15(jyugo)
治は毎日高校の事が気になりだした。
しかし、周りに高校行っている人がいない、
同じ村にもたまたま高校生はいなかった、、
いたにはいたが、治が中学3年生に上がるのと入れ違いにに卒業してしまっていた。
もちろん父親も母親も中学卒だし、、親戚にもいない、、
誰にも聞けない、聞けるのは学校の先生だけ、、
だから毎日のように先生に聞きに行く、でもその先生の話では治自身が全く納得できない、、
仕方無いので学校の図書館で色々と読んで見る、、
その結果、少しずつではあるが分かってきた。
日本で一番いい高校は「N校」九州で一番いい高校は「鹿児島R校」
治はR校に行きたいと思いだしていた、、
自分の中での目標が決まった。それからは高校調べは全くしなくなった。
しかし、かと言って、特別に勉強するわけではない、、
いつもの通りの生活だった。
当然の事、、高校に「私立」と「公立」があることも気が付かない、、
気が付くのは夏を迎えてからの事になる。
治の育った島は九州の西の果て、、
古くは「遣唐使」がここを中継して「唐」に出かけたり、
江戸時代末期は、かの坂本竜馬の「亀山社中」の船が島の沖合で難破したりしている。
余談だが、、竜馬が船の沈んだところを見るためにその当時、来島している。
治はそんな島の端の方で生まれて育った。
東シナ海と日本海と、、少し離れてはいるが、、太平洋に囲まれた、
「海の中に島が突き出ている」そんな感じのところ。
家の目の前は海、後ろは山。
村の人口は何人ぐらいいたのか知らない、、たぶん、、200人ぐらい?もっと??それすら気にしない子供時代。
お店は一軒だけある。食料品を売っている。
洋服屋さん本屋さん電気屋さんは車で舗装もされてない山道を1時間ほど走った「町」にはあったが、
その町は治たち子供には全く関係のない所であった。
きれいな海と山、大自然の中で治は育った。
父親は漁師、母親は毎日畑仕事に出かけて行く、
母親は自分の畑仕事だけをするのではなくて、
他人の畑にも出かけて行って毎日遅くまで、野良仕事をする。
これは決して珍しい光景ではなく、極々当たり前の事当然治の家の小さな畑にも
近所のおばちゃんらが大勢やって来て野良仕事をして、
次の日は別の畑、、みたいに「効率よく」仕事をして行く。
畑にまく、肥料の殆どは「人糞」だった。
下水の普及は0%。
だから、当然「溜まる」それを柄の長い柄杓ですくって、大きな桶二つに入れて、
天秤棒で担ぎ山肌に張り付いている段々畑の山道を器用に登って行き畑まで持って行きまくのである。
それは、子供たちにとっては「奇異」な光景にしか思えなかった、、
その奇異な仕事をしている一人の「おじさん」がいた。
人からは「重吾」と呼ばれていた。
重吾は頭が弱いらく、あまり言葉を話せない、村中の家を回って、
「肥え汲み」をして生計を立てていた。住まいは何処か子供の治たちにはわからなかった、、
たぶん山奥だったと思う。
学校帰りなど、重吾が天秤棒を担ぎ向こうの方からやってくると、
子供たちは、それこそ、、怪獣かお化けでも探し当てたみたいに。
「重吾が来たぁーーーーー」と叫び散らし皆で大騒ぎする、
どんどん重吾との距離が近くなると、皆一様に緊張する。。
無言になってすれ違いの時を迎える、、
すれ違ったその瞬間、、、
「わぁーーーー重吾だぁーーーーーー」と一斉に走り出す。
安全圏まで走ると皆振り返って「敵」を確認する
すると重吾は何事も無かったかの如く、器用に天秤棒で担いで「ヒョコ、、ヒョコ、、」と歩いている。
ある日の学校帰りに「敵」と遭遇した、、
「重吾発見!」
見ると「敵」はいつものように天秤棒に二つの桶を吊るして歩いていた。
「はっけん!!はっけん!!じゅうごはっけん!!」と誰かが叫ぶ。
この言葉に子供たちは異常に盛り上がる。
中学3年生になった子供たちである。都会の中学生と比べたらなんて幼いのだろうか。
純粋と言う事なのかもしれないが。
この「敵」は絶対に反撃してこない、、何故なら桶に「中身」が入っている時は反撃できないからだ。
反撃行動を取ると、、「中身」を溢してしまうから、、
溢したら大変!!!臭くて。。。それこそ大事件!!
だから、、大声で威嚇すらできない。
でも!!桶に中身が入っていない時は危険である、、
その時は子供たちはそれこそ、「敵」の姿を見た瞬間に全速力で今来た道を逃げて行く。
身軽な「敵」には勝てないことを子供たちは知っている。
勝てる敵か勝ち目のない敵かは、遠目でもすぐにわかる。
勝ち目のない時は天秤棒の片方に空の桶を二つ吊るして片方の肩に担いで歩いているからだ。
今日は天秤棒を両肩で担いでいる、、、
いわゆる。。。。「安全日」♪、、?(中学の頃の治には勿論、無縁の言葉であるが)
いつもの如く、「粛々」と敵との距離は縮まって行く、、子供たちの緊張は最高潮!!
遭遇距離10メーター
遭遇距離5メーター
遭遇距離3メーター
・・・・・
遭遇距離・・・
・・・・・・・1メーター・・・とその時事件は起きた!
「安全日?」なはずの敵が「うがぁーごふぇーーー」みたいな奇声を発して
子供たちに向かって天秤棒を振りかざしてきた。
皆一瞬唖然!!!!次の瞬間、、「わぁろがぁーーーーーーーーーー」
とこれまた奇声を発してそれこそ蜘蛛の子を散らすがごとく
飛び跳ねて逃げて行く。。
重吾は名前の通り?鈍重な動きであったから子供たちは難なく敵の攻撃を全員無事に
、、、、回避、、、、
出来た・・かに思えたが、、不幸なことに・・・「流れ弾に」当たった仲間がいた。。。
「治」である、、、
余談だが治は中学校一の「俊足」の持ち主でもあった。
その治に流れ弾が当たった。
重吾の天秤棒の先には空の桶が吊り下げてあったのだ!
敵はその日「偽装」していたのである。
治もみんなと同じ反応速度で反応して走り出した。
第一波「主力艦隊」の攻撃は全員無事回避した、、
しかし、、、しかし、、、である。。
桶に付着した、、「汚物」の一粒のしずくが、、
まことに不運なことに、、治の「白い」シャツの背中の真ん中に「命中」したのである。。
それは、、本当に不幸な出来事であった。。
背中には、、、「ウンチ」の塊が。。。べっとりと、、当然臭いも。。。
一斉撤退の後の集合場所で全員で治の「負傷箇所」を代わる代わる見る。
「うえっーー」「ぐわしぃ・・」「げぇぇぇーー」・・・みんな言葉にならない。。
まるで、、伝染病の「保菌者」でも見るように心持、距離を置いている。。
・・・・治・・・・
「臭かぁーーー」と、、誰かがポツリ。。。
その言葉を皮切りに、、子供たちの本日の次なる「敵」が決まる。。
「わーーー治が、、重吾「菌」に、やられたばい!!!」
「移るけん、、逃げんばぞーーー」・・などと口々に騒ぎ、、走りだす。
治は、、、唖然。。。
しかし、、反射的に、、逃げた「敵」を追いかける。
治は学校一の俊足。追いかける敵には「機動力」では絶対に負けない。
まず、、殿の足の一番遅い「敵機」を捕まえて抑え込み、暴れる敵に自分の背中をこすり付ける。。
これで、、「重吾菌」感染者一人追加。
それから、「重吾菌『軍』」の戦力は「ジェット戦闘機(治)」と「歩兵(感染者二号)」になり。
次なる敵をさらに追いかける、、、
重吾菌軍の作戦はこうだ、、
「まずジェット戦闘機で敵を撃墜、、墜落している敵に歩兵が抑え込み感染させる」と言う。。
言うならば、、「ハンター」と「狩猟犬」作戦である。
逃げる敵軍は旧式のプロペラ機、、追うのは最新鋭のジェット戦闘機、、
その性能差は圧倒的である。
みるみる、、敵機を撃墜し、、その後に続く歩兵部隊が「こすり付け作戦」を敢行する!!
さしたる時間もかからずに、、敵軍全滅、、全員めでたく・・「重吾菌感染者」となってしまった。
この事件を境に、、治には新たな名前が付いた。。。
「15(jyugo)」である!!
「15」
でも、治自身も「15」と言うあだ名は嫌いではなかった、、
「自分も変わり者だから、、丁度良いや~~」って感じで受け入れていた。
勿論、その後の治自身のラッキーナンバーは「15」である!!