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恩師(12冊の問題集)

中学生活最後の夏休み、、


毎年真っ黒になるまで泳いだり魚釣りに行ったりの生活だったが、、

その夏は違った、


治自身は「鹿児島R校」に向けて勉強していた。

英語は苦手だったので、、殆どしない、、

やる教科は、もっぱら「社会」の暗記中心。


理科と数学は全く心配してなかった。


夏休みのある日、小学5年生の頃の担任の先生が治の、村に遊びにやってきた。

治は喜んでその先生と泳ぎに行ったり、魚釣りに行ったりした。

その先生が、、

「治高校行くんだって?」と切り出した。


「うん、かーちゃんも、とーちゃんも、よかち言うたけん」

「どこに行きたいんだ?地元か?」

「鹿児島んR校ち言う学校に行こごちゃっとばってん、、」

「R校はとてもいい高校だけど、、私立だぞ!」

「授業料も高いし、、寮費も高いぞ!親は大丈夫か??」


治は学校のことをまったく知らなかった、、どこの学校も中学と一緒だと思っていた、、

確かに鹿児島は遠いが、地元の高校でも家からの通学は不可能だから、

寮か下宿しなければいけない、、だったら鹿児島も一緒だと思っていた。。


少なからずショックを受けて、、

「先生、、、授業料ってそがん高かと・・??」と聞くと。。


「うんそうだなーー高い。。。」


治は黙り込んでしまった、、、

「治将来何になりたいんだ?」

「船に乗って、外国に行きたか!」と目の前の海を見ながら言った。

「そうかーそれは良い!だったら、商船大学に行くんだぞ!」

「おっでも、行けっと??」

「難しい、でも治なら絶対に大丈夫だ!」


治は自分の未来が決まったみたいで、、嬉しくなって来た。


先生が続ける、、

「親が反対したら、R校の学費は奨学金受ければ良い」

「しょうがくきん?ち?何ね?」・・・??


「国が優秀な生徒にはお金出してくれるんだ」


と教えてもらった、、

治はますます、嬉しくなって来た、、自然と笑みがこぼれているのが分かるくらいであった。


高校に行くと決めてから、こんなにもはっきりとした感じで話してもらったのは初めてだったし、、

なんとなく「もやもや」していたものが晴れた感じであった。


治にとってこの先生は「生涯の恩師」である。

この先生のお蔭で今の治がいる。


それは小学校5年生の春の事だった。


その先生が担任になり、しばらく経っての算数の授業中の事。


治は当てられた、、「治答えてみて」


成績は小学校4年生までは田舎の小学校の中で、、真ん中ぐらい、、

まぁー都会地なら、、5段階評価の、、オール2か3程度の学力だったと思う。


その時は緊張しながら治はチョークで黒板に答えを書いた。。


まったく自信のない答であった、、


でも、先生が


「治?これ誰に教えてもらったの?」と聞いてくる、、


治は、、間違えた、、、と思い。


「ごめんなさい、、自分で考えたとばってん・・・」


それを聞いた先生は、この解き方は、昔習っていた解き方で今は教科書にも載っていない解き方なんだと言い


「治すごいぞーーーー」と褒めてくれた。




その一言が







治の人生を変えた。







それからと言うもの治は算数の勉強が楽しくなった。


毎日家に帰って5時間ぐらい勉強する。

小学校5年生の子供が毎日5時間自宅で勉強するのである。

親には、、電気代が勿体ないと怒られながらではあるが…


それは、、ある意味異常な世界でもある。

来る日も来る日も算数の教科書を眺めては色々な解き方を考える。


当然学校の算数テストはその後全て満点。


ある日先生が「治今日私の家においで」と誘ってくれた。


治は学校が終わってから先生と一緒に先生の家に行った。

家に行くと、、


子供の目にも「綺麗な」奥さんが、、

「伊藤君ね、いらっしゃい」と迎えてくれた、、


治は少し恥ずかしかった、、


それから、先生と裏山に散歩に行っていろいろ話して、帰ったら。

「伊藤君食べなさい」と・・ご飯の準備がしてあった。。



それは治にとっては正月とお盆にしか見たことないようなご馳走だった、、


「でも、、帰らんと、、かーちゃんに怒らるっけん・・・」と言うと。

先生が、、


「家には〇〇に言ってもらってるから心配しなくていいぞ」と言う、、


それを聞いて治は嬉しかった、、目の前のご馳走を食べたかったのである。


治は食べた。。

とても美味しかった、、、


食べ終わって、、


「これからも頑張るんだぞ」と言ってくれ


本を3冊くれた、、見ると算数の問題集だった。。


治は問題集と言うものを初めて見た。

綺麗な表紙を捲ると、たくさんの問題が整然と並んでいる、、

食い入るように見ている治を見て、先生が

「これが終わったら次のあげるから、言いなさい」と言ってくれた。


その日から治はその問題集を毎日解きだした。


算数の教科書にはない問題が沢山有って治は楽しかった。

しかし、、二週間ほどで全部終わってしまった、、


学校の廊下で、、「先生、終わったばい」と言うと

先生はびっくりして「全部終わったのか?」と聞くから

「うん、終わった、、」と答える


先生は笑いながら、、


「わかった、もう一度あの問題集をやり直してごらん」と言う。


治は先生に言われたようにその日からもう一度問題集を解きだした。。

今度は1週間で全て終わった。。


「先生、終わったばい」


それから数日後、、先生がまた一冊の問題集をくれた。


今度の問題集はとても分厚かった、、

それに、、問題もとても難しい、、

治はなかなか解けない、、解けないどころか、、問題の意味さえ分からない。


それでも毎晩5時間は問題集を見る。

そのうち治は問題集の解き方を自分で考えだす。


「答えを見て、、次の問題も同じように解く」と言うやり方である。


解き方の意味は分からないけど、、全く同じように当てはめると、、不思議なことに答えが出た。


来る日も来る日も同じことの繰り返し、、

意味も何も分からないけど、、まるで「パズル」でも解くように

「当てはめて解く」の繰り返し。。


小学5年生の治には答えが同じになるのがとても楽しかった。

その問題集は3か月かかった、、


「先生終わったばい」と言うと。


先生はびっくりした顔をして、、「本当に終わったのか?」と聞く。


「うん」


「後で職員室においで」と言われた。


授業が終わって職員室に行くと、担任の先生と違う先生が後二人いた。


担任じゃない先生が、、何か問題が書いてあるノートを差し出して、

「治、この問題ば解いてみんね」と言う


ノートに書かれてあった問題は分厚い問題集で見たことある問題に似ていた。


当てはめる『パズル』を思い出して、治は解いた。

治にしてみれば、、パズル通り解いたのだから、何にも思わなかったが、、


先生3人は、、びっくりした顔で、、


一人の先生が、、「どうやって解いたんだ?」と聞くから。


「先生にもろた、問題集に書いてあったごて、、解いたっさ」と答えた。


もう一人の先生が「これは中学3年生の問題だぞ」と言うから、、治は少しびっくりした。


数年後この時の話を担任の先生と話す事があって、、先生に言われた。。


「あの時の問題集は先生が持っていた。最初のやつが小学6年生と中学1・2年用だったんだ、、」

「それで、、次も問題集は先生が本屋さんで買ってきた、問題集で高校受験用のハイレベルの問題集だったんだよ」

「正直あの問題集は出来ないと思っていた、、先生も安月給で治に問題集買ってやるのはきついからなぁー」と笑って話してくれた。



その後5年生が終わるまでに、その先生には3度問題集をもらった、、

そして、6年生に上がる時に、

その先生が5冊の問題集をくれた、、


その問題集は赤色で分厚くて・・・「チャート・・・」と書いてあった。

それぞれに「数Ⅰ・数Ⅱ・数Ⅲ・基礎解析・代数幾何・・」と書いてあった。


治は一年かけてその問題集を全て終わらせた、、


小学校を卒業する頃には、先生にもらった12冊の問題集のすべての意味が分かるようにもなっていた。

中学に上がる春休みに、今は担任ではないけど、、先生に小学校の職員室に呼ばれた、、


「おーー治!いよいよ中学生だなーおめでとう!」


治は嬉しかった、、「うん、先生からもろた問題集面白かったばい」


先生も優しく笑ってくれた。


「治、この問題解いてごらん」と言われて、、


プリント5枚ほどの問題を手渡された、、


問題が書いてある。。


先生が鉛筆くれて、「ここで解きなさい」と自分の横の机を指差す。

治はその机に座って問題を解きだした。。


。。。。難しい、、、だが何とか解ける。。


先生はその間横の机で「ガリ版」で何か書いている。


治と先生以外誰もいない春休みの職員室に、


先生の書く「ガリ版」の「カリカリ」と言う乾いた音だけがしていた。


結局2時間ほどかけて全問解いた。。


「先生、出来たばい、、難しかったけん、、時間の掛かったばってん、、、」


先生が、、背伸びをして「おおーーもう出来たのか」と言ってプリントを手元に寄せて。


自分の机の引き出しから何やら違うプリント出して、見比べている、、


その間治は、トイレに行った。

職員室に戻ると先生が。


「治、全部あってたよ」と言ってくれた。

それから、、「先生には分からないけど、、答えはあってるから良いと思う、、」とも言ってくれた。


この問題の正体は、、




前年度の「京都大学医学部の入試問題」であった。。。



制限時間2時間半の問題を、小学卒業間もない少年が2時間足らずで全問正解したのだ。

これは驚異的な事であるが、治はその事には気がついていなかった。


数年後、、「あの時は先生は全部の問題が分からなかったんだよ!」と聞かされた。


小学校5年6年の二年間、毎日、毎日5時間かけて「遊んだ」問題集だった。

治は中学3年間も結局この問題集だけを毎日5時間は解き続けた。

狂ったように毎日毎日、、それが治にはとても楽しかったのだろう。

中学卒業の頃は、ボロボロになり、セロハンテープで補修だらけになってしまっていたが。



12冊の問題集は、治の『宝物』になった、、










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