失望
夏休みが終わり、秋になり治の通う田舎の学校でも進路相談なるものがあった。
「とーちゃん、来週中学校で進路相談ち、言うとんあっとけど、、来てくるっね?」
「とーちゃんが、行ったっちゃ分からんばい、、先生と治が良かごて決めんね」
「・・・・うん・・・」
治は不安であった、、まだ中学生、それも初めての高校受験、、
いや、、初めての人生の分かれ道の選択、、
暗闇の向こうに何があるのかさえ分からない、、、
それを、「自分の問題だ」と正論で諭された不安。。
治にしても自分の父親の事を良く分かっている。
高校の事や勉強の事は全く分からない筈、
しかし、、
一緒に来てほしかった。
母親はと言うと、、、もっと酷く、、
「ダメダメ、、かーちゃんじゃ、先生に笑わるってん、、治ん方が分かっじゃろ?」
「かーちゃん、邪魔になっだけじゃけん・・」と取りつく島すら無い、、、
「親は無くとも子は育つ」
そんなのは嘘だと思った。
治はその日から、親に相談をしなくなった。
何事も一人で決める子供になった。
面談当日。
「治高校はどこを受けるんだ?」
「鹿児島R校ば受けたかとばってん。。」
「ん???とうちゃん、かぁちゃんは知ってるのか?」
「任せると言われた」
「そうかー、私立だけど学費とかは?」
「しょーがきん・・ち言うのば受けたかとばってん、先生どがんかな?」
「うん!治の成績ならたぶん大丈夫だろう!」
「調べていてあげるよ」
「はい!」
治はまさに天にも昇る気持ちで返事をした。
数日後の夜。
治はいつものように古い家の2階の屋根裏にベニヤ板貼り付けただけの、
「自分の部屋」のこれまた古い丸い食卓で勉強していると。
下でいつものように焼酎を飲んでいる父親が、
「治!!ちょこ、降りてこんかぁー!!」と機嫌悪そうな声で怒鳴っている。
子供の頃から怖い父親であったので、さほど気にせずに1階に下がって行った。
そこには酔っぱらったいつもの父親が座って、、
その横に、中学校の治の担任である「都会の先生」が驚いた眼をして座っている。
治は内心、、「とーちゃん、、かっこわるかぁー」と思いながら。
治は立ったまま、「なんね?」
「先生に聞いたとばってん、うんや鹿児島に行きたかとてや?」
「うん・・」
「どがんして、そがん大切な事ば言わんとやーーー!!」とすごい剣幕。。
治は慣れてるが、、都会の先生は正座してガチガチに固まっている。
治は「言うたっちゃ、分からんじゃろ」・・内心は(聞いてくれんやったやろが・・)であったが、、
すると、、父親が手元にある焼酎の入ったコップを治に投げつけて、、
「こん馬鹿が!お金やどがんすっとか!!」
コップは治には当たらなかったが、焼酎がかかった、、治の嫌いな焼酎の臭いがした。
「国から出してもらうけん、よかと」
「うんや、なんば言いよっとかーーお金借りてまで高校ごちゃっとこ行かんでよかっちゃーー」
「馬鹿が!!もう高校ごちゃっとや行くなぁー船に乗れーーー」
「銭んば借りてまでして、行ったち言うたら、村中ん者んか、笑わるっとぞーーー馬鹿が!!」・・・・
と凄い怒り様である。
「都会の先生」は横で、、固まっているだけ。
治は先生に助けてもらいたかったが、、
先生は「治良くお父さんお母さんと相談して決めなさいよ」とだけ言うと、
逃げるように帰って行った。
治は「恥ずかしさと」「見捨てられた悲しさと」で、何も言わずに自分の部屋に上がって行った。
その日はそれ以上の話は無かった。
しかし、治は色々と考えていた。
「全く見えない、想像すらできない未来と言う暗闇の向こうを・・・」