~第十一話~心の在り処はいずこへ
side 一刀
真上で輝く太陽が、今の時刻が昼時だと人々に知らせていた。
街の飯屋は、働く人々が押し寄せ、熱気で満ちている。
そんな、熱気で満ちる飯屋に、俺は今来ていた。
「おっちゃん、肉まん一つ」
「あいよっ!」
元気よく答えた店主のおっちゃんは、蒸籠から出来たての肉まんを取り出し、俺の座る机に置く。
「北郷の旦那、随分疲れた顔をしてますな?」
「アハハ……やっぱ分かる?」
おっちゃんの問い掛けに、俺は苦笑を浮かべて答える。
「ここ最近は忙しくてね……。まあ、城内には俺より忙しい人はいっぱい居るんだけどさ……」
「大変ですなぁ? でも、あっしらは旦那達に感謝してますぜ。旦那達が来てからは、ここら一帯はだいぶ豊かになりましたからね」
そうしみじみ語るおっちゃんを横目に、俺はここに移動してからのことを思い出していた。
黄巾の乱が終結を向かえた後、桃香様が何進から青州の平原郡を与えられたのは、今から三カ月前のことだ。
太守として桃香様がこの平原に赴任した当初は、ひどく治安が乱れていた。
そこで義景は、ここら一帯の治安維持のため、警邏隊を立ち上げ、俺にそれを一任する。
警邏隊の隊長となった俺は、早速現代における警備の形を適応し、総勢200名による24時間体制の警邏を実施した。
現代でもそうだが、やはり24時間体制の警邏は効果絶大だった。
実際に犯罪率を割り出した訳ではないので詳しくは分からないが、それでもここら一帯の治安は劇的に変わった。
まあ、その代わり、北郷小隊の調練に加え、警邏隊200人分のシフト調整という激務が俺に降り懸かることになるのだが……。
おかげで、俺の休みはほぼ無くなってしまったが、それでも今は、人々の笑顔を見る度にやって良かったと実感し、ある種の達成感を感じている。
「旦那、旦那!」
「っ! 何だい?」
俺を呼ぶおっちゃんの声に、ハッと我に帰る。
いかん、いかん。
また自分の世界にのめり込んでた……。
「大丈夫ですかい? 何度呼びかけても反応がないんで、心配しましたぜ?」
そう言って、おっちゃんは心配そうに俺を見る。
「あはは……大丈夫さ。さてと、そろそろ仕事に戻らないと……。ごちそうさん、代金はここに置いておくよ?」
「へい、ありがとうごぜぇます。……旦那も、あんまり無理をしなさんな?」
「ありがとう。じゃ、また」
おっちゃんの言葉に苦笑で答え、俺は警邏隊の詰所に歩みを進めた。
夜になり、俺は今週の警邏報告を纏めた書簡を朱里達に届け終え、城門の屋上に向かっていた。
一応、今日の俺の仕事はこれで終わりなので、息抜きをしようと、景色の良い城門の屋上に足を踏み入れたのだが――
「……ん?」
屋上にはすでに、見なれた赤髪の男が座っていた。
「おう、一刀じゃねぇか」
「よう、お前こんなところで何やってんだ?」
ニヤリと笑う士陽に、俺は怪訝な表情を浮かべた。
「見て分かんねぇか?」
そう言って、士陽は足元に視線を向ける。
そこには、数個の瓢箪と皿に山のように盛られたメンマがあった。
「こんなところで飲み会かよ……」
「分かってねぇなぁ……。ここだから良いんだろうが」
俺が呆れた表情でそう言うと、士陽は溜息をついた。
「左様……ここから見える月を見ながら月見酒というのも、中々乙なものですぞ?」
後ろから聞こえる声に、俺は振り返る。
そこには、青い髪をなびかせ、不敵に笑う少女が一人……。
「おう、遅かったじゃねぇか、星」
「すまぬ士陽。調練が予想以上に手間取った」
そう言って、星こと趙雲が苦笑した。
この少女、“あの”趙雲である。
桃香様が平原の太守になってからしばらくして、公孫賛の下から離れ、正式に将として桃香様に仕えることになった星は、このように何故か士陽と意気投合したらしい。
「一刀、お前も飲むか?」
士陽はそう言って、俺に向き直る。
「……良いのか?」
今日の仕事はもう終わってるし、正直俺は飲みたい気分だった。
「勿論。良いよな、星?」
「ああ、構わん」
士陽の問い掛けに、星は微笑みながら肯定した。
「へぇ……良いもんだな、月見酒も」
士陽達に混ざって満月を見ながら、俺はしみじみとそう呟いた。
「ふっ……そうでしょう? 一刀殿はいつも忙しそうですからな。たまには息抜きも必要ですぞ?」
そう言って、星は朗らかに笑う。
「お前、仕事し過ぎなんだよ。その内ぶっ倒れるぞ?」
呆れた表情を浮かべ士陽がそう言う。
「んなこと言ったって仕方ねぇだろ? この街の治安は警邏隊に懸かってるんだからよ」
溜息をつきながら、俺は杯の酒を飲み干す。
「それにしても、一刀殿の警邏隊は大したものですな? 私は様々な街を巡って来ましたが、ここまで治安の良い街はありませんでしたぞ?」
「まあ、それぐらい徹底してるからね。逆に、これで他の街と同じ治安状況だったら泣けるよ」
酒を杯に注ぎながら、俺はそう言って苦笑した。
「そういや、星は何で白蓮の所から出て来たんだ? お前ぐらいの将なら、待遇は良かったろ?」
「居心地は悪くなかったな。だが、白蓮殿に生涯仕えたいかと言えば、それは否だった。その点、桃香殿は生涯仕えても良いと思えたな。まあ、感覚的なものだよ」
士陽の問い掛けに、星はそう言いながら微笑を浮かべる。
「そういうもんかね? お前の感覚はよく分からん」
「人の感覚などそんなものだよ。それなら士陽、お主はどうなんだ?」
星は杯に酒を注ぎながら、士陽に向き直る。
「俺もそれは気になるな」
俺もそう言って、士陽を見る。
俺が桃香様に仕えるからってのは多分違う。
士陽は人に流される男じゃない。
「俺か? 俺の理由は単純だぜ? そもそも、星のように生涯仕えても良いか否かなんていう面倒なことは考えてねぇしな?」
士陽はそう言うと、視線を上空の月に向ける。
「ほう……では何故だ?」
星が面白いものを見つけたような表情を浮かべる。
「んな面白いもんでもねぇけどな? 理由は一つ、桃香は俺の友達だからだ。それだけだぜ?」
士陽がそう言うと、星は愉快そうに笑いだした。
「ハッハッハッ! 何だそれは! そんな理由で、お主は命を懸けられると言うのか?」
「命を懸けるなんて大げさなんだよ。そもそも、俺は死ぬ気はねぇ。お前だってそうだろ?」
「確かにそうだが、戦場に出る以上は命を懸けねばならんだろう? そんな理由で良いのか?」
「良いんだよ、俺は。友達を助ける。理由なんてそれでだけで充分だ」
そう言って、士陽は杯を一気にあおった。
「クックックッ……つくづく面白い男だな、お主は」
心底愉快そうに、星はそう呟く。
まあ、命を懸ける理由がそれというのもどうかと思うが、実に士陽らしい理由だと思う。
だからこそ、俺は言わねばならない。
「お前さ、友として桃香様を助けたいんだったら、書類仕事もちゃんとやれよ?」
「あん? やってるぜ? 必要性のある奴だけだけど……」
「いやいや、全部ちゃんとやれよ」
呆れながら俺がそう言うと、士陽は心底面倒そうな表情を浮かべる。
「お前まで愛紗みてぇなことを言うんじゃねぇよ。アイツ、桃香が平原の相になったからって、最近は前にも増して張り切ってるから口煩くて堪らん!」
「だろうな……。最近、前にも増してお前と星に対する愚痴が増えてるからな」
「おや? 私もですかな?」
自分の名前が出たことが意外だったのか、星はキョトンとした表情を浮かべる。
「んー……まあ、星は士陽と似て器用だからさ、怠けてると思われてるみたいだね?」
「それは心外ですな? こんな真面目な女、他にはいますまい?」
「ハッ、何を言ってやがる? お前、俺と同じで適度に手ぇ抜いてんだろうが」
呆れた表情でそう言うが……士陽?
それはドヤ顔で言える台詞じゃねぇぞ?
「だいたい、愛紗は頭が固過ぎる。もっと私や士陽のようにドンッと構えていれば良いものを……」
「確かになぁ……。アイツ、重箱の隅を突くみてぇに文句を言ってくるからなぁ……」
星の言葉に頷きながら同意する士陽。
まあ、確かに愛紗は少々不器用な所がある。
でも、彼女は彼女なりに頑張ってるし、そこまで言わなくても……。
そう思いながら、俺は士陽と星に視線を向けた。
「あっ……」
その時、俺は見てしまった。
陽気に笑いながら愛紗の愚痴をこぼす二人の後ろに、“武神”がいることを……。
「あの……二人共、その辺にした方が……」
俺は怖ず怖ずと二人に忠告するが、二人は全く聞いていない。
「ふっ……あの細かさは、まるで小姑だな? 窓枠の埃さえ許さなそうだ」
「小姑! ハッハッハッハッ! 確かに、言い得て妙だな!?」
星の言葉に、士陽は爆笑している。
「うわぁ……」
俺は思わずそんなうめき声を上げながら、戦々恐々と状況を見守るしか出来ない。
って言うか、最早手遅れだ。
「悪かったな、小姑で」
「「え゛っ……」」
凛と響いた声の方へ、二人はギギギという擬音がなりそうな勢いで振り向く。
「私だって……私なりに頑張っているのに……それをお前達は……」
俯いているため表情は見えないが……これが噂のMK5(マジでキレる5秒前)か……?
「よよよようっ、愛紗! とっ、とりあえず、お前も飲めよ! なっ!?」
「そっ、そうだぞ愛紗! ほらっ、メンマもあるぞっ!?」
慌てて取り繕うが、もう遅い。
こりゃ誰か怪我するかな?
そう思いながら、どのタイミングで止めに入ろうか考えていると、想定外のことが起きた。
「わっ、私だって……私……だって……うぅっ」
えぇっ!?
泣き出した!?
「っ!? ちょっ、おい、愛紗!?」
「むぅ……まさか泣き出すとは……」
士陽は慌てふためき、星は気まずそうに呟く。
やれやれ……。
俺は愛紗に近付くと、大丈夫?、と声をかける。
「うっ……うっ……一刀殿……私は小姑なのですか? だから桃香様にも評価して貰えないのですか?」
泣きながらそう呟く愛紗に、俺は溜息をつく。
「いやいや、そんなことないって! ……二人共、言い過ぎだぞ?」
俺はほんの少し怒気を込めて二人を睨む。
二人は気まずそうに肩を竦めた。
しばらくして、落ち着きを取り戻した愛紗は、士陽の隣にペタンと座り、チビチビと酒を飲んでいた。
「ワリィ、愛紗……。まさかそこまで気にするとは思わなかった」
「私も少々度が過ぎた。済まぬ、愛紗」
怖ず怖ずとそう言う二人に、もう良い、と愛紗は溜息をつきながら返答する。
それにしても、まさか愛紗が泣くなんてなぁ……。
多分、環境が変わったことで、肩に力が入り過ぎて、ストレスを溜め込んじまったんだろうなぁ……。
いくら後に“武神”と言われるであろう関羽とは言えど、やっぱり根っこの部分は普通の女の子なんだなぁと改めて実感する。
まあ、例え女の子だとしても、俺より強いことは確かなのだけれど……。
そう思いながら、自分の不甲斐なさに苦笑する。
「つーかよ、桃香に評価して貰えないってどういうことだ?」
士陽は愛紗をまじまじと見ながら尋ねる。
「うむ、私もそれは気になった。愛紗と鈴々ほど優遇されている将は他におらぬぞ?」
星も不思議そうな表情を浮かべる。
ん?
この愛紗の話、何だか聞いたことあるな?
何の話だったか……。
俺は頭の中にある記憶を手繰り寄せながら、どの記憶か選別していく。
そうこうしている内に、愛紗がふて腐れるように呟いた。
「いるではないか……」
「誰だよ?」
士陽が問い掛ける。
「……義景殿だっ!」
「…………なるほど、そういうことか」
苛立ったように声を荒げる愛紗を見ながら、星が納得した表情を浮かべた。
……あぁ、なるほどね。
俺も納得したよ。
この現状、俺がいた世界の三国志における、諸葛亮に対して関羽が嫉妬した状況と一緒だ。
要するに、愛紗は義景に嫉妬してる訳だ。
まあ、あの二人は最近イチャつく頻度が多くなってるからなぁ……。
愛紗じゃなくても、あの二人と一緒にいると気まずくなる。
俺の記憶が確かなら、向こうの三国志では、諸葛亮の尊重に不満を持った関羽と張飛に対して、劉備は“水魚の交わり”という言葉により、軍師の重要性を説いたんだったよな。
チラリと星に視線を向けると、星もどう答えたら良いか分からないようだ。
まあ、今回の場合、向こうの三国志とは違って、軍師の重要性だの何だのっていう問題じゃないからなぁ……。
桃香様は多分……いや、絶対義景を異性として好意を寄せている。
あの表情を見れば誰だって分かる。
俺達から桃香様に、好きになるなって言うのも何だか不躾がましいし……かといってこのまま愛紗を放って置く訳にもいかないし……うーん……これ、意外と難しい問題だなぁ……。
俺はウンウンと頭を悩ませていると、士陽が口を開いた。
「義景ってお前……アイツは軍師だろ? 主君が軍師を重宝するなんざ、よくある話じゃねぇか? それはお前の評価云々とはまた別だろうが?」
「そんなことは私だって分かっている! だが、最近の二人は……その……明らかに主君と軍師の関係を越えているじゃないか?」
士陽の言葉に、愛紗は拗ねた表情で返す。
「だから何だよ? 別に良いじゃねぇか。仕事に支障を来してる訳じゃねぇんだろ? ましてや、お前は何も迷惑なんて被ってねぇじゃねぇか」
「それはっ……そうだが……!」
「お前のソレは、嫉妬って言うんだよ。ったく、いい歳こいて、何をガキみたいに嫉妬してるんだか……」
「くっ……!」
呆れた表情でそう言う士陽に、愛紗はたじろぐ。
まあ、俺も気持ちだけなら士陽に同感だ。
だけどな?
そういう問題じゃねぇんだよ。
理屈で行けば士陽の言う通りかもしれないが、これは最早感情論だ。
感情的になってる相手に、理屈など言っても意味がない。
「……そんなことは分かっている。これがただの私の我が儘だということもな。だが、仕方がないじゃないか? 私は……桃香様、私、鈴々との間で結んだ義姉妹の契りが無くなりそうで怖いんだ……」
そう言って、愛紗は盃の酒を乱暴に煽る。
その様子に、俺は何と声をかけたら良いのか分からなかった。
星に到っては、最早士陽と愛紗の対話を聞くに徹することに決めたらしい。
まあ、ある意味、それが一番正しいのかもな?
こればっかりは、俺達ではどうすることも出来ない……。
「だったらその気持ちを桃香にぶつければ良いじゃねぇか?」
「そんなこと出来るかっ! こんな話、桃香様にとっては迷惑以外の何物でもない……」
そう言って、愛紗は顔を歪める。
嫌なんだろうなぁ……そんなことを思ってる自分が。
うーん……どうにかならんもんかなぁ……。
そう思いながら、俺は士陽に目を向ける。
何かを考える素振りを見せた士陽は、考えが纏まったのか、真っすぐ愛紗を見据えた。
「……どう考えても、やることは一つだ」
そう言って、士陽は立ち上がると愛紗の手を取り立ち上がらせる。
「なっ、何だ? どうするつもりだ?」
「あ? んなもん、桃香の所に行くに決まってんだろ?」
さも当たり前のように言う士陽に、愛紗は目を見開いた。
「ばっ、馬鹿者! お前は私の話を聞いていなかったのか!?」
「聞いてたぜ? だから俺が手助けしてやろうって言ってんだ。感謝しろよ?」
「ふざけるな! これでは桃香様にいらぬ迷惑が……!」
慌てた表情を浮かべる愛紗に対し、士陽は面倒そうに顔を歪め、強引に愛紗の手を引く。
「おっ、おい!」
「ごちゃごちゃうっせぇんだよ、お前は。良いから黙って着いてこい」
「まっ、待て! 待ってくれ! おい!」
「んじゃ、悪いけどそういうことだから、残りの酒はお前らで飲んでくれ」
愛紗の言葉を無視しながら、士陽は俺と星に微笑みかけると、愛紗を引き連れ城内に戻っていった。
「……行ってしまいましたな、一刀殿?」
「だねぇ……」
正面に座る星が苦笑しながらそう言うと、俺は溜息をつく。
まったく……士陽の奴、随分と強引な方法に出たもんだな。
「俺も、愛紗はちょっと面倒だなと思ったけどさ、ありゃあまりにも強引過ぎるだろ……」
「しかし、愛紗のような石頭は、ああやって強引にやる方が一番良いかもしれませぬぞ? あのまま放って置いても、ああなった愛紗は人の話を聞きませんからな? 時には、士陽のような強引さも愛紗には必要なのかもしれませぬ」
そう言って苦笑を浮かべると、星は盃を煽る。
「……そういうもんかね? 俺はもっと穏便に済ませた方が良いと思うんだけどなぁ……」
「そういうものですよ。まあ、士陽が上手い具合にやってくれると私は思いますぞ? 後のことは士陽に任せて、我々はこの小さな酒宴を続けましょう」
そう言って、星はカラになった俺の盃に酒を注いだ。
「……まあ、士陽なら大丈夫か……」
ポツリと呟きながら、俺は白磁器のように輝く月を肴に盃を煽った。
ちなみにこの後、酔った星に、俺の女性経験のなさを散々イジられてしまうのだが、この時はそんなことは知るよしもなかった。
やれやれ……。
side out
side 陳登
「おいっ、士陽! 引っ張るな!」
愛紗がそう叫ぶが、俺はそれを軽く無視する。
黙って桃香の部屋に足を運ぶ俺は、中々に苛立っていた。
理由は言わずもがなだ。
だいたい、桃香に迷惑かけたくねぇとか言っときながら、今のコイツの状態が一番迷惑なんだってのが何で分からんかね?
そもそも、コイツがこんな状態になるまで、何で桃香は放って置いたんだ?
……いや、アイツの場合は放って置いたんじゃなくて、ただ単に気付いてねぇだけか。
最近のアイツは忙しいし、しかも義景にお熱だから、尚更気付いてねぇんだろうな。
ったく……義姉妹揃ってめんどくせぇ……。
鈴々の方がよっぽど大人だぜ。
前にあの子は、義景も桃香も信頼してるから気にしねぇって言ってたしな。
そんなことを思いながら、俺は桃香の部屋の前で足を止めた。
「……本当に行くのか?」
「当たり前だろ?」
「むむむ……」
「何がむむむだ……」
往生際の悪い愛紗に呆れながら、俺は部屋にいる桃香に声をかけた。
「桃香、ちょっと良いか?」
『士陽君? 良いよ、ちょっと待ってね?』
その声に従い少し待っていると、扉が開いた。
「士陽君……と愛紗ちゃん? どうしたの?」
桃香は不思議そうな表情を浮かべる。
「ああ、ちょっとな……コイツがお前に言いたいことがあるんだとさ」
俺はそう答えると、愛紗の背中を押して桃香の前に出す。
「なっ、何かな、愛紗ちゃん?」
「あっ……あの、そのっ……」
桃香を目の前にして、愛紗は歯切れが悪くなる。
ここまで来て何を遠慮してるんだか……。
やれやれ……。
「とりあえず、立ち話も何だから、お前の部屋に入っても良いか?」
「あ、うん。そうだね。どうぞ」
俺の言葉に頷くと、桃香は俺達を部屋に招き入れた。
「それで……本当にどうしたの?」
桃香の寝床の前に置かれた卓に俺達が着くと早々、桃香は愛紗に尋ねた。
「…………」
愛紗は気まずそうな表情を浮かべながら、だんまりを決め込んでいる。
ったく、仕方ねぇな。
「お前さ、最近義景とよく一緒にいるだろ?」
「へっ? うっ、うん……いるけど……それがどうかしたの?」
「愛紗はそれが気に入らねぇんだと」
「えっ……」
俺の言葉に、桃香は目を丸くする。
この表情……やっぱ気付いてなかったか……。
「ばっ、馬鹿者! 士陽、お前は端折り過ぎだ!」
慌てて愛紗がそう叫ぶ。
良し、状況は整ったな……。
「えっ、えっ? どっ、どういうことなの?」
困惑した表情で、桃香は俺に尋ねる。
「さあな? 正直言って俺はよく分からん。愛紗と二人で話し合ってくれ」
俺はそう言うと、席を立ち、部屋を出ようとする。
「おい待て、士陽! お前、何故帰ろうとしているのだ!?」
「何故ってそりゃ……後はお前らの問題だろ? 手助けしてやるとは言ったが、この問題を解決してやるとは言ってねぇぜ?」
愛紗の言葉に俺はそう返すと、扉に手をかける。
桃香は相変わらず困惑顔だが、まあ、二人で話し合ってくれればそれで良いだろう。
「んじゃ、ごゆっくり」
俺はそう言って、桃香の部屋を出た。
桃香の部屋を出た後、俺はしばらく城内をぶらつく。
まあ、一刀と星の所に戻っても良かったが、今日はもう酒を呑む気分にはなれなかった。
「それにしても……愛紗の奴、意外と嫉妬深いんだな……」
昼間と違い、シンと静まり返った城内で、ぼそりと一人そう呟く。
人一倍責任感が強く真面目な愛紗に、そんな女の子らしい一面があるとは思わなかった。
やっぱ、人っておもしれぇなぁ……。
そんなことを思いながら、フラフラと歩いていると、前方の角から人が歩いてくる気配を感じた。
女官か何かか?
……にしては、足音がでか過ぎる。
これは、恐らく男の足音だ……。
誰だ?
侵入者か?
警戒しながら、俺は懐にしまった短刀に手をやる。
だが、角から出てきたのは、俺の良く知る人物だった。
「何だ、お前かよ……」
「……士陽か」
俺の言葉に、角から出てきた男、義景がそう言った。
……こんな時に、ちょうど義景に遇うとはな……。
「おう、義景、今暇か?」
「まあ、暇だが……」
「んじゃ、ちょっとツラ貸せよ」
「別に構わないが……」
怪訝な表情を浮かべる義景に対し、俺は城の屋上へ足を進めた。
「で、こんな所に連れて来て、一体何のようだ?」
目を細めながら、義景はそう尋ねる。
「そう面倒そうな顔をすんなよ。俺をお前の仲だろ?」
「誤解を招きかねない発言はやめてくれ。だいたい、君はそんなこそこそした性格じゃないだろう? 本題を話せ」
義景はそう言って、溜息をつく。
やれやれ、よくお分かりのようで……。
なら、早速本題に行こうか。
「お前、最近桃香とよく一緒にいるだろ?」
「ああ、確かに一緒にいる機会は増えたが……それがどうかしたのか?」
「どうかしたのかじゃねぇよ。そのことに不満を持ってる奴がいるんだ」
「何……? どういう意味だ?」
「言葉通りの意味だよ。お前が桃香と一緒にいるのが、気に食わねぇんだとさ」
「どうして僕が桃香と一緒にいることに不満を持つんだ? そもそも、それは誰だい?」
俺の言葉に、義景は怪訝な表情を浮かべた。
まあ、そりゃそうだよな?
義景からすりゃ、不満を持たれる意味が分からないだろう。
「愛紗だよ。お前も心当たりがあるんじゃねぇの?」
「あー……確かに、最近愛紗に避けられているとは思っていたが……何が不満なんだ? 軍師と君主が一緒にいることは、何もおかしなことはないだろう?」
困った表情を浮かべ、眉間にシワを寄せる義景。
「そういう理論的な話じゃねぇんだよ。なんつーか……姉貴をお前に盗られてムカツクみたいな……?」
「……要するに、愛紗は僕に嫉妬しているということかい?」
「端的に言えばそういうことだな。まあ、お前からしちゃ、面倒なことこの上ないとは思うが……」
「まったくだね……」
溜息をつく義景の姿に、俺は苦笑する。
「まあ、それも明日には解決してると思うぜ?」
「は? どういうことだ?」
俺がそう言うと、義景は不思議そうな表情を浮かべる。
「いや、さっきよ、俺が愛紗を桃香の部屋に放り込んできた」
「…………君は存外、強引な手段を取ることが多いな……」
俺の言葉に、呆れた表情を浮かべる義景。
「強引でも何でも良いんだよ。ウダウダと無駄に悩むよりかはマシだ」
「……まあ、それも方法の一つとしてはアリか」
苦笑する義景に、俺は一つ疑問をぶつけることにした。
「それよりよ、お前こそどうなんだ?」
「うん? 何がだ?」
「何がだじゃねぇよ。お前、最近の桃香がお前にどんな感情を向けてるか、まさか分からない訳じゃねぇんだろ?」
「……はぁ……。分からない訳ないだろ? 一刀みたいな朴念仁じゃあるまいし……」
苦虫を噛み潰したような表情で、義景は溜息をつく。
「で? お前自身はどうなんだ?」
「……どうだろうな? 僕自身、この気持ちが恋慕なのか、友情なのか、まだはっきりとは分からない。分かっているのは、あの子と一緒にいると、心がとても安らぐということだけだ」
そう言って、義景は月に照らされた城下町を眺める。
「ただ……仮に恋慕だとしても、僕はこれを全面に押し出すつもりはない」
「気持ちを隠すのかよ?」
「……今のところはね?」
「今のところ? ってことは、いずれ決着はつけるってか?」
「まあ、そういうことになるね。今はまだ、やらなければならないことが山のようにある。これらを何とかしない限り、僕が桃香に気持ちを伝えることはないだろう……」
城下町を眺める義景は、そう言って苦笑する。
確かに義景の言う通り、今の俺達にはやらなければならないことが山のようにある。
この平原の統治、中央政権の監視、そして何進との密約の件。
ようやく自領を持つことが出来たものの、道のりはまだまだ険しい。
だが……
「お前が言ってることは分かるけどよ、桃香がそうするとは限らんぜ?」
俺がそう尋ねると、義景はフッと笑みを見せる。
「君は知らないだろうが……ああ見えて、桃香は君主であろうと必死だ。そう簡単に恋慕に溺れることはないと思うぞ?」
「……あれで?」
「……それ以上は言ってやるな。あれでも、彼女なりに頑張っているんだ」
俺の言葉に、溜息混じりの苦笑を浮かべる義景。
「まあ、分かってるよ。桃香が頑張ってることくらい……な」
ただ、それを踏まえたとしても、最近の桃香は義景に対して女の顔を見せる割合が多くなってきている。
まあ、俺みたいに気にしねぇ奴が大半だが、愛紗のように何かしら気になってる奴がいるのもまた事実だ。
「で、お前はどうすんだ?」
「……どうしようかねぇ……?」
「おいおい……何か対策とかねぇのかよ? 愛紗みたいな奴らは不満が溜まる一方だぞ?」
「そうは言ってもな……一応、僕としては、そういった不満が出ないよう、公私は分けているつもりなんだが……」
そう言って、義景は溜息をつく。
「まあ、公の場でお前が桃香に色目を使ってるところは見たことねぇしなぁ……」
「……公の場以外でも色目を使った覚えはないんだが……まあ良い。とにかく、桃香が公の場でもう少し弁えてくれれば、要らぬ波風は立たないだろう」
義景の言葉に、俺も深く頷いた。
まあ何にしろ、愛紗と桃香の話し合いが纏まらない限り、何も始まらないだろうな……。
やれやれ……上手くやれよな、愛紗?
そう思いながら、俺は月の昇る夜空を仰ぎ、大きく伸びをした。
side out
side 関羽
士陽という馬鹿者が桃香様の部屋を出た後、私は中々話し出す決心がつかなかった。
そのため、気まずくて話し掛けることすら出来ない有様だったのだが、見兼ねた桃香様がゆったりとした口調で何事かと尋ねてきた。
ここまで桃香様に気を使わせてしまったら、流石に意地を張る訳にもいかず、私はポツリポツリと事の端末を話し出した。
「えっと……あの……愛紗ちゃん? 私、そこまで義景君にベッタリしてたつもりはないんだけど……」
「“アレで”ですか?」
「あぅぅ……」
自分でも情けなく思える程トゲのある言い方でそう言うと、桃香様は気まずそうに呻く。
「とにかく! 桃香様はもっと君主としての自覚を持ってください。今がどういう時期か、分からない訳ではないのでしょう?」
「うっ、うん、それはもちろん……」
「でしたら、少しは控えてください。そうでないと、下の者に示しがつきません」
「はっ、はい。ごめんなさい……」
私の言葉に、桃香様はみるみる内にシュンとなる。
ここまで心ない言葉を吐くのは、久方ぶりだ。
我ながら、酷い嫉妬心だと思う。
ここまで偉そうに尤もらしいことを言ってはいるが、それが私の本心かと言えばそれは否だ。
結局のところ、私は構ってもらいたいだけなのかもしれない……。
そして、次の瞬間、私はとうとう言ってはならない言葉を吐いた。
「だいたい、“くだらない”恋慕の感情にかまけて、天下を取るなど、いい加減にも程が……」
「ちょっと待ってよ」
私がそう言った瞬間、桃香様が即座に反応した。
「確かに愛紗ちゃんの言う通り、私にも落ち度があったと思う。義景君のことが……好きになっちゃったことも認めるよ。でもね?」
キッと私を睨む桃香様に、私は気圧される。
「私は、“いい加減な”気持ちでお仕事をしたことは……一度だってない!」
「っ!」
怒った表情を浮かべながら、桃香様はそう叫ぶ。
「それに、“くだらない”って何!? 恋もしたことがなさそうな愛紗ちゃんに、“くだらない”かどうかなんて、判断されたくないよ!」
「ぐっ……!」
鬼気迫る勢いで、桃香様はそう叫びながら私の両肩を掴む。
その勢いに流されそうになるが、私の中で何かが弾けた。
「甘えたことを言わないで頂きたい! いい加減かどうか判断するのは、貴女ではない! それを判断するのは、民であり、部下である私達だ! 近頃の貴女は、義景殿に現を抜かし、全く以って君主の姿ではない! このようなザマでは、この乱世は生き残れませんよ!?」
激情に任せ、私は桃香様の胸倉を掴む。
「そんなこと、愛紗ちゃんに言われなくたって分かってるよ! でも……仕方ないじゃない! 好きになっちゃったんだもの! 私だって、情けないよ……」
そう言うと、桃香様は力無くその場にへたり込む。
「私には……愛紗ちゃんや鈴々ちゃんのような武もないし、朱里ちゃんや雛里ちゃんのような頭脳もない。……皆の足手まといになってるんじゃないかって、ずっと悩んで、ずっと苦しくて……それでも笑顔だけは絶やさないようにしようって思ってた……」
「っ!」
ポタリと床に落ちる雫に私はハッとなり、沸騰していた頭が急速に冷えていくのを感じる。
「でも、やっぱり苦しくて、一人で泣きそうになってた時に、義景君が優しくしてくれて……。思えば、それが甘えだったのかもしれないね……」
「……桃香様……」
違う。
私は、こんな顔をして欲しかった訳じゃない。
なのに……
「義景君の優しさに、ズルズルと甘えちゃってさ……ホント、君主としては失格だよ……」
静かに涙を零す桃香様を見ながら、私は心から後悔した。
義姉妹だと豪語しておきながら、何故、到らなかったのか。
何故、桃香様が抱えていたものに気付いてやれなかったのか。
本当に愚かだったのは……私だった。
「……申し訳ございません! 桃香様!」
私は平伏して、額を地面に擦り付ける。
「桃香様の抱えていた悩みすら気付かず、挙げ句の果てには、表面だけしか見ていなかったのにも拘わらず、貴女を批判など……全く以って私が愚かでした!」
義景殿ばかりと憤っていた自分が恥ずかしい。
今の話が本当なら、桃香様の心が義景殿に向くのは当たり前だ。
私が、それこそ“くだらない”嫉妬心を掻き立てている間に、義景殿は桃香様の心を支えて続けていたのだ。
私は、何も分かっていなかった。
「愛紗ちゃん……顔を上げて?」
「桃香様……」
桃香様の言葉に従い、私は顔を上げる。
「愛紗ちゃんが言ってることは、何も間違えてないよ。私もね、このままじゃ駄目だと思ってた……」
一呼吸置き、桃香様は私の手を握る。
「私、もう一度考え直すよ。私なりの、君主の在り方を……。だから……愛紗ちゃんには、また私を支えて欲しい」
真剣な表情でそう言う桃香様に、私は衝撃を覚えた。
こんなに無様な私を、頼ってくれるというのか?
こんなに情けない私を、信じてくれるというのか?
ジワリと目頭が熱くなる。
……信じてくれるというのなら、私の選択は一つしかない。
「勿論です。私達は、苦しむ時も、死ぬ時も一緒だと誓ったではありませんか。ですから……苦しい時は一人で悩まないでください。私は……何があっても、貴女と……義姉上と共に歩んで行きますから」
握られた手を握り返し、自分の覚悟をそこに込める。
「ありがとう、愛紗ちゃん! それと、また迷惑をかけると思うけど、よろしくね?」
いつもの太陽のような笑顔を浮かべながら、義姉上はそう言った。
今回のような無様な真似は、二度としない。
私は、心にそう固く誓うのだった。
翌朝、私と士陽に割り当てられた関羽隊の執務室で、隊の調練の準備をしながら、私は同じく隣で準備をしている士陽をチラリと見る。
昨晩、腹を割って義姉上と話し合えたのは、士陽のおかげだ。
その礼を言おうと思っていたのだが……いざ面と向かって言うとなると、中々に恥ずかしい……。
「~~♪」
私がこんなにやきもきしているのに、呑気に鼻唄など歌いおって……。
まったく……どう切り出せば良いか、皆目見当もつかんぞっ!?
そんなことを思いながら士陽を見つめていると、不意に士陽がこちらへ振り向く。
「んんっ? 何だよ、俺の顔に何かついてんのか?」
「っ!? いっ、いやっ、別に何でもないっ!」
慌てて顔を背ける私に、士陽は怪訝そうに声を上げる。
「お前……誤魔化すの下手過ぎだろ……。明らかに何かあるって素振りじゃねぇか?」
「むっ、むぅ……」
「むぅじゃねぇよ……」
仕方ないではないか……。
昨晩はあのような醜態を晒したばかりなのだ。
「その……何だ……昨日の礼を言おうと思ってだな……」
「礼? ああ、昨日のことか。で、結局話は纏まったのか?」
合点が行った表情で、士陽が尋ねる。
「ああ……おかげで、義姉上ともちゃんと話し合えた。……感謝する、士陽」
頬の火照りを感じながら、私は士陽の眼を見つめる。
普段、士陽に対しては叱りつけてばかりなので、こういうことを言うのがいつも以上に照れ臭い。
「そうかい……そりゃ重畳。まあ、話が纏まったんならそれで良いさ。……ん? 義姉上?」
「ああ、そのことか……。まあ、私なりのけじめだと思ってくれて良い」
昨晩、義姉上と話し合っている最中、私は気付いたのだ。
くだらぬ嫉妬心を掻き立てている割には、私自身、鈴々のように義姉上を義姉と慕い、心の底から信頼を寄せていたかどうか……。
冷静に考えて、答えは否。
どこか、一人の臣としての遠慮があった。
私自身がこんな有様だから、あのようなくだらぬ嫉妬心が生まれたのだ。
「ふーん……まあ、真面目なお前らしいな」
そう言って、士陽はクスリと笑う。
「それと……」
「ん?」
「昨晩の醜態は……忘れてくれ……」
今、私は絶対に顔が真っ赤になっているだろう。
それ程までに、情けない姿を晒してしまった。
「…………やなこった」
「えっ?」
「忘れるなんざ、そんな勿体無いこと誰がするかよ。普段あれだけキリッとしたお前が、あんな風に女の顔も持ってるとは思わなかったぜ?」
「なっ!? お前ッ、私に生き恥を晒せと言うのかっ!?」
何が女の顔だ!
あのような醜態、女だ何だと言う以前に、武人として情けなさ過ぎる!
「はぁ? 生き恥? どこがだよ?」
「恥だろう!? 一武人として、人前で泣き出すなど……」
「ああいう部分も含めてお前だろ? 普段のクソ真面目でお固いお前より、ああいう人間臭いお前の方が、俺は可愛くて好きだぜ?」
ニッと笑ってそう答える士陽に、私は目を見開いた。
「かわっ!? なっ、なななな何を言っているんだ、お前はっ!?」
ドキン、ドキンと、心の臓が早鐘を打っている。
自分でも分かる程混乱し、思考も上手く纏まらない。
コイツは何を言っているんだっ!?
ともすれば、告白とも取れる発言を、そんな顔でサラッと言うなんて……!
まさか……本当に告白された?
そう思いながら、私は一人アワアワしていると……
「…………クッ」
「…………?」
「ククッ……ハッハッハッハ!」
「っ!?」
突然高らかに笑い出した士陽を見て、私は気付く。
これは……からかわれた!?
「しっ、士陽! 貴様っ!」
「クックックッ……! あー……おもしれぇ……。やっぱお前、可愛い所もあったんだな? 耳まで赤くしちゃって……」
「くっ……! このっ!」
拳を握り締め、士陽に殴り掛かるが、狭い執務室の中をヒョイヒョイと動き回り回避される。
「さて、そろそろ行かねぇと、兵達が待ってるぜ? “可愛い”愛紗ちゃん?」
士陽は意地の悪い表情でニヤリと笑いながら、執務室を出て行く。
「~~~~~~っ! 待て! 士陽!」
そう叫び、私は脱兎の如く逃げ出した士陽の背中を追いかけた。
ちなみに、からかわれたと気付く直前まで、士陽なら気持ちに応えても良いかと一瞬思ってしまったが、きっと一時の気の迷いに違いない。
違いないったら違いないのだ!
side out
side 何進
「帝の容態が芳しくないだと……? 貴様、その情報は真か?」
部下からの知らせに、私は耳を疑う。
「はっ、真にてございます。皇室専属の医者がそう申しておりましたので、信憑性は高いかと」
「そうか……。それで、張譲達宦官の動きはどうなっている?」
「はっ、我が隊の調査に依りますと、張譲達は最近、劉協様の下へ度々訪れているようです。そこから察するに、張譲達は劉協様を次期皇帝として祭り上げるつもりでしょう」
「なるほどな……。そうなると、いよいよ以ってして劉弁様と何皇后の命も危なくなってくる訳か……」
とうとう危惧していた状況になってしまったか……。
まあ、その時のために、こうしてこの地位まで成り上がった訳だが……。
「閣下、いかが致しますか?」
「……平原郡太守に文を出せ。私の下へ来るようにとな?」
「畏れながら具申致しますが……文を出すのが平原太守だけで良いのでしょうか? 袁家の当主、袁本初殿にも文を出された方が宜しいのでは?」
部下の提言に、私は苦笑を浮かべる。
「平原太守だけで良い。お主はまだ袁紹に会ったことがない故に知らぬと思うが……あれは駄目だ。袁家という名ばかりで、中身が伴っておらぬ。あのような者を呼ぶのであれば、例え地方の一太守に過ぎぬとも、劉玄徳を呼んだ方がマシだ」
あのような世間知らずの小娘など、この非常時においては邪魔にしかならん。
今は、遊んでいられる状況ではないのだ。
「そうだったのですか……。畏まりました。今すぐ手配致します」
部下はそう言って、足早に私の部屋を出て行った。
それにしても張譲め……いよいよ動き出しおったか……。
それも、まだ幼い劉協様に擦り寄るとは……。
恐らく、奴は幼い劉協様を誑かし、実権を握るつもりだろう。
帝の下で、今まで散々甘い汁を吸い続けたのにも拘わらず、まだ吸い足らんということか。
まったく……何ともはや、強欲な者よ……。
だが、奴が動き始めているということは、いよいよ以ってして妹の命が危険だ。
以前、王美人が毒殺された時、奴は犯人は妹だと抜かしておったが、あれは間違いなく奴の仕業だ。
あの後、帝に対し、いけしゃあしゃあと妹を許すように進言し、妹が処断されることはなかったが、あれは恐らく、私に対する警告だろうな。
『何皇后はいつでも殺せる。余計なことはするな』といったところか。
無論、私とて無事では済まないかもしれぬ。
先日、清流派の奴らが揃って何者かに暗殺されたようだが……あれも恐らく奴の差し金だろう。
この洛陽で、私、張譲達宦官共、清流派の者共、この三つの勢力で権力抗争を繰り返してきたが、清流派が消えた今、張譲達の政敵は私だけとなった。
恐らく、奴らは私が少しでも不審な動きを見せれば、様々な理由を論えて私を左遷、或いは暗殺も考えられるだろう。
だが、生憎と私は諦めぬ。
こんな天国と地獄が入り混じったような修羅場でも、妹が安心して天寿を全うすることが出来る場所を、私は創るのだ。
“玉無し”の宦官共に、好き勝手やらせて堪るか!
私はそう思いながら、奥歯をギリリと噛み締めた。
side out
side 一刀
愛紗のヤキモチ事件(と、俺は勝手に名付けている)から三日が経った。
どうやら話は上手い具合に纏まったらしく、愛紗と桃香様、義景の間にあった不穏な空気もすっかり無くなったようだ。
それから、北郷小隊の調練を、俺が忙しい時は愛紗が見てくれることになった。
何故急にそんなことを、と愛紗に尋ねると、曰く、義景に俺の手伝いをして欲しいと頼まれたのだそうだ。
正直、猫の手も借りたい程忙しかった俺としては、これ程ありがたい提案はない。
感激した俺は、愛紗に土下座して謝辞を述べたが、その際、そんな俺の姿に愛紗は動揺してオロオロとしていたのだが、それもご愛嬌である。
「一刀殿、これなんですが……」
「ん? どれどれ……」
警邏隊の報告書に目を通していた俺は、愛紗の呼びかけに目を向ける。
今日は愛紗だけでなく、士陽も手伝いに来てくれた。
更に、調練だけでなく、警邏隊の報告書の整理まで手伝ってくれているのだから、感謝感激である。
「あー……これかぁ……。これは、南地区の商店街の裏にある路地のことだねぇ。あそこ、こないだも喧嘩騒ぎがあったんだよなぁ……」
そう言って俺は苦笑すると、愛紗は意外そうな表情を浮かべた。
「あの商店街の裏に、路地などありましたか?」
「うん、実はあったんだよね。表からじゃ見にくいけど、結構不良達のたまり場になってるみたいだよ?」
「ああ……この前偵察するとか言ってた場所か?」
俺の言葉に、見ていた資料から目を離し、俺に向き直る士陽。
「うん、それ。どうやらまた喧嘩騒ぎがあったようだし……新しく巡察の道筋に加えないといけないかなぁ……」
俺はそう言いながら、平原の街の地図を机に広げる。
「そうなると、南地区の警邏兵の数を若干増やさなきゃならないけど……かと言って他の地区の警邏兵は減らせないし……でも警邏兵達の休息日はこれ以上削れないし……うーん……当番表の調整しないと。……こりゃ、また眠れないか……」
頭を抱えて机に突っ伏す俺を見て、愛紗と士陽が苦笑を浮かべる。
「……最近の一刀殿は激務過ぎて倒れそうだという噂……嘘ではなかったのだな……」
「まあ、一刀の場合、自業自得の面もあるけどな? 当番表の調整なんて、文官にやらせれば良いのによ」
「……んなこと言ったって仕方ないだろ? 今、義景達はこの地の政の再興に全力を注いでる状況だ。そのためには多くの文官が必要で、俺のところまで文官を回す余裕がないんだよ」
そう、実は義景達にも余裕がない。
この平原の地は、黄巾賊達の本拠地であった済南に近い所為もあり、散々賊達に荒らされた地域の一つである。
それ故に、俺達が赴任した時には主立った行政機能は目茶苦茶になっており、まさにゼロからの立て直しが必須な状況だった。
更に言えば、元々俺達は名も知られていない義勇軍だったこともあり、文官という人材が極めて少ない。
加えて、この地に残っていた骨のある文官達も少数であったため、彼らを加えたとしても、俺達は慢性的な文官不足に苛まれている。
そして、その数少ない文官達を、行政機能の復帰という、何よりも優先しなければならない急務に充てるため、俺の警邏隊に彼らを宛がう余裕などないのだ。
「あー……そういや義景の野郎もそんなこと言ってたっけな?」
思い出したように士陽がそう言うと、隣にいる愛紗が溜息をつく。
「だとしても、一刀殿は少々無理をし過ぎでは? 毎日寝る間も惜しんで作業をしていたら、本当に倒れてしまいます。北郷小隊の者を少し使ってみるのも、一つの手だと思いますよ?」
「北郷小隊かぁ……」
愛紗の言葉に、俺は思わず腕を組む。
まあ確かに、それも一つの手としてはアリだろう。
ただ……
「学がない奴が多いんだよなぁ……」
溜息をつきながら、俺はそう呟いた。
馬鹿にする訳ではないが、どういう訳か俺の隊は貧しい農村出身の、学のない出稼ぎ兵の割合が高い。
そのため、文字の読み書きには少々難がある。
その半面、どうやら俺に対しては全幅の信頼を寄せているらしく、俺の指示を良く聞いてしっかり動いてくれるのだが、この件に関しては、正直彼らでは役に立たないだろう。
まあ唯一、影隼なら出来なくはないが、アイツには文字の書けない兵達の代わりに、調練についての報告書を一手に引き受けて貰っているため、これ以上の仕事は頼めない。
いや、頼めないと言うより、恐らくもうこれ以上はキャパオーバーだろう。
一月程前までなら、徐晃さんという賢く経験も豊富な老兵がいたのだが、残念ながら桃香様は生涯の主とは思えないらしく、再び放浪の旅に出てしまった。
「……やっぱり無理だ。新しい文官を登用しない限り、自分でやるしかないな……はぁ……」
俺はそう結論づけると、小さく溜息をついた。
「そう気を落とさないでください、一刀殿。流石に、この仕事量を見てしまったら、放っては置けません。時間がある時には、今日のように私も手伝いますから」
「まあ、俺も手伝ってやるからよ、とりあえず無理はすんなよ?」
「ハハハ……ありがとう、二人共……」
二人の言葉に、俺はトホホと苦笑を浮かべる。
まあ、この二人が手伝ってくれるだけでも大分楽になる。
とりあえず、睡眠時間だけは何とか確保出来そうかな?
そう思っていると――
「失礼致します!」
一人の侍女が、俺の執務室に入ってくる。
この娘は確か……義景の所にいた娘だったかな?
「ん? どうしたのかな?」
俺は侍女に視線を向けた。
「はっ、幹路様(義景の字)より、伝言を承っています」
「義景から? 何かな?」
「緊急の軍議を開くので、大至急、玉座の間に来て欲しいそうです」
「緊急の軍議? ……分かった。確かに、伝言は受け取ったよ」
「はっ、では失礼します」
そう言って、侍女はそそくさと執務室を出て行った。
「緊急の軍議って……何かあったのか?」
「さあ……分からぬが、すぐに行った方が良いのは間違いない」
怪訝な表情を浮かべる士陽に、愛紗はそう言って立ち上がる。
「愛紗の言う通りだね。とりあえず、大至急らしいから、今すぐ行こう」
まだ目を通していない書類が少々残ってはいるが、致し方ない。
俺達は軽く机の上を整理すると、玉座の間へ足早に向かった。
「急に呼び出してしまって、済まないね」
そう言って、義景は玉座の間に集まった俺達に頭を軽く下げる。
「いや、別に気にしちゃいねぇが……何が緊急なんだ?」
「士陽の言う通り、私もそこが気になっておりましたぞ?」
士陽、星の順にそう言って、義景を見つめる。
「ああ、実はね……何進から桃香宛てに、洛陽への召集辞令を記した文が届いた」
義景の言葉に、俺達武官メンバーが息を呑む。
洛陽への召集……それが意味するものとは……
「皆、分かってるとは思うけど……いよいよ、朝廷内における権力抗争に、僕達は巻き込まれる。出来ることなら、朝廷内のいざこざに首を突っ込みたくはなかったんだが……桃香が天下統一を目指す以上、これは避けて通ることは出来ないと思って欲しい」
そう言って、義景は厳しい表情で俺達を見据える。
まあ、義景の言う通り、避けては通れないだろうな。
仮に、今の時点でこのまま朝廷内のいざこざに関与しなかったとしても、やがて桃香様の名が大きくなった時、自らの利権にしがみつく宦官達は、必ず桃香様を目の敵にする。
いずれ宦官達とは戦わなければならなくなるのだから、今の内に朝廷内に入り込んでいた方が、情報は集め易い。
だからこそ、朱里と雛里は何進に取り付く策を打ち出したんだろうな。
そう考えを巡らせながら、俺は話し始めた朱里に目を向けた。
「そして、今回の辞令についてですが……私達軍師陣としては、桃香様が直接大将軍の下に行くことはあまり得策とは言えません」
その言葉に、桃香様が意外そうな表情を浮かべる。
「えっ? 私、行かなくて良いの? てっきり、今すぐ支度をしないといけないのかと思ってたんだけど……」
「ああ、桃香“は”行かなくて良い。むしろ、現時点において宦官達や周辺諸侯達に、桃香が何進と繋がっていることを知られるのはちょっとまずい……。特に張譲と董卓には、知られると厄介だ」
桃香様の疑問に、透かさず義景が答えた。
「ちょっと待てよ。ってことはお前、桃香以外の誰かが行くってことか? 呼ばれたのは太守としての桃香なんだろ? まかりなりにも相手は大将軍だぞ? 良いのかよ、それ?」
「俺も士陽に同意だ。何進は桃香様を名指しで呼んでいるんだろ? 桃香様ご自身が行かないと、不敬に相当するんじゃないか?」
士陽と俺がそう尋ねると、雛里が口を開く。
「あの……多分大丈夫だと思いますよ?」
「それは……どうしてかな?」
「その……大将軍は、味方が私達以外にいませんから……」
更に尋ねる俺に、雛里は苦笑を浮かべて答えた。
なるほど……。
だから俺達もある程度は強気でいられるのか。
「雛里の話は理解出来る。だが、結局のところ、誰が義姉上の代わりに行くのだ?」
愛紗はそう言って眉をひそめる。
そこなんだよな。
結局、誰が行くのかってのが一番の焦点な訳だが……まあ、俺の予想としては、愛紗か星辺りが……
「……私達としては、一刀さんに行ってもらおうと思います」
「…………えっ?」
そう思っていた俺の予想に反した朱里の言葉に、俺は耳を疑った。
「おっ、俺?」
皆の視線が俺に集まるのが分かる。
いやいや、何で俺!?
俺に桃香様の代わりなんて務まらないと思うんだが。
そこは、将軍職の愛紗か星だろう?
「いや、行くこと自体は別に構わないんだけど……本当に俺で良いのか? 桃香様の代わりだろ? そこは、しがない小隊の隊長より、一部隊を率いる将軍職の愛紗達の方が良いんじゃないか?」
「いや、愛紗達では駄目だ。むしろ、君の方が相応しい」
「だから、何でだよ? 大将軍に訪問するんだろ? ただでさえ、桃香様が行かないんだから、それなりに地位がある者が代行しないと、いくら相手が味方がいない何進だとしても無礼だろ?」
再度尋ねる俺に、義景は溜息をついた。
「君は大事なことを忘れている。今回のコレは、極秘会談だ。そんな所に、“黒髪の山賊狩り”と“常山の昇り龍”の異名を持つ愛紗と星が行ってみろ。洛陽には、噂の人物を調べている者も少なくはない。絶対に二人が何者か気付くぞ? それじゃ、極秘の意味がないじゃないか」
「あー……そっか。だから“俺”なのね……」
義景の言葉に、俺は複雑な気分だが納得する。
まあ、二人に比べたら、俺なんて無名も良いところだしなぁ……。
そりゃ、極秘会談には持って来いか。
うーん……そのこと自体に異論はないんだけど……なんだか複雑だ……。
「その……済まない……。君の立場を利用するようなことになってしまったが、本当に今はそうするしかないんだ」
「ごめんね、一刀さん……?」
「この間の賊討伐の時だって、無名だから潜入工作が出来たんだろ? 良かったな、無名で。今回も桃香の役に立つぞ?」
申し訳なさそうにそう言う義景と桃香様、ニヤニヤしながらそう言う士陽。
俺がどちらにムカついてるのかは、言わずもがなである。
「義景も桃香様も、気にしないでください。桃香様の役に立つなら、この任、承りましょう。……ただし士陽、お前は後でぶっ飛ばす」
そう言って士陽を睨むが、士陽はどこ吹く風と言わんばかりにニヤリと笑って肩をすくめた。
まったく……調子の良い野郎だ……。
「余裕をかましているところで悪いが、君も行くんだぞ、士陽?」
「……あ?」
予想外だったのか、士陽はポカンとした表情を浮かべる。
「一刀だけで行かせる訳がないだろう? 君も一刀と同じ穴の狢だ」
ニヤリと笑う義景に、士陽は忌々しげに顔を歪めた。
「あー……そういうことか……。チッ……めんどくせぇ……」
そんな士陽の様子に、俺はニヤリと口角を上げる。
「良かったなぁ、士陽? 普段怠けてばかりのお前も、ようやく桃香様の役に立つ時が来たみたいだぜ? …………ザマミロ(ボソッ)」
「ッ……この野郎ッ! …………まあ良い。で、一刀に着いていくのは良いとして、俺は何をしろって言うんだ?」
もう諦めたのか、小さな溜息をつきながら、士陽は尋ねる。
「士陽、君は以前、洛陽に行ったことがあるな?」
「まあ……親父に連れられて何度かあるけど……それがどうした?」
「実はね、洛陽の街の様子を見て貰いたいんだ。前と比べて、何が変わったのか……分かる範囲で良いから、報告書に纏めて欲しい」
「街の様子だぁ? まあ良いけどよ、んなもん調べてどうすんだ?」
義景の言葉に不思議そうな表情を浮かべる士陽。
だが俺は、何となく義景の意図が見えた気がする。
「……洛陽の様子は、洛陽の民が一番詳しい。そうだろう、義景?」
俺がそう言うと、義景は満足げに頷く。
現地の事情は、現地の人が一番よく知っている。
まあ、当然だよな。
「その通りだ。まあ、一応宮中に斥候も出してはいるが、一番情報が漏れやすいのは、城下街の飯店や酒場だ。特に酒場は、酔った役人が勢いで重大な情報をポロッと出すことが多々ある。だからこそ、二人にはその辺りにも注目して当たって貰いたい」
俺達二人を見ながらそう言う義景に、俺達は深く頷く。
要するに、俺達は何進への使者兼、洛陽における諜報活動が主な任務という訳だ。
「この忙しい時期にごめんね? でも、二人にしかお願い出来ないの……。頼まれてくれるかな……?」
そう言って、桃香様は申し訳なさそうに肩をすくめる。
……まあ、確かに忙しいけど……他ならぬ桃香様のためだからな。
断る理由なんて、ないに等しい。
「大丈夫です。お任せください」
「まあ、やるからにはキチッとやるさ」
俺と士陽がそう言うと、桃香様は安堵の表情を浮かべた。
「ありがとう、二人共! じゃあ、よろしくね?」
笑顔でそう言う桃香様に、俺達は大きく頷いた。
…………それにしても、洛陽……か。
この世界に足を踏み入れて、もう一年半が過ぎたが、実質、洛陽に行くのは初めてだ。
漢という大国の心臓部、洛陽。
この時代における文化の発展も、この洛陽が中心だった。
だがその半面、漢という巨木の根を腐らせた要因も、この洛陽で生まれた。
初めて行くということもあり、正直、不安が多い。
だが、桃香様と義景達の期待を無下にする訳にはいかない。
必ず、それなりの成果を持ち帰ってみせる。
そう心に誓いながら、俺はまだ見ぬ洛陽に思いを馳せるのだった。
side out
ご無沙汰しております。
§K&N§でございます。
今回は、三国志でも有名な、“水魚の交わり”のエピソードを、私なりに改変してみましたが、どうだったでしょうか?
こんなのおかしいだろ!って方は、感想の方へどしどしお寄せください。
そして、次回からはいよいよ一刀が洛陽へ赴きます。
それと同時に、物語も大きく動き出すので、こうご期待!
さて、今回はこんなところでしょうか。
では、また次回でお会いしましょう!