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<妄想開始>二ヶ月前の公園で

 それは、早くも日が沈み始めた夕方のこと。一人の女が、自慢の腰まで伸びた黒髪を秋風に遊ばせながら、公園のベンチに座っていました。カサカサと、枝から追い出された枯れ葉が音をたてています。

 彼女は今、もうすぐ付き合って二年になる男を待っている最中でした。左腕に着けた腕時計は、いつ見ても数秒ずつしか動きません。公園の入り口を見つめても、車しか通りません。女はだんだん不安になってきました。


(このまま来なかったらどうしよう、事故にでもあったんじゃ。いや、急遽来れなくなったのかもしれない。だとしたら、メールが来ているはず。)


 女はおもむろに鞄の中から携帯電話を取り出し、開きました。メールが一件入っています。急いで確認すると、携帯の契約会社からの料金通知メールでした。女はイラついたようにクリアボタンを押し、待受画面に戻しました。

 待受画面には、自分と彼氏の写真が輝いています。これは丁度、去年の今日に撮った写真でした。彼は写真嫌いな人でしたが、その日は彼女の誕生日ということで、特別にツーショットを許したのです。 女はその写真をまじまじと眺めました。一年前の自分は、大好きな桃色のジャケットを着て、黒髪を束ねて頭の上でまとめています。その顔は、はち切れそうなくらい幸せそうでした。一方男は、恥ずかしそうに苦笑いしながら、彼女を左手で抱き寄せています。肌寒い秋に感じた彼のぬくもりは、一生忘れないでしょう。


 しばらくして、待受画面を見飽きた女は、携帯から目を離して公園の入り口を見ました。しかし、写真の中で苦笑するその人は現れません。腕時計を見ると、待ち合わせの時間の遥か三十分後を示していました。

 ついに女の不安は最高潮にまで達しました。そこで、手に持った携帯のボタンを慣れた手つきで押し、怒りと不安を込めたメールを最愛の彼に送ったのでした。

 意外なことに、メールはすぐに返ってきました。といっても、送ってから十分経った後なのですが。きっと返ってこないと思っていた女からして、この十分は早い方に入るのです。

 メール文はとても短いものでした。『待たせてごめん、もうすぐ着くよ。』


 絵文字のない質素なメールでしたが、寛大なこの女は、ただ彼が無事でいたことに満足しました。しかし満足すると同時に、少し不愉快になったことは間違いありません。

こんな大遅刻、何か深いわけがあっても良さそうなものですが、彼女には全く思い当たりがないのですから。


 それから数分経たずに、彼がいつものぶっきらぼうをぶら下げて公園に入ってきました。


「ごめん、水奈(みな)。待ったよな。」


 すまなそうにそう言う彼は、黒いジャンパーにジーパンといった楽な格好をしています。どうやら、着替えに手間取ったのではないようです。


「遅いよ文夜(ふみや)。遅刻しすぎ。心配しちゃったよ。」


 決して軽率な様子はない彼女が、文夜の目に映りました。


「ごめん、本当にごめん。」


 いくら謝ってみても、彼女、水奈は応じてくれません。


「私がいくら優しくてもね、三十分以上の遅刻は許せないよ。なんでこんなに遅くなったの。」


 静かに怒りを露にする水奈は、困惑する文夜の顔から目線を落としました。その時、文夜の手に小さな袋が握られていることに気づいたのです。

 淡いピンク色の包装紙が、手のひらより二回りくらい大きく綺麗にまとまって、赤いリボンを付けています。文夜はそれを、大事そうに握っているのでした。

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