではありませんでした。だから、口では遠慮をぶつぶつ言いながらも、手はそれを受け取りました。
「実はそれ、今日買ったんだ。なかなか良いのが見つからなくてさ。」
ベンチに座って包み紙を嬉しそうに抱える彼女を見下ろしながら、文夜は『わけ』を説明しだしました。
文夜の話を簡単にまとめると、誕生日プレゼントを選んでいたから遅刻した。とのことでした。
「遅くなるなら連絡くれればいいのに。」
なら心配しなかったのに。と再び口を尖らす彼女でしたが、内心では喜んでいました。何せ女心をわかってくれなさそうな仏頂面からの、突然のプレゼントなのですから。いくら遅刻したといえ、不器用な彼が頑張った証というなら水奈には許せるのでした。
しかし表面の水奈しか見えていない文夜は、彼女の言葉に真剣に答えました。少し、その日焼けた頬を紅潮させながら。
「それは、あの、サプライズみたいにしたかったから。」
それを聞いた水奈は、急に可笑しくなりました。プレゼントを抱えながらフフフと笑っていると、文夜の頬はますます赤くなりました。元々こういった事が苦手な彼は、プレゼントを買う時点からすでに恥ずかしさをこらえていたのです。しかも、せっかくの誕生日だからと頑張った結果、こうして彼女に笑われてしまったのですから、紅潮しても仕方がありません。
「なんで笑うんだよ。」
「フフッ、だってさ、文夜がこんなこと考えるとは思わなかったんだもん。」
今日はじめてニコニコ笑う水奈は、もう遅刻のことを忘れていました。
文夜も、そんな彼女を見てホッと胸を撫で下ろし、その隣に腰を落ち着かせるのでした。
「ねえ文夜。開けてもいいかなあ。」
ひとしきり笑ってすっかり機嫌が直った水奈は、ワクワクしながら文夜を見ました。頬の色が戻っている文夜はただ、コクリとうなずきました。
水奈はそれを見ると、すぐに包みに手をかけました。丁寧に、丁寧に、決して破いてはいけません。包装紙は水奈の手によって、綺麗にゆっくりと開かれていきました。文夜も、その様子を横から見守っています。気に入ってくれるかが問題なのです。
やがて、包み紙の中から露になった物を見て、水奈の顔が輝きました。それは、水奈の大好きな桃色の手袋でした。
「バイトの時給では、これが精一杯だったんだよ。」
手にはめてみてぴったり合うことを確認している彼女に、文夜はすまなそうに言いました。
現在二人は大学生で、文夜の方が一つ上です。そんな彼の収入源は、コンビニのバイトの少ない時給でした。
「十分だよ。ありがとう!」
彼のそんな事情を知る彼女は、嘘偽りない笑顔を彼に送り返すのでした。




